映画専門家レビュー一覧

  • KARATE KILL/カラテ・キル

    • 映画評論家

      北川れい子

      光武蔵人作品といえば「女体銃 ガン・ウーマン」にはシビレた。銃を仕込んだ自分の肉体を武器に、組織に挑むヒロイン。その前の作品「サムライ・アベンジャー/復讐剣 盲狼」も、武士道風味の無国籍アクションとして小気味いい作品だった。今回もB級アクションの王道をいく作品ではと期待したのだが、残念、ロスで妹探しをする主役のハヤテが顔も体も少年っぽく、特技は殺人空手でも、いまいち影が薄い。いろいろ用意された危険な見せ場もだから妙にウソっぽく、悪役ばかり目立つ。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      不要なキャメラの動きや、「女体銃」に比較して緊密度の後退と思われる部分もあるが、格闘の、素手で人を殺す殺伐をこそフィーチャーする本作の志は高く評価する。男色の剣術使いは漫画『カラテ地獄変』リスペクトか。そう、たったひとりの牙直人あるいはヤング大東徹源を実写映画に招来するだけで、観客の内臓を貫手でえぐるインパクトが可能だ。本作の、千葉真一「殺人拳」あたりや洋画「TNTジャクソン」、近年作品なら「ザ・レイド」と同じベクトルを睨む、その意気や良し。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      本作はタイトルに〈空手〉と銘打たれているが、実のところ〈西部劇〉の体を成しているだけでなく〈イタリア製西部劇〉=〈マカロニウェスタン〉の文脈に則っている。「アメリカに単身乗り込む日本人が西部の荒野を訪れる復讐劇」という発想は、まさにマカロニ的。必殺技で敵を仕留める設定は、香港の功夫映画的であり、同時にマカロニ的でもある。白人VSアジア人というショーダウン(対決)をクライマックスとする理由も、わざわざ異国アメリカの砂漠を舞台とするのもそのためなのだ。

  • セルフレス/覚醒した記憶

    • 翻訳家

      篠儀直子

      蓄積した教養と高度な専門知ゆえにプランへの参加を許されたはずなのに、新しい肉体を手に入れたあと、建築家としてのずば抜けたキャリアの継続にすぐさま取りかかるのかと思いきや、いつまで経っても遊びほうけているので主人公が何をしたい人なのかよくわからなくなるし、ただ会話しているだけのシーンを落ち着きなく(しかも意味不明に)カット割りしているのもどうかと思うが、アクションの撮り方はなかなか上手い。これ以外ないだろうというラストへちゃんとたどり着くのも偉い。

    • 映画監督

      内藤誠

      NYを作った男と言われる建築家(ベン・キングスレー)が余命半年と言われ、天才科学者(マシュー・グード)の研究所の力を借りて、遺伝子操作により、若く強い肉体(ライアン・レイノルズ)に優秀な頭脳を転送するというSF。物語の発端は十分に期待をもたせてくれたが、研究所は金儲けの組織に過ぎず、一見知的に見えるマシュー・グードにも「悪の哲学」すらないと分かると、ワンアイデアの話ではもたない。あとはカー・アクションとCM的テンポの演出で乗り切ろうとするのだが。

    • ライター

      平田裕介

      衣裳デザイン以外でも影響を受けていただろう、石岡瑛子の喪失をどうクリアするのか? そんな心配は杞憂に過ぎず。“彼史上最も”というか“彼史上初”といっていいであろう、とことんシャープでスピーディな演出を堪能させてくれる快作でありました。それでいて、マンハッタンに建つトランプの絢爛豪華でいて俗臭芬芬な自宅ペントハウスをベン・キングズレーの住処にあてがうといった、彼一流の美的センスも健在。第二次ターセムともいうべき新章へ進めているようでホッとした。

  • グランド・イリュージョン 見破られたトリック

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      試写開始後10分でやっと「続篇」であることに気づいた。前作は観ていない。なので人物関係がよくわからないところもあったが、要するに前作で死んだことになってた人(複数)が生きてたってことだよね、と納得。イリュージョンの世界と言ってもリアリティはゼロ、荒唐無稽の極みと言っていいが、それを丸呑みしてしまえば馬鹿馬鹿しくて痛快で面白い。でも資料を読んで知ったんだけど、これってジェシー・アイゼンバーグが主役なの? どう見てもマーク・ラファロじゃないですか?

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      ハイライトは4人のマジシャンたちがセキュリティの厳しいチェックの目を盗んで金属製のICチップをカードに仕込み探知機を突破する連携プレー。マジックの要領でガードマンの目を欺きながら、一枚のカードを手の中足の中へ巧みに隠しつつ、パスを重ねて出口を目指す。荒唐無稽レベルの凄技もCGを駆使したイメージやテンポのいい編集で快感を誘う。ただ、もはや手品ではなく、映像トリックとして楽しみたい。ダニエル・ラドクリフはラスボスの定石に違わず運動量が少ない。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      個性的な演技派を揃え、世界を股にかけたコンゲームの続篇は前作を凌ぐ。ロンドンの大観衆を前に見せるクライマックスのパフォーマンスは、種明かしもあり見事な名シーンだ。大変に面白いのだが、深い陶酔感を覚えないのはこの映画の本質にかかわるものだろう。身も蓋もない言い方だが、飛行機や象を一瞬に消し去るマジックを眼前で実際に観れば、感嘆、驚愕するが、それを映画で観てもさほど驚かないのは、CGなどの撮影技術を使えば簡単にできることを誰もが知っているからだ。

  • 後妻業の女

    • 評論家

      上野昻志

      一応、ピカレスク・コメディーのつもりなのだろうが、これじゃピカレスクにもコメディーにもなりようがない。映画でも小説でも、ピカレスクたるには、自分なりの守るべき筋目(美学や倫理)があるのだが、ここでは、それが完全に欠けているのだ。金持ちのジジイを誑し込んで財産を奪うにしても、そのためには、殺しもやるというのでは、筋目も何もあったものではない。ただの人殺しだ。そんな出来損ないの話を糊塗するのに、役者にやたら暑苦しい芝居をさせるようじゃ、映画が泣く。

    • 映画評論家

      上島春彦

      タイトルと主演で内容が分かってしまうが、期待したより遥かに出来が良い。悪人の側から事件が描かれるので逆に何もかも分かり過ぎるのが欠点か。冒頭から被害者番号が画面にでかでかと現れるんだからねえ。モンスター熟女をプロデュース。という線の豊川と、問題のモンスター大竹のW怪演のおかげで善人の影が薄い。で、善と悪どっちに転ぶか分からない私立探偵が鍵。ナンセンスなオチも可笑しい。もう一つ感心したのは音楽、特にラストに流れる主題歌が心を揺さぶる名曲であった。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      題名とテーマだけではなく、大仰な芝居や踊りも含め末期の伊丹映画を想起。後妻業をやる側とやられた側の攻防という面白い内容のはずが大竹に如何に気持よく演ってもらうかが主眼になった印象。こんな胸焼けする演技は今では韓国映画的なドギツイ演出でないと持たないのでは? 彼女の昔からの遵法意識のなさが語られるが今の行動にそれを思わせる描写はない。財産強奪と守備をめぐるハウツーをもっと入れてもよかったと思う。鶴瓶やスーツケースのくだりはあまりにも楽屋オチ。

  • ティエリー・トグルドーの憂鬱

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      失業者の再就職先がブラックな業務だったらどうするか? 暗澹たる世相を映す日本映画に似たフランス映画である。主人公はスーパーに再就職するが、万引き客をトッちめたり、レジ係のちっぽけなチョロマカシを告発して得点稼ぎしなければならない。熟練エンジニアだった彼からすれば、プライドをズタズタにされるが、節を曲げずに我を通そうとする。しかし現代映画では、主人公の立派な態度表明では収まらない、ひとつの決断がもたらす宿命の果てにまで帯同したいとも思う。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      「アスファルト」がカウリスマキ・タッチなら、こちらはダルデンヌ兄弟風。リストラされた中年男が、職探しをする姿が淡々と描かれて。この静けさが、主人公の憂鬱とやるせなさをじわじわ沁みさせる。この男の抑えに抑えた感情が、最後にぱっと爆発するが、そこも静けさの範疇の激しさで、かえって余韻を残す。ただどうも、映画のスタイルを優先しすぎという気が。ドキュメンタルな方法に安住して、中身の煮つめ方が不足している感じがする。いい映画だと思うけど、味付けが淡白すぎ。

    • 映画ライター

      中西愛子

      リストラされて失業中の中年男が、再就職をめざす。普通の人々の職という題材、ドキュメンタリー・タッチのスタイルに主人公のみ人気俳優を配す点は、「サンドラの週末」に似ている。主演のヴァンサン・ランドンがいい。社会のパンチを食らい続ける役だが、ベテラン二枚目俳優の愛嬌みたいなものが、役柄に備わる純真な図太さにふと折り重なる時、ひどく悲惨な物語に光明が射す。特に、家族のシーンで見せる魅力には胸を打たれる。監督ステファヌ・ブリゼの人間を切り取る力は本物だ。

  • イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      最近多い「超大物映画人の伝記映画」は、殆どが遺族の全面協力を得ることによって、未公開の写真や日記、書簡、ホームムービーなどを駆使して作られているが、この作品は、その究極の一本と言ってもいいだろう。稀代の大女優の栄光とスキャンダルに満ちた生涯を膨大な素材を投入して描いていく。イングリッドに成り切って「私」の一人称で(無論スウェーデン語で)ナレーションするアリシア・ヴィキャンデルの起用が効いている。マイケル・ナイマンの優雅な哀調を帯びた音楽も印象的。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      今年祖父が百歳になった。昨年生誕百周年を迎えたバーグマンとはほぼ同い年ということになる。そのせいか、素材は過去のものであっても、視点は現在進行形の時間の中で観てしまう。過ぎ去ったことはいかようにでもロマンチックにとらえられるが、もし彼女が生きていても「恋多き」「愛に生きた」「自分に正直に」という言葉で形容できるだろうか。価値観は当時より多様化しているはずなのに世間の物差しはまだまだそれに対応できていない。百年という時間の長さと短さを思う。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      この映画を観ても、自伝や評伝を読んでも、強く心を打つのは、バーグマンという女性の自分に忠実に生きたいという願いであり、女優である前に人間でありたいという願いである。頑固な理想主義者でもなければ、スター女優のわがままでもなく、全て自然体なのである。アメリカで不当なバッシングを受けたロッセリーニはじめ男性との関係も好きになれば一緒になる、関係に倦んだら別れる――見事に一貫している。子供達の証言もあって、優しく強い女性像が浮かび上がる。

  • 神様の思し召し

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      こういう作品に「感動」する資質が自分には決定的に欠けているのだと思う。ストーリーといい演技といいカメラワークといい、どこをどう観ても出来の悪いテレビドラマでしかない。東京国際映画祭で観客賞を貰ったそうだが、正直うんざりせざるを得ない。断わっておくが、通俗的であることが悪いわけではない。通俗的で素晴らしい映画は幾らだってある。だが、これは全然駄目だ。笑えも泣けもしない。最も「観客」を舐めている作品が大多数の観客に支持されてしまうという悲惨な逆説。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      キリストはしばしば史上最大のロックスターとも形容されるが、現代の神父にそのカリスマ性をかぶせたキャラ造形は面白い。ただ、それにしては彼のパフォーマンスも影響力もいかがわしさも生ぬるく、記号にとどまっているように感じられるものの、小物感ゆえに作品全体をコメディーとして成り立たせるコマの役割も果たしているので、このぬるさが本作の求めるユーモアの平均温度なのだろう。途中から医師役のマルコ・ジャッリーニが古舘寛治さんにしか見えなくなってしまった。

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