矢崎仁司 ヤサキヒトシ

  • 出身地:山梨県南巨摩郡鰍沢町
  • 生年月日:1956/11/20

略歴 / Brief history

【透明な孤独と死の匂いを漂わせる映像詩人】山梨県南巨摩郡鰍沢町(現・富士川町)の生まれ。本名は“やさき”と読む。1975年、日本大学芸術学部映画学科に入学、同期の長崎俊一に触発されて8ミリ映画の製作を始める。監督作「裏窓」(75)、「冬の光」(77)を発表するが上映の機会が少なく、当時はあまり注目されなかった。その後、長崎の映画製作に協力し、8ミリ、16ミリの4作品に助監督としてついた。79年、長崎らとともに“プロダクション爆”を結成し、82年までここを創作活動の拠点とした。80年、初の16ミリ長編「風たちの午後」を監督。全編に漂う静謐で張りつめた空気感が話題となり、16ミリの自主映画としては異例のヒットとなった。同作でヨコハマ映画祭の自主製作映画賞を受賞。エジンバラ国際映画祭ほか多数の海外映画祭にも招待された。その後、大学を中退し、映画とは関係のない仕事に就いていたが、88年春に自主製作による16ミリ新作をクランクイン。諸事情からの撮影中断を挟んで、91年にようやく「三月のライオン」の題名で完成した。翌92年に劇場公開された同作は、ベルリン、ロンドンほか各国の映画祭に招待され、海外から評判を高めていった。95年、文化庁芸術家海外研修員として渡英。その後、ロンドンに住居を移し、2000年にはロンドンが舞台の3時間56分の大作「花を摘む少女と虫を殺す少女」を、外国人スタッフ・キャストと組んで完成させる。続く06年の「ストロベリーショートケイクス」では、それまでの映画製作とは異なりプロの俳優を積極的にキャスティング。デビュー作から20数年を経て、初めて自らを商業映画の枠組みの中に置いた。最新作「スイートリトルライズ」(10)も人気作家・江國香織の同名小説を、中谷美紀、大森南朋の主演で映画化したものである。【ストーリーよりの空気感を大事に】70年代後半からの自主映画のムーブメントに乗り、大林宣彦や大森一樹の商業映画進出に続いてインディーズ界に登壇。盟友の長崎俊一が先駆者を追ってATG映画に乗り出したあとも、個人作家として活動を続けた。このため、一部での評価は高くとも知る人ぞ知る存在となり、また極端な寡作家でもあったため、近年まで消えた監督のようにも思われていた。転機となった「ストロベリーショートケイクス」以降も寡作の人であることに変わりはないが、ともあれ遅れて商業映画のフィールドにやって来た矢崎は、自主映画時代からの静謐さと透明感、孤独と死の匂いという独自の美意識をそこでも貫き通す。矢崎自身は「ストーリー自体には何の興味もなく、その時に流れている空気だけで映画は成立する」と度々語っているが、自主映画時代から現在まで、その方法論は周到に、大胆に練り上げられる。特に近作の「スイートリトルライズ」では、それらの確信犯的な度合いがいっそう強められた。

矢崎仁司の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 早乙女カナコの場合は

    制作年: 2024
    柚木麻子の小説『早稲女、女、男』を「さくら」の矢崎仁司が映画化。演劇サークルで脚本家を目指す長津田と大学の入学式で出会い、付き合うことになったカナコ。二人の10年にわたる恋愛模様を中心に、彼女たちと周囲の人々が自分を見つめ直していく姿を描く。出演は「熱のあとに」の橋本愛、「スクロール」の中川大志。
  • さくら(2020)

    制作年: 2020
    直木賞作家・西加奈子の同名小説を「ストロベリーショートケイクス」の矢崎仁司が映画化。2年前、長男・一の死をきっかけにバラバラになってしまった長谷川家。年末、実家に向かった次男・薫は、家族とサクラと名付けられた犬が過ごした日々に思いを馳せる。出演は、「思い、思われ、ふり、ふられ」の北村匠海、「糸」の小松菜奈、「青くて痛くて脆い」の吉沢亮。
  • スティルライフオブメモリーズ

    制作年: 2018
    フランスの画家・写真家アンリ・マッケローニの写真集に想を得た「無伴奏」の矢崎仁司監督作。新進気鋭の写真家・春馬の写真展にキュレーターの怜が訪れる。その作品に心を奪われた怜は、何も訊かないこととネガをもらうことを条件に自分を撮ってほしいと春馬に切り出す。主人公の春馬を演じるのは、「ストロベリーショートケイクス」以来、矢崎監督と2度目のタッグとなる安藤政信。共演は「光と血」の永夏子、「蠱毒 ミートボールマシン」の松田リマ、「夢の女 ユメノヒト」の伊藤清美。音楽を「幼な子われらに生まれ」の田中拓人が担当。撮影は、矢崎監督のデビュー作「風たちの午後」以降、数々の矢崎作品を手がける石井勲。2018年3月10日、『第13回大阪アジアン映画祭』にてワールドプレミア上映。2018年3月17日、『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018』にて上映。
    60
  • 無伴奏

    制作年: 2015
    直木賞作家、小池真理子の半自伝的小説を若手実力派キャストの共演で映画化。学生運動華やかなりし1969年の仙台を舞台に、クラシック音楽の流れる喫茶店で2人の青年と出会った女子高生が、恋を経験して大人の女性に成長してゆく。出演は「極道大戦争」の成海璃子、「愛の渦」の池松壮亮、「虎影」の斎藤工。監督は「太陽の坐る場所」の矢崎仁司。
    50
  • XXX KISS KISS KISS

    制作年: 2015
    脚本家ユニット・チュープロと「太陽の坐る場所」の朝西真砂の脚本を、「三月のライオン」の矢崎仁司が映像化したオムニバス映画。5つのキスから見える人間模様を描く。出演は、「龍三と七人の子分たち」の川野直輝、ドラマ『仮面ライダー電王』の松本若菜、「2 STEPS!」の加藤良輔、「禅 ZEN」の安居剣一郎。
  • 太陽の坐る場所

    制作年: 2014
    「ストロベリーショートケイクス」「スイートリトルライズ」など繊細な作風で人気を得ている山梨県出身の矢崎仁司監督が、同じく山梨県出身の直木賞作家・辻村深月の同名小説を映画化。高校を卒業してから10年後の同窓会で、それぞれが封じ込めていた過去の思いに触れていく様を丁寧な心理描写で映し出す。かつてクラスを支配しており目立つ存在だったが現在では地方局アナウンサーとなり満たされぬ思いを抱える響子を「バイロケーション」「渋谷会談」の水川あさみが、学生時代は地味だったものの現在では女優となり華やかに活躍する今日子を「ニシノユキヒコの恋と冒険」「極道めし」の木村文乃が演じる。山梨放送開局60周年記念作品。2014年9月27日より、山梨県 昭和・TOHOシネマズ甲府と甲府・シアターセントラルBe館にて先行公開。
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