映画専門家レビュー一覧

  • 最高の花婿 アンコール

    • ライター

      石村加奈

      世界一美しい国はフランス、中でも古城とワインの地ロワールにあるわが家が大好き、そしてヴェルヌイユ家の家族がいちばん! というブレない価値観を持ったクロード&マリー夫妻が、異宗・混合結婚した4人の娘たちの国外移住を阻止すべく、大奮闘するドタバタコメディ。えげつない本音ややり口を、人間味として素直に受け取れるのは、邪気のないキャラクター(最強キャラはマリー&愛犬)と演者の巧さ(クロードがダントツ)の賜物だ。個人的には、弁えたマドレーヌが好みだけれど。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      万国共通の多文化による問題を極端な設定で描くコメディで、前作は未見だが楽しめた。登場人物のほとんどが、いろいろ気を遣っている今の時代に逆行した無邪気な偏見を隠さないキャラクターというのが良い。その“良識のない”発言の数々にドキッとする自分にも驚くが、いや、これが「映画」だろ、と。一つ一つのエピソードに深みはないが、身近な問題を笑いにうまく落とし込んでいる。異文化間の行き違いを受け入れて楽しむ、というこの作品の提唱には大いに同意。

  • カゾクデッサン

    • フリーライター

      須永貴子

      十五歳の光貴が、自身の出生の秘密を知るシーン。交通事故で意識が戻らない母に(育ての)父が、自分が光貴の実父ではないと語りかけている。相部屋の病室で、立ち聞きできる声量で言う? 光貴が同級生と殴り合ったあとに、仰向けに倒れて笑い合うショット。いまどきそんな仲直りある? ラストで“カゾク”4人が踊るシーン。劇中で重要な役目を果たした思い出の曲を使わないのはなぜ? 真面目に丁寧に作っていることは伝わるが、他にも疑問は多々。主演俳優の芝居は文句なし。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      デッサンというから、さらさらと軽快な映画だと思ったら、いきなり肉厚で濃い展開になっていく。恋人のバーで働く元ヤクザのやさぐれ男の許に、母親(ヤクザ男の元妻)が事故にあって意識不明だという少年が訪ねてくる。少年は男が実の父親だと思い込み、その暴力性に惹かれて、自らも暴力を重ねる。期待はさせたが、話はどんどん腰砕けになっていく。意識不明の母親が突然何もなかったみたいに意識を回復。ああ、めでたし。結局は無難にまとめたデッサンで終わっている。

    • 映画評論家

      吉田広明

      交通事故で意識不明になった母に声がけしてほしいと母の前夫を訪れる息子が、前夫を真の父ではと疑い始める。反映や鏡、不自然過ぎない程度に当てられた光によって、現実とすれ違った心理状態を表す演出に好感は持つが、冒頭で暗示される、作品を駆動する秘密が引っ張りすぎである割に大した秘密ではないため、映像的演出もスタイル偏重に見えてしまう。秘密(過去)で持続させるのでなく、曝け出された秘密でどう事態が動いてゆくか(現在)で劇を構成してほしかった。

  • 馬三家からの手紙

    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      アメリカで手に入る「MADE IN CHINA」のハロウィーンのおもちゃが、中国の強制労働所で作られていたとは! 身の回りに流通していて「知っている」はずの物たちの、背後にある物語を我々は「知らない」。中国の人権軽視の実態。世界中に映像が流されていた北京五輪の陰。我々は命懸けでこの映像を撮影していた孫毅さんの想いを知らねばならない。政府への復讐ではなく、中国をより良い社会にしたかったのだ。国家が何かを「見せる」とき、必ず陰には「見せない」ものが存在する。

    • フリーライター

      藤木TDC

      数奇な人生の記録だ。題名にある強制労働施設から密かに発送された救命の手紙が発見された時、書き主はすでに釈放されており、むしろ報道のため危険な立場に陥る。しかし彼は映画で中国政府の非人道を訴える行動を選び、カナダにいる監督へ膨大な動画を送信して一本のドキュメンタリーを完成させた。被写体自らが撮影したスマホ映像を用いた現代的な制作プロセスやアニメを挿入した作風は斬新でスリリング。心温まる気配の終盤を経て最末尾に出るテロップに愕然とさせられる。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      BSで過去に放映されたことがあるようだが、改めて現代日本において劇場で観るにはふさわしい作品だ。中国の強制労働施設における拷問や虐待、思想統制の告発を、アメコミ風の絵柄を交え語っていくポップさが非常にとっつきやすい。そしてサスペンスフルな逃走劇となる現在進行形の展開は、手に汗握るドキュメンタリーで構成が見事。単に人権問題の提示だけでなく、恋愛劇としても複雑な女心が妙味を添える。ここ数年に観た中で、もっとも衝撃的なノンフィクションだ。

  • ナイチンゲール

    • 映画評論家

      小野寺系

      「ババドック 暗闇の魔物」で、優れて奇抜な演出を見せつけたジェニファー・ケントが、比較的落ち着いた演出でオーストラリア史を描いている。しかし映し出されるのは、映画祭で途中退席者を出すほどの地獄の光景。とはいえ、それは観客を驚かせるための露悪というわけではなく、主人公の白人女性と先住民との共闘関係と尊厳をうたいあげるシーンによって、歴史の事実をそのまま描くんだという強い意図と信念があったことが分かる。監督の妥協ない姿勢に背筋が伸びる思い。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      支配する人間の無慈悲さ、暴力の陰惨さ。支配される人間の無力さ。その両者を一切もらさず映しとった映像。とりわけバイオレンス描写は画面を直視するのにかなり忍耐が必要。その一方、ヒロインが先住民アボリジニの青年に導かれて憎き英国軍将校を追う森の中の場面は美しく、幻想的。夫と子供を殺されたヒロインの復讐心、その個人的な憎悪を青年の存在が超えさせる。抑圧されているオーストラリア先住民の問題が、復讐と合体して大きな流れに。監督の意気込みが画面に終始充ちた力作。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      西部劇調の復讐譚の中で人間の業を描き切った見事な映画であると思うと同時に、映画表現における残酷描写について深く考えさせられた作品であり、映画はなるべく自由であってほしいと願いつつも、目の前で母親を強姦され泣き叫ぶ赤ん坊を壁に叩きつけて殺す直接描写に限っては自分の許容をはるかに超えており、かようなことを容赦なくやることがとりわけアート系映画では美徳とされがちという風潮に懐疑的なのも、あくまで個人的な心の問題で……映画の出来はいいと思います、はい。

  • CURED キュアード

    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      社会的正義と家族愛(同志愛)は天秤にかけられるのか。昨今の自粛警察や感染者差別などタイムリーすぎる要素が満載。劇中、感染者と健康な国民との間に、「回復者」という引き裂かれた媒介者が存在する。映画世界において記憶は書き換えられ曖昧になっていくのもあるが、本作では明白だ。二人の「回復者」の生き方は対極的で、一方は社会的正義として、一方は家族愛の道を選択。アビーの報道カメラは、大衆の記憶のメタファーとして機能しており、個人の記憶と対峙する構造。

    • フリーライター

      藤木TDC

      3月中旬に本作が封切られた時、世界がこんなふうになろうとは予想しなかった。今となってはあまりに時世を映し心臓が痛む。「28日後」などに描かれた狂犬化ウイルスの治療法開発後の回復者(Cured)を描くゾンビ世界史の更新作で、未感染者による回復者の差別、両者の分断と憎悪、カミングアウトのリスクなどトピックは広範で痛烈だ。監督がアイルランド人ゆえIRA解体を身近に見た影響を感じるが、コロナ感染拡大を経験した我々にはその回復後をどう生きるか自問させる映画。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      ゾンビ映画だが、現在のコロナ騒動を髣髴とさせる内容だ。ゾンビ化したのち、人間として回復した者が抱き続ける不安に焦点が当てられ、不運にも感染した人々の、後の葛藤や人間性が問われる。いささか性急な作りの場面もあるが、元感染者たちのテロ運動へと発展していく現代性や、血のつながりの薄い微妙な家族関係など、設定が効いている。全体を貫く静謐さと、クライマックスの街を覆う爆発力も目に鮮やか。エレン・ペイジの怒りや失望を理性で抑えた気丈さがいい。

  • 一度死んでみた

    • 映画評論家

      川口敦子

      豪華なゲストスターをわさわさと動員しただけの空騒ぎじゃないかしらと、つい身構えて銀幕に向かったが杞憂だった。あ、そういうことかとジュリエット嬢ならぬ錠にふふんと笑ったあたりから、観客の予期を手玉にとる展開の妙、幽霊コメディ以下、往年の聖林映画のパターンをきちんとふまえた脚本と演出の真面目なふざけ方に巻き込まれる。あのアルプスの少女を腹黒な高笑いで包んだCMクリエイターの逆転のセンス、長篇映画でもぴりりと効いてコメディエンヌ広瀬、OKデス!

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      大嫌いな家庭教師のトライのハイジパロディCMを手がけた監督・脚本コンビの映画と聞き覚悟して臨んだが、不安が的中。デスメタルバンドのボーカルであるはずの広瀬すずは劇中一度もデスメタルを歌わない。彼女は幽霊が見えるという設定だが、カビの生えたギャグをやってみせる以上の理由がそこにない。そして、反抗的な娘が抑圧的な父親に振り回されたあげく丸め込まれる展開に唖然。無自覚な父性の礼賛やフィロソフィ皆無の死のドラマを軽いコメディだからと受け流したくない。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      二日間だけ死ぬ薬。死んでみてわかること。というが、この場合、見えてくるのは死なずともわかりそうなこと。いい側もわるい側も手抜かりが多い。わざと他愛のなさを狙った喜劇だろうか。楽しそうに健闘している広瀬すずだが、その役は「とりあえず反抗しているだけ」でコシがない。作品全体もそんな感じ。みんな、しどころ不足の、本気で怒らない役。浜崎監督はケレン味をスマートに出そうとするけど、匂いの扱い方など、泥くさい。「魂、入ってる」についても思考が見えない。

  • 三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実

      • 映画評論家

        川口敦子

        活字としては知っていた討論の現場を映像として見る、まずはその力にミーハー心をくすぐられる。三島の破顔の晴れやかさ、薔薇色の頬の艶やかさ、あるいはカリスマ性を輝かせる論客に抱かれて登壇した赤ん坊の肝っ玉の据わった目つきに、見ることの素敵を思い知る。優雅な解を求めて「翼をはやす言霊」をぶつけあう知の共闘、解放区のスリル、醍醐味。国会中継のあほでまぬけな答弁にうんざりの目に耳に新鮮なごちそうだ。贅沢をいえば再構成でなく素の記録のままで見たかった。

      • 編集者、ライター

        佐野亨

        冒頭の東出昌大のナレーションのことばにまず引っかかりを感じた。「敵地」「まるで正反対の思想をもつ者たちの激論」という認識が前提とされるなら、三島と全共闘の若者たちのことばを2020年に再検証(?)しようとする試みは、現在に対してどのように作用するのか。結局、この映画は三島のよく知られた表層と遠景から眺めた全共闘を饒舌に知らしめるだけで、その内側に入り込むための主体をすっぽり欠いている。TVのお勉強ドキュメント番組以上のものではない。

      • 詩人、映画監督

        福間健二

        三島由紀夫はタレント性がある。フェアーでさすが一級品という部分と、かなりギリギリでそうだったとわかるところも。一方、昔もいまも「めんどくさい」芥正彦、見直した。彼と若い解説役の平野啓一郎以外は、インタビューに登場するのはただ賢明なおやじたちという感じ。豊島監督、だれをも困らせない作り方か。使った映像が時代のどういう一端かを示せない。ミシマも東大も退屈。それでもよかった。とくに評者の場合は吉本隆明と現代詩、ゴダールからマキノまでの映画があったから。

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