映画専門家レビュー一覧

  • キング・オブ・エジプト

    • 映画監督

      内藤誠

      エジプト神話を素材にしてCGを駆使したスペクタクル。おなじみのピラミッドやスフィンクス、それに巨大オベリスクの建築家まで登場させ、建物の仕掛けもよくできている。冒頭、天空から一気にエジプトの市街に舞い降りていくショットには、わくわくした。砂漠から権力奪取のためにセト(ジェラルド・バトラー力演)が部下を引き連れて、やってくるあたりも圧巻。死者の魂を死後の世界へ導くハトホル(エロディ・ユン)も妖しい魅力を振りまくのだが、後半、話が見えてしまうと辛い。

    • ライター

      平田裕介

      古代エジプト神話の世界を舞台にしており、監督も一応はエジプト生まれ。それゆえ、アドベンチャーとはいえ神々しいこと極まりないのではなかろうかと構えていたが、とにかく毒々しいというかケバケバしいノリ。神様たちの背丈は人間の倍くらいの背丈という比率設定や銀河にホゲーッと鎮座する老けメイクのG・ラッシュなど、大小問わず画面に映り込むすべてがキッチュだ。一方、C・イートン、A・リー、E・ユンと、女優たちは神々しいまでに美しい方々を揃えているのも◎。

  • ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS

    • 評論家

      上野昻志

      密入国者が集う「裏都庁」だかなんだか知らないが、その設定が、画面としてはまったく生きてない。原作ではそれなりに意味をもっていたのかもしれない宗教に関わる「地下教会」も同様。取り柄は、須賀健太演じる周とノゾム扮する林を、松田翔太のポリスが追っかけて行くところぐらいか。とくに、彼らを殺さずに逮捕しようと頑張る翔太。ところで、真木蔵人演じるヤクザのカシラが、かなり重要な役どころなのに、試写会用パンフには名前も顔写真も出ていないのは、どういう訳か?

    • 映画評論家

      上島春彦

      惜しい。裏警察という設定も配役も申しぶんないのだが、凶悪犯を生け捕りにして東京に連れ戻したい、という行動基準に説得力がないために、何か無駄な努力をしている感じになった。また凶行も手当たり次第の殺害になってしまい、裏じゃなく表の警察が出てくる性質のものだ。コンセプトがブレてないかな。警察コンビが正義を貫く設定で、これはとても良い。凶悪中国人は当局の宗教弾圧から人生が狂ったヤツで、須賀が相変わらず強烈キャラ。ただ動機と犯罪がバラバラでぴんと来ない。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      TVドラマ版は眺めていた程度だが映画だからとさほどスケールアップしないのはドラマと連続撮影の既定路線ゆえか。とはいえ翔太&東映ならB級アクションが似合う。優作と桃井かおりを超える息の合い方を見せる翔太と安藤サクラの共演シーンや、今やどんな役で登場するか毎回楽しみでしようがない須賀健太の怪演を眺める分には愉しい。これだけお膳立てが揃うからには東映セントラル的活劇になっておかしくないはずが過剰さと逸脱の不足で弾けきらない。この内容で2時間弱は長い。

  • 涙の数だけ笑おうよ 林家かん平奮闘記

    • 評論家

      上野昻志

      林家かん平師匠は、脳溢血で倒れ、懸命なリハビリを続けるも、右半身不随と言語障害が残る。それでも、落語を続けようと頑張っている。エライね、とは思うのだが、本作を見ていて、一番印象に残ったのは、彼が、そんな身体でありながら、母親の介護をしているときの様子だ。それと、師匠の人徳もあろうが、彼が落語を続けられるように励まし支える人たちが沢山いることである。本作も、その一つとして作られたのだろうが、そんな優しさが、映画としては、題名も含め些か甘くしている。

    • 映画評論家

      上島春彦

      脳溢血の後遺症でこの四半世紀、動きも言葉もままならない落語家。シャレにならない境遇ではあるが昨日今日の病人じゃないので、言うことのそこかしこに可笑しさが漂う。さすがプロ。自虐の笑いじゃなく達観なんだね。もちろんそこをすくい取るのが記録映画作家の腕だ。自作の新作にチャレンジする日々がクライマックス。ひょっとしたら監督が仕掛けたのかもしれないが別に文句はない。その内容に周囲の支援者や友人が辛らつだったりするのも効果的で、それも当然監督の計算の内。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      善意と感動の押し付けを警戒したが杞憂に終わる。冒頭で車椅子に上手く乗れないかん平に介護士が「もう普段は失敗しないところで緊張してェ」と呆れられるところからカメラの存在を観客も意識することになるが、映画好きの噺家らしく主役を演じてやろうという意識が溢れているのが魅力。苦労や努力を作為で見せるのではなく、外に出て他人と触れ合う姿が同じ境遇の人々に与える影響を考えての主役の振る舞いである。楽屋や高座では雰囲気が変わり、芸人の顔になるのが印象深い。

  • エミアビのはじまりとはじまり

    • 映画評論家

      北川れい子

      ネット配信ドラマ『火花』が残念だったのは、劇中の舞台やテレビで演じているお笑いが、まったく笑えなかったこと。むろんメインはお笑い芸人たちのステージ外の話なのだが、どこかで笑える芸も見せてほしかった。その点、本作は、人物たちを中心軸にした悲劇と笑いがシーソーのように上がったり下がったりし、話が深刻になると茶々を入れるようなエピソードを用意、アゼンとしながらもつい笑ってしまったり。ボケとツッコミに、更なるツッコミを入れた渡辺謙作の脚本・監督に座布団を。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      森岡龍、前野朋哉それぞれの監督作を観たことがある。それが面白い。最近の現象か、彼らと同世代で、映画好きで、映画のことをよく知っている若い俳優が増えているのは。で、そういう俳優をつかう監督は緊張するんじゃないかと勝手に臆測してしまう。監督渡辺謙作、こんなにブランクあったのか。大丈夫か…。…あ、面白い! 森岡、前野がすごく魅力的! 繰り返される、笑わせろ! というシチュエーションが優れている。リアルとファンタジーの兼ね合いが良く、最高地点到達作品だ。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      本国で大ヒットを記録しようともハリウッド製コメディー映画が日本の興行で不遇な扱いを受けているように、映画における〈笑い〉は難しいとされている。〈笑い〉が本職の北野武や松本人志の監督作品における〈笑い〉でさえ、揶揄の対象となるのだから尚更である。本作の漫才コンビ“エミアビ”が、実際に『M1グランプリ』の1回戦を突破したことが報じられた。現時点で最終結果は出ていないが、映画の中の〈笑い〉が如何なるものであるかは、現実の?末が示してくれるに違いない。

  • アスファルト(2015)

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      近年日本でも中村義洋、是枝裕和、阪本順治らによって立て続けに劇化された団地空間が、フランスでは完全に低所得者層の典型的表象となる。3組のボーイ・ミーツ・ガールの物語――落ち目の女優と男子高校生、着陸ミスした宇宙飛行士とアルジェリア系未亡人、ニセ写真家と看護師――はいずれもメルヘンである。空間は、脚本家が握る試験管としてのみ存在しているのだ。場末で細々と暮らす小市民にもちゃんと幸福がありますよというヒューマニストの化合物を生成する試験管である。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      団地を舞台にして三つの人間模様が綴られる。米国の宇宙飛行士が、突然、空から舞い降りてくるオカシさ。その飛行士がイスラム系の老マダムと心を通わせる挿話が印象的。中年女優と若者の挿話はユペールと新人男優の持ち味を生かしているが、面白さは程々。おっさんと夜間看護師の挿話は無理矢理の展開でちと空回りの感。てな具合にバラツキが。全体、すっとぼけたユーモアがあり、乾いたタッチなのはいいが、演出が狙いすぎというか、作為が表に出すぎて、もう一つ沁みてこない憾みも。

    • 映画ライター

      中西愛子

      フランス版「団地」といったところだろうか。郊外のおんぼろ団地で、3組による3つのエピソードが繰り広げられる。いずれも孤独と意外な出会いが織り成す、ちょっといい話。淡々としながらクスリと笑えて面白い。個人的には、マイケル・ピット(好演)扮するNASAの宇宙飛行士と移民の主婦の話がベタだけど好き。マリー・トランティニャンの息子(ジャン=ルイの孫、本作監督ベンシェトリの息子)で、まだ10代のジュール・ベンシェトリが、ユペールと互角に渡り合いキラリと光る。

  • アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      インドという舞台装置のエキゾチズム、作曲家と在印大使夫人の不倫旅行というハーレクイン・ロマンス的展開。今どきこんな陳腐な題材を映画化する者がよくもいたものだと思いきや、ダバダ、ダバダバダ「男と女」のC・ルルーシュなる懐かしい名前が。御年78歳、元カイエ派の筆者からすれば酷評で済ませてきた作家だが、いまだにこの手のキザで薄っぺらなロマンスを元気に作っていること自体、逆に素晴らしく思えてくる。どんな畑から穫れても、熟成すれば芳醇さは増すのだ。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      いや、久しぶりのルルーシュ・タッチ。といっても昔は音楽ときれいきれいな映像の洪水。今は画面の方は相変わらずだが、音楽よりもおしゃべりが増えて。一見シンコクだけど、あまり深入りしないで、いつの間にかハッピー・エンディングを迎えるストーリーテリングも健在。けど、インドに対する異国趣味は、ちと古臭いなあ。てな具合に、ノスタルジー気分でのんびり眺めていたら、終わり方に「あの愛をふたたび」の旋律が。懐かしさに一瞬、胸がきゅんとなって。ま、そういう映画デス。

    • 映画ライター

      中西愛子

      「男と女」から50年。78歳のクロード・ルルーシュが放ったのは、出会ったばかりのフランス人男女がインドの旅を共にしながら、人生半ばの迷える心を癒していく大人のドラマだ。主演のジャン・デュジャルダンとエルザ・ジルベルスタインの素を拾う、さりげないドキュメンタリー風演出も風通しよく、ふたりの旅に同行しているような生々しい気分になってくる。「ミナ」(93)のイメージが強かったジルベルスタイン、今の方が何倍もいいじゃない。年を重ねる旨みが芳醇に香り心地よい。

  • 神のゆらぎ

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      近年の西欧映画に非常に多い「モジュラー型」の作品。いずれも現代的かつ普遍的な問題を体現した複数の登場人物の運命がパラレルに錯綜しながら物語られる。フックの多い場面演出と断片的な構成の妙で観客の関心を巧みに持続させてゆくが、何シーズンも続くドラマシリーズを映画の尺に畳み込んだような感じもなくはない。こういうリアルな社会的テーマって日本の劇映画ではやりにくいだろう。グザヴィエ・ドランあっての日本公開なのだろうが、僕、あんまり彼に惹かれないんですよね。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      表現において宗教と死を扱うことは、必然的にある種の幻想性を孕むことになる。現実の時間の流れから数ミリ浮いたような緩やかな編集のテンポや音楽が舞台装置としていい働きをしているが、本作におけるそれらは劇中の人々の描かれ方と同様に、抗えない運命に翻弄されることに対するナルシスティックな側面も浮き彫りにさせる。そこに一役買っているのは役者として出演しているドランだ。その意味でこれはドランの映画でもあり、彼がこれを演じたがったのはとても納得できる。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      巧みに構成されたオムニバスドラマだ。空港付近のホテルを舞台に、人生の岐路に立つ四組のカップルがスリリングに描かれる。一本の映画が作れる位重いエピソードが四つも詰め込まれているので、余裕や遊びが全くなく、いささか疲れるが重厚な後味を残す。時制、場所、視点を複雑に交錯させる映画が昨今多いが、映画的技巧より判りやすく見せて欲しいと思う。X・ドラン主演の如き売り方は疑問だが、MIRACULUMの邦題を「神のゆらぎ」とした配給会社のセンスに★一つ追加。

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