映画専門家レビュー一覧
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RANMARU 神の舌を持つ男 酒蔵若旦那怪死事件の影に潜むテキサス男とボヘミアン女将、そして美人村医者を追い詰める謎のかごめかごめ老婆軍団と三賢者の村の呪いに2サスマニアwithミヤケンとゴッドタン、ベロンチョアドベンチャー!略して…蘭丸は二度死ぬ。鬼灯デスロード編
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映画評論家
上島春彦
テレビ版の視聴率低迷をわびてボヤく冒頭が可笑しい。主人公トリオの役柄が微妙にいつもと違うのが番組のポイントだった、しかし「外した」理由はそこにあろう。堤さん、考えすぎちゃったんだな。でも木村嬢の七十年代っぽいパンツスタイルは新鮮で見どころとなっている。布の上からでもぷにぷにしたお尻感は伝わってくる。でもせめて「時間ですよ」クラスの入浴ヌードが欲しかった。こんな時でも櫻井脚本は真面目一点張りで融通が利かないが、芯がしっかりしているのは高評価だな。
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映画評論家
モルモット吉田
いつもの堤ワールドなのでお好きな方はどうぞという感じだが冒頭から不発に終わったTVドラマ版への自虐ネタを織り交ぜ、自分がやりたいことだけを断固やるという潔さは意外に好感。まあ、小ネタにばかり気を取られて本筋が進まないどころか、進路先不明になることもしばしば。しかし向井がほぼ全篇にわたって金田一コスプレで登場し、「悪魔の手毬唄」+「八つ墓村」のパロディをやるのだから寛大な横溝ファンである筆者は「金田一耕助の冒険」の姉妹篇ぐらいのつもりで観ていた。
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貌斬り KAOKIRI 戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より
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映画評論家
北川れい子
手持ちカメラで小さな劇場に案内され、ステージと楽屋を行ったり来たりするリアル仕立てのフィクション。モチーフとなる事件の唐突さはともかく、役者が役を演じることの心理状態を、膨大なセリフとそのリアクションで描き出し、異色の群像劇として、作劇技術はかなり高度ではある。でも映画としてはどうなの? ステージと楽屋をつなげて役者の不安や高揚感を解剖されても、大物役者や有名スタアの場合ならまだ間が持つだろうが、馴染みのない役者がほとんどではチト、つらい。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
熱のある作品。だが気になったのはモデルが明らかなのに実名ではないこと。ルノアールやドトール、寺脇研がそのまま呼ばれるのに(んなことどーでもいい、という瑣末な部分)、なぜ長谷川一夫、東宝、松竹、ジャニーズと言わぬ! これはぜひ言ってほしかった。“ゆとり批判”批判のような部分や、トニー・スコット「デジャヴ」のタイムトラベルを人力でやり遂げるが如き“スタニスラフスキー探偵”は面白く、部落差別、狂気の芝居極道も強烈。このオリジナリティ、尊敬する。必見。
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映画評論家
松崎健夫
物語の進行と共に、映画の中の現実と映画の中で演じられる舞台上の役が同期してゆく本作。この〈入れ子の構造〉は、映画の中で演じられる舞台上の役が「メソッドのアプローチによって本人になりきり、事件の真相に迫ってみる」ため、本作のキャストにとっては更なる〈入れ子の構造〉を生んでいる。舞台上の現実を物語が侵食してゆく複雑な物語構造に加えて、群像劇として多くの役者をコントロールしながらも、観客を混乱させない細野辰興監督の手腕。新作を待った甲斐はある。
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アズミ・ハルコは行方不明
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評論家
上野昻志
蒼井優扮する春子をはじめ、女と男が出会い、なんらかの関係が出来るのがすべて同級生という点からしても、彼らが暮らすのが地方都市でしかないのは明らかだが、その地方性が感じられない。ここで地方性というのは、街の景観の問題ではなく、彼らを取り巻く空気感だ。その閉鎖された空気が出ていれば、もっと面白くなったはずだ。ま、少女ギャング団だとか、落書きだとか、いろいろ工夫はしているのだが、それも、春子を軸にストレートに話を進めるのを回避するためと見えてしまう。
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映画評論家
上島春彦
どうしても少女暴力団が好きになれず星が伸びなかったが、これはカルト・クラシックになる映画かもしれない。高畑の成人式でのきんきらきん和装とか、まさしく地方都市の鬱屈した日常を照らし出す細部でさすが。彼女の、しくじって生きてる感じがリアルで『とと姉』とはだいぶ違うな。そして問題のアズミ・ハルコだが時制が入り乱れて構成されているため、いつ行方不明になったんだかよく分からなくて、それがこの映画の最大の良さである。いや、ちゃんと見てれば分かるけどもね。
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映画評論家
モルモット吉田
山内マリコの『ここは退屈迎えに来て』は面白かったが、本作は映画化を見越したような作りでつまらなかった。しかも、そのまま映画にすると「スプリング・ブレイカーズ」を超えないと絶対面白くならないという難物である。それは制作陣も承知の上のようで時制をシャッフルする迂回作戦を取ったものの、その意図が見えず小手先の誤魔化しにしか思えず。断片的には魅力的に映るシーンも多く、蒼井、高畑の演技が映画を輝かせるだけに原作を解体して脚色を徹底していれば、という思いに。
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いたくても いたくても
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評論家
上野昻志
タイトルほど、痛さは感じられない(笑)。ただ間の取り方が、空間的にも、時間的にもかなりいい。たとえば、嶺豪一と澁谷麻美がジョギングするときの二人の位置もそうだが、社長の命令で社員が集まる会社内での人のばらつき具合とか、宣伝のための録画撮りでの位置関係などに、よく現れており、それが時に微妙なサスペンスを孕む。また、省略の仕方も含め、時間的な間も、心地よい緩急のリズムが刻まれている。澁谷がいいのは「螺旋銀河」で証明済みだが、嶺の無表情もいい。
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映画評論家
上島春彦
通販番組がプロレスをやるというコンセプトに乗れるかどうかが鍵だ。アイデア頼みで演出が無策、と思っていると無策が実は演出と分かる、という屈折ぶり。つまり男達が闘うごとに演出も洗練されていく。ごっこの世界だが真剣なプロレスごっこ、私服でのバトルという趣向がずばぬけている。そしてクライマックス、姿を消した女性を巡る二人の男と彼女の母親の会話場面の編集ぶりが正統的な「英国時代のヒッチコック調」でとても良い。サブタイトルは「青春の賭け」で決まりだろうな。
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映画評論家
モルモット吉田
通販会社の自社製作番組でプロレスを始めることになり、ADだった主人公が参加することになる奇想よりも恋人の実家で暮らす彼らのぶっきらぼうな関係がいい。「螺旋銀河」でも忘れがたい表情を見せた澁谷麻美の細長い身体とスタンダードサイズの画面が不思議と調和する。彼らが家で母親も交えて過ごす日常をずっと観ていたくなる。プロレスを通じて澁谷を気にかける先輩と主人公との駆け引きを際立たせる狙いは効果を挙げているとはいえ、やがてガチで戦う際は肉体の痛みを感じず。
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時代劇は死なず ちゃんばら美学考
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評論家
上野昻志
途中から、旧知の友人たちが出てくるので、思わず半畳のひとつも入れたくなったが……その、まさに彼らが登場して、ちゃんばらの魅力はどこにあるかという点に話が絞られてくると、俄然、面白くなる。近衛十四郎の剣技が怖いということから、斬る者と斬られる者との間合いが大事という話になり、リメイク版「十三人の刺客」のように、やたらめまぐるしく動いても迫力がない、と言われる一々に肯く。と同時に、最後に一部が写された中島貞夫監督の新作時代劇を早く見たいと思う。
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映画評論家
上島春彦
最初にわざわざ、これは京都から見た「美学」だと説明が入る。見終わるとなるほど、と感心する作りになっている。黒澤明が何ぼのもんじゃい、とは誰も言っていないがそういう映画であり、その通りだと思う。私、実は見逃しているのだが、ここに出てくる伊藤大輔「長恨」が凄い。「移動大好き」監督、手持ちのクローズアップによる殺陣の移動ショットである。大映、東映の名作のフィルム引用も楽しいが、何と言っても中島貞夫監督によるラスト、短篇時代劇の殺陣が本格派で必見ものだ。
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映画評論家
モルモット吉田
淀川長治と宮川一夫の対談を記録した「映画の天使」以来と思わせる、映画が衣をまとって歩いているような好々爺な中島貞夫に瞠目させられる。その全身映画屋ぶりが、待望の新作映画と称するにはいささか寂しい作りの本作に映画の匂いを漂わせる。それが画面に満ちたあたりで登場するのが断片という形ながら映画らしさにあふれたチャンバラである。こんな予告篇を観せられたら、チンピラみたいな浪人が動乱の時代をネチョネチョ生きる中島時代劇の新作を何としても観たくなる。
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ちょき
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評論家
上野昻志
最近の日本映画では珍しく、実にシンプルな物語を、シンプルな動きの反復において描き出した点において、一頭地を抜いている。それは吉沢悠演じる美容師の、朝起きてコーヒーを沸かし、ポットに入れて店に行き、鏡を磨き客の髪を洗うという日常の繰り返しから、増田璃子扮する盲目の少女が外に出る際には誰かの介助を得て歩くという単純な反復へと連動し、映画のリズムを作る。彼女と藤井武美の弱視の少女との関係や、母親との関係も、くだくだしい説明抜きに描いているのがいい。
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映画評論家
上島春彦
一見地味だが画面と編集の的確さがまず見事。冒頭部、レコードがゆっくりと止まってしまうあたりの繊細な描写を見てほしい。こういうのが映画なのだとつくづく実感する私。妻を亡くした理髪店主「ちょき」さんと、親のDVで失明した美少女の交流、という物語の現在に様々な過去の挿話を織り込みながらさらりと描いていく監督の手腕に舌を巻く。二つの時間が一つの画面に合わさる神社の場面もスリリングである。少女に恋されているとなかなか気づかない理髪店主の純情ぶりもいい。
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映画評論家
モルモット吉田
美容室のオヤジと盲目女子高生の禁断愛を描いたご当地映画。主人公はのほほんとし過ぎていて周囲から関係を疑われても「そんなことない」の一点張りで全て説明がつくと思っている。ロケ地を魅力的に映す必要があるため、間違っても駆け落ちなんぞ出来ないので、いい話として終始するのが不満。性を直接描けとは言わないが、示唆する描写は可能なはず。性にも淡白で葛藤も対立も回避しては口当たりのいい綺麗な風景と町並みしか印象に残らないが、製作意図からすればそれでいいのか。
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マックス・スティール
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翻訳家
篠儀直子
VFXを駆使した派手なシーンもあるし、スタッフも結構な人数なのだけれど、戦隊ヒーロー物ファンの映画青年がたくさんお金を貯めて撮ったかのような手作りインディペンデント映画感がどことなくある。若年層をターゲットとしたお手軽企画かと思いきや、非常に魅力的なショットがちょいちょい出てきたり、プロット上の重要なサプライズをこの上なく簡潔に演出したりで意外とあなどれない。スティールのデザインと動きがとても可愛いのと、主役の若手男優の感じのよさも高ポイント。
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映画監督
内藤誠
鮮やかな自然の風景から、画面は一転、暗いブルーのトーンになり、疲れるなあと思っていたら、それは主人公のマックス少年が体内から発する電気エネルギーをきわだたせるためのもの。エスパーは、他人から出自を隠すというのはSFの常識だけれど、この作品ではマックス自身がなぜ超能力を持つのかも分からず、ミステリアスで上品なマリア・べロの母親も何かを隠したまま物語が進む。SFというよりは推理ものの構成だが、シリコン製の地球外生命体も参入し、話が散漫になってしまう。
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ライター
平田裕介
マテル社の玩具が原作だが、未知の生命体と主人公が一体化したりするのは「寄生獣」、彼らが廃墟で特殊能力の具合を試すのは「アメイジング・スパイダーマン」。話も「強殖装甲ガイバー」みたいで、いろんなもののツギハギ感が強い。おまけにハイテク研究施設に昔ながらの薬瓶が並んでいたりと、なんだかアレなのだが、そこが魅力といえば魅力だし、妙な押し出し感があって最後まで観てしまう。ボディスーツを着たはいいが、パンパンで苦しそうなアンディ・ガルシアが心配になった。
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