濱口竜介監督「悪は存在しない」がヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(審査員大賞)受賞

 

第80回ヴェネチア国際映画祭の授賞式が現地時間9月9日19時より行われ、「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介(監督)と石橋英子(音楽)による《音楽 × 映像》プロジェクトから生まれた映画「悪は存在しない」(2024年公開予定)が銀獅子賞(審査員大賞)に輝いた。

「偶然と想像」(21)がベルリン、「ドライブ・マイ・カー」(21)がカンヌで受賞した濱口監督にとっては世界3大映画祭の制覇が実現、日本人では黒澤明監督以来の快挙となる。また今回のヴェネチアでは、国際映画批評家連盟が選ぶ〈国際批評家連盟賞〉、企業倫理について考察を与える映画に贈られる〈映画企業特別賞〉、特に環境問題に対する現代的アプローチに対して贈られる〈人・職場・環境賞〉も併せて受賞。濱口監督と主演の大美賀均がメディアに応じた授賞式後の公式カンファレンス、および囲み取材のオフィシャルレポートが到着した。

 

主演の大美賀均(左)と濱口竜介監督

 

〈授賞式〉

濱口竜介監督(以下、濱口):本当にありがとうございます。
このような素晴らしい賞をいただけるとは、この企画が始まった時は思いもよりませんでした。音楽の担当でもありこの企画の発案者でもある石橋英子さんに感謝をしたいと思います。
彼女の音楽が、私を今まで体験したことがないところへ導いてくれました、そして主演の大美賀均さん、そこで(客席を指差し)カメラを構えている撮影の北川喜雄さん、この3人で脚本を書く前に一緒にドライブをして薪割りをしてこの映画をどのようなものにしようかと考えていました。この旅をしながらここまで来られて嬉しく思っています。そしてキャスト、スタッフ全ての力があってこのような素晴らしい賞をいただけたと思ってます。

大美賀均(以下、大美賀):私からは一言だけ。石橋英子さん!獲りました。ありがとうございました。

〈公式カンファレンス〉

(質問)タイトルが付いた経緯、小規模での制作体制について

濱口:まず、石橋英子さんの音楽にどのような映像をつけるか? というお題をいただきました。その音楽に合うモチーフを探して自然というものを撮ることになりました。そして自然に向き合っている時にふと浮かんだのが『悪は存在しない』という言葉だった。自然の中に悪意を見出すことは難しく、一方でこの映画全体として本当に悪がないということを表現しているかというとそうではなくて、それは分からないと思います。そこには自然だけがあるわけではないからです。

この映画はアートハウス系の映画でかつ非常に小規模のチームで作られました。小規模で自由に作った映画がこのように評価を受けるということは、映画制作の見方そのものを変えるきっかけになるのではないかとは思います。

〈囲み取材〉

──受賞の一言

濱口:本当に素晴らしい賞をいただいて信じられない気持ちです。
企画を始めた当初は、海のものとも山のものともつかないような企画ではあったので、ここまでたどり着けたことも素敵だと思いますし、それは本当に関わってくださった皆さん、特に発案者でもある石橋英子さんの力はとても大きいと思います。そして、キャストスタッフの皆さんの力があったおかげで、ようやくこういう結果に結実するようなそういう映画ができました。
 
大美賀:先ほど濱口監督がお話されていますが、すごく小さなチームから始まりました。濱口監督、撮影の北川喜雄さんと自分と3人でシナハン(=ロケハンの前の脚本を書くために現地を回ること)に回っていたんですが、そこからスタッフが徐々に増えていき、撮り終わった頃には、本当にこんなにちゃんと撮るなんて思ってもみなかったです。その頃の想像よりはるかにすごいところまで連れてきていただいてありがとうございます。またスタッフさんはじめ、キャストの皆さん、現地で協力してくれた方々に本当に感謝しています。
 
──授賞式の壇上のスピーチでおっしゃっていましたが、受賞の時の「景色」というのはどういったものだったのでしょう?

濱口:隣に大美賀さんがいて、目の前に撮影の北川さんがいて、あと他にもチームのメンバーがいてくれて、光って見えるというか、このチームでやってこれたことを本当に良かったなということを思い、胸がいっぱいになった感じがしました。
 
──今回のコンペティションの中でアジアの作品として唯一だったと思うのですが、それについては?

濱口:それは選考する側の問題なので、ちょっと分からないです。コンペで他の作品も観たかったですが観られなかったですし、全体的にどういう風に自分たちの作品が位置付けられているか分かりませんけれども、きっと他にもいいアジア映画があったと思います。たった1本であったというバランスについて、選んでいただいたこと自体はとてもありがたいことですけれども、そのバランスは本当なのかっていうことは多少思うところではあります。
 
──ベルリン国際映画祭での『偶然と想像』に続いて2回目の準優勝のような感じですが、ちょっと金(最高賞)、とりたかったなみたいなことはありますか。

濱口:そういう思いは、本当に少しもないです(笑)。そもそもはこうやってコンペに選ばれるとも思ってなかったですし、こうやって賞をいただくことも思ってもみなかったので。そういう気持ちもそもそもないですね。それが正直なところです。自分達にとっては一番いいものをいただいたという感じです。

 

 

Story
自然豊かな高原にある長野県水挽町。東京から近いため移住者が増え、緩やかに発展中だ。そこに代々暮らす一家の巧(大美賀均)と娘の花(西川玲)は、自然のサイクルに合わせた慎ましい日々を送っていた。そんな中、巧の家の近くにグランピング場を作る計画が判明。コロナ禍で経営難に陥った芸能事務所が、政府の補助金を得て立ち上げたのだ。しかし、彼らが町の水源に汚水を流そうとしていることがわかると町民は動揺、その余波は巧の生活にも及んでいく──。

 

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▶︎ 濱口竜介(監督)と石橋英子(音楽)の共同企画「悪は存在しない」、ヴェネチア国際映画祭出品

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