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  • 青山真治監督作「空に住む」 懸命に生きるひとたちの心に、ほんのりと光を灯す 「Helpless」(96)での鮮烈デビューから、混沌とし続ける家族の在りようを、様々なかたちで掘り下げてきた青山真治監督。田中慎弥氏の芥川賞受賞作に挑んだ「共喰い」(13)以来久々の映画となる今作「空に住む」(8月4日にBlu-ray&DVDリリース)も、〝家庭〟を不意に失い彷徨う女性の喪失と再生を、じっくり腰を据えて見つめている。 〝家庭〟を不意に失い彷徨う女性の喪失と再生を描く 両親を交通事故で亡くした直実(多部未華子)は、叔父が投資のために所有する都心の高層マンションの39階の一部屋を無償で貸してもらい、超人見知りの愛猫ハルと移り住む。郊外の古民家にオフィスを構える小さな出版社に勤める直実は、両極端な環境を行き来するだけの単調な日々を過ごす中で、同じマンションに住む人気俳優の時戸(岩田剛典)と知り合い、不毛な男女の仲に陥っていく。 風通しのよい職場のアットホームな雰囲気とは裏腹に、直実には明らかに分不相応な〝我が家〟の異空間は、一見穏やかな佇まいに、いつ修羅場に転じるかも知れない危うい気配もはらむ。妹みたいな姪っ子の世話を甲斐甲斐しく焼くことで、自身の虚無を埋めようとする叔母(美村里江)との対話の端々からは、不穏な緊張感が漏れ出し、どこか似た者同士だからこそ、互いの心境を敏感に察知し先回りしてしまう時戸との密やかな逢瀬には、破局の予感が常に漂う。 そんな近しいゆえに厄介でもある関係性のわずらわしさに思い悩み、現実感の希薄な宙ぶらりんの一室で孤独を深めていく直実を救う、ささやかな出逢い。短い出演で圧巻のインパクトを放つ柄本明や永瀬正敏ら、ただの通りすがりでは決して終わらない面々の語りかけるさりげない言葉は、感銘や発見をもたらす至言として、観る者の胸の奥にも染みわたる。 ファン必見!有無を言わさぬ青山監督の〝ムチャぶり〟 特典のメイキング映像から窺えるのは、出産間近の後輩役で、多部と示唆てんこ盛りの絶妙の掛け合いを好演する岸井ゆきのをはじめ、キャスト陣も口を揃える、青山監督の台詞のニュアンスや間合いにまで気を配る丹念な演出と柔軟性。とりわけ、撮影現場で変わり者具合にさらに磨きがかけられたという時戸の人物像をナチュラルに立体化していく岩田の、ソフトな口調ながら有無を言わさぬ青山監督の〝ムチャぶり〟に献身的に応える素の表情は、ファン必見。 青山真治監督が更新したさまざまな家族、人間の関係 死ぬまで背負い込むしがらみへの恐れと、死後も消えず天空を舞う魂への親しみとの間で揺れながら、肉親の葬儀でも泣けずにいたひとり娘の目から、ようやく涙がこぼれ落ちる。そばにいるのに、なかなか逢えずにいたり、二度と再会が叶わなくなっても、無性に身近な存在に感じられたり。世界の状況が一変し、心身の距離感に何かと狂いが生じがちな今を懸命に生きるひとたちの心にも、ほんのりと光を灯す佳篇である。 文=服部香穂里 制作=キネマ旬報社 『空に住む』 ●8月4日(水)Blu-ray&DVDリリース(同日レンタルリリース、先行デジタル配信中) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:5,280円(税込)  DVD:4,180円(税込) ●Blu-ray特典 DVD(メイキング映像、イベント映像集:10.4完成披露舞台挨拶、11.9青山真治監督&黒沢清監督公開記念トークショー、予告篇)、リーフレット ●DVD特典 予告篇映像 ●2020年/日本/本編118分 ●監督・脚本/青山真治 脚本/池田千尋 原作/小竹正人『空に住む』(講談社) ●出演/多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、髙橋洋、大森南朋、永瀬正敏、柄本明 ●発売元:HIGH BROW CINEMA 販売元:ポニーキャニオン  ©2020 HIGH BROW CINEMA
  • 黒木瞳監督作「十二単衣を着た悪魔」 女優たちの魅力際立つ女性映画 8月4日にDVDリリースとなる「十二単衣を着た悪魔」は内舘牧子の小説を映画化した、「嫌な女」(16)に続く女優・黒木瞳の劇場長篇監督第2作。就職試験に落ちまくり、出来のいい弟・水と何かと比べられるフリーターの青年・雷(伊藤健太郎)が、『源氏物語』の世界へと異次元スリップ。彼は偶然持っていた『源氏物語』展の冊子から得た知識と薬品会社の試供品を駆使して、この世界で陰陽師として厚遇され、帝の后・弘徽殿女御の相談役として生きていくことになる。 闘い続ける女性を圧倒的な存在感で表現した三吉彩花 メインは平安時代で生きる雷の人間的な成長だが、作品から強く浮かび上がってくるのは、男性の思惑によって運命が左右される平安時代に、自分で生き方を決めて人生を切り開いていく女性の姿である。 『源氏物語』では自分の息子を次の帝にするため、帝に寵愛される桐壺更衣が生んだ、やはり次の帝候補である光源氏を憎む悪役として描かれる弘徽殿女御。しかしここでは他の女にうつつを抜かす帝を『賢さと情けなさが同居した男』と冷静に評価し、その帝の真意を測りながら『欲しいものは自分でつかむ。守りたいものは自分で守る』という信条を持った、強い女性として彼女を描いている。そんな彼女に雷は、最初は振り回されながら、やがて魅せられていく。その根底に息子への深い愛を抱えながら、帝と光源氏一派に立ち向かっていく弘徽殿女御を三吉彩花が演じている。メイキング映像を観ると、黒木監督は彼女につきっきりでセリフや芝居の指導を事前に行ったらしいが、その成果は絶大で、劇中で20年間にわたる弘徽殿女御の闘い続ける人生を、圧倒的な存在感で表現している。 印象的なヒロイン像を演じた伊藤沙莉 また雷が結婚する倫子を演じた伊藤沙莉も印象的。彼女は弘徽殿女御の命令で雷に嫁ぐが、雷に対して自分の容姿に自信がないこともあって、結婚初夜におびえる気持ちが止まらない。その彼女が泣きだしてしまうところで、雷は優しくキスをして不安を取り除いてやる。このとき倫子は雷の意外な行動に驚いた表情を見せるが、メイキングを観るとこの場面には、黒木監督の俳優に対するサプライズ演出があったようだ。前作「嫌な女」の撮影を見学した時にも思ったが、黒木監督は自分の女優としての経験値から、俳優の生理を考えた繊細な芝居の演出をする。それがこの映画でも生かされていると感じた。また雷と一緒に生きることで幸せを感じるようになる、倫子のヒロイン像も捨てがたい。 コメディ・リリーフとして登場する笹野高史や山村紅葉、ドラマ『ドラゴン桜』でも注目を浴びる雷の弟役の細田佳央太など、他のキャストも魅力。設定は奇想天外だが、女性映画として異彩を放つ作品になっている。 文=金澤誠 制作=キネマ旬報社 『十二単衣を着た悪魔』 ●8月4日(水)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:5,280円(税込)  DVD:4,290円(税込) ●Blu-ray・DVD共通特典 【映像特典(予定)】 ・劇場予告編 【封入特典】 ・オリジナル・ポストカード(4枚組) ●Blu-ray特典 【映像特典(予定)】 ・メイキング ・完成報告会見 ・一問一答:伊藤健太郎 【音声特典(予定)】 監督・黒木瞳×プロデューサー オーディオ・コメンタリー ●2020年/日本/本編112分 ●監督/黒木瞳 原作/内館牧子『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』(幻冬舎文庫) 脚本/多和田久美 音楽/山下康介 雅楽監修/東儀秀樹 主題歌/OKAMOTO’S 「History」(Sony Music Labels) ●出演/伊藤健太郎、三吉彩花、伊藤沙莉、田中偉登、沖門和玖、MIO、YAE、手塚真生、細田佳央太、LiLiCo、村井良大、兼近大樹(EXIT)、戸田菜穂、ラサール石井、伊勢谷友介、山村紅葉、笹野高史 ●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング  ©2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー
  • 10年の積み重ねがあったからこその新作 そして次の10年に向けた手応え 「時をかける少女」(06)「サマーウォーズ 」(09)「おおかみこどもの雨と雪 (12)「バケモノの子」(15) 「未来のミライ」( 1 8 ) と 、 これまでのスタジオ地図作品すべてが日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞。「未来のミライ」ではカンヌ国際映画祭「監督週間」で上映。さらにはアニー賞受賞、ゴールデン・グローブ賞、米国アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートするなど、細田監督作品は国内外で注目され続けてきた。 そして、早くも完成したばかりの新作「竜とそばかすの姫」がカンヌ国際映画祭において、全世界より2000作品以上の応募があったオフィシャル・セレクションに新設された 「カンヌ・ プルミエール部門」に選出。まさに歴史的快挙であり、監督自身 「これから変化していく新しい映画の価値を観客に指し示す兆し」と語る。 その細田守監督に、今回の新たな挑戦について語っていただいた。 コロナ禍における映画の使命   ――「竜とそばかすの姫」は世界がコロナ禍に見舞われている中で制作が進められたと思います。そのことが作品に与えた影響はありましたか? 細田守監督(以下、細田):すごくありましたね。単純な問題として、打ち合わせはリモートが 中心となり、制作スタイルも従来のままでは対応できなくなったとい う変化は当然あります。またこの作品はもともと2021年夏の公開予定で進めていて、当時は「五輪の時期に公開になる2020年夏の映画は大変そうだし、僕らは2021年でよかったね」なんて言っていたのに、東京オリンピックのほうがこちら側へズレてきてしまった(笑)。でもむしろ、そんな困難な状況だからこそ、3年に1作という自分たちのペースは崩さないようにしようと、延期という選択肢は一度も考えませんでしたね。    今、映画界はすごく危機的な状況にあります。去年よりも今年になってさらに辛いことが多いようにすら感じます。しかしそうした困難な 状況を乗り越えて、なんとか映画を観ることの喜びをみなさんに送り届けたいし、この作品が少しでも苦しんでいる人たちの励ましになっ てくれたらいいなと願っています。決してコロナ禍を念頭に作ったわけではないですが、結果的にそういう映画にできたのではないかと思います。   ――また今年は、2011年のスタジオ地図設立からちょうど10年に当たります。実際に今作は、ネットという「デジモン」や「サマーウォーズ」の延長線上の題材を描くとともに「美女と野獣」という細田監督の一つの原点となる作品に正面から挑まれたという点でも、集大成的な側面を感じさせます。また他方で、グローバルなスタッフワークなどからも感じられるように、これまでの細田作品の枠を超え出た、次の年を見据えた新しい第一歩であるようにも思います。その両面に関してそれぞれコメントをいただけますでしょうか。 細田:スタジオ設立10周年というのはたまたまであって、映画というのは作品がヒットするかどうかは誰にもわからない、制作費を回収できなければ挽回のチャンスすら失ってしまう、そんな巨大なリスクを抱えながら作られるものです。だからこのスタジオ地図もいつなくなってもおかしくはなかったし、これからだってどうなるかはわからない。でも僕は、面白いアイデアを思いついたら最後、作り出さずにはいられない性質なので、これからも誰も観たことがないような映画に挑んでいきたい。それに作れば作るほど次々と新しいつながりが生まれるんですよね。ジンさんと一緒に映画を作れる日が来るなんて思ってもい なかったですし、これだけの規模の作品に着手できたのも、これまでの10年の積み重ねがあったからこそです。  だから次の10年という意味では、この「竜とそばかすの姫」によって、今後はこれまで以上に表現の幅を広げられるという手応えを感じています。特に今回は、CGによる人物の感情表現に全力で取り組んでいるんですね。僕の過去作のキャラクター表現は手描きでしたが、今 回〈U〉の世界はすべて3DCGアニメーションなんですよ。これまで手描きにこだわってきた僕から観ても納得のいく、新しい表現の息吹が感じられる仕上がりになっているので、その迫力をぜひ劇場で体験してみてほしいですね。   ――今回は画面がスコープサイズであるという点も、映像の迫力を後押ししていると思います。 細田:そうなんですよ。僕自身、モニターでチェックしていたときとスクリーンで観たときでは、〈U〉の世界のスケール感が全然違っていて驚きました。また音楽映画でもありますから、音響もこれまでに輪をかけて重厚ですさまじいものになっています。音の広がりには限界までこだわったので、家庭用の環境で観るのはもったいないと思いますよ。 映像と音響がともに劇場に最大限に最適化された映画なので、そこは期待していてほしいですね。特に今回は僕の映画でははじめてのIMAX上映もあるので、欲を言えばそうした一ランク上の上映環境に足を運んでもらえると、より一層堪能してもらえると思います。   ※本インタビューは『キネマ旬報』2021年8月下旬号掲載より抜粋 取材・文:高瀬康司 写真:デフコンファイブ 制作:キネマ旬報社   8月3日発売「細田守とスタジオ地図の10年」 「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」 「バケモノの子」「未来のミライ」そして、最新作「竜とそばかすの姫」 スタジオ地図が10周年を迎える2021年夏―― 想像を超えたアニメーション映画“未開の境地へ” CONTENTS ・グラビアで振り返るスタジオ地図の10年 「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」 作品解説=増當竜也 ・最新作「竜とそばかすの姫」グラビア ・細田守監督ロングインタビュー 取材・文=高瀬康司 ・制作ドキュメント(キャスト編) 中村佳穂/成田凌/染谷将太/玉城ティナ/幾田りら/佐藤健 取材・文=イソガイマサト、岡﨑優子、前田かおり、斉藤博昭 ・制作ドキュメント(美術編) エリック・ウォン/カートゥーン・サルーン/上国料勇/秋屋蜻一/池信孝/上條安里 取材・文=河合宏之 ・制作ドキュメント(作画編) 山下高明/青山浩行 取材・文=木俣冬 ・制作ドキュメント(音楽編) 常田大希/岩崎太整 取材・文=大谷隆之 ・制作ドキュメント(プロデューサー編) 高橋望/川村元気/谷生俊美 取材・文=増當竜也、岡﨑優子、関口裕子 ・対談 細田守×樋口尚文(映画評論家、映画監督) ・スタジオ地図 訪問 ・齋藤優一郎プロデューサーが語るスタジオ地図の10年 取材・文=関口裕子 ・細田守 自作を語る 『キネマ旬報』再録 「アニメ映画に新しい世代がやってきた」/「時をかける少女」/「サマーウォーズ」/「おおかみこどもの雨と雪」/「バケモノの子」/「未来のミライ」 ・採録対談 細田守×ポン・ジュノ/細田守×池澤夏樹 ・細田守フィルモグラフィー&プロフィール ************************************************** 【書籍名】細田守とスタジオ地図の10年 【著者名】キネマ旬報社・編 【判型・頁数】A5判/ムック 【刊行年月】2021年8月3日 **************************************************
  • 韓国エッセイ『僕だって、大丈夫じゃない』に見る感情労働者の苦悩 精神科医・名越康文先生が贈る、“心のモヤモヤ”を解消するヒントとは? テレビやラジオでのコメンテーター、映画評論、マンガ・ゲーム分析など様々な分野での心理分析と悩める人々にアドバイスを発信し続ける精神科医の名越康文氏。 キネマ旬報社から刊行された韓国エッセイ『僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~』の医師に見る現代労働者のモヤモヤに対してどのように向き合っていくべきか、本書を翻訳した岡崎暢子氏との対談を通して名越先生にヒントを伺った。   キム・シヨン医師の疲弊した心が蘇っていく日々を温かなタッチで綴る韓国エッセイ『僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~』キネマ旬報社刊   頑張りすぎる人に、実は言ってはいけない「頑張らなくていい」という言葉   ―今回、『僕だって、大丈夫じゃない』を翻訳した岡崎さんは以前、編集者として力尽きてしまった経験もあるとのことですが。  岡崎氏:「編集者として仕事を抱えていた時に、膨大な仕事量でさすがに脳が疲れてしまい、ストレスから満員電車に乗れなくなったりと、辛いことはたくさんありましたね。頑張ることで生きていると実感するタイプなので、実際手を抜くことの方が難しいんですよね」   名越氏:「今まで頑張りすぎている人に、“頑張らなくていい”、という言葉は実は当事者には響かないセリフであることも多いんです。そもそも頑張る人というのは、それで達成感を得て心のバランスをとっている面がある。ですから本当にヘトヘトになっている自覚がある場合を除いては、「休みなさい」だけでは不十分なんです。つまり違うことで頑張らせないといけない。ライフスタイルを変えるということですね。そのシフトチェンジが疲れた心を豊かにしたり、細胞を活性化させたりするんですよ」   岡崎氏:「本当にそうですよね。私も会社で頑張りすぎた後少し止まって、トライアスロンに情熱を向けて自分を持ち直しましたから。体を動かすことも必要ですよね」   名越氏:「トライアスロンはすさまじいパワーがいると思いますが(笑)。岡崎さんは好きなことをやって自身をコントロールできるようになったのですね。僕も“頑張りすぎる前に、自分の頑張りをシフトすることが大切”、と40歳くらいの自分に会ったら言いたいですね。自分自身は朝から20回ほどプッシュアップしますが、体を動かすことは大切です。心身のバランスをとることができます。45歳以降は1日に必ず体を動かすことを習慣にする。うつ病回避にもなります。トライアスロンは荒療治かもしれませんが、自身の情熱をシフトしたということは正解だったのでしょうね」     燃え尽き症候群になる前に45歳までに出来る準備とは   ―本書『僕だって、大丈夫じゃない』の医師は、終始緊迫した状態のERで働いた後、田舎町の診療所に移りますが、環境の落差もあり、燃え尽き症候群のような症状に陥りますね。 『僕だって、大丈夫じゃない』の中でおばあさんとやりとりされる医師の決まり文句「大丈夫、死なないから」は、実は本書の原題でもあるという。ER時代の緊迫感とは程遠い環境で患者をなだめる、医師の多少身勝手な幕引きワードとして使われていた印象的な言葉だ。   岡崎氏:「患者さんが来てもどこか冷たい言葉を発してしまうなど、明らかに心が止まってしまっていて。著者のキム・シヨン医師は40代ですが、その世代でこうしたバーンアウトを恐れる人も多いですよね」   名越氏:「バーンアウトが40歳後半で起こるようであれば、やっぱりライフスタイルをシフトする必要があると思います。ここでいうライフスタイルには二つの意味があります。一つは24時間の生活習慣をちょっと変える。具体的には食事内容や、朝からの運動習慣。それに睡眠時間の確保ですね。もう一つは、趣味を見つけるとか読書の習慣とか、つまり人生の価値観をシフトしてゆくわけです。45歳以降でのバーンアウトからの回復は経験的には1、2年かかってしまうから、そうならないための準備を30代のうちにすることも大切かも知れません。まずは、自分の仕事に感じるストレスの度合いをイメージしてみる。自分のしんどさを水位でイメージするんです。海の水が自分のくるぶしくらいか、ひざか、それとも鎖骨まで来ているか。それが膝以下の場合はまだ少し準備の時間が持てると思うんです。    あと秘訣としては、45歳までに半分は好きな仕事で埋めるというのがあると思います。半分は人の都合に合わせたり興味のないものでもいい、でも半分は自分のやりたい仕事にしていく。45歳までは、体力的にも無理が効く年齢なんです。あなたが今30代であれば、今からやりたいことを口に出して周りにアピールして、45歳までの長い時間をかけて、ベクトルを向けていく。そういうこともできるんじゃないかなと思うんです。」   感情労働の代表格、クレーム対応という仕事   ―自身の本心と切り離して職務を遂行しなければばらない労働を、近頃では“感情労働”といい、そんな仕事に従事する人たちのことを‟感情労働者”と呼ぶ、と著者はエピローグで自身の労働の苦悩について言及しています。 『僕だって、大丈夫じゃない』の中で、患者のおばあさんとの予測不可能な対話に四苦八苦するキム・シヨン医師の様子。   岡崎氏:「本書の医師も、自分を処方箋発行機と思われて処方箋だけ一方的に求められるなど、患者さんとの間での対応に苦戦するシーンがありますが、そんなクレーム対応でストレスをためてしまう場合は、どうしたらよいのでしょうか。」   名越氏:「正直本当に大変な仕事ですよ、クレーム対応は。たとえば別の人格を作るくらいの感じで、相手の言うことを体の中心で受けたらダメージがあるという気がします。ある意味ちゃんと演技ができる自分を作り上げることができる才能と、修練が必要なのではないでしょうか。たとえば人の話をマジに聞いてしまう誠実タイプ、そういう不器用な人は向いていない気がします。といっても僕はクレーム対応の専門家ではありませんが、向き不向きがとてもある職種だと思います。自分がもしやるなら、期間とその目的を決めてからやると思います。」   岡崎氏:「私もコールセンターでバイトしていた時に、マニュアル通りに対応しても、家に帰ってから気持ちがずーんと重くなってしまって……」   名越氏:「そう、人の思念ほど“被ってしまう”ものはないんです。思念を受けて同調してしまうのが人間です。それを受けすぎるとボキッと折れてしまうのが人間の心ですからね。そうならないように、向かない人は気をつけるべきだと思います。」   リカバリー(回復)に時間がかかる日本の労働環境は問題   ―本書のキム・シヨン医師は、ERで疲弊した心を引きずってしまい、移った先の診療所でも胃を痛めるなど体調にも異変をきたしてしまいます。   岡崎氏:「私も編集していた時、大プロジェクトを終えた後1ヵ月くらいは鬱っぽくなってしまっていました」 名越氏:「それはね、実はリカバリーできていないのではと思います。薄皮1枚つながっただけ、という状況なんです」 岡崎氏:「確かに、気分転換で何日か休んだとしても、(元に)戻らないというか。そういう人って今多いと思います。労働環境において、睡眠時間も足りていないのが大きいですよね」 名越氏:「韓国と日本は、睡眠不足でいつも世界的に1位2位を争っています。イタリアなんて昼休みが2時間はたっぷりあるわけで。国による常識があって良いわけですけれど、睡眠不足の日本はメンタル的にはやはりまずいです。アンチエイジングにも悪いし。それと夜寝つけない人は、コーヒーの飲みすぎなど、カフェインを取りすぎていないかどうかチェックして欲しい。あとは朝から運動をしていないことが多い。朝運動すればメラトニンというホルモンが就眠時に出て、深く眠れます。朝の運動、夜はコーヒーを避ける、夜中スマホを見ない、たとえばこの3つをライフスタイルにおいて見直してみてください。」   岡崎氏:「朝の運動はどんなものがいいですか?」 名越氏:「ストレッチよりは、少し汗ばむような軽い筋トレがおすすめです。水分を摂取してから。あとは朝日を浴びること。朝から光を浴びて運動すると確実に寝つきがよくなります。」   自分への攻撃と感じる他者の言動、そう思うことは実は健康なこと   ―本書の医師は、「爆発寸前のイライラや不満、怒りを抑え込み、人間に対する最低限の期待すら、すっかりあきらめて心を空っぽにして耐え抜かなければならない日も少なくない。」とエピローグで吐露しますが、周囲と無意識に隔絶することで自分自身を守ろうとしているように見えます。   岡崎氏:「それでも、時に周囲からの言葉が自分を責めているように感じる、そんな時はどうしたらよいでしょうか?」   名越氏:「わかるなぁ。そう感じてしまうのは、たぶん自分の調子が悪い時なんです。嫌われていないかな、自分が迷惑をかけていないかな。そう振り返ること自体は良いことですよね。でも2週間に1度そう思えたらよいのかなと。それが頻繁になって、習慣になってしまうとまずいということです。しんどければ、一度その現場を知っている人に、客観的判断を委ねるのも良いかも。別のケースだと、実は特定の人との関係性が悪くなっていることも考えられる。それが全体の人間関係の見え方に波及している、という場合もあるのです。客観的に状況をとらえるために、自分を否定しない人に聞いてみること。利害関係がない人に聞いてもらって見えてくることがありますから。僕も昔、自分が過剰適応していたことに周囲の人と話すことで気付けたことがあったので」                                  制作=キネマ旬報社                                           ※本記事は、本屋B&B(東京都世田谷区)にて、7月5日に開催した下記イベント内容より抜粋しています。   岡崎暢子×名越康文「モヤモヤを抱えて働くあなたへ贈るーー精神科医に聞く!“感情労働者”の心のモヤモヤとの付き合い方」韓国翻訳エッセイ『僕だって、大丈夫じゃない』(キネマ旬報社)刊行記念   _____________________________________________________________________________________________________________   名越康文(なこし やすふみ)精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。 1960年奈良県生まれ。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、マンガ分析などさまざまな分野で活躍中。『SOLOTIME(ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)他多数。最新著書は『仕事で折れない心のつくり方』(アルファポリス)が発売中。会員制動画チャンネル「名越康文TVシークレットトーク」も好評配信中。 _____________________________________________________________________________________________________________   岡崎暢子 (おかざき・のぶこ) 韓日翻訳・編集者。 (C)Mina Soma 1973年生まれ。女子美術大学芸術学部デザイン科卒業。在学中より韓国語に興味を持ち、高麗大学などで学ぶ。帰国後、韓国人留学生向けフリーペーパーや韓国語学習誌、韓流ムック、翻訳書籍などの編集を手掛けながら翻訳に携わる。訳書に『あやうく一生懸命生きるところだった』『今日も言い訳しながら生きてます』『どうかご自愛ください――精神科医が教える「自尊感情」回復レッスン』(ダイヤモンド社)、『頑張りすぎずに、気楽に』『クソ女の美学』(以上、ワニブックス)、『1cmダイビング 自分だけの小さな幸せの見つけ方』(宝島社)などがある。 _____________________________________________________________________________________________________________  『僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~』 キム・シヨン=著/岡崎暢子=訳 1,650円(税込)キネマ旬報社刊 「大家さんと僕」シリーズの著者・矢部太郎さんが絶賛! 「第18 回ハンミ随筆文学賞」優秀賞受賞、今最も翻訳が期待される話題のヒーリング・エッセイ。 長い間ERと霊安室の間で緊迫した日常に追われていた韓国の医師・キム・シヨン氏が、「もう少し違う生き方があるのではないか」と考えて移った田舎町の診療所で出会う人々との対話を通して、自分自身が癒されていく様を綴った38の温かい物語。 _____________________________________________________________________________________________________________         
  •  第74回カンヌ国際映画祭オフィシャル・セレクション 「カンヌ・プルミエール」部門に選出され、上映後、14分間にも及ぶスタンディングオーベーションを受けた細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』。  本作の舞台の一つであるインターネット上の仮想世界〈U〉の世界は、どのように作られたのか?細田守監督へ伺った。 〈U〉の世界をデザインした、エリック・ウォンとの出会い  エリックはですね、本当にネットの中から探したんですよ。  実際、〈U〉というすごく巨大なインターネットサービスの中に様々な人がいて、その中でベル(主人公)のような選ばれた才能みたいな人がいて。  そういう〈U〉という世界を表現するのに、僕らも”言ってること”と”やってること”が近寄ってくる、というか。つまり、僕らもネットの中で、そういうデザインをしてる人がいないかな、と思って探してて見つけた。  最初は、画像がきっかけなんですけど。エリック・ウォンって何者かわからないんですよね、全然。一種のグラフィカルなイラストがあるだけだったんですけど。連絡して話してみたら、建築家だったんですよ。だから、誰かわからずに、仕事お願いして(笑)。  でも、ネットってそうなんですよね。他にもエマニュエルってやつがいて、絵がうまいから、デザイン依頼してみたら、テキサスの学生だったりして(笑)。  そういうのも、ちょっとこの話っぽいっていうか。実際会ってみないとどういう人かもわからない。〈U〉の世界はファンタジックな世界のように見えるけど、実は、現実のある一側面を反映していて、そうやって人は、今の時代出会うんだなぁと思うわけですよね。   エリックもそういう意味で、映画のプロダクトデザインとかね、SF映画のデザインとか一切やったことなかったんですよ、もちろん。  (制作中は)コロナ禍で、(エリック)は建築学科の講師とかやりながら、(この映画の)作業をやってもらったりして。  (エリックの絵を)ネットで見つけた時、非常にコンセプチュアルな絵だな、と思ったんですよね。 〈U〉の世界も、やっぱりコンセプチュアルな世界だろう、と思ったんですよね。  今までも、デジモンだったりサマーウォーズの舞台美術も、コンセプチュアルであること、をポイントに置いて作ってきたので、今回もそれができる人がいないかな、と思って探して。そういうところをエリックが実現してくれそう、と思ったんです。 インタビュアー:実際(エリックから)出てきた絵をご覧になって、いかがでしたか? いや、もうそれは凄いですよ。何から何まで。よくこんなことができるな、と。 最初のイメージボードの時から、こう、放射線状の線が書いてあって、その中に月が書いてあって、 「この月は何?」と聞いたら、 「〈U〉だ」って言うんですよね、エリックが。 ああ、なるほどねって。(笑) だから、〈U〉の世界に月があるのは、エリックのおかげなんですよ。 インタビュー:高瀬康司/ 写真:デフコンファイブ / 制作:キネマ旬報社 (C)2021スタジオ地図 細田守監督へのインタビュー映像はこちらからご覧いただけます   8月3日発売「細田守とスタジオ地図の10年」 「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」 「バケモノの子」「未来のミライ」そして、最新作「竜とそばかすの姫」 スタジオ地図が10周年を迎える2021年夏―― 想像を超えたアニメーション映画“未開の境地へ” CONTENTS ・グラビアで振り返るスタジオ地図の10年 「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」 作品解説=増當竜也 ・最新作「竜とそばかすの姫」グラビア ・細田守監督ロングインタビュー 取材・文=高瀬康司 ・制作ドキュメント(キャスト編) 中村佳穂/成田凌/染谷将太/玉城ティナ/幾田りら/佐藤健 取材・文=イソガイマサト、岡﨑優子、前田かおり、斉藤博昭 ・制作ドキュメント(美術編) エリック・ウォン/カートゥーン・サルーン/上国料勇/秋屋蜻一/池信孝/上條安里 取材・文=河合宏之 ・制作ドキュメント(作画編) 山下高明/青山浩行 取材・文=木俣冬 ・制作ドキュメント(音楽編) 常田大希/岩崎太整 取材・文=大谷隆之 ・制作ドキュメント(プロデューサー編) 高橋望/川村元気/谷生俊美 取材・文=増當竜也、岡﨑優子、関口裕子 ・対談 細田守×樋口尚文(映画評論家、映画監督) ・スタジオ地図 訪問 ・齋藤優一郎プロデューサーが語るスタジオ地図の10年 取材・文=関口裕子 ・細田守 自作を語る 『キネマ旬報』再録 「アニメ映画に新しい世代がやってきた」/「時をかける少女」/「サマーウォーズ」/「おおかみこどもの雨と雪」/「バケモノの子」/「未来のミライ」 ・採録対談 細田守×ポン・ジュノ/細田守×池澤夏樹 ・細田守フィルモグラフィー&プロフィール ************************************************** 【書籍名】細田守とスタジオ地図の10年 【著者名】キネマ旬報社・編 【判型・頁数】A5判/ムック 【刊行年月】2021年8月3日 **************************************************    

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