ヴァンサンへの手紙の映画専門家レビュー一覧

ヴァンサンへの手紙

    フランスの女性監督レティシア・カートンが、ろう者である友人ヴァンサンの死をきっかけに彼の遺志を継ぎ、ろうコミュニティを10年にわたり記録したドキュメンタリー。美しく豊かな手話と優しく力強いろう文化を見つめながら、ろう者たちの内面にも迫ってゆく。音楽は、フランス人シンガーのカミーユ。本作中の音楽には楽器は用いられず、ハミングやスキャット、身体を叩く音などによってサウンドトラックが構成されている。2017年4月、『東京ろう映画祭』にて『新・音のない世界で』のタイトルで上映。
    • ライター

      石村加奈

      レティシア監督の幼なじみで、ろう者のサンドリーヌの言葉が印象的だ。親が決めた口語教育を受け、母親との同居生活にも何の疑問も抱かぬ友人に、母の死後の人生について想像すると怖くならないか? と畳みかけた監督に対する、サンドリーヌの答えが、ろう者の価値観をないがしろにしてきた我々聴者の問題点を明らかにする。トルコ出身のろう者アーティスト、レヴェント・ベシュカルデシュの繊細なパフォーマンスから、豊かな希望のサインを受け取ったことを、ずっと忘れずいたい。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      N・フィリベールの傑作「音のない世界で」(92)から年月が経過したが、その衣鉢を継ぐように女性監督がろうコミュニティに関わっていく。音がある/ないという事象が単純なアントニムでないことをあくまで映画的に示した「音のない世界で」と異なり、本作は自殺したろうの友だちに対しては文学的な、ろうコミュニティに対しては社会的な視座に絡めとられている。たとえば手話をする人物を撮るのはなぜこのサイズなのかという思考が、映画の中にもっと積み重ねられてほしい。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      言いたいこと、訴えたいことがいっぱい溜まって、ここで洪水のようにあふれ出た。登場人物が多すぎると思う。同じ主張が何度も出てきて少しくどさも感じる。だけどこちらは今までろう者の気持ちを知ろうとしなかった。さほどの関心もなかった。そんな人間が大半のこの世界で、いま、ここに、この人たちがいる、そこを映画で描いた。口話教育、補聴器、人工内耳などへの違和感を初めて知った。そのひりひりきりきりの本音も。もうこちらは受け止めるしかない。ただ彼らに寄り添うしか。

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