解説
この作品のレビュー
ユーザーレビュー
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ミャーノフ大佐
これまで観てきたアキ・カウリスマキとは、ちょっと違った作品。いや、ラストは明らかに違うか。第1作目の「罪と罰」以来のラストと言おうか。
映画の冒頭の方でテレビから流れてくるニュースが映し出される。中国の天安門事件、ロシアのガスパイプラインの爆発事故、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世のフィンランド訪問、などなど。そして天安門事件の報道がまた映し出される。あの当時の映像は私もテレビでよくみていた。中国は江青をはじめとする四人組を追放して文化大革命の総括をした後、鄧小平による改革開放路線で経済発展する中で人民の意識も変わってきて、自由を求める機運になってきていた。民主派に同情的だった胡耀邦が死に、天安門事件の最中に趙紫陽が失脚して中国の民主化は崩壊した。
マッチ工場(なんてのがあったんだ)で働くイリスは母親とその愛人と一緒に暮らしているが、どう見ても貧しい家庭だ。どうも母も居候もまともに働いていそうにない。イリスが自分の給料で服を買うと、給料が少ないから服を返してこい、と言う。イリスはバーで一人の男に出会い、一夜を一緒に過ごす。男のアパートを見ると明らかに、イリスよりも数段お金持ちで良い暮らしをしている。イリスは恋人と思ったが、男は一夜の遊び。イリスは妊娠したことを知り、男に結婚を頼むが、男は始末しろ、と金をよこす。
アキ・カウリスマキの主人公たちはいつも社会の底辺で生きている人達だ。今回も、母親に搾取されながらも生きている女だ。いつものカウリスマキの映画ではここで愛する人が現れて、幸せを求めて虹の向こうを目指すのだが、今回は白馬の騎士は現れなかった。彼女は殺鼠剤(私の子どもの頃は普通に売っていたんだよね。お袋が天井にねずみ取りを巻いていた記憶がある。でも、さすがに1990年代は売っていなかったと思う)を買って問題を解決していく。
そう、虹の向こうの理想郷は人民を弾圧する様な国家だったんだ。だったら、ここでなんとかするしかないじゃん。
これまでのカウリスマキ映画はとぼけたコメディだったが、とぼけてはいるがシリアスドラマだった。タイトルが「マッチ工場の少女」とあるが、少なくとも少女じゃないなあ。
あと、カウリスマキ、工場が好きだねえ。前も精肉工場とか、製紙工場とか、ゴミ処理場とか撮していて、今回はマッチ工場だ。このマッチの生産工程を観ているだけでも楽しいのは、私も生産ラインを観るのが好きだからかな。
「マッチ工場の少女」のストーリー
「マッチ工場の少女」のスタッフ・キャスト
スタッフ |
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キャスト | 役名 |
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「マッチ工場の少女」のスペック
基本情報 | |
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ジャンル | ドラマ |
製作国 | フィンランド |
製作年 | 1990 |
上映時間 | 68分 |
製作会社 | ヴィレアルファ・フィルム・プロ |
配給 | アルシネテラン |
レイティング | 一般映画 |
アスペクト比 | アメリカンビスタ(1:1.85) |
カラー/サイズ | カラー/ビスタ |
音量 | モノラル |
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