映画専門家レビュー一覧
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爆裂魔神少女 バーストマシンガール
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脚本家、プロデューサー
山田耕大
失った片腕にマシンガンを装着した姉妹が敵をバカスカ撃ちまくる。もうそれだけで、何でもOKだ。「くだらない日本映画なんか撃ちまくれ!」とばかりに、これでもかと次々に飛び出すブラックでゲテでカオスでパンクでクレイジーでスプラッタな笑いとバイオレンスアクション! そのハチャメチャぶりを称賛したい。が、本筋はクラシックな勧善懲悪。見る人間より、作っている人間のほうがうんと楽しんでいるような気さえする。こういう映画が続々と出てくるのを期待する。
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映画評論家
吉田広明
「片腕マシンガール」のリメイクでなくリブート。確かに主人公は二人になっているし、彼女らは始めから改造されているし、そのため復讐という動機は薄れているし、CG多用のせいで描写が派手な割にはどこか軽く感じられるし、「殺しの烙印」や、東映任?の道行、「セーラー服と機関銃」などのパロディもあり、と、情に訴える重い「片腕」よりもノリが軽く、別物と思って見た方がいいかもしれない。自分たちだけが面白がって観客置き去りの悪乗りではない点好感は持てるが。
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テルアビブ・オン・ファイア
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
閉じられた検問所で、語り出し(予言)共有していく物語は、対立する社会的な立場を徐々に侵犯していく。まるでプイグの『蜘蛛女のキス』だ。現実の社会状況もまたたったひとつの「物語」にすぎない。「数世紀にわたるイスラエルとパレスチナの問題もダラダラと続く終わりのないアメリカのメロドラマのよう」と吐き棄てる。世界中に解決を回避している民族問題がある。本作品のような大文字の歴史ではない、しかし無名の人間たちで民族や歴史は成立しているのだ。面白い!!!
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フリーライター
藤木TDC
先に難を言えばいかにも映画祭の賞獲りを狙ったお高さを感じるし、説明なしでは難解なローカル要素が多々。しかし私はとても面白く見た。イスラエル領内に180万人ほどいるアラブ人の諦念やパレスチナ自治区への越境の煩雑、秘密警察まで登場するブラックな展開など他国の映画には真似できない描写が凝集する。終始仏頂面でひたすら笑わせる主演俳優の演技に拍手、主人公の成長と困難克服がテレビドラマ最終回に統合される脚本も完成度が高い。映画から世界を知る快感がある。
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映画評論家
真魚八重子
軍人といった威圧感のある業種の人物が、意外な芸術的関心を持っている設定パターンは、心地良い添加物になるものだ。イスラエル軍の司令官による提案が、パレスチナ人青年を脚本家として成功へ導いていくのは、中東の政治的背景の際どさゆえ新鮮に感じる。しかし結局、司令官が目立ちたがりの物好きに見えてしまうが。基本的な物語は映像制作と恋愛のてんやわんやで、味のある挿話も多く、その手の映画としてまとまっている。とはいえ図抜けているとまでは言えないのが惜しい。
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EXIT(2018)
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アメリカ文学者、映画評論
畑中佳樹
コメディ演出が泥臭い、感情過剰で喚きすぎ、上映時間が長い(あと15分は絞れる)と、韓国映画のよくないところ満載なのだが、少女時代のユナが下だけジャージに着替えると、不意に「これは面白くなる」の予感に胸が騒いだ。地表に蟠る毒ガス層を逃れて、ロッククライマーの男女がビルの屋上から屋上へ跳び、走り、よじ登り、最後、夜空の高みへ突き出たクレーン上を天国への階段よろしく、二人きりで登ってゆくところでは、一瞬、神の息に触れたかのように感動してしまった!
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ライター
石村加奈
どんな人間でもひとつはあるはずの重要なスキルを求められた瞬間のドラマに焦点を絞ったイ・サングン監督の手腕が冴える。子供でさえ黙殺したくなるパラサイト・シングル「進撃の鉄棒男」から、ロッククライミングの才能を活かして家族を救うヒーロー「ヨンナム叔父さん」へと、劇的に変化する主人公と甥(をはじめ家族)とのドラマ然り、「うまくいく」という台詞の回収然り、モールス信号まで主題歌がきっちり網羅する隙のない構成だ。本作が長篇監督デビューとは、次作も楽しみ。
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映像ディレクター/映画監督
佐々木誠
滑り台に上がるのでさえ怖い、極度の高所恐怖症なのだが、そういう人間には生きた心地がしないシーンの連続。気がつけば文字通り手に汗握っていた。原因不明の有毒ガスが蔓延した街でそれから逃れるためにビルの屋上から屋上へ決死の移動を繰り返す主人公がイーサン・ハントやジェイソン・ボーンのような「プロ」ではなく、元山岳部のダメ部員で、現在ニートのマヌケな青年という設定がポイント。「冒険野郎マクガイバー」よろしく身近なものを使って危機を乗り越えるのも楽しい。
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i 新聞記者ドキュメント
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映画評論家
川口敦子
「i」とあくまで小文字の私を掲げたタイトルの意味を?みしめた。団体行動は苦手と新聞記者望月衣塑子を紹介する監督自身のナレーション、その重みを裏打ちするように、キャリーバッグを携えてひとり、駅構内の階段を上り、街を行く記者の姿を映画は積み重ねる。そうやって、ばかげた政府と首相官邸、そこに蠢くばかげた問題そのものよりも、個としてそこに切り込む望月のスタンスをみつめ、ジャーナリズムの側の“みんな一緒”体質、体制を突く。監督森の時機を捉える才がまた光る。
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編集者、ライター
佐野亨
同プロデューサーによる『新聞記者』は、制作意図には共鳴しつつ、権力に立ち向かう側の自明性・無謬性にもとづく対立図式のステレオタイプが気になった。さて森達也によるこの作品だが、総理官邸に入れなかった森が官邸に生い茂る竹藪を撮る場面に作り手の基本姿勢があらわれている。対立図式に陥ることを周到に避け、望月記者や彼女が接触する人々、政府、警察、さらに森自身の姿を彼らが置かれた場の周縁からとらえることで、メディアの内と外の様相を一緒くたにあばき出す。
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詩人、映画監督
福間健二
「当たり前のこと」から出発する望月衣塑子の奮闘ぶりと魅力。彼女がぶつかる安倍政権下のごまかしの数々。菅や麻生を何が許しているのか。構造とそのなかの人間が見えてくる。森監督、まず共感するのは自分の出し方。取材の過程で立ちふさがるものを表現に組み込み、控えめにだがドキュメンタリーの枠も押しひろげている。たとえば籠池夫妻、とくに妻の人間味をとらえた部分とイワシの群れのイメージショットなどが同居する。i=「一人称、私」を核とする問いかけは明快だ。
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影踏み
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映画評論家
川口敦子
警察小説で「組織と個人」の関係性を描いてきたが「アウトローを主人公に据え、組織人とは真逆の目線を獲得する」「位相の転換」で「世間」「社会の組織性を可視化」できると思い至った。「ノワールとしてのクールさより」「ウェットな相克について書きたかった」と、プレスで語る原作者の言葉に目をとめれば映画版の主人公の煮え切らなさもありなのかと思ってみる。が、その彼の世間との相克と、過去、“聖三角の恋”、“影”との葛藤とを粋に並立させる脚色の術、探って欲しかった。
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編集者、ライター
佐野亨
篠原哲雄の、説明的になる寸前で奇妙な説得力を帯びるダイアローグ、アレゴリーに陥る一歩手前でゆるやかにひらかれる画面の構築力はもっと評価されてよい。時制と因縁が複雑に入り乱れるこの物語では、そうした個性がおおむね吉と出た。主演の山崎まさよしは、瞳の翳りとぶっきらぼうな口跡が役柄に合い、下手な演技派よりもそれらしい存在感を醸し出している。難役の滝藤賢一もみごとだ。少年時代のシークエンスは、演技のさせ方ふくめ、もう一工夫ほしかった。
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詩人、映画監督
福間健二
山崎まさよし演じる「ノビ師」の天才。不覚にも捕まった過去を冒頭におき、二年後、刑期を終えてからが現在。二十年前の大過去が回想で入る。こういう犯罪者、いるだろうか。それはおいても、大過去の「炎」を解消するまでという軸に、驚くべきファンタジー的設定もあって、事件の謎解きがうまく絡まない。篠原監督、落ち着きすぎだ。作品の異色性に対して。ホッとしたのは、尾野真千子が親しくない中村ゆりに料理を作って「塩が足りない」「シワがふえるよ」とやりとりするシーン。
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わたしは光をにぎっている
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映画評論家
川口敦子
町、店、人、映画。世界から消えていく場所、存在を悼む心を刻んだ記録の映像。その圧倒的な力、涙ぐましさ。そこに溢れる詩情。それは中川龍太郎の世界を知らずにきた怠け者に全作に出会おうと決意させる磁力をつきつけてきた。そうしてその映画歴に息づいていた女優達(中村映里子、高橋愛実、榊林乃愛、朝倉あき等々)の輝やかしさ。それを目にした以上、この映画のヒロインの表情の鈍さは余りに惜しく、だからこそ敢えて「私は薦めない」といっておきたい。次作を待ちつつ。
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編集者、ライター
佐野亨
現在の日本映画において、「場所」を映す、「空間」をとらえる、という意思のもとに撮られた作品は思いのほか少ない。「場所」とは生きた人間の営みの場であり、「空間」とは心象の在り様そのものである。そのことを理解している作り手は、場所/空間のなかに人物を配するのでなく、場所/空間と人物の関係性をとらえようとする。中川龍太郎はそのような稀有な作り手の一人だ。映画を観ながら、以前住んでいたアパートの近所にあった銭湯(昨年取り壊された)の風景を思い出した。
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詩人、映画監督
福間健二
まず気に入ったのは、故郷を出たヒロインがやってくるのが葛飾区立石であること。引きめのショットが多く、人とともに風景と事物にものを言わせている。それが少し作為的すぎる場合も。独特のモタモタ感ありの天使性を発揮する松本穂香と、得意の、人生に疲れた男の味で押し切る光石研の二人以外の、人物の見え方、どうなのかなと思った。とはいえ、中川監督の表現は楽しい。山村暮鳥の詩の力も借りて決めどころを作り、失われていくものへの哀惜を受け身の感情にとどまらせない。
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地獄少女
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ライター
須永貴子
はまり役の玉城ティナをアイコンにした、地獄パートの完成度が高い。エコーをかけた音響とねっとりしたCGで、無限に歪む時空間を表現。和製ダークファンタジーの実写映画としては、最高レベルと言っていいのでは。わらべうたや和装が彩る世界観は、日本映画にしか作り出せないものなので、海外セールスすべき作品。人間の愛憎が原動力となる現世パートは、肉体が感じる痛みや苦しみを観客に伝えることに成功したことで、安っぽくなりそうなところをギリギリで踏みとどまっている。
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脚本家、プロデューサー
山田耕大
もとになった企画コンセプトは十数年くらい前からあり、それがテレビアニメと漫画が連動し、漫画は23巻で300万部を超え、テレビアニメは断続的ではあるが10年以上続いたらしい。なら、これは待望の映画化ということになりそうだ。知らなかった。勉強不足だ。で、作品は無難にまとめられている。設定もストーリー展開も平均値。際立ったものは特にない。面白くないかと言われれば、NO。面白いかと聞かれれば、素直にYESとは言えない。時々出くわすそういう作品の一つと言える。
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映画評論家
吉田広明
「純度」の低い連中を世界から一掃するため「神」を呼び出す儀式を組織するヴィジュアル系=カルト宗教系=厨二バンド、結束を図るのにキメセクを活用、そのスタッフにはなぜか地獄少女グループのメンバーが参加(コーラスに麿赤兒!)。ツッコミどころ満載で、ある意味面白いが、しかし多少荒唐無稽になっても絵の力で虚構に振り切れるアニメと違う実写の場合、実物と作り物の配分計算を間違うとかくもトンデモに、という教訓として受け止めるのが正しい鑑賞方法かと思う。
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