「ディオールと私」のストーリー
2012年、空席になっていたディオールのアーティスティック・ディレクターにラフ・シモンズが就任するとの発表は、ファッション業界を驚かせた。彼はベルギー出身、自身の名を冠した男性ブランドやジル・サンダーで活躍していたが“ミニマリスト”として認識され、知名度も低く何よりもオートクチュール界での経験が皆無であった。彼の抜擢は、パリ・ディオールのアトリエで働く経験豊かなお針子たちにとっても新たな挑戦の始まりとなる。通常5~6ヶ月の準備期間が必要とされる中、パリ・コレクションまでに与えられた時間は異例の8週間。シモンズが提案する斬新なアイディアとデザインをもとに、お針子たちが寝る間も惜しんで一枚の布にディオールの魂を吹き込む。カメラは、アトリエ・フロー(ドレス部門)の活動的で陽気なフロレンス・シェエと、アトリエ・テーラー(テーラード部門)の小心者で機転が利くモニク・バイイの二人のお針子に密着する。そんな中、シモンズはノルマンディー地方グランヴィルにあるクリスチャン・ディオールが幼少期に過ごした家を訪れる。ディオールの庭で「回想録を読んでも、お互いの経験の差が埋まらないためにうまく理解できない」「読むのを止めなければならなかった。妙な気分だったが最初のショーが終わるまで読むべきじゃないと思った」と語るシモンズ。やがてパリに戻ったシモンズにはコレクション発表の場所や演出内容の決定、54着のオートクチュールの完成、マスコミ対応についてなど数多くの業務が待っていた……。