映画専門家レビュー一覧

  • 夏時間

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      最近の韓国映画で10代の少女の視点では「はちどり」の孤独が記憶に新しいが、この映画のオクジュは家族の存在が重い少女。祖父、父、弟、叔母。それぞれの生活をリアルに描写しているだけに、どれをとっても関わりが彼女には鬱陶しい。例えば、同級生の男の子とは普通に話しているのに、父親と車に乗っているシーンでは目を合わせない。この効果的、かつ秀逸な心情描写には感心させられる。三世代家族の中の少女の夏時間は切り口の巧みさで、懐かしさとともに忘れていた痛みも体感させる。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      子供の頃の夏休みに親戚やおじいちゃんの家に行ったときの非日常な楽しさと居心地の悪さがないまぜになった何とも名状しがたい感情が蘇ってくる映画で、デビュー作にしてこの空気を画面に焼き付けることに成功しているのは立派だと思うも、それだけで押し通せるほどの凄みは感じられず、やりすぎない抑えのきいた演出にある種の小賢しさを感じてしまったのも事実で、こういう作品が「イイ映画」のアイコンになってきている気がするシネフィル界隈には僅か反発の思いが芽生えている。

  • ターコイズの空の下で

    • 映画評論家

      小野寺系

      長篇初監督という事情を加味しても擁護しづらい出来。いまどき日本とモンゴルを、都会と田舎という見方で分けている世界観が単純で時代遅れだし、世襲で大企業のトップに立とうという、そもそも共感しづらい主人公が数日モンゴルに行っただけで人間的成長を迎えるという内容を、説得力をもって描いているシーンがどこにも存在しない。大自然の風景には心洗われる瞬間もあるが、コントラストを極端に強め中間色をぶっ飛ばす調整は不自然で、お世辞にも美しく撮っているとは言い難い。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      モンゴルのどこかで生きているはずの、老境の男の娘を探す話を予測させる始まりから、その男の孫が自分探しをするというストーリーの移調にいささかまごつく。けれど孫役の柳楽優弥が、放蕩暮らしに浸る冒頭から一転して、モンゴルに舞台が移ると即興を伺わせる演技で、生き生きし始める。やはりこの俳優には即興的な演出がぴったりくる。映画の起点の娘を探す話が、ストーリーにもう少し絡んで欲しいと思うが、息を飲むほどに美しい映像にまごつきは溶解。まさにターコイズ。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      いきなりの麿赤兒のドアップという幕開けはインパクト大で、続く近未来SFのようなスタイリッシュな酒池肉林シーンも下手すると上滑りしてしまう危ういラインを攻めており、的確に光を捉えているカメラと遊び心のある音響などにも映画的センスが感じられるのだが、以降の物語は意外なほどオーソドックスに展開してゆき、柳楽優弥扮する道楽息子がはなから人間的余裕を与えられた魅力的なキャラクターであるがゆえに、この男の成長譚として観るとやや平坦で物足りなく感じてしまう。

  • MISS ミス・フランスになりたい!

    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      昨今流行のLGBT映画ではない。日本でも元アイドルがニューハーフ役に挑戦したり、テレビ媒体でこの程度の世界観を描写することは多々ある。冒頭バス内で聾?の少女とアイコンタクトをしたり、移民やゲイの娼婦など社会のマイノリティたちとの交流は多様性への承認となっている。ゴルチエのモデルもしていたという主人公演じる美しきアンドロギュヌス的な魅力のアレクサンドル。社会的な主張もある作品だが、この程度なら『ル・ポールのドラァグ・レース』で十分かも知れない。

    • フリーライター

      藤木TDC

      フォーマットは古典的な「スター誕生」映画。最終盤にテレビ中継の副調整室シーンになる点まで見事に様式美に貫かれ、そんな物語のナイーヴさが好きな私は思わず拍手してしまうが、ワンパターンを感じる観客も多そう。美貌の主演俳優について属性を厳密に規定しない設定にジェンダームービーの現在進行形を感じるものの、ミスコン関係者が誰も主人公の性別を疑わないのはいくら長身女性の多い西欧が舞台でも強引。あるいはとネット検索したら、すでに現実に似た出来事が起きていた。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      スルッと観られるし、こういった逆境をはね返す感動物語には、複雑な展開はなくていいのだろう。主人公に降りかかる難題が、倍の幸福感として返ってくる単純さもたまにはいい。その展開をつなぐ細部も語りこぼしは特に見られず、個性的なキャラたちもメンツが揃えてある。でもどことなく雑というか、ステレオタイプに依存していて、本作で新しい内面が掘り下げられたといった個性や長所を感じない。どこかで見た話、どこかで見たキャラの集合体が単純化され、記号的に並んでいる。

  • スカイライン 逆襲

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      1作目の7年後に製作された2作目「スカイライン 奪還」の時点で、既に「奇跡の続篇」と謳われていた「スカイライン」シリーズ。しかし、世界興収2億ドル程度の前作から3年足らずでさらなる続篇が実現(完結篇とのことだが完結してないような……)。CGのコストダウンと制作期間の短縮は派手な絵面のSF映画の量産を促したが、作品の数に比例して良作が増えているわけではないというのも事実。本シリーズは作り手サイドが心底楽しんでいそうなのが救いだ。

    • ライター

      石村加奈

      10年前のシリーズ第1作「征服」の、僅か3日間でエイリアンに征服される市井の人々(ややセレブ)の話から、いつしか地球防衛軍と宇宙人(本作ではハーベスターに)の戦いへ!? エイリアンの設定が、当初の未知の生物から大きく変わり、人間の理解範囲内の生物になったため、謎がなくなり、恐怖も半減。バトル描写も、人間同士が戦っているようにしか見えず、ワクワクしない。「奪還」からの伏線を担う、インドネシアの名アクション俳優ヤヤン・ルヒアンの扱いも雑で、もったいない。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      前2作は未見だったので冒頭やはりついていけず、「マトリックス」を3作目から観るとこんな感じなのかもと思っていたら、「エイリアン2」「第9地区」等々を綯交ぜにしたB級展開に突入。新鮮味には欠けるが、VFXとアクション(ヤヤン・ルヒアンもっと出てほしかった)は悪くない。残念ながら特に前作を観たいとは思わず。SWは「ジェダイの復讐」を最初に観て夢中になったのだが、その違いは、原点ということを抜かしても、キャラクターが魅力的かどうかは大きいのかな、と。

  • ナタ転生

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      フルデジタル3DCGの画面の中、『AKIRA』の「金田のバイク」を思わせるバイクが暴れ回り、中国語ラップがけたたましく鳴り響く。良くも悪くも「お、おう。これが未来の映画か」と思わせるのに十分な導入部。中国神話のレファレンスやクリーチャーの造形も新鮮。あとは「ビデオゲームのオープニングCGみたいだな」というこちらの感覚が麻痺するのと、テクノロジーがそれを追い越す(ピクサーなどの一部の作品はもうそれを達成しているが)のと、どちらが先か。

    • ライター

      石村加奈

      病院周辺や墓地の景観まで、みっちり描き込まれた世界観は、アニメーションらしい見応えだ。東海龍王の眉毛から、龍の髭、猿の毛に至るまで、繊細な描写は秀逸。3千年前の回想シーンの、墨っぽいタッチも面白い。視覚的なドラマ構成が、主人公・李雲祥と少年神ナタが対峙する、クライマックスの余白を際立たせて、その後の転生の瞬間を大いに盛り上げる。東海龍王のアジト・龍宮の、龍の描写も迫力満点だが、仮面男(その正体にびっくり!)のアジトにいる小猿たちの描写が可愛い。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      中国神話『封神演義』を基にした3DCGアニメ作品だが、分割画面を多用した立体的なアクション描写と『少年ジャンプ』な展開で、その神話に馴染みがなくても入り込める。古典を独特の近未来的ヴィジュアルセンスで再構築して主人公の“逃れられない運命”を描く、ということで紀里谷和明監督の世界観にも近い。状況や心情を説明するような歌が入ったり、主人公がカメラ目線で喋ったりするが、それもあったりなかったりで特に統一感はない。謎の仮面男の正体はちょっとアガった。

  • リーサル・ストーム

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      ポーリッシュ兄弟の片割れマイケル・ポーリッシュ。まだそこまでベテラン監督というわけではないのに、メジャーで撮れなくなってからのウォルター・ヒルの近作のような不思議な粘り気と諦観の漂った作風に意表を突かれた。メル・ギブソン出演作ということでS・クレイグ・ザラー「ブルータル・ジャスティス」とも並べたくもなるが、あそこまでのエクストリームさはない。しかし、苦境にあるギブソンがそれでもしっかりと出演作を選んでいることは伝わってくる。

    • ライター

      石村加奈

      ピンクのシャツがやけに似合う、メル・ギブソン扮する元警察署長レイの曲者っぷりもなかなかだが、レイの娘トロイ(ケイト・ボスワース)が最強すぎる。父親に鍛え上げられた戦闘能力で、武装強盗団をどんどんやっつけては、怪我をした仲間の応急処置もやってのける(本職は医者)。この父娘に振り回されっぱなしのやさぐれ警察官コルディーロ(エミール・ハーシュ)の見どころというか、役としての落としどころがちゃんとあってホッとした。しかしハリケーンは必要だったかな?

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      かつて次のレオと目されていたE・ハーシュだが、超大作がコケて失速。その後地味にハリウッドを生き抜き、一昨年の「ワンス・アポン~」で久々に役に恵まれ、彼を追ってきた者としてはグッときた。本作はそのハーシュとあのメルギブ主演なので期待していたが、どちらも今回は空回り気味。全篇、複数の人物をカットバックで描いているが、背景が浅いので限定空間での攻防のスリルも伝わってこない。人気低迷期のC・スレイター主演「フラッド」と設定が似ているのも気になった。

  • あのこは貴族

    • 映画評論家

      北川れい子

      ストーリー、キャラクター、演技、演出、盛り付けもみごとな頼もしい秀作。日本人には上流階級は描けないと言ったのは確か三島由紀夫だが、そこはほどほどにして、お嬢さま育ちの門脇麦の芯の強さを柔らかに描き出し、一方で地方出身・水原希子の、都会での立ち位置の曖昧さを絶妙に描く。大学内のヒエラルキーを描いた「愚行録」を連想させるような場面もあるが、冷静な遠景に留めているのも巧い。この作品に限っては役名より演じている女優たちの名前を先行したい。岨手監督、凄い!!

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      近年の少なからぬ作品が、ジェンダーや階層に対して「無効化」をもって抗おうとした結果、却ってある種の息苦しさを抱え込んでしまうのとは一線を画し、この映画は現在の社会における「女性性」「男性性」の自明性を直視し、そのうえでそれを成立せしめる構造的な問題へと観る者を自然にいざなう。「グッド・ストライプス」でもそうだったように、あくまで個人のドラマに立脚した岨手由貴子監督の誠実さが光る。自分事として役を生きた門脇麦、水原希子も素晴らしい。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      東京の金持ち階級の、結婚相手を見つけるのに苦労する令嬢が門脇麦。どんな家族で、彼女がどう大変なのかを見せていき、ついに理想的な相手らしい高良健吾に出会うまでの第一章は、役ではなく演じる門脇に同情したくなるほどの誇張感。水原希子が登場する第二章以降は悪くなかった。女優陣、それぞれ意地と思考力ありの役にしている健闘ぶり。とくに水原の輝きは、脚本的にもうひと伸びあれば文句なしだった。岨手監督、手堅く「細雪」以来の女性物の系譜に新しいページを加えた。

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