ジャ・ジャンクー ジャジャンクー

  • 出身地:山西省汾陽(フェンヤン)
  • 生年月日:1970/05/29

略歴 / Brief history

【激動の中国社会で個人の現実を描く“現代の魯迅”】中国、山西省汾陽(フェンヤン)の生まれ。父は高校の国語教師で、文革後の貧しさと改革開放政策による市場自由化の波を経験して育つ。省都・太原の芸術大学に入学し美術を専攻。小説も執筆する傍ら、チェン・カイコーの「黄色い大地」を在学中に見て感動、映画を志す。しばらく広告会社でデザインの仕事をしたのち、1993年、アジア最大の映画教育機関・北京電影学院へ進んだ。授業には真面目に出席して演技科目も学び、アルバイトでテレビドラマの脚本を代筆した時期もあるという。同時代の中国映画が社会の変化に目を向けない不満から、同級生らと“青年実験映画小組”を組織し、出稼ぎ労働者が主人公の中編「小山の帰郷」(96)をビデオで製作。香港インディペンデント短編映画&ビデオ賞の金賞を受賞する。学院での卒業制作は、汾陽を舞台にした「一瞬の夢」(98)。鄧小平の南巡講話を境にした急激な経済発展に取り残されるスリの青年を描く。同作はベルリン映画祭で上映され、最優秀新人監督賞を受賞。世界の映画祭で次々と主要な賞を獲得し、中国第六世代の台頭を一気に知らしめる。2000年、地方劇団の青春群像を通して80年代の中国の変化を描いた「プラットホーム」が、ヴェネチア映画祭で最優秀アジア映画賞を獲得。同作より日本のオフィス北野ほか外国資本の協力を得るようになる。01年、韓国全州国際映画祭の委嘱で短編オムニバス・ドキュメンタリー「三人三色」に参加。初めてデジタルビデオカメラでの撮影を経験した。「青の稲妻」(02)では地方都市の若者の焦燥の日々を描き、「一瞬の夢」「プラットホーム」と合わせて“故郷3部作”と自ら命名。04年の「世界」が初めて中国国内での一般公開を認められる。以降も「長江哀歌」(06)、「四川のうた」(08)、10年のカンヌ映画祭に出品された新作「海上傳奇」を発表。並行して中短編も手がけている。【インディースから中国を代表する存在へ】「鬼が来た!」(00)のチアン・ウェン、「ルアンの歌」(98)のワン・シャオシュアイ、「天安門、恋人たち」(06)のロウ・イエなどに並び、60年代以降に生まれ90年代に頭角を現した“中国第六世代”を代表するひとり。同世代監督と同様に既存の体制から距離を置き、当局の検閲を通さない(アンダーグラウンドの)インディペンデントで活動をスタートさせ、早くから海外の投資を積極的に受け入れてきた。政治が生活と密接に影響する中国社会の現実と、そこに生きる個人の存在に描くべき価値を置き、“現代の魯迅”と称される。また、ジャンクーが世界に紹介された際、『カイエ・デュ・シネマ』誌は「中国映画の運命はこの青年の両肩にかかっている」とも評した。ノンプロ俳優の重用、長回しの凝視といった初期のスタイルから、「世界」以降は表現の幅を広げ、時代の変化の記録者となる姿勢を打ち出している。大作主義に移行した第五世代の監督たちをインディペンデントの立場から鋭く批判してきたが、今や自身も中国映画の文化的価値を守り、リードする公的な存在。常に個人と体制の折り合いが重要なテーマだったジャンクーの次の歩みを、世界中が注視している。

ジャ・ジャンクーの関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 新世紀ロマンティクス

    制作年: 2024
    巨匠ジャ・ジャンクーが、一人の女性と彼女の元を去った恋人の20年を通して、中国社会の変化を浮き彫りにした一大叙事詩。2001年、大同を出て戻らない恋人ビン。それから22年間、チャオは彼を探し続ける。出演はジャ・ジャンクーの長年のミューズでもある妻のチャオ・タオ。「青の稲妻」や「帰れない二人」など、ジャ・ジャンクーが総製作期間22年を費やし、これまでの自らの作品のフッテージを活用して、変わりゆく中国社会や人々の姿をコラージュしながら、壮大な21世紀の旅を描ききった。2024年・第25回東京フィルメックス特別招待作品としてオープニング上映。
  • 陽光倶楽部

    制作年: 2024
    母親の介護に勤しむ知的障害のある青年を巡るドラマ。監督はウェイ・シュージュン。出演はホァン・シャオミン、ルー・シャオフェン、ズー・フォン、ジャ・ジャンクーほか。2024年10月28日より開催の第37回東京国際映画祭(2024)企画「ワールド・フォーカス」にて上映。
  • ブラックドッグ(2024)

    制作年: 2024
    中国第六世代のグァン・フー監督が「疾風スプリンター」「オペレーション・メコン」のエディ・ポンを主演に迎え、罪を背負った青年と黒い犬との絆を描いたヒューマン・ドラマ。エディ・ポンが演じる青年ランに力を与える雑技団員をトン・リーヤーが演じ、監督のジャ・ジャンクーも重要な役どころで出演。第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門最優秀作品賞ならびにパルム・ドッグ審査員賞受賞。2024年・第37回東京国際映画祭ガラ・セレクションに出品。2025年5月4日(日)からの第3回横浜国際映画祭ではオープニングを飾る。
  • 再会の奈良

    制作年: 2020
    なら国際映画祭が期待の若手映画監督を招き、奈良を舞台に映画を製作するプロジェクト「NARAtive」の最新作。中国残留孤児の「麗華」を探すために来日した養母と、少なからぬ縁で手を貸す若い娘、元警察官の男の旅が、切なくもユーモラスに描かれる。なら国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターであり奈良出身の河瀨直美と、「長江哀歌」「罪の手ざわり」のジャ・ジャンクーがエグゼクティブプロデューサーを務め、中国出身のポンフェイを監督に迎えてオリジナル脚本で製作された。ポンフェイ監督はデビュー作“Underground Fregrance”や「ライスフラワーの香り」がヴェネツィア国際映画祭で評価された新鋭。引退した警察官の一雄を「萌の朱雀」「哭声/コクソン」「MINAMATA-ミナマタ-」などで国際的活躍を見せる國村隼、中国から養女の麗華を探しにきた陳ばあちゃんに「妻の愛、娘の時」のウー・イエンシュー、中国残留孤児の娘で孤独を抱えて生きるシャオザーに注目の若手女優イン・ズー、物語の鍵を握る人物として永瀬正敏など、日中を代表する実力派俳優が顔を揃えた。
  • 我が心の香港 映画監督アン・ホイ

    制作年: 2020
    「客途秋恨」や「女人、四十。」で知られる香港映画の巨匠アン・ホイの実像に迫るドキュメンタリー。慎ましやかな日常生活やエネルギッシュな撮影風景のほか、シルヴィア・チャンなど香港・台湾・中国映画界の重鎮たちが彼女の作品と人柄について語り尽くす。「花様年華」のアート・ディレクターなどを務めたマン・リムチョンの初監督作品。音楽は、ドラマ『あまちゃん』の大友良英。2021年大阪アジアン映画祭オープニング作品、2021年香港電影監督会新人監督賞受賞。