映画専門家レビュー一覧

  • ひるなかの流星

    • 評論家

      上野昻志

      田舎からポッと出の女の子が、ソフト・イケメンの教師と、ややエラの張ったハード・イケメンの同級生との間で恋に悩むという話だが、正直言って、最初、彼女を助けたソフト・イケメンが顔を寄せたショットに、思わずゲッとなり、先行きが危ぶまれ、そのあとも、だいたい教師が生徒をチュンチュンなんて呼ぶかよ、と苛ついたのだが……。しかし、ヒロインのすずめに扮する永野芽郁の真正面からキリッと相手を見つめる眼にいつの間にか説得され、★一つオマケする気になったという次第。

    • 映画評論家

      上島春彦

      極めて想像力を喚起するタイトルだが単なる説明になっちゃった。設定は略。要するに四角関係だね。当事者の一人山本舞香もキュートなのでお得感は高い。ただ男がいまいち魅力的に見えない。俳優のせいじゃなく物語が浅い。一方が女嫌いというのをもっと活かしてくれないと。もう片方が先生だから、生徒に手を出さないのは私の世代の感覚だと当たり前すぎて劇的葛藤がないのだ。先生だと分かる前に二人が知り合うというお話昔あったね。どろどろした部分がないのでそこは推薦したい。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      永野の戸惑いと不機嫌が混じった様な表情を捉えた冒頭のアップが良い。恋愛至上主義を言い訳にした演出不在のキラキラ映画に食傷気味の身としては、新人女優の特徴を?んで撮ろうとしているなと当たり前のことに喜んでしまう。両親不在の理由づけも、腹に一物のある女友達との関係も上手く処理されており、吉祥寺映画としても悪くない。ただし教師の三浦は顔が不味ければ淫行で逮捕されそうな行為の数々。永野が風貌も演技ものんに似ているが独自の魅力を出せるか今後の課題。

  • パッセンジャー(2016)

    • 翻訳家

      篠儀直子

      「タイタニック」や「ゼロ・グラビティ」等をつまみ食いしたような設定には「おいおい」と言いたくなるが、目覚めた二人がエンジニアと作家であること、人間が二人いないと対処できない危機がやがて訪れることが、実は物語の本当の要。宗教的な人であれば「神意」と呼ぶであろう、必然であったかのように見える偶然がしばしば導く「天命」について考えさせられる。ケン・アダムをアップデートしたみたいなプロダクション・デザインがケタ外れに素晴らしく、これだけでも観る価値充分。

    • 映画監督

      内藤誠

      未来の人類が地球環境を見捨てて、120年間の冬眠の果てに別の宇宙世界に居住しようとする気持ちは分からないでもない。しかし5千人の乗客を乗せて目的地をめざす宇宙船がロウアーデッキとゴールドクラスの客室に差別されているとは眠ってしまえばどうでもいいじゃないかという気はするものの、やはりイヤな感じ。もっとも、それがないと「タイタニック」的愛の物語が成立しないのだが。90年で冬眠から覚めたときの恐怖は共感できて、試写室を出た瞬間、東京の樹木が美しかった。

    • ライター

      平田裕介

      ヒロインの名がオーロラである点からして、「眠れる森の美女」が物語のベース。かといって甘ったるいわけではなく、目覚めたタイミングが悪かったり、その場に居合わせた相手がガテン系だと、ガックリどころか殺意ビンビンになることを描いているのがシビアでユニークである。そこからいかにして彼らが相思相愛になるかが重要になるわけだが、はなから絶体絶命な状況下なわけだから一緒になるしかないだろうという感じのまま終了。主演ふたりのムチムチすぎる肢体には胸焼けしそうになる。

  • ひるね姫 知らないワタシの物語

    • 映画評論家

      北川れい子

      「時をかける少女」ならぬ“夢をかける少女”。2020年という直近未来の設定が効果的で、彼女のみる夢が、現実とクロスしていくというのもユニーク。ただその一方、彼女が夢でみる“機械作りの国”が、人間より機械重視というのが引っかかる。王の地位を狙う邪悪な大臣の目的も……。ともあれ、二重構成で夢を現実に返していく脚本は、伏線も丁寧で、スピード感も上々。いかにもアニメふうに誇張された各キャラとその台詞も弾んでいる。高校生という少女が小6ふうなのはワザと?

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      わかるようなわからないような作品。最近私がよく考えていた「ローグ・ワン」のマッツ・ミケルセン問題、「ハンナ」のエリック・バナ問題と言ってもいいが、親の反体制的信条と娘への教育というネタがここにもマイルドにあった。一抹の共感。ただ、魂から見た真実である幻想のなかで買い替え促進地獄が描かれているのに、現実パートと映画全体が新技術礼賛方向なのは解せん。スジが悪い、でも技術は高い。このプラマイが日本映画。主題歌に違和感。清志郎は自転車が好きだった。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      昼寝で見る夢とVR装置による仮想の現実。それは主人公にとって、どちらも“現実のよう”なのである。しかし当然のごとく、本作は現実の方が重要であると描いている。本物と偽物、現実と仮想現実は、神山健治監督作品に共通するモチーフ。レンズのフレアを描くことで夢と現実の違いを表現しているのだが、象徴的に登場するのが、瀬戸大橋やレイインボーブリッジなど現実に存在する〈橋〉。実景としての〈橋〉は夢と現実の〈架け橋〉として、サブリミナル的にも描かれているのである。

  • 3月のライオン 前編

    • 評論家

      上野昻志

      最近、この手の前後2篇に分ける作り方が増えているようだが、どうなのか? 物語の長さから必然的にそうなる場合を除いては、興行側の思惑からきたとしか思えない。本作にしても、話をきっちり詰めれば、二時間程度の映画に収まったのではないか? そう思うのは、回想シーンがやたら何度も繰り返されるからだ。そこまで念押ししなくても、事故で天涯孤独になった主人公には将棋しか頼るものはなかったというのは、わかるって。将棋だけでなく家族の問題もあると言いたいのだろうが。

    • 映画評論家

      上島春彦

      岩松了が「キリヤマ君キリヤマ君」と言う度に『時効警察』を思い出し、笑ってしまったがこっちの桐山は天才棋士。大友監督、久々に肩ひじ張らない演出が快調だ。アニメっぽいキャラと素顔の俳優を活かしたキャラを混ぜ込んでいるのもお楽しみ。声に無頓着な観客だと染谷に気づかないのではないかな。天才の孤独というテーマは重いが、家族との確執と同時に自分で師匠、佐々木蔵之介を見つける成長物語が盛り込まれ、とても好印象。悪女有村架純に当方のM心もくすぐられてしまった。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      昨年の監督作2本が凡作だったので期待薄だったが、ドラマと将棋盤を囲む動かないアクションを鮮やかに両立させている。秀作「聖の青春」が先行して分が悪いのだが、実際に増量した松ケンと特殊メイクの染谷が象徴するように映画化へのアプローチが尽く対照的なのが良い。漫画的な過剰さを活かし、盛り込みすぎると思うほどドラマを作りながら、演出は逆に抑え気味にすることで絶妙の調和を見せている。奇をてらわない対局描写、神木は当然、ビッチの有村、担任の高橋一生も出色。

  • すべての政府は嘘をつく

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      『デモクラシーNOW』をはじめとする米国の独立系メディアやフリージャーナリストのペンの闘争がどんな現状かよく分かる有難い作品。このドキュメンタリーを日本で配給する側の意図は明らかだ。スポンサーの利害を無視できぬ『NYタイムズ』『ワシントンポスト』には限界ありと本作は斬ったが、その2紙でさえ今や反ファッショの論陣を張ろうと緊張している。翻って日本メディアはどうか。権力の監視という本来の使命を忘却しているのでは? という憤怒が配給側の意識にはある。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      日本のジャーナリズムの現状と較べてみると、アメリカってやっぱ昔からの積み重ねが凄いと思う。政府発表なんて、こちらは丸呑みなんだもんなあ。それに対する検証とか反論とかは、かつては『噂の真相』、今は一部のSNSジャーナリストくらいしかなくて。特に大手新聞、TV報道のひどさときたら。ま、それは世界中どこでも同じ状況か――なんてことを考えながら作品を眺める。なんか映画を観てるというより、見ながら現状を憂うという趣きで。そうか、これTV番組なんだよね。

    • 映画ライター

      中西愛子

      映画タイトルは、20世紀に活躍したアメリカのジャーナリスト、I・ F・ストーンの発言。新聞社を離れた後、50年代に自費で個人新聞を発刊して購読者を増やし、ラジカルな言論で多大な影響を与えた。そんな彼の信念を受け継ぎ、大手メディアに属さず活動する現代の独立系ジャーナリストたちの闘いを追う。真実を追求する、彼、彼女たちの覚悟ある弁と行動は、作中に出てくる“ジャーナリズムとは生き方”という一言を納得させる。メディア・リテラシーの良き教材としても使えるだろう。

  • わたしは、ダニエル・ブレイク

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      とにかくこれが本格的な映画初主演だというコメディアン、デイヴ・ジョーンズが素晴らしい。やや甲高い声でやたらとまくし立てる彼の舌鋒は、直情的に映る振る舞いの内にこの映画の主題である「ひとりの人間としての尊厳」と「他者に注ぐ優しさ」を鮮やかに覗かせる。職業安定所のお役所仕事の冷淡さ、非道さは他人事ではない。その長いキャリアにおいて一貫して英国のごく普通の労働者たちが抱える諸問題を描いてきたケン・ローチ監督は、引退宣言を撤回してまでこの作品を撮った。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      舞台コメディアンであるデイヴ・ジョーンズの佇まいが肝だ。ダニエルは特に他人を笑わせて楽しませるような人柄ではなく、そのような演出がされているわけでもないし、どちらかというとイギリス的なシニカルな感性の持ち主で、それをうかがわせるやり取りは劇中でたびたび見られる。だが率直な言動やのしのしとした歩き方、スキンヘッドの容貌から醸し出されるどことなくユーモラスな雰囲気が、ダニエル・ブレイクという人物を単なる弱者や抵抗者では語れない魅力的な存在にしている。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      貧困、格差、硬直した官僚主義に対するローチの怒りは単純明快ストレートだが、教条主義にならず、いつもながら面白く見せてくれる。昔ジャン・ギャバンが演じていたような労働者役を喜劇俳優のD・ジョーンズが好演。弱者が権力に一矢報いて溜飲を下げさせるシーンがいつも楽しみだ。役所の壁に抗議の落書きをし警察に連行される彼に拍手喝采する変なオッサンがおかしい。ローチの最高傑作との評が高いが、これを遺作に引退などしないで欲しい。今の世界こそローチが必要だ。

  • おとなの事情

    • 翻訳家

      篠儀直子

      やったところで愉快な結果になるわけがないのだから、こんなゲームを始めようという神経がそもそも理解不能だが、あえて「もしも」やってみたらどうなるかという前提で始まる映画。でも、脚本に仕掛けられたこのトリックを、評価するかどうかは意見が分かれるところだろう。限られた空間を上手に使った演出。アウティングの問題を深く考えさせるくだりが個人的には印象に残ったが、7人の登場人物のうちの誰に最も感情移入できるかなど、グループで観に行くと鑑賞後に盛り上がりそう。

    • 映画監督

      内藤誠

      日本の映画鑑賞の環境はよくて、この作品もよくぞ輸入してくれたと思った。親しい者どうしが集まるホームパーティが舞台で、三一致の法則によるイタリアのコメディ。筒井康隆の「スタア」を監督したものの目からすると、演劇的ではなく、日常的な会話が続くので、どうなることかと心配したが、やがて携帯電話を巡っててんやわんや。くれぐれも自分には隠し立てする秘密はないと言ってはいけないという教訓劇。誰しも思い当たるところがあるのは五人の脚本家が知恵を出したせいだ。

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