唯一無二の実験映画作家を特集。〈ジェイムズ・ベニング2023 アメリカ/時間/風景〉
- 11×14 , RR , アレンズワース , キャスティング・ア・グランス , ジェイムズ・ベニング , セントラル・ヴァレー , ソゴビ , ランドスケープ・スーサイド , ロス
- 2023年09月11日
1970年代の初めから現在まで、唯一無二のスタイルで精力的に活動するアメリカの実験映画作家ジェイムズ・ベニング。その特集〈ジェイムズ・ベニング2023 アメリカ/時間/風景〉が10月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムで1週間限定開催、第73回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品された最新作「アレンズワース」を含む代表作8本を上映する。メインビジュアルが到着した。
撮影・録音・編集を一人で行うスタイルを貫き、映画とインスタレーションを合わせて60作以上を発表してきたベニング。計算されたショットから、アメリカに流れる時間と精神的風土が浮かび上がる。
〈上映作品〉
「11×14」(原題:11×14/1976年/80分)
ベニング初の長編映画「11×14」(印画紙の寸法)は、その前に撮られた短編映画「8 ½×11」(タイプ用紙の寸法)の発展形で、生まれ育ったミルウォーキーやシカゴの町、高架鉄道や高速道路など、主にフィックスで撮られた66の風景(ショット間には黒味が挟まれる)からなる作品。風景だけでなく人々が、それも同じ人物が何度か異なる場面に登場することで、ある種の物語が読み取れるかもしれない。二度流れる曲はボブ・ディランの『ブラック・ダイアモンド湾』。
「ランドスケープ・スーサイド」(原題:Landscape Suicide/1986年/95分)
ベニングが描いた“風景の犯罪”。二つのセンセーショナルな犯罪が描かれる。一つはカリフォルニア州で、15歳の少女がクラスメイトを刺殺した事件。もう一つはウィスコンシン州で、農夫エド・ゲインが3年間で15人を殺害した有名事件(トビー・フーパー監督「悪魔のいけにえ」やアルフレッド・ヒッチコック監督「サイコ」のモデルとなった)。「11×14」(1976)、「One Way Boogie Woogie」(1977)などで追求した映画の物語性と、風景を通してドキュメンタリー的に目撃される“アメリカの夢”の暗部が結びつく。
「セントラル・ヴァレー」(原題:Valley Centro/1999年/90分)
カリフォルニア内陸部の大半を占めるグレート・セントラル・ヴァレー 。全長700キロ、幅100キロに及び、アメリカ全土の1/4に食料を供給している。同地を所有するのは石油や農業に関連した大企業だ。ベニングはその風景を、16ミリフィルムの1リール分(2分半)を使ったフィックスの1ショットで撮影し、35ショット構成のポートレートとした。殺風景な荒地がすべて企業の所有物であることは最後に明かされ、労働者の多くは移民であることが分かる。風景に込めた政治性が重要となるベニングの代表作の一本。
「ロス」(原題:Los/2000年/90分)
ベニングが「セントラル・ヴァレー」の完成間近に姉妹編として構想を始めた作品。「セントラル・ヴァレー」の都市バージョンとしてロサンゼルスを描く。セントラル・ヴァレーからロサンゼルスに水が流れていくことから、全体で地域の水利を描く構造にもなっている。「セントラル・ヴァレー」のラストショットのホイーラー・リッジは、「ロス」のファーストショットのマルホランドの排水溝へ繋がっている。
「ソゴビ」(原題:Sogobi/2002年/90分)
「セントラル・ヴァレー」と「ロス」で〈郊外〉から〈都市〉へのポートレートを作り終えたベニングは、カリフォルニア全体を見渡すため〈自然〉にフォーカスし、同じ2分半×35ショットの構造を持つ「ソゴビ」を制作。この3本で〈カリフォルニア・トリロジー〉とした。〈ソゴビ〉という言葉は、ネイティブ・アメリカンのショショーニ族の言語で“大地”を意味する。最初のショットは「ロス」のラストショットと繋がり、最後のショットは「セントラル・ヴァレー」のファーストショットと繋がり、3部作でパズルのような構造を成す。
「RR」(原題:RR/2007年/110分)
Rail Roadの頭文字をタイトルにした「RR」は、「キャスティング・ア・グランス」の撮影の行き帰りなどベニングが20州近くを旅する中で、216本の列車を撮影し、そこから43本のショットを並べた作品。一つのショットは列車がフレームを走り抜ける長さとし、ほんの数両から11分に及ぶものまである。アメリカの開拓は鉄道敷設の歴史でもあるが、今や列車が運ぶのは人ではなく物であり、ここで撮影されたものの大半は貨物列車だ。後半にカリフォルニア州ネルソンの稲作地で流れる曲は、ウディ・ガスリーの『我が祖国(This Land Is Your Land)』。
「キャスティング・ア・グランス」(原題:casting a glance/2007年/80分)
現代美術家のロバート・スミッソンが、1970年にユタ州ソルトレイクに作ったランドアート作品『スパイラル・ジェティ』を、ベニングが2005年からの2年間に16回訪れて撮影した一作。『スパイラル・ジェティ』は湖の水位変化とともに水没と出現を繰り返し、色も変わる。ベニングは35年にわたるその軌跡をシミュレートした。ベニングには珍しく、ロングだけでなくクロース・ショットもある。カーラジオらしきものから流れる曲は、スミッソンが亡くなった73年に録音されたエミルー・ハリスとグラム・パーソンズによる『ラヴ・ハーツ』。
「アレンズワース」(原題:Allensworth/2022年/65分)
1908年に作られ、カリフォルニア州で初のアフリカ系アメリカ人が統治する自治体となったアレンズワース。第一次大戦後に多くの住民が離れて荒廃し、現在は歴史的建造物の復元・修復が行われている。ベニングは一年にわたり、毎月一棟の無人の建物に5分間カメラを向けた。唯一の例外は、公民権運動家だったエリザベス・エクフォードのワンピースのレプリカを身につけた女生徒が、ルシール・クリフトンの詩を朗読するシーンだ。その演出により、小さなコミュニティの物語が黒人の歴史全体と交差する。ニーナ・シモンとレッドベリーの歌が、吹きさらしの地に幻のようにこだまする。
〈ジェイムズ・ベニング2023 アメリカ/時間/風景〉
主催:コピアポアフィルム+ダゲレオ出版
公式サイト:jb2023.com