萩原健一 ハギワラケンイチ

  • 出身地:埼玉県与野市
  • 生年月日:1950/07/25
  • 没年月日:2019/03/26

略歴 / Brief history

埼玉県与野市の生まれ。本名・萩原敬三。私立聖橋中学在学中から、バンド“ザ・テンプターズ”に参加し、“萩原健一”を名乗ってヴォーカルを担当する。“ダイケン”と呼ばれた元番長の弟分だったので愛称は“ショーケン”。テンプターズは田辺昭知にスカウトされて、1967年にメジャーデビュー。『神様お願い!』『エメラルドの伝説』などが大ヒットとなり、“ザ・タイガース”の“ジュリー(=沢田研二)”に次ぐアイドル人気を得る。グループサウンズ・ブームが終焉した71年にバンドは解散。同じくタイガースを解散した沢田、岸部おさみ(のち一徳)、元スパイダーズの井上堯之、大野克夫らと“PYG”を結成する。しかし、思うように自分を表現できず煮詰まり、音楽から離れて俳優の道に。もともと創作意欲が強く、数本の映画に出たものの俳優ではなく監督を志望。71年の「めまい」で出会った斎藤耕一監督の新作「約束」72に助監督としてつくが、男優降板のため急遽、主演をつとめる。列車で移送中の女囚・岸惠子と出会い、ひたむきに慕う逃亡中の若者役。アイドルのイメージをかなぐり捨てた演技の新鮮さが注目され、同年の日本テレビ『太陽にほえろ!』の新人刑事・マカロニ役に抜擢される。衣裳は自分で決める、“PYG(=井上堯之バンド)”に音楽を任せるとの条件を通し、当時の刑事ドラマの定型を刷新する大ヒットに大きく貢献する。しかし、刑事役に馴染めず1年で降板。やはり自分の提案通りに演じた、立小便の最中に強盗に刺される犬死にのような最期は、視聴者に衝撃を与えた。マカロニが殉職した73年も、市川崑監督「股旅」、篠田正浩監督「化石の森」、日本テレビの主演時代劇『風の中のあいつ』などがあり、翌74年、東宝の出演依頼を受けて、日活ロマンポルノのエース・神代辰巳監督の起用を希望。その「青春の蹉跌」で、立身のため恋人を殺すが、その将来さえ信じ切れない大学生の模糊とした屈折を演じ、キネマ旬報賞男優賞を受賞する。俳優から引き出すスタイルの神代とは、以後も強い信頼関係を結ぶ。同年、人斬り以蔵役のNHK大河ドラマ『勝海舟』を経て、日本テレビ『傷だらけの天使』に探偵事務所調査員・オサム役で主演。設定やスタッフの人選から深く関わって即興重視の現場をリードし、思う存分にセンスを発揮する。水谷豊演じるアキラとのコンビは大人気となり、今なお熱く語り継がれる代表作とする。75年、倉本聰脚本の日本テレビ『前略おふくろ様』に主演。長髪を刈り上げ、板前見習いのシャイな若者・サブをアドリブなしで演じる180度の変身に挑戦し、これもドラマ史上に残る名作となる。77年の日本テレビ『祭ばやしが聞こえる』を独立した自身の事務所で制作・主演し、音楽活動も精力的に再開する。カリスマ人気のピークにあった80年、オーディションを受けて黒澤明監督「影武者」に武田信玄の子・勝頼役で出演。黒澤に容赦なくしごかれる経験で入魂型の取り組みがさらに先鋭化していく。以後も、伊藤俊也監督「誘拐報道」82の犯人役、神代監督「もどり川」83の破滅的歌人役で、狂気と紙一重の演技を見せる。83年、大麻不法所持で逮捕され、約1年間の謹慎生活。TBS『宣告』84の死刑囚役で復帰し、85年の鈴木清順監督「カポネ大いに泣く」は沢田研二との共演。倍賞美津子共演の神代監督「恋文」85では、余命わずかな女性のため家族も仕事も捨て、自分なりの筋を通す男を好演して、さらに深い色気をたたえる存在となる。その後は、山下耕作監督「竜馬を斬った男」87、深作欣二監督「いつかギラギラする日」92などに主演。アウトローの居場所のない時代こそ映画に危険を求める挑戦の時期を送るが、黒土三男監督「渋滞」91の普通の父親役が意外性とともに評判を呼ぶ。実直で飄々としたミドルという新しいイメージは、サントリー『モルツ』のCM、TBS『課長さんの厄年』93と続き、前妻の幽霊と新妻との間に挟まれるコメディの渡邊孝好監督「居酒屋ゆうれい」94で報知映画賞などの主演男優賞を受賞。以降は、テレビ朝日『外科医・柊又三郎』95など、テレビドラマが活動の中心になる。役に没入するタイプゆえ現場での摩擦がたびたび噂され、作り手の世代交代で難しい大物と敬遠されつつあったものの、NHK大河ドラマ『元禄繚乱』99の将軍・綱吉役、『利家とまつ・加賀百万石物語』02の明智光秀役などは高く評価される。2004年、久々の映画主演作だった「透光の樹」を考えの相違から途中降板、ギャラの支払いをめぐるトラブルで恐喝未遂容疑で逮捕される。05年に有罪判決を受けて活動休止。3年間の沈黙を経て、自叙伝『ショーケン』08を出版。中野裕之監督「TAJOMARU」09に足利義政役を怪演し、俳優復帰する。11年、モデルの富田リカと結婚。過去、小泉一十三、いしだあゆみなど、事実婚も含め4度目の結婚となる。時代の寵児として燃焼した輝きと完全に干される地獄の両方を味わった激動の俳優人生。本格カムバックが伝説の続きとなる日を多くの人が待つ。2019年3月26日、都内の病院にてGIST(消化管間質腫瘍)のため逝去。享年68歳。

萩原健一の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • TAJOMARU

    制作年: 2009
    黒澤明の「羅生門」の原作として知られる芥川龍之介の『藪の中』をベースに、登場人物の1人“多襄丸”を主役にしたオリジナルストーリーで映画化。裏切りで全てを失った武士の身に起きた出来事の真実が、様々な人物の異なる視点から解き明かされていく。出演は「クローズZEROII」の小栗旬、「私は貝になりたい」の柴本幸。
  • THE GOLDEN CUPS ワンモアタイム ONE MORE TIME

    制作年: 2004
    1966年に米軍基地のある横浜・本牧から誕生した本格実力派バンド“ザ・ゴールデン・カップス”の軌跡を辿った音楽ドキュメンタリー。当時を振り返るメンバーたちの証言と、北野武や忌野清志郎、横山剣等彼らをリスペクトする人々のインタビューと、オリジナルメンバーが解散から31年ぶりに復活した本牧でのライブ映像で構成。さらに今回奇跡的に発見された『本牧ゴールデンカップ』店内の様子が記録された写真や、68年からレギュラーを務めたTV番組R&B天国での演奏シーンなど貴重な資料でつづられている。
  • 天使の牙 B.T.A.

    制作年: 2003
    大沢在昌の同名ベストセラー小説を映画化したハードボイルド・サスペンス。監督は本作が長編デビューとなる西村了。主演は大沢たかおと、『ViVi』の専属モデルでこれが映画デビューとなる佐田真由美。
  • ダブルス

    制作年: 2001
    エレベーターに閉じ込められてしまった二人組の強盗の脱出劇を、スリリングに描いたコメディ。監督は「破線のマリス」の井坂聡。脚本は「それいけ!アンパンマン 勇気の花がひらくとき」の米村正二と「codename:TOMOKO〈TOMOKO もっとも危険な女〉」の我妻正義。撮影を「破線のマリス」の佐野哲郎が担当している。主演は、「JOKER 疫病神」の萩原健一と「東京★ざんすっ/約束」の鈴木一真。スーパー16ミリからのブローアップ。
  • 月の砂漠

    制作年: 2001
    「EUREKA ユリイカ」でカンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞と、エキュメニック賞を受賞。自ら書き下ろした小説『EUREKA ユリイカ』(角川書店刊)で、第18回三島由紀夫文学賞を受賞した天才映画作家・青山真治の作品。ITベンチャーとして時代の寵児となった男が、崩壊した家庭を取り戻そうとする姿を描く。主演は『パラサイト・イヴ』以来5年ぶりに映画に出演する三上博史。
  • JOKER 厄病神

    制作年: 1998
    ヤクザ世界に生きる二人の厄病神の絆を描いたハードボイルド・アクション。監督は「ご存じ! ふんどし頭巾」の小松隆志。鵜川英司の原作小説を「爆走!ムーンエンジェル ー北へ」の高田純が脚色。撮影は「卓球温泉」の喜久村徳章が当たった。主演は「居酒屋ゆうれい」の萩原健一と「愛する」の渡部篤郎。