「死にゆく妻との旅路」のストーリー
石川県七尾市で小さな縫製工場を営む清水久典(三浦友和)は結婚して20数年、平凡な家庭を築いていた。だが、バブル崩壊で経営が傾き、4千万円の借金を抱えてしまう。彼が金策に走り回る一方で、大腸癌の手術をしたばかりの妻ひとみ(石田ゆり子)は、娘夫婦のアパートに居候して、夫の帰りを待っていた。3カ月後、久典は帰ってくるが、金策も職探しも成果はゼロ。姉からは自己破産を迫られるが、久典はそれを渋る。そんな夫に、“好きにしたらええ”と微笑むひとみ。なけなしの50万円を持った夫婦の旅は、こうしてほとんど無計画に始まった。キャンプ用のコンロで煮炊きし、ワゴン車の後部座席に2人で眠る生活。だが、ひとみは久典と一緒にいられるだけで幸せそうだった。観光地なら住み込みの仕事がすぐに見つかるという久典の当ては外れ、50歳以上の求人は見つからない。焦りと怒りを露わにする久典を元気づけるひとみ。姫路城、鳥取砂丘、明石海峡大橋、三保の松原、山梨を経て石川へ。山間の道から姿を現した富士山、久典が初めて作った味噌汁、水平線に沈む美しい夕陽。沢山の初めてを重ねながらも、ひとみは確実に衰弱してゆく。医者からは、癌が3か月で再発するかもしれないと言われており、すでに4か月が経過。夏の暑さが和らぐ頃には、ひとみの身体は食べ物を受けつけなくなっていた。見かねて病院に担ぎ込む久典。だが、彼女は1人にされることを断固拒否。その様子を見た久典は、最期の時まで妻と一緒にいることを決意する。献身的な介護に努めるが、叫び声を上げるほどの痛みと錯乱から当たり散らすひとみに、久典の意識も次第に朦朧としてゆく。久典がロープを手にした夜。ひとみがカミソリで手首を切りつけた朝。幾度も2人で涙を流すのだった。あるとき、小康状態を得たひとみは、旅の初めに2人で訪れた東尋坊で夕陽を見たいと告げた。久典は車を東尋坊に向けて走らせた……。