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  •  2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、「キネマ旬報」に過去掲載された記事の中から、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げていく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時連載していきます。  今回は、「キネマ旬報」1977年3月下旬号より斎藤正治氏による、今月の問題作批評『悶絶!!どんでん返し』を転載いたします。  1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく! 賑々しくもいさぎよいかなしい変身のうた 一年間のほとばしり  友人・西山正が、ミシェル・フーコーの説を引用して、私を犯罪者だと言った。  「ワイセツの手ロを言説化することは、利敵行為だ」。  西山の言い分には、反語的ヤユもこもっている。自民党や日共党の退廃論のオソマツにはビクともしない私だが、こういう言い方にはひどくたじろぐ。  なるほど私は、神代辰巳の一連の作品を『解説』することで言説化し続けてきた。神代の個人史的なものも含めた『読み方』までも幾度か書いた。それがフーコー、いや西山によれば『犯罪』だと言うことになる。  いかにも博学らしい指摘で、ごもっともな面もあるし、同時にかなりのからかいも含んでいる。なにより私たちはフーコーの云う『告白』によって闇の言葉を売り渡すにも、その回路すら持っていない。そう思わねばやりきれない。  私は神代辰巳を頂点とする日本のポルノ映画を批評、紹介することで伝導師の役割を果してきた、と自負しているし、フーコーが、いや西山が、犯罪呼ばわりしようと、神代辰巳について書き続けていくつもりだ。第一、あいつ、つまり西山こそ、エロスの深い理解者であり、煽動者なくせに。フーコーよ、くたばれ!。  と、雑駁に吐えたところで、前説の長くなったことを気にしながら、短かい批評をはじめる。  『悶絶!!どんでん返し』は、賑々しくもいさぎよく、かなしい変身のうただ。  『レイプ25時 暴姦』(長谷部安春監督)で、暴力は寡黙だ、と書いたばかりの私である。それは間違っていない。しかしここにはなんとも騒々しい暴力があった。ここに登場する人物、とりわけ男たちの、女たちを凌辱する暴力沙汰は、滑稽なというほかない軽薄で、遊びだ。神代が好んで描く、ホモ・ルーデンスたちの戯れである。  さよう、主人公北山(鶴岡修)の、ふと掘り起こされた女性志向、変身願望ですら、遇然性の、それ故に熱く燃える遊びにすぎないのだ。  テーマの分裂、オカマ北山の変身過程の一方で、スケバン三人とヤクザ子分の話がある、ということなど、私には気にかからない。主人公はオカマとスケバンの二つの世界に相かかわるヤクザのアンチャン川崎(遠藤征慈)とも見える、川崎が軸になって回転していくからだが、そこは「どんでん返し」、オカマの話に収敵していく。やはり、女に変身する男の話なのだ。  この映画に限らないが、神代の作品は、ピーター・ウォーレンの言葉を、誤解をおそれずに拝借すれば、「記号的」だ、ということを書いたことがある。その解釈はいまも変ることはない。ソシュールらによって開拓された記号学。言語体系にだけこだわっているのにあきたらないウォーレンは、映画において、「指標的、写像的、象徴的な」記号学を組立てようと試みた。欲張りな著者は、マカヴェイエフ、ベルトリッチ、ローシャ、そしてゴダールら、政治的作家に映画記号学を見るのだが、私は非政治的作家の神代辰巳にこそ、記号映画のすぐれた表現をみるのである。  紙数が尽きようとしている。神代の記号映画については別に論ずるとして、「どんでん返し」についていえば、映像に象徴的にかたりかけ、写っているものの意味を増幅する音楽の効用がある。神代の映画は、いつも音楽(あるいは音)が映像と相乗して、ひとつの映画世界をつくりあげていることに気が付くのだが、この作品とて例外ではない。歌謡曲、歌曲の断片(これの断片が記号的なのだ!)がひんばんに挿入される。  ヤクザが歩く、スケバンが歩く、「あんたがたどこさ」の歌がかぶさる。初老男の腹上死には「葬送行進曲」が、オカマとヤクザの結婚式には「結婚行進曲」の破廉恥な断片が高なる。そして変身しきったオカマ北山の歩きにかぶせて「女ですもの恋をする」「ベルサイユのパラ」のコマギレが響く。  あくまで暴力的で、喜劇的で、それゆえに批評的なこの作品、一年間ホサれていた神代の、溜めに溜めた才のほとばしりが痛烈だった。これは、この映画に対する序論で終った。改めて論じたい。 文・斎藤正治 「キネマ旬報」1977年3月下旬号より転載   『悶絶!!どんでん返し』 【DVD】 監督: 神代辰巳 脚本:熊谷禄朗 価格:2,200円(消費税込み) 発売:日活株式会社 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング   「日活ロマンポルノ50周年×キネマ旬報創刊100周年」コラボレーション企画、過去の「キネマ旬報」記事からよりすぐりの記事を掲載している特別連載【あの頃のロマンポルノ】の全記事はこちらから 日活ロマンポルノ50周年企画「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ」の全記事はこちらからご覧いただけます。 日活ロマンポルノ50周年新企画 イラストレーターたなかみさきが、四季折々の感性で描く月刊イラストコラム「ロマンポルノ季候」
  • 中川大志&石井杏奈主演 若者たちの姿をパワフルに描いた青春映画「砕け散るところを見せてあげる」 竹宮ゆゆこの同名小説を中川大志&石井杏奈の主演、SABU監督のメガホンで実写映画化した衝撃の愛の物語「砕け散るところを見せてあげる」のBluray&DVDが11月10日にリリースされる(デジタルは配信中)。 タイトルのインパクトに引かれて、なにが砕け散る様を見せてくれるのだろうか? と観始めたのだが、普遍的な青春映画の煌めきに魅せられてしまった。 何者かになろうとする健気な姿を、中川大志がチャーミングに体現 まずは中川大志扮する、主人公の濱田清澄に。高校3年生の清澄はある朝、高校1年生の蔵本玻璃(石井杏奈)がいじめに遭う現場を目撃し、なんとか彼女を助けたいと考え始めた。少しずつ玻璃との心の距離を縮めていった清澄はやがて、彼女の深刻な秘密を知ることになる。無力な少年が、何者か(清澄の場合はヒーロー)になろうとする、健気な姿を、中川がチャーミングに体現する。終盤、警察官から、玻璃との関係性を尋ねられて、簡潔に答えた清澄の顔つきが恰好良い。彼は、正真正銘のヒーローになっていたのだ!   そんな清澄の出現で、玻璃も変化する。父親(堤真一)から、自分は無力な存在だと思い込まされ、不遇も淡々と受け容れてきた彼女は、自分の人生を、自分で選んでもいいのだと気づく。ひとりぼっちで、全身に針を立てるようにして、周囲を警戒しながら、生きてきた玻璃が、清澄の手を自分の頰に押しあてて、真実を告げたときの、柔らかな表情は、ハードなシチュエーションにそぐわぬ、母性愛に満ちていた。それは、助けられていたはずの清澄を、玻璃が助ける、もうひとりのヒーロー誕生の瞬間でもあった。 大人になったいまこそ、味わい直したい青春ストーリー 互いに助け合い、強くなっていく二人を取り巻く、高校生たちの姿もみずみずしく、美しい。かつて清澄を、孤独の淵から軽々と救ったクラスメイトの田丸を、井之脇海が好演。いつも飄々とした田丸が、清澄に「俺がいる方を選べよ。おまえがいねえと、俺、つまんねえよ」と真剣に訴えたときの、たしかな友情に、グッときた。 清澄と玻璃の出会いから始まった、スクールカースト上位に君臨する尾崎姉妹(松井愛莉、清原果耶)との交流も、微笑ましく描かれる。仲良くなったはずの玻璃から、再び拒絶されたときの、尾崎・妹の慟哭も印象的だ。完璧そうに見える彼女もまた、清澄や玻璃と同じく、心に悲しみや怒り、孤独を抱えて、もがいていたのだと、胸が熱くなった。誰もが未熟な人間であり、そして誰もがヒーローになれる、無限の可能性を持っている。躓き、葛藤しながらも、懸命に前へと進もうとする、若者たちのピュアな姿に、己の心に染みついた、ダサい言い訳を打ち砕かれたような気がした。大人になったいまこそ、味わい直したい、青春のシーンが鏤められている。 竹宮ゆゆこの原作小説でも驚かされた、UFOにまつわる大胆な仕掛けや、堤真一の恐るべき怪演、夜の商店街のシーンをはじめ、SABU監督ならではの長回しのダイナミズムなど、映像的な面白さも詰まっている。観返すたびに、いろいろな愉しさを見せてくれる、パワフルな作品だ。 文=石村加奈/制作=キネマ旬報社 「砕け散るところを見せてあげる」 ●11月10日(水)発売 Blu-ray&DVDリリース(8/9よりデジタル配信中) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:¥6,380(税込)[2枚組:本編Blu-ray+特典DVD] 【映像特典】 ・メイキング映像 ショートver. ・メイキング映像 完全版ロングver. ・イベント映像集 ・SABU監督制作スペシャルトレーラー ・主題歌特別映像 ・予告編集 【仕様】 ・アウターケース付き ●DVD:¥4,180(税込)[本編DVD] 【映像特典】 ・メイキング映像 ショートver. ・SABU監督制作スペシャルトレーラー ・主題歌特別映像 ・予告編集 ●2020年/日本/カラー/本編127分 ●監督・脚本・編集:SABU、原作:竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』(新潮⽂庫nex) 、主題歌:琉衣『Day dream 〜白昼夢〜』(LDH Records) ●出演:中川⼤志、石井杏奈、井之脇海、清原果耶、松井愛莉、北村匠海、⽮⽥亜希⼦、木野花、原⽥知世、堤真一 ●発売・販売元:ポニーキャニオン ©2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会
  • これまでのイメージを崩壊させた・長澤まさみ、今後を担う新生・奥平大兼の熱演に圧倒 「新聞記者」(19)、「宮本から君へ」(19)、「ヤクザと家族 The Family」(21)と、鮮烈かつ良質な作品を連発している映画会社スターサンズと、「まほろ駅前」シリーズ(11〜14)や「日日是好日」(18)などの鬼才・大森立嗣がタッグを組んだ映画「MOTHER マザー」のBlu-ray&DVDが、11月5日(金)に発売される。 実際に起きた祖父母殺害事件を下敷きに、息子へ歪んだ愛情を注ぐ母親、そんな母親から逃れることのできない息子に降りかかる過酷な試練を映し出していく。 怪物のような母親を体現した長澤まさみ、オーディションで抜擢された奥平大兼の熱演 母親の三隅秋子を演じるのは、「コンフィデンスマンJP」シリーズ(18〜22)や「マスカレード」(18〜22)シリーズで国民的女優となった長澤まさみ。普通の愛し方、育て方を知らず、それが正しくないことかどうかもわからず、息子を恫喝し、叱責するようにして彼をがんじがらめにしていく怪物のような母親を体現。その鬼気迫る姿は、明朗で破天荒な「コンフィデンスマンJP」のシリーズのダー子、凛とした「マスカレード」シリーズの山岸尚美のイメージを完全破壊させる。そして息子の周平を演じるのは、オーディションで抜擢されて本作が映画初出演となった奥平大兼。秋子から向けられる愛情が歪んでいると悟るも、その愛に応えようとしてしまう姿が観る者の胸を抉る。2020年度日本アカデミー賞で長澤が主演女優賞を、奥平が新人俳優賞を獲得と、それも納得の熱演を両者ともに披露している。 また、秋子の内縁の夫となるホストの遼に「殿、利息でござる!」(16)の阿部サダヲ、自身も劣悪な環境で育ったことから周平を救おうとする児童相談者職員の高橋亜矢を「Red」(20)の夏帆、秋子たちが身を寄せるラブホテルの従業員に「今日から俺は!!」シリーズ(18〜20)の仲野太賀など、共演者にも実力派が結集している。 秋子という毒親が生まれてしまった背景にも迫った鋭い視点 秋子は“毒親”と呼ばれる存在にあたるが、本作はそんな彼女を表層的に描くことはしていない。その境遇を見て手を差し伸べるものの、結局は秋子を性の対象としか見られなくなって劣情をぶつけてしまう男たち。対する秋子は、そうした男たちと対峙してきたことから、生きていくためにゆきずりの関係を重ねていくしかない。秋子がそうした女性と母親になってしまった背景もしっかりと、浮きあげていくのだ。監督のほかに脚本も手掛けている大森立嗣は、そこへさらに「親子の絆とは?」「親子の愛情とは?」「母親とは?」「息子とは?」と問い掛け、深く見つめていいく。 その果てに、秋子と周平が引き起こす凄惨な事件に、それでも周平が守りたかったものには震えてしまう。 パッケージ化ならではの映像特典として、「メイキング」「完成披露舞台挨拶」「公開記念リモート舞台挨拶」「予告集」を収録。「メイキング」では、撮影時の様子のほか、長澤まさみが「男性からみる目線、女性から観る目線で、大きく変わりそうな印象を持った人」とヒロインの秋子を分析するなど、キャストがそれぞれ演じていたキャラクターや秋子と周平の関係性などについても語っており、作品の奥行きがグッと深まるはずだ。 スターサンズ、大森立嗣、長澤まさみ、奥平大兼。日本映画を支える実力派たちと、今後を担う新生のめぐり合わせが生んだ感動の衝撃作だ。 制作=キネマ旬報社 「MOTHER マザー」 ●11月5日(金)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,290円(税込) ●特典(Blu-ray、DVD共通) 【映像特典】 ・メイキング ・完成披露舞台挨拶 ・公開記念リモート舞台挨拶 ・予告集 【仕様・封入特典】 ・フォトブックレット ●2020年/日本/本編126分 ●監督:大森立嗣 出演:長澤まさみ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、土村芳、荒巻全紀、大西信満、木野花、阿部サダヲ ●発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング  ©2020「MOTHER」製作委員会
  •  2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、「キネマ旬報」に過去掲載された記事の中から、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げていく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時連載していきます。(これまでの掲載記事はコチラから)  今回は、「キネマ旬報」1973年8月下旬号より、松田政男氏による「沢田幸弘監督の『濡れた荒野を走れ』」の記事を転載いたします。  1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく! 日活は、いま、誰に住み良いのか? 反ポリ公映画の快適な画面  サングラスをかけているので眼付きが悪いかどうかは不分明であるとしても、とにかく一癖も二癖もありげなタフな男 --必ずしも若くはなく、さりとて中年というわけでもない-- が二人、街を歩いている。とある私鉄の小さな駅頭。それまで付かず離れずの感じだった二人組は、ここで肩を寄せ合い、物蔭から駅前の小広場を眺め上げる。ベトナムの戦災復興(!?)への救援カンパ募集の風景。けっこうゼニを投じる人が多い。二人組はうなずき合う。シーンかわって、教会の内部、数百万ほどにまでなったカンパを牧師の父親と清純な娘が集計中、方々へ電話をかけてお礼を言ったりし、ゼニは金庫の中へ。突如、ストッキングで覆面した五人組の男たちが乱入し、あとはお定まりの神もおそれぬ強盗・強姦の一大オルギア。哀しげなキリスト像をあとに、男たちは戸外へ。車の傍で覆面をとり、黒装束を脱ぎ…… なんと彼らは、と思う間もなく、カー無線が闇をつんざく。こちら本署、県警三号、応答願いますー。  つまり強盗・強姦の一味は、現職の警察官、指揮をとる者はあのタフな二人組のデカ。強盗発生を告げる本署からの指示に従って、彼らは今度は捜査官として件の教会に引返す。むろん他のパトカーを引離して断然一番乗りだ。彼らの入念な捜査風景ー証拠収集ならぬ証拠煙滅のための。  かくも鮮やかにポリ公どもをコケにするとなると、冒頭の、例によって例のごとき、この映画における物語および人物の設定はすべてフィクションである、というタイトルさえもが、かえって逆の意味に化し去って、リアリティを増幅させる仕掛けとなるのだから、これは、もう、沢田幸弘は、なかなかヤッてくれるのである。しかし私は、沢田のロマンポルノ第二作なる『濡れた荒野を走れ』の快適な導入部に堪能しながら、オヤッ、これは前に一回、確かどこかで見たことがあるな、と一瞬思い、そして直ちに、いや、前に見たことがあるとしても、それはスクリーンならぬ紙の上においてであったのだと再び思い返さざるをえなかったのである。そう、沢田幸弘はほぼ一年前の本誌586号所載のシナリオ通りの画面をば、一年後において撮り上げたのだ。むろん、シナリオの「ビアフラ救援カンパ」が「ベトナム救援かんぱ」となる等々、多少の手直しはある。しかし厳密に照合するまでもなく、沢田は、細部にいたるまで --たとえば後段のアングラ芝居のシーンを私は即興演出だと思い込んでいたが、シナリオを読み返してみると必ずしもそうではなく、長谷川和彦脚本は実に細かく書き込まれている一 、一年前のシナリオに忠実であったのだ。何故か? 本誌586号における沢田自身の言葉を聞こう。「このシナリオの形で撮るのでなければ、意味がないのではないか。もしそれが満たされぬのであったら、撮れない」!  周知のように、一年前の7月、『濡れた荒野を走れ』は、クランクイン直前で、突如、製作延期となった。沢田自身によれば「政治的情況への配慮から」だそうで、では誰が「配慮」したのかと言うと、酒井良雄によれば「日活労組が直接クレームをつけ」「ポリの鼻息を伺った」(映画批評72・9)ということであるようだ。7月、9月、12月と延期はさらに重ねられ、しかし沢田は粘りに粘り、ほぼ一年後、この反ポリ公映画を原型通りに撮り上げてしまったのである。この点、「さそり」の第三作めを、やはり粘りに粘って原型通りに完成した東映の伊藤俊也と沢田は、その執念深さにおいてまさに双壁であると言っていい。しかし、変転きわまりないこの一年の経緯は、私に対して、作家個人の資質もしくは性癖を云々することではなく、むしろ、一本のプログラム・ピクチュアでさえも--いや、プログラム・ピクチュアだからこそ、映画 --内-- 情勢のみならず全情勢との相関においてとらえ返さなければならぬことを強いるのだ。かつて私は、沢田が『セックス・ハンター 濡れた標的』を作った時点において、本誌593号で、大島渚の言葉を引きつつ、沢田が「おのれの内部から発する歌のみをうたう詩人」という栄光の道ではなく、「眼前に現われる事象を素材として映画と化してしまうその魔法」の術者としての悲惨の道にあえて出立しつづける営為をば讃えたことがあった。しかし今や、栄光と悲惨は、単純な二分法では測定しえぬほどまでに混沌としている。一本のプログラム・ピクチュアの完成に確執しようとする作家は、「魔法」の術者ならぬ「詩人」の道をこそ歩まなければならないのだ。今や情勢は、とりわけ、プログラム・ピクチュアの作家たちに困難を強いているのではないか? 一切の擬制に抗する戦いを  なるほど、本誌586号で沢田自身が「ロマンポルノ路線の製作条件をふまえれば、昔と違って現在の日活は、かなり作る側が主体性をもった形での映画作りが出来る状勢」にあると言い、またつい最近も神代辰巳が本誌605号で語った「今までの映画界の常識から言ってはるかに好きなことができる革命的な」そして「これまで撮りたくても撮れなかったものがどんどんできる……すごい」情勢なるものが、日活には未だ存在しているのでもあろう。沢田の『濡れた荒野を走れ』を挾んで、神代の『女地獄 森は濡れた』、西村昭五郎の『淫獣の宿』、曽根中生の『昭和おんなみち 裸性門』、田中登の『真夜中の妖精』と、日活のエンターテイナーたちは、依然として、頑張りつづけているかに見える。大朝日シンブンの名言を借りるならば「驚くべき集中度」によって「秀作」が誕生しつつある活況がなおつづいているのかもしれぬ。しかし、にもかかわらず、日活はいま、本当に「好きなことができる」場所であるのか?  私は、ここで活況の裏側を鋭く衝く山口清一郎の告発を聞かなければならない。足立正生のインタビューに答えつつ、山口は、映画による審査ならぬ再審査--「一度映倫マークをつけたものをチェックし直す」という、「公安と映倫と資本のなれあい」によるポルノ表現への大規制の実情をアバきつつ、「チェックされた連中はこのまま看過するのか。本来一番敏感であるはずの監督会の反応も、現在ない。同業者がこれでは何とも心もとない。表現まで権力の恣意性にゆだねたら、『作品』=『オノレ』という意識的なモメントはどう屈折させると言うのか」(映画批評73・6)と怒りをぶちまけている。山口によれば、再審査問題で「映倫に抗議した」のは「どうも…俺だけらしい」!住み心地の良さを謳歌している過程で、特に、『女地獄 森は濡れた』等の再審査以降、先述した「秀作」群も含めて、ポルノシーンは規制に次ぐ規制を受け、映倫の基準は大改悪、今や黒い霧が画面に立ち籠め、男女が絡み合うや否や何も見えなくなるという惨状を呈している。山口は言う、「存在べったりのおめでたムードのメッキは脆くも剥がれた」と。国家権力に抗すべく「どんどんポルノをつくる。つくること即回答」というエセ「主体」的な発想そのものに、日活ロマンポルノ大後退の根拠を見る山口の告発に、かくて、私たちは耳を傾けなければならないのだ。住み心地の良さの代償として、確かに何かが喪われてしまったのである。 「どんどんポルノをつくる」のではなく、何をいかにつくるのかがまさに問われる時、一年前、沢田は挫折の苦汁を嘗めた。一年後、今度は、山口清一郎の「恋の狩人・淫殺」がタブーとしての天皇制に触れているという理由で、クランクイン直前はおろか、企画そのものから抹殺されようとしている。突出した主題、突出した表現を追求する者にとって、いま、日活は住み良いのか?沢田は一年前にいみじくも言った、「抗議するための映画を作る、などという皮相な形ではなく、それを、フィルム自体の力として打ち出したい」と。しかし沢田が一年後に『濡れた荒野を走れ』を完成するためには、さらに、「映倫マークのついたポルノ映画は、もう、ポルノでなくなったポルノ映画である」(本誌593号)という醒めた認識をも併せ持つことが必要となったのだ。沢田幸弘の一年間にわたる粘り強い戦いは、「おのれの内部から発する歌」のためのみならず「存在べったりのおめでたムードのメッキ」をも剥ぎ取るべき醒めた戦いでもあった。山口清一郎は沢田幸弘のの身を賭しての教訓に学ばなければならない。あらゆる擬制に抗して戦う者、戦いつづける者にとって、果して、日活は住み良いのであろうか? 文・松田政男 「キネマ旬報」1973年8月下旬号より転載   『濡れた荒野を走れ』 【DVD】 監督: 沢田幸弘 脚本:長谷川和彦 価格:2,200円(消費税込み) 発売:日活株式会社 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング 「日活ロマンポルノ50周年×キネマ旬報創刊100周年」コラボレーション企画、過去の「キネマ旬報」記事からよりすぐりの記事を掲載している特別連載【あの頃のロマンポルノ】の全記事はこちらから 日活ロマンポルノ50周年企画「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ」の全記事はこちらからご覧いただけます。 日活ロマンポルノ50周年新企画 イラストレーターたなかみさきが、四季折々の感性で描く月刊イラストコラム「ロマンポルノ季候」
  • 芸術の秋、日比谷で映画三昧の一週間!「日比谷シネマフェスティバル2021」が開催 古くから映画の街として歴史を築いてきた日比谷。かつては日劇、日比谷映画、スカラ座といった劇場で数々の名作・ヒット作が上映され、現在もTOHOシネマズ日比谷などたくさんの劇場で映画ファンを楽しませている。今年から東京国際映画祭が日比谷・有楽町・銀座をメイン会場に行われるのも話題だ。 そんな映画の街・日比谷で、この秋、「HIBIYA CINEMA FESTIVAL(日比谷シネマフェスティバル)2021」(10月22日~10月29日)が開催される。映画の街のイベントにふさわしく、「新しい映画の楽しみ方を提案する体験型の映画祭」として展開。まるで公園のような空間で、くつろぎながら、遊びながら、一味変わった映画鑑賞ができる「Park Cinema(パークシネマ)」、監督のトークセッションも注目の「トロント日本映画祭 in 日比谷」、歴代の「キネマ旬報」誌が展示される「KINEJUN図書館 in 日比谷」と、映画の醍醐味にあふれた企画がずらり。まさに芸術の秋にふさわしい「体験する映画祭」、思い思いの楽しみ方で存分にエンジョイできそうだ。 子どもと一緒に大ヒット作品をオープンエアで楽しめる 日比谷ステップ広場には、遊具とシネマが融合した空間「Park Cinema」が登場。「ゴーストバスターズ」「チャーリーとチョコレート工場」など、子どもごころをくすぐる大ヒット作品が、オープンエアで無料上映される。とびきりの娯楽作ぞろいとあって、幼い頃に見た世代には感動が蘇り、子どもたちはワクワクと胸弾みそう。ウッドチェアで楽しむ特別観覧席に加えて、今年は芝生の上にテーブルとイスおよび遊具を配置した「ファミリー席」を新設、空の下でのびのびと鑑賞できる。これまで映画を長い時間見続けるのは難しくて映画館には足を運べなかったというファミリーも、ひらけたオープンエアでくつろぎながら、新しい映画体験ができそうだ。(特別観覧席、ファミリー席は予約制、一部自由観覧席あり) 世界で注目を集める監督たちのトークセッション 「第3回 トロント日本映画祭 in 日比谷」では、話題の日本映画を英語字幕付きで無料上映。6月にカナダで上映されたラインナップから人気作品がセレクトされている。「宇宙でいちばんあかるい屋根」の藤井道人監督、「私をくいとめて」の大九明子監督、「みをつくし料理帖」の角川春樹監督ら、気鋭の監督たちのトークセッションがおこなわれるのも見どころの一つ(トークセッションはオンラインでも生配信)。世界の注目を集めるフィルムメーカーたちがどんな言葉を聞かせてくれるのか、大いに期待がふくらむ。 創刊102年「キネマ旬報」がずらり 「KINEJUN図書館 in 日比谷」は、歴代の「キネマ旬報」が東京ミッドタウン日比谷にやってくる。昨年はパネル展示が大好評だったが、今回は2021年に創刊102年を迎えた「キネマ旬報」誌がずらりと展示される。時代を物語る表紙が並んだ光景は、胸ときめくカバーストーリーの世界。一斉を風靡したスター、時を超えて愛される名作映画の表紙を見ながら、映画の歴史に浸るひと時を過ごせそうだ。 映画の街・日比谷で、映画の過去・現在・未来をいきいきと感じることができそうな、とびっきりのシネマフェスティバル。都心の真ん中で、素敵な映画時間を思いっきり満喫したい。 「HIBIYA CINEMA FESTIVAL(日比谷シネマフェスティバル)2021」 期間:2021年10月22日(金)~10月29日(金) 入場:無料 <屋外映画特別観覧席、ファミリー席は予約制(一部自由観覧席あり)> ※イベントの詳細・予約はこちら URL:https://www.hibiya.tokyo-midtown.com/hibiya-cinema-festival/ 主催:東京ミッドタウン日比谷/一般社団法人日比谷エリアマネジメント 後援:在日カナダ商工会議所 協力:株式会社コトブキ/TOHOシネマズ株式会社/トロント日系文化会館/株式会社キネマ旬報社 ※イベントは、新型コロナウイルス感染症の感染状況に鑑み、企画の内容等を変更、または開催を中止する場合があります。最新の状況はイベント特設サイトでご確認ください。

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