アン・リー

  • 出身地:屛東県
  • 生年月日:1954/10/23

略歴 / Brief history

【アジアとハリウッドを股にかけ人間心理を描く国際派】台湾、屛東県の生まれ。両親は1949年の中国成立で台湾に渡った大陸人であった。75年、台湾国立芸術学校を卒業。78年に渡米し、イリノイ州立大学演劇科を経てニューヨーク大学大学院映画学科で映画製作を学ぶ。同大在学中にはスパイク・リーの卒業制作にも参加した。84年、自身の卒業制作の短編がニューヨーク大学学生映画祭のグランプリを獲得。その後、米国在住のまま台湾政府のコンペに提出した脚本が認められ、92年に台湾=米国合作の「推手」で商業映画デビューを果たす。93年の「ウェディング・バンケット」はベルリン映画祭金熊賞を受賞。続く「恋人たちの食卓」(94)も前作と2年連続して米アカデミー外国語映画賞候補となる。翌95年の米英合作映画「いつか晴れた日に」で台湾映画界から離れ、英国女流作家による恋愛小説を純然たる文芸作品として仕上げて、国際派としての頭角を現した。武侠ものの「グリーン・デスティニー」(00)は中国語映画ながら米アカデミー賞で作品賞にノミネート。03年には初めての純ハリウッドメジャー作品「ハルク」を手がける。05年、カウボーイ同士の同性愛を描いた「ブロークバック・マウンテン」がヴェネチア映画祭金獅子賞を皮切りに映画賞を総なめ。米アカデミー賞ではアジア人初の監督賞を受賞して、名実ともにハリウッドで最も成功を収めたアジア人監督となる。さらに07年の「ラスト、コーション」も再びヴェネチア映画祭金獅子賞を獲得し、世界的名声を不動のものとした。【非ハリウッド的なテーマ選び】80年代初頭、台湾映画界では従来の商業ベース作品とは異なった、台湾社会の日常や現実問題と向き合おうとする“台湾ニューウェーヴ”の潮流が台頭。90年代に入って社会と対面した個人をより深く見つめた第二次世代へと受け継がれる。台湾在住の家族と米国移住の若手世代とを対峙させてドラマを作り、一般に父親三部作と呼ばれた「推手」「ウェディング・バンケット」「恋人たちの食卓」も、ツァイ・ミンリャン作品と並んでこの第二次台湾ニューウェーヴの代表作とみなされた。これらは世代や国籍・文化の違いによる価値観の衝突を織り込んだ普遍的な家族劇として国際的評価を得ている。その後にハリウッド監督となってからも、リーは社会や時代の奔流に対面せざるをえない人間たちの姿を描き、同時に娯楽性も備えるという独自の作風を確立した。その娯楽性はハリウッドのシステムに起因するものではなく、「グリーン・デスティニー」でアジア古来の英雄譚をアメリカに受け入れさせたように、アジア映画の記憶と、シェイクスピアをはじめとする西洋文学への理解との両立によって展開される。初期の作品群で示された異文化の衝突は、「ブロークバック・マウンテン」や「ラスト、コーション」ではスキャンダラスな題材における人間心理の相克に重ねられ、繊細かつ抒情的に人間心理を描き出す名手としての風格を見せている。

アン・リーの関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • ようこそ映画音響の世界へ

      制作年: 2019
      ハリウッドの映画音響に焦点をあてたドキュメンタリー。その進化において大きな偉業を残した「市民ケーン」「鳥」「ゴッドファーザー」などの名作から映画音響の歴史を紹介。さらに、スペシャリストたちと共に“音”が映画にもたらす効果と重要性に迫っていく。出演は「地獄の黙示録」のウォルター・マーチ、「スター・ウォーズ」のベン・バート、「ジュラシック・パーク」のゲイリー・ライドストローム。
    • ジェミニマン

      制作年: 2019
      ウィル・スミスとアカデミー賞監督アン・リーとが組み、毎秒120フレーム撮影、4K×3D映像の技術を導入した近未来アクション。伝説的暗殺者ヘンリーは任務遂行中に何者かに襲われる。苦戦しながら襲撃者を追い詰めると、その正体は若い自身のクローンだった……。最新デジタル技術を駆使し、ウィル・スミスはベテラン暗殺者のヘンリーとヘンリーの20代の姿であるクローンを演じる。共演は「10 クローバーフィールド・レーン」のメアリー・エリザベス・ウィンステッド、「ラスト・ナイツ」のクライヴ・オーウェンほか。製作は「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのジェリー・ブラッカイマー。
      90
    • ビリー・リンの永遠の一日

      制作年: 2016
      ベン・ファウンテンの小説をアン・リー監督が映画化。イラク戦争での勇姿がメディアに取り上げられ一躍“英雄”となった19歳のビリー。凱旋ツアーのため一時帰国、アメフトのハーフタイムイベントに参加した彼は、現実と戦争の記憶が交差する感覚に陥る。主人公ビリー役に新人のジョー・アルウィンが抜擢。共演は「アクトレス 女たちの舞台」のクリステン・スチュワート、「世界にひとつのプレイブック」のクリス・タッカー、「PAN ネバーランド、夢のはじまり」のギャレット・ヘドランド、「ワイルド・スピード」シリーズのヴィン・ディーゼル、「ピンクパンサー」シリーズのスティーヴ・マーティン。
      89
    • あの頃、この時

        制作年: 2014
        1962年に創設され中国語映画界で最も古い歴史を持つ“台湾のアカデミー賞”金馬奨50周年を記念し制作されたドキュメンタリー。往年の映画監督やスターの姿を通じ、金馬奨や台湾映画の歴史を追う。台湾ニューシネマを代表するホウ・シャオシェン監督らが出演。「藍色夏恋」でデビュー、「GF*BF」で2012年第49回金馬奨最優秀主演女優賞を獲得し、「薄氷の殺人」など台湾のみならず香港や中国作品にも出演するグイ・ルンメイがナレーションを務める。監督は、「台湾、街かどの人形劇」はじめ数々のドキュメンタリー作品を手がけ、チャン・ロンジー監督と共同監督した「奇蹟的夏天」が2006年第43回金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞に輝いたヤン・リージョウ。2015年山形国際ドキュメンタリー映画祭関連プログラム『映像は語る――ドキュメンタリーに見る現代台湾の光と影』、2016年第11回大阪アジアン映画祭特集企画《台湾:電影ルネッサンス2016》上映作品。台湾巨匠傑作選2021・2023上映作品。
      • ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日

        制作年: 2012
        ヤン・マーテルのベストセラー小説『パイの物語』を原作に、「ブロークバック・マウンテン」のアン・リー監督が映画化。動物園を経営する家族と航行中に嵐に遭い、一頭のトラと共に救命ボートで漂流する16歳の少年のサバイバルを描く。出演は、オーディションで選ばれたインド人のスラージ・シャルマ、「その名にちなんで」のイルファン・カーン、「シラノ・ド・ベルジュラック」のジェラール・ドパルデュー。2D/3D同時公開。
        80
      • ウッドストックがやってくる!

        制作年: 2009
        1969年夏、ニューヨーク州の田舎町に野外コンサート“ウッドストック・フェスティバル”を誘致した青年の姿を描く「ラスト、コーション」のアン・リー監督作。出演は、本作が本格的な映画デビューとなるスタンダップ・コメディアンのディミトリ・マーティン、「ファンボーイズ」のダン・フォグラー、「フーリガン」のヘンリー・グッドマン、「女神が家にやってきた」のユージン・レヴィなど。