映画専門家レビュー一覧

  • イレブン・ミニッツ

    • 映画監督

      内藤誠

      警察の力というよりは監視カメラが次々に事件を解決していく現代において、スコリモフスキ監督が監視カメラ、Webカメラ、カメラ付き携帯、CGといった技術を駆使して日常生活にひそむサスペンスを撮り、しかも群像劇だという。「早春」などのファンとしては驚くが、巨匠は、大学の卒業制作のような初々しさで作品に取り組み、実験精神も旺盛。惜しむらくは登場人物に魅力が欠けていること。女優を口説くためだけに映画を撮る監督の場面も退屈で、クライマックスを待ちこがれた。

    • ライター

      平田裕介

      ありとあらゆるガジェットやデバイスを介した映像、常に鳴り響いているさまざまな街の雑音、なにやらワケありの人物たち。緻密かつ混沌とした群像劇にザワザワさせられ、それが頂点に達したところで訪れる大惨劇にただただカタルシス。9・11と3・11が頭によぎる“5時11分”をめぐる物語だが、あれこれ考えさせる以前にとにかく映像で畳み掛け、押し切る、スコリモフスキ御大の力技に唸るばかり。また、大惨劇なのに美しく撮ってしまう彼の映画監督としての性も愛おしかったりする。

  • ダーティー・コップ

    • 翻訳家

      篠儀直子

      本筋になるでかい計画に手をつける前、主役ふたりがどの程度悪い奴だったのか、彼らが警察組織の実状に絶望していたとしたらどういう理由からなのかが、一応触れられてるようではあるけど描き方が不充分だと思うし、笑えるシーンにしているつもりらしい部分があまり上手く行っていないのがとてもまずいのだが、そのへんをちゃんと処理して全体のペースをもっと上げていたら、かつてのB級映画の傑作群に比肩したかもしれない素材。でも一方で、このぎこちなさが独特の面白さでもある。

    • 映画監督

      内藤誠

      ニコラス・ケイジとイライジャ・ウッドが組織を裏切る警官のコンビをやっている。ともに地味で抑えた演技が巧く、ベンとアレックスのブリュワー兄弟の演出もディテールがいい。全編が暗く悲しく、これでも娯楽アクションかと思えるほどで、イーストウッドの作品とは大違い。70年代映画の影響を受けているとはいえ、安易にはハッピーになるまいとする、新しいアメリカの世代の出現か。事件の鍵を握る女、スカイ・フェレイラも陰鬱で、モノクロームで撮ればよかったのにと思った。

    • ライター

      平田裕介

      モサッとした風貌に似合わず頭が切れて度胸もあるが、常時キレ気味でもあるニコケイ。なにかと彼に翻弄されては、あの眼をグルグルさせるイライジャ。ふたりの危なっかしくもどこか笑えるやりとりに前半はニンマリ、後半は破れるかいなかの金庫破りだけでなく、謎めいた人物も用意して予想以上にハラハラさせてくれる。ダウンタウンに建ち並ぶ古いカジノやバー、中国人たちが働くうらぶれたケーキ工場など、殺伐としたラスベガスの風景もムードと物語をグッと盛り上げている。

  • 健さん

    • 評論家

      上野昻志

      あれは、一九六七、八年頃だったと思うが、やくざ映画の流行を問題視するテレビの報道番組で、高倉健が、非難がましい質問をぶつける司会者に、生真面目に応じ(弁明)ていた姿を思い出す。当時、世間一般の「良識」は、やくざ映画に否定的だったが、そんななかで、高倉健はひときわ輝いていたのだ。わたしが、没後の健さん賞賛の大合唱に違和感を覚えたのは、そのような歴史が忘却されていたからだ。それに似た印象を、スクリーンに躍動する健さんの姿を欠いた本作にも感じる。

    • 映画評論家

      上島春彦

      健さんは日本国民のみならずアジア人からハリウッド人種にまで愛されたヒトであったと。それは分かった。だが、ファンから評論家、監督に至るまで全コメンテーターからこんなに絶賛されちゃ、かえって故人が可哀想。むしろ実感から出ている分だけ東映系の役者さんの発言が辛口でも面白い。それと長年の付き人一家との友情には心にしみいるものがあったな。その分スコセッシ監督の無駄話にはイライラさせられる。どうせなら澤島忠監督の話をもっと聞きたかった、今からでも是非。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      スコセッシらがカメラに向かって健さんと呼びかける甘ったるさには参ったが海外在住監督ゆえか、聖人化は抑制気味。海外では知名度が高くない実情を踏まえた作りになっているのがいい。健さんの懐疑心と信仰心に、東映離脱と晩年の作品選択への疑問もある程度想像がついてくる。米版「ゴジラ」は兎も角、「ミシマ」の従来と異なる降板理由が明かされる証言も興味深い。薬師丸ひろ子に振り回されるおじさん役での再共演企画を断る健さんに、同じ歌を唄い続けると決めた俳優を思う。

  • ゴーストバスターズ(2016)

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      1984年の前作でチェコ出身のI・ライトマン監督は撮影にハンガリー出身のL・コヴァックスを起用。東欧コンビは夜のNYでファンタズムが肥大する様を、圧倒的な躍動感と共に写していた。ひるがえって今回のリメイクも負けていない。ウェス・アンダーソン組のロバート・ヨーマンはさすが「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」の撮影監督で、この街では何が起こっても不思議ではないというおもちゃ箱感を画面に叩きつけた。ラストのマンハッタンのイルミネーションも泣かせる。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      メンバーが女性に替わっても、中身はオリジナルと変化がないようで。とにかくお賑やかに幽霊団が登場して、VFX満載の派手な見せ場が展開される――のは中国妖怪軍と同様。女性たちの方が逞しいのも、そう。黒一点の男子が、美形だけどオツムがカラッポっていうのは笑えたけど、ちと泥臭い。とにかく全篇、思いつきの羅列という感じで、どうも映画の中に入って行けなくて。理屈抜きの面白さって、ちゃんと理屈を考えて、その上でソレをハズすから面白いんじゃないのかなあ……。

    • 映画ライター

      中西愛子

      84年の大ヒット映画が、理系女子たちの物語となって甦る。オリジナルのあの人たちも少しだけ登場。主演は、全米のお笑い系女性スターたち。監督ポール・フェイグの過去作、結婚にまつわる女の友情とバトルを猛烈ギャグ満載で描いた「ブライズメイズ~」は大好きだったが、今回、主演女優も同じコンビではあるけれど、何でも女の友情に絡めればよいわけではない。彼女たちの身体を張った後半の姿にはグッと熱くなるものがあったが、結局、ケヴィン君なるイケメンいじりが最大のツボ。

  • ソング・オブ・ラホール

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      カメラはザ・サッチャル・アンサンブルの練習風景を丹念に捉えていく。イスラム原理主義の圧政によって活動を妨げられたあげく、彼らは民族楽器でデイヴ・ブルーベックの超有名曲〈テイク・ファイヴ〉をカバーしてネットに投稿、これが世界中で大評判となり、本場ニューヨークのジャズ・フェスに招かれる。たとえ彼らのブレイクが悪しきオリエンタリズムの産物だったとしても、「全世界に知って欲しい、パキスタン人は芸術家でテロリストじゃないことを」という言葉には感動した。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      音楽ドキュメンタリーの見方がいまだわからないという個人的な課題がまたもや試される。本作では政府やタリバンによって抑圧されたパキスタンの音楽の歴史が背景にあり、その情報をふまえながら、困難に負けず活動を続けてきたミュージシャンたちが様々なハードルを乗り越えてステージに立つ過程を見守ることができる。パキスタンの伝統音楽とジャズとの融合という音楽的なチャレンジもあり、非常にドラマティックな題材で演奏も素晴らしく、全く不満はないのだが、それゆえに課題の解決は持ち越された。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      消滅の危機にあるパキスタンの伝統音楽の演奏家たちがジャズに最後の活路を求める。ウィントン・マルサリスに招かれニューヨークの檜舞台を踏むが、本番直前までごたごたが続く。リハーサル中、終始厳しい表情を崩さなかったマルサリスの顔に、本番が始まるや会心の笑みが浮かんでくる様はドラマティックだ。演技ではないだけに、彼の存在感は絶大だ。役者そこのけ!ドキュメンタリー映画だが、まるで昔ながらのミュージシャンの成功物語のような心地のよいハッピーエンドだ。

  • ミス・ワイフ

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      申し訳ないけれど、これはテレビドラマだよね(テレビあんまり見ないけど)。断じて「映画」ではない。でも「テレビドラマみたいな映画」は韓国のみならず日本でも多い、というか今やほとんどそうなので文句を言っても仕方ないのかもしれない。とはいうものの、辣腕の独身女弁護士が交通事故であの世に行き、蘇りを賭けて期限付きで二人の子持ち主婦に転生するというストーリーは、ハリウッド黄金期のコメディの筋立てを思い出させる。なのでハリウッドでリメイクされる可能性もあり?

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      キャリアに生きる自立した独身女性が、子を持つ主婦の身代わりとなることで、旧来の家庭像に革新をもたらすように見えて、最終的に男性は外で働き女性はそれをサポートして家を守るといった古きよき家族への幻想へと保守回帰するドラマ。そのあまりにコンサバな安定感に虚しさを覚える。特に妻を守る夫という女性の理想を防波堤に女性を前時代的な役割に収める行為はより罪が重い。それでも古くからある価値観に裏打ちされた盤石な構成と演出による基礎体力は高い。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      天国へ行く前に通らねばならない関門に引っかかった主人公というと、ルビッチの「天国は待ってくれる」以来、幾つもの作品が思い浮かぶ。是枝裕和の「ワンダフルライフ」もそうだ。どこか懐かしい設定で、安心して観ていられる。生前(?)のヒロインは、上昇志向の強い高学歴のセレブ弁護士で、男性不信のセックスレスと、かなり嫌みな女だが、その部分をもっと見せて欲しかった。家庭的な中産階級の妻に適合できるか? 結末は決まっているのだから、終盤はいささか冗漫。

  • きみがくれた物語

    • 翻訳家

      篠儀直子

      主演男優の声が、撮影所時代のハリウッド映画に登場する男性スターの感じだなあと思っていたら、そこからしばらく、古典期ハリウッド映画を思わせる「ケンカ友だちが恋に発展する」話が展開(しかも女性を婚約者から奪うという黄金パターン!)。主人公が困難な選択を迫られる後半部分のほうがこの映画の推したい部分なのかもしれないが、むしろいま述べた前半部分こそが捨てがたい。とはいえ終盤のとあるセリフにもほろり。米国南部湿地帯のロケーションがめざましい効果を上げる。

    • 映画監督

      内藤誠

      アメリカ南部の小さな町で獣医をしているベンジャミン・ウォーカーの隣に犬を飼う医学生のテリーサ・パーマーが引っ越してきて、爽やかな青春の気分で物語は始まる。原題が「選択」となっているだけあって、人生はちょっとした選択で決まってしまうという大河ドラマ。原作は、ベストセラーらしいが、プロットを気にしないで書いたようで、行き当たりばったりの展開だ。「運命のいたずら」という話が多いけれども、獣医が主人公だから、愛犬家にはお薦めできるし、舞台の風景も美しい。

    • ライター

      平田裕介

      舞台となるのは海辺の町、出てくる人間のほとんどが人畜無害、泣いて笑ってフォーリン・ラブという展開と、どこを切ってもニコラス・スパークスの世界。これがチャニング・テイタムやらライアン・ゴズリングやらレイチェル・マクアダムズといった面々だとハマるし、うっかりウットリもしてしまうわけである。だが、今作の主演男女はスラッシャー・ムービーの序盤で殺されるような風貌とオーラ。こうなると途端に陳腐に思えてきてしまう。そんなニコラスの不思議を学ばせてもらった。

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