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  •  2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、「キネマ旬報」に過去掲載された記事の中から、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げていく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時連載していきます。  今回は、「キネマ旬報」1979年6月下旬号より、斎藤正治氏による、『藤田敏八監督の「もっとしなやかに もっとしたたかに」』の記事を転載いたします。  1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく! 先取りした次代の有様  「帰らざる日々」は、藤田敏八の“70年代総括報告”だった。報告だからリアリズムの文体で、というのだろうか、現実密着の記述が際立った、これまでの観念の遊びが消えて、極く現実的な青春を描いていた。彼特有の感性のロマンチズムにひとつの転機を持たそうとしたかのような作品で、70年代の一応の決算としたといえるのではないか。  「もっとしなやかにもっとしたたかに」は総括のあと、当然やってくる新らしい年代に対応する作者の第一作である。プレスシートにも「80年代を予感する映画」(この種の広告にしてはかなり上質な分析だ)とあったが、非行少年もので70年代の青春の感性を予感したように、この作品で藤田は次代のありようを先取りしている。  70年代中頃から、藤田はしきりと「家庭」を舞台にした。「エロスは甘き香り」は家庭の未然形ともいえる混沌の共同体にすぎなかったが、「赤ちょうちん」では若い夫婦の引越しの繰返しという形での放浪と、狂気に襲われる家庭を、「妹」のそれはすでにこわれてしまっていて、夫の登場して来ないという変則家庭を描いた。これらの作品でいえることは、家庭は守られずにこわれるものとして出てきた。藤田には、家庭は解体さるべきものなのである。  「もっとしなやかにもっとしたたかに」でもやはり家庭は解体されていった。  奥田英二・高沢順子夫婦には、あこがれのニューファミリーなんて幻想にすぎなかった。白い団塊の中で、育児書をひっくり返しながらの子育てごっこのファミリーなど、政府の住宅政策にのっかった家具や月賦商人のマーケッティングの所産で、風俗にしてはあまりにもはかない“虚族”だ、と私はかつて指摘したが、藤田の家庭解体癖は、たちまちこの“虚族”一家を襲った。この解体にはニューファミリー幻想は70年代の遺物という思いがこめられているとみていい。  子供を置きざりにして家出した妻に夫は悪戦苦闘するが、この欠損家庭に、妻の代行者が押しかけてきた。少女彩子(森下愛子)の“しなやか”な“したたかさ”は、頼まれもしないのに、ベッドで妻役を代行するのは勿論、義父の看病でも臨終でも、妻役を演じ、ついに押しかけた家から去っても、妻であろうとして、姓名や身元まで盗用した。  彩子という闖入者は、安部公房の「友達」や鈴木清順の「悲愁物語」と違って、家を丸ごと乗っ取ろうとか、占拠しようとかの所有の思想がまったくない。出入り気の向くままの、しなやかさとしたたかさは、ニューファミリーすらも手玉にとって、70年代の風俗をコケにし、異質な感性を示威するのである。血族意識などなくたって、波長だけ合えば、家庭は形づくれる。血のつながりなど、逆に家庭という共同体には邪魔でしかない。その証拠には、彩子は父母の執拗な追跡からあくまで逃走者であろうとするではないか。  他人の家庭の解体に手をかして、しかし、自分は家からも戸籍からも解放されようとする孤独な自由において、しなやかにしたたかな次代の“感性”は、交通事故にも不死身の強靱さを持っている。逆に災難から彼女を守ろうとしたニューファミリーの、やさしいがすでに薄よごれてしまっている“感性”(奥田)は少女の死の代理人となって礫死した。こうして、家庭なんどに、物欲し顔のヤツらを尻目に、新らしい“感性”はのびやかに生きのびた。夫婦を解体されてしまった妻も、腹ボテの身で煙草をふかし傲岸に生きのびる。藤田においては家庭はもはや構築する必要のない時代なのかも知れない。つくらなければ解体する必要がないのだから。  スポーツに興ずる若者たちのトップシーンに一瞬とまどう。これまでの彼の作品にこんな健康な映像ではじまるのはなかったからだ。トップシーンが健康に映れば映るほど、対比して写し出された男女たちは、したたかに不健康であった。  奇怪な闖入者の少女を代理人として見たような視線を持続する限り予感作家としての藤田はおとろえない。  小林竜雄の脚本は、藤田の要請に十分応えてけんらんたる才に満ちており、森下愛子は「キューポラのある街」の吉永小百合に劣らないスケールをみせた。 文・斎藤正治 「キネマ旬報」1979年6月下旬号より転載   「日活ロマンポルノ50周年×キネマ旬報創刊100周年」コラボレーション企画、過去の「キネマ旬報」記事からよりすぐりの記事を掲載している特別連載【あの頃のロマンポルノ】の全記事はこちらから 日活ロマンポルノ50周年企画「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ」の全記事はこちらからご覧いただけます。 日活ロマンポルノ50周年新企画 イラストレーターたなかみさきが、四季折々の感性で描く月刊イラストコラム「ロマンポルノ季候」
  • “今だから観たい!” コロナ禍の日本を真正面から描いた愛と希望の物語「茜色に焼かれる」 新型コロナウイルスの登場は、私たちの生活を一変させたが、映画業界にとってもその衝撃は大きかった。経済的な問題だけでなく、作り手に与えたと思われる精神的な影響も想像に難くない。そして、コロナ禍でなければ誕生しなかったであろう一本が石井裕也監督作「茜色に焼かれる」だ。 石井監督がコロナ禍でどうしても撮りたかった映画 7年前、交通事故で夫を亡くした田中良子(尾野真千子)は、中学生の息子をひとりで育てていた。経営していたカフェはコロナ禍に伴って破綻し、現在は花屋のバイトとピンクサロンの仕事を掛け持ちする日々。理不尽な加害者からの賠償金を受け取らず、施設に入居している義父の面倒も見ているため、つねに家計は赤字だった。さらに、息子は学校でいじめに遭い、良子自身も尊厳を奪われる出来事を経験することに。それでも気丈に振る舞う良子は、息子への溢れる愛を胸に、時代にあらがおうとしていた。 コロナ禍で生きづらさを感じていた石井監督は、しばらく映画は撮らなくてもいいと感じるほどに一時は疲れ果てていたという。しかし、そんななかでどうしても撮りたい映画として本作が思い浮かび、一気に仕上げた。ゆえに、多くの人がまさに今抱えている思いが反映された作品となっているが、それだけではない。若くしてこの世を去った実母を想い、これまでは恥ずかしくて避けてきたという愛と希望を石井監督が真正面から描いているのも見どころだ。 ラストに繰り広げられる予想を超えた〝あるパフォーマンス〟 そして、本作を語るうえで欠かせないのは、主演を務めた尾野真千子の圧倒的な存在感。石井監督が「尾野さんがダメなら、やっていなかったと思う」と話しているのも頷ける。理不尽な出来事が容赦なく降りかかり、暴言を浴びせられても、「まあ頑張りましょう」とだけ返す良子に、観客は違和感を覚えずにはいられないが、そこに説得力を与えられたのは尾野が演じていたからこそ。根底にある息子への絶対的な愛と、諦めることのない希望を見事に体現してみせた。息子役の和田庵をはじめ、ピンクサロンで知り合う片山友希や永瀬正敏との掛け合い、さらにはラストに繰り広げられる予想を超えた〝あるパフォーマンス〟も必見だ。 八方塞がりの状況のなか、誰もが〝芝居〟をしながら生きている現代で、良子の不器用な生き方に息苦しさを感じるところはあるかもしれない。しかし、茜色に染まる夕空の美しさに心が洗われるように、懸命な母子の姿は救いも与えてくれるはず。今の時代だから生まれた一本であり、今だから観たい一本でもある。(「茜色に焼かれる」は1月7日Blu-ray&DVDリリース、同監督作品「アジアの天使」も2月2日リリース) 文=志村昌美 制作=キネマ旬報社 「茜色に焼かれる」 ●1月7日(金)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,290円(税込) ●特典(Blu-ray、DVD共通) 【映像特典】 ・オリジナル劇場予告編 ●2021年/日本/本編約144分 ●監督・脚本・編集:石井裕也 出演:尾野真千子、和田庵、片山友希、オダギリジョー、永瀬正敏 ●発売元:朝日新聞社、RIKIプロジェクト 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング  ©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ   石井裕也監督作連続リリース! 「アジアの天使」 ●2月2日(水)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,290円(税込) ●特典(Blu-ray、DVD共通) 【映像特典】 ・オリジナル劇場予告編3種 ・メイキング ●2021年/日本/本編約128分 ●監督・脚本:石井裕也 出演:池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョー、キム・ミンジェ、キム・イェウン、佐藤凌 ●発売元:朝日新聞社、RIKIプロジェクト 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング  ©2021 The Asian Angel Film Partners
  • 日本でも原爆開発の事実があった。柳楽優弥、有村架純、三浦春馬が「太陽の子」に込めた思い 被爆国の日本が、戦争で原子爆弾を初めて使う側になっていたかもしれなかった……。そんな太平洋戦争末期の日本の原爆開発の史実を基に、その研究に没頭する若き科学者、彼の弟の軍人、兄弟の幼馴染女性の3人を中心に、時代に翻弄された若者たちの等身大の姿を描いた青春群像「映画 太陽の子」。そのBlu-ray&DVDが1月7日にリリースされる。 日本でも研究されていた原爆開発の事実 太平洋戦争末期、日本の原爆開発は「F研究」と呼ばれており、脚本・監督を務めた黒崎博は、この研究に従事した若き科学者の日記の断片を偶然に目にしたことから、10年以上今回の企画を温め続けた。その日記には大きな任務に携わる傍らで、日々の食事や恋愛など等身大の学生の日常が書き記されていたそうで、実在の人物および事実をリサーチした上で、それらを基にフィクションとして本作の物語を書き上げたという。 1945年の夏、京都帝国大学・物理学研究室の大学院生である若き科学者・石村修(柳楽優弥)と研究員たちは、軍の密命を受けて原子核爆弾の研究開発を進めていた。その頃、幼馴染の朝倉世津(有村架純)が、建物疎開で家を失ったため、修の家に居候することに。時を同じくして、修の弟・裕之(三浦春馬)が、戦地から一時帰郷。3人は久しぶりの再会を喜び、ひと時の幸せな時間を過ごす。しかし、裕之は戦地で深い心の傷を負っており、物理学に魅了されて研究に没頭する修も、その裏にある破壊の恐ろしさに葛藤を抱えていた。裕之が再び戦地に赴く中、修と研究チームは開発を急ぐが、運命の8月6日、広島への原爆投下の日が訪れてしまう……。 科学者の葛藤と狂気 研究に没頭する主人公の科学者・石村修を演じるのは柳楽優弥。修の弟で戦地に向かう志願兵の石村裕之を三浦春馬。その幼馴染の二人を包み込む朝倉世津を有村架純がそれぞれ演じている。 修と研究チームの科学者たちは、原子核爆弾の開発が日本を救うためのものであると信じながらも、大量殺戮兵器であるということも認識はしている。科学者が兵器開発に関わること、研究のために兵役を免れていることなど、それぞれが個々に異なる葛藤や苦悩を抱えながら研究に参加していたことが丁寧に描かれる。現実的には物資の不足していた当時の日本では難しかったのかもしれないが、もしも開発に成功していたらと思うと恐ろしい。そんな科学者の葛藤を描く一方、純粋に未知のものを作りたいという科学者としての本能や興味につき動かされ、兵器研究に没頭していく主人公・修の姿は、狂気的にも映る。非常に複雑なこの人物を、柳楽は朴訥そうな中にも情熱と信念を持つ人物として力強く演じている。 修の弟・裕之を演じた三浦は、普段は気丈に明るく振舞いながらも、実は戦地で負った深い心の傷を抱えた特攻隊員役を繊細に表現。国や家族を守るため、先に逝った戦友たちのように闘い抜きたいと思いながらも、死への恐怖と生き残ってしまった苦悩の間で苛まれている。三浦ならではの豊かな表現力で、兄と世津にだけ見せる笑顔や弱さは見る者の心に深い印象を残す。母や兄に見送られながら二度と帰れない戦地に向かう後ろ姿には、様々な思いがこみ上げてしまう。 修と裕之がほのかに想いを寄せる幼馴染の世津は、母とはまた違った立場で二人を包み込む存在。ただ一人、戦争が終わった後の世界を見据えている希望のような存在でもある。有村はそんな世津役を柔らかさと芯の強さの双方を醸し出して見事に表現。柳楽、三浦、有村の3人が、強い責任感や使命感を持ち、この作品に並々ならぬ思いで取り組んでいたことは、豪華版のDVDとブルーレイに収録された各種の映像特典で見ることができる。 語り継ぐべき戦争体験 さらに、修と裕之の母・フミ役に田中裕子、実在した日本の原子物理学の第一人者・荒勝文策役に國村隼、若き研究者たちに尾上寛之、渡辺大知、葉山将之、奥野瑛太がそれぞれ扮するほか、イッセー尾形、山本晋也、三浦誠己、宇野祥平、土居志央梨らも共演。ベテラン俳優から若手俳優まで、芝居の上手いキャストが揃っている。監督・脚本の黒崎博は、連続テレビ小説『ひよっこ』(17)や大河ドラマ『青天を衝け』(21)の演出のほか、ドラマ『帽子』(08)『火の魚』(09)の演出でも高い評価を受けており、自ら書き上げた今回の脚本でサンダンス・インスティチュート/NHK賞2015でスペシャル・メンション賞(特別賞)を受賞。声の出演のピーター・ストーメアのほか、音楽のニコ・ミューリーなど、海外の一流スタッフが参加した日米合作映画でもある。なお、本作は研究過程や結末の描写が違うテレビ版も存在。映画とは視点を変えて短くまとめられたパイロット版的な約80分の作品だが、こちらも2020年8月度のギャラクシー賞月間賞を受賞する高評価を受けた。   戦時中にもあった日常や青春を描きながら、原爆の被害者である日本がもしかしたら加害者になっていたかもしれないという知られざる事実と、その兵器開発競争に従事した科学者の葛藤、そして愛する者が奪われる戦争の過酷さなどを描いた本作。等身大の若者たちを描くことで、わずか80年近く年前まで日本が戦争の当事者だった現実を身近に感じさせる。戦争体験者がいなくなりつつある現在、語り継ぐべき貴重な戦争映画の一つといえる。 柳楽、有村、三浦らの込めた思いの深さが伝わる映像特典 セル版DVDとブルーレイの各豪華版には、メイキング、イベント映像集(完成披露試写会、初日舞台挨拶)、劇場公開時の本編後に上映されたメイキング映像、長崎出身の福山雅治による主題歌『彼方で』を使ったInspire Movieなどの映像特典を収録。 2019年8月下旬~10月下旬まで行われた撮影の様子が収められたメイキングでは、柳楽、有村、三浦らが撮影中の思いを語っているほか、三浦が世津の祖父役の山本晋也と日本酒について語り合うような撮影合間の素顔も収録。修、裕之、世津の三人が本音の気持ちを共有しあう海辺のシーンでは、一発本番の緊張感の中で鬼気迫る熱演を見せるキャスト3人の姿が特に印象深い。しばらく役が抜けきれない様子の三浦の様子には、このシーンに込めた思いの深さが感じとれる。さらに、柳楽たち研究者役のキャストたちが撮影前に物理学の講義を受けている姿や、柳楽が原爆資料館を訪れた様子なども収められており、皆が真摯な姿勢で本作に取り組んでいたことがわかる。また、イベント映像集では、柳楽、有村、黒崎監督らが自らの本作に込めた様々な思いと共に三浦への思いを語っていることも興味深い。 文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社 「映画 太陽の子」 ●1月7日(金)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray豪華版:7,480円(税込) DVD豪華版:6,380円(税込) ●特典(Blu-ray豪華版、DVD豪華版共通) 【仕様・封入特典】 ・三方背ケース ・ブックレット(20P) 【映像特典】※特典ディスクはDVDとなります ・メイキング ・イベント映像集 ・劇場公開時 本編後付けメイキング映像 ・『映画 太陽の子』×福山雅治「彼方で」Inspire Movie ・予告集 ●Blu-ray通常版:5,280円(税込) DVD通常版:4,290円(税込) ●特典(Blu-ray通常版、DVD通常版共通) 【映像特典】 ・予告集 ●2021年/日本・アメリカ/本編111分 ●監督・脚本:黒崎博 ●出演:柳楽優弥、有村架純、三浦春馬、イッセー尾形、山本晋也、ピーター・ストーメア、國村隼、田中裕子 ●発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング  ©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
  •  1974年12月1日、「映画の日」に制定された城戸賞が今年、47回目を迎えた。映画製作者として永年にわたり日本映画界の興隆に寄与し、数多くの映画芸術家、技術家等の育成に努めた故・城戸四郎氏の「これからの日本映画の振興には、脚本の受けもつ責任が極めて大きい」との持論に基づき、新しい人材を発掘し、その創作活動を奨励することを目的とした本賞。これまでも「のぼうの城」(11)、「超高速!参勤交代」(14)など受賞作が映画化され大ヒットした例もあることから、本賞への注目度は映画界の中でも圧倒的に高い。ただ、それだけに入選のハードルも高く、今年も7年連続「入選作」が選ばれなかったという現実も。また、昨年に引き続き、コロナ禍で人々の生活が一変するなか、その影響もあってか、選考対象作品は昨年の406篇より少々減少、337篇となったことも、記録に留めておきたい。その中から10篇が最終審査に進み、準入賞を果たしたのは一戸慶乃氏の「寄生虫と残り3分の恋」と生方美久氏の「グレー」の二作品、昨年、「御命頂戴!」で準入賞を果たした島田悠子氏の「薄氷(うすらい)」は佳作を受賞した。準入賞二作品の全篇を別項で紹介するとともに、最終審査に残った10篇の総評と受賞作品の各選評を掲載する。 右から準入賞を果たした一戸慶乃氏、生方美久氏、佳作を受賞した島田悠子氏 選考対象脚本 337篇 日本映画製作者連盟会員会社選考委員の審査による第一次・第二次・予備審査を経て、以下10篇が候補作品として最終審査に残った。 「吉原狂花酔月」 渡辺健太郎  「ユスティティアの姉妹」 柏谷周希  「スノーブランド」 菊地勝利  「寄生虫と残り3分の恋」 一戸慶乃  「劇団クソババア」 竹上雄介  「薄氷」 島田悠子  「グレー」 生方美久  「FIN」 森野マッシュ 「パパ友はターゲット」 岡本靖正  「4万Hzの恋人」 キイダタオ   受賞作品 入選 該当作無し 準入賞「寄生虫と残り3分の恋」一戸慶乃 準入賞「グレー」生方美久 佳作「薄氷(うすらい)」 島田悠子   第47回城戸賞審査委員 島谷能成(城戸賞運営委員会委員長) 岡田惠和 井上由美子 手塚昌明 朝原雄三 富山省吾 臼井 央 明智惠子 会員会社選考委員 (順不同 敬称略)   準入賞者のプロフィール&コメント 準入賞者:一戸慶乃(いちのへ・よしの) プロフィール 高校を卒業後、演劇専門学校に入学し、卒業。その後、一般企業で派遣社員として勤めながら、舞台やテレビの企画・制作を学ぶため吉本クリエイティブカレッジに入学。その授業の一環として、学生舞台の脚本を手掛けたことをきっかけにシナリオ執筆をスタート。伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2020にて、奨励賞を受賞。 受賞によせて この「寄生虫と残り3分の恋」は、ふたつの恋の終わりと、ひとつの友情の芽生えを描いた作品です。主人公たちが未来で振り返ったとき、カップ麺が出来上がるまでの3分間くらいあっという間だったけれど、あの日々があったから僕は、私はこうして前に進めているんだと思えるような日々を描きました。恋愛をした先にある、おまけのようなほんの少しの時間だったとしても、きっと必要な日々だったと思えるような瞬間を。 この物語は、始まりも終わりもハッピーなシーンとは言えません。ですが、もしかしたら向かいのアパートに住んでいるのかも? と思えるような、彼らの飾らない会話を楽しんでいただけたらと思います。また、平気なふりをしながらも、時に気持ちが溢れ出しながらも、愛おしい日々と愛おしい人とのさよならを、歯を食いしばって決断していく彼らに、何か感じていただけるものがありますと幸いです。 第47回城戸賞にて、準入賞という貴重な賞をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。本作にはまだまだ至らぬ点が多くありますし、課題もたくさん見つかりました。改めて身を引き締め、これからも新しい作品を作っていこうと思います。 準入賞者:生方美久(うぶかた・みく) プロフィール 群馬大学医学部保健学科で看護学を選考、卒業後は大学病院に入職、3年間の勤務ののち、シネマテークたかさきに職を求め、現在はそこを経てクリニックに勤務。伊参スタジオ映画祭シナリオコンクール2019、2020奨励賞を受賞。第46回城戸賞で佳作を受賞する。 受賞によせて 春が桃に、桃が春に救われたように、私自身、書きながら彼らに救われていました。白黒はっきりしていないと、頑張らないと、評価をもらわないと……と思い込んでいた自分のために書いたような気もします。 会話を書くのが好きです。ワードに登場人物の名前と「」を打ち込むと、しゃべらせたいセリフが溢れます。でも、それが作品を通して伝えたい想いの邪魔をしてしまう気がして、セリフ量を控えたものをまず書きました。しかし、できたものを読み返して思ったのは、「誰でも書けるものになった」。自分の好きなように好きなものが書けるのが素人の特権です。狙うのやめよ! 好きに書こ! と、大好きな会話を増やしました。よし、これで評価されなかったら、そのときはそのとき。私が書くものはこれ。私に書けるものはこれ。と思い、応募しました。 結果として入選には届きませんでしたが、賞がいただけたということは、誰かの心には届くものになっているはずです。 これは映画脚本です。映画にするために書いた脚本です。私には、頭の中にある映像を文字に起こす力しかありません。脚本を映画にする力を持っている偉い人たち! 力を貸して下さい! 選者 富山省吾(日本映画大学理事長) 臼井 央(東宝株式会社 映像本部映画企画部長) 総評 ■島谷映連新会長のご発声で前岡田会長への黙祷を捧げた後、選考会を始めました。結果として今回も入選作品を選び出せず、第40回(2014)から7回続けて入選作のない城戸賞となりました。近来の傾向として身近なモチーフや個人的視点からの自分発見や成長物語が数多く見られます。脚本家登竜門である城戸賞の題材として相応しいと思われますが、希望としてそこに社会への主張を加えて欲しい。そして応募作のジャンルとしての時代劇。こちらは時代を借りて自由に描く創作時代劇、あるいは空想時代劇と呼べるものが多く、本来の時代の束縛や限界を題材とする時代劇は見られません。オリジナル脚本ならではの今日的課題の発見と、時代と社会への強い主張。この二つを娯楽映画に仕立てることで観客にアピールする脚本、例えばダイオキシン・PCB・産廃処理を物語の発端とし、加熱マスコミ報道の視点を盛り込んで誘拐捜査を描いた第21回「誘拐」のような腹に響く社会ドラマを待望します。(富山) ■城戸賞の審査に携わるのは数年ぶりになります。最終の10本のみ拝読させてもらいましたが、時代劇、コメディ、ラブストーリー、法廷ドラマ、青春ドラマなど様々なジャンル、切り口での作品群と出会えました。相対評価するのは中々に難しい作業でしたが、力作揃いだったと思います。キャラクター、構成、セリフ、オリジナリティなど脚本を評価するにあたって要素を分けて分析をすることがありますが、キャラクターに好感が持てる作品、構成が上手くいっている作品、セリフにリアリティを感じる作品はあれど、オリジナリティが突き抜けていた作品には出会えなかったという印象でした。日々映画企画に向き合って凝り固まってしまっている我々が、「新しい」と感じる脚本に出会えるのを来年以降もお待ちしています。(臼井) 受賞作品選評 選評 準入賞「寄生虫と残り3分の恋」(受賞作全文はこちらからお読みいただけます) 桜介と同棲して怠惰に暮らす奈留が別れ話を告げられる。そこに現れる桜介の同僚の岩瀬。自己欺瞞・モラトリアムなどから覚醒する三人三様をLGBTを絡ませて描く。「なぜ奈留は寄生虫になったのか」をわからせて欲しかった。(富山) 特異な設定や大事件は無いが、両親の離婚話が出てきた頃から展開が読めなくなり、キャラクターのリアリティや葛藤に没入。引っ越しの日に再会したメイン3人のシーンにはグッときた。物語全体の完成度も他に比して高かった。(臼井) 準入賞「グレー」(受賞作全文はこちらからお読みいただけます) 春26才と桃17才。ダンスとピアノ。トランスジェンダーとパニック障害。二つの出会いが生む物語。ピアノとダンスのデュオシーンがクライマックスのはずだがシーンの描き方が淡泊で残念極まりない。昨年の佳作から進境見える。(富山) メイン2人のリアリティは積み上げられていたが、今触れることが多くなってきたジェンダー題材の中で、強いオリジナリティは欲しくなる。共にグレーの衣装に身を包んだ春のラストダンス、桃のラストプレイはとても映画的で印象に残った。(臼井) 佳作「薄氷」 時代劇に拘る作者の姿勢に好感し、ミステリーとして評価する声複数。但し昨年度準入賞「御命頂戴!」との比較ではストーリーが一筋で物足りないとの意見も。人物キャラクターや会話がアニメ的なのは功罪相半ば。(富山) 5人の跡取り問題、誰の策略か、という仕掛けは面白い。最終的に真犯人の心の闇に主人公が影響しないまま終幕するのが惜しい。この作品ならではの主人公像がもっと掘れていればより高い評価になったのではないか。(臼井) 最終選考作品選評 「吉原狂花酔月」  吉原大火事を生き残った双子の姉妹。一人は用心棒となって吉原に舞い戻リ、妹を捜す。ポップでエグいという高評価の一方、主人公が魅力不足、推敲足りない、テーマが響かないとの声。(富山) 「ユスティティアの姉妹」 リーガルミステリー。裁判官・検事・弁護士を対比して見せるディテールが評価される一方、犯行動機にリアリティ感じない、読み物として知ること多かったが映画で見る意味を見付けられなかったという意見も。(富山) 「スノーブランド」 競走馬の復活に賭ける人々。解らないこと多いが応援したくなる話という評価に対し、王道過ぎて惹かれない、もっとレース内容を見たい、ワンアイデアではこの話はもたない、研究不足の声。(富山) 「劇団クソババア」 とにかく主人公・妙子のキャラが抜群。既視感あるようにも思うし、評価がはっきりと割れたが、セリフが面白くテンポも良かった。(臼井) 「FIN」 新スポーツで世界に羽ばたく少女。一人よがりだが読後感良い、表現が明確で映画として観たい、に対して肝心の水中表現が足りない、読んでいて男女の違いが不明、メッセージが伝わって来ない。(富山) 「パパ友はターゲット」 フィクション設定とリアルとの整合性には甘さがあるものの、有りそうで無かった主人公のキャラクター設定は良いアイデア。展開もキャラクターに紐づくもので面白く、最後まで読ませた。(臼井) 「4万Hzの恋」 声の出ない主人公につきものだが、モノローグの応酬のような時間が続いて中だるみするものの、この設定にしか作れない出会いのシーンは名シーンになり得る。(臼井)

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