あまねき旋律(しらべ)の映画専門家レビュー一覧

あまねき旋律(しらべ)

    山形国際ドキュメンタリー映画祭2017アジア千波万波部門で上映され、奨励賞と日本映画監督協会賞をダブル受賞したドキュメンタリー。インド東北部のナガランド州に広がる美しい棚田を舞台に、歌と共に生きる人々の生活や農作業の様子をカメラに収めた。監督は、インド南部のポンディシェリを拠点に活動する映像作家アヌシュカ・ミーナークシと俳優としても活躍するイーシュワル・シュリクマール。
    • ライター

      石村加奈

      ナガ族の人たちは歌をうたいながら、仕事(主に農作業)をする。収穫の秋、輪になった若い男女が稲を蹴り上げて、脱穀する楽しげなシーンもあるが、のどかなイメージは気持ちよく裏切られる。唱歌や童謡以上に、真面目で深淵な歌詞に引きずられることなく、リズミカルに鍬や鋤を動かす村人たちの姿に、彼らにとって、歌は娯楽ではなく人生の一部なのだと気づかされる。虫の音や風の声が響く風光明媚な村の周辺をインド軍兵士がうろつくシーンのみ、無音になる。監督の意志を感じた。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      稲作農家の労働歌というとS・マンガーノの色香が印象的なイタリア映画「にがい米」(48)あたりが思い出されるが、まさにあれと同じだ。インド東北部、独立運動のさかんなナガ地方のみごとな棚田の風景に、ポリフォニーの波紋。音響が棚田の水面をかすかに揺らす。住民たちは作物の出来ばえを論じるのと同じように自分たちの歌を論じ、歌への偏愛について語るのと同じように日々の作業を語る。歌、稲作、恋愛、家族、共同体が渾然一体となった本作の多声的構造に舌を巻く。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      インド東北部の農村。その棚田の風景に眼を奪われ。歌声が響く。男と女、若きも老いも。ある時は独りで、ある時は声を合わせて。村の暮らしの中に歌が溶け込んで、そののんびりゆったりの空気が、さあっと観客席を包む。ここにはボリウッド映画から過剰な物語性をすっぱり抜いて、ミュージカル感覚だけを残した、純粋素朴な音楽記録の味があって。村にある大きな教会、峠道を進むインド兵。そこにちらりトゲを含ませ、それでも歌い続けた村人たちの強靱さをも匂わせる。静かな佳品。

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