静かな雨の映画専門家レビュー一覧

静かな雨

宮下奈都による同名小説を原作に「わたしは光をにぎっている」の中川龍太郎監督が映画化。大学の研究助手・行助は、こよみという女性が経営する鯛焼き屋に通い始め、次第に2人は親密になっていく。そんなある日、こよみが交通事故に遭い記憶障害を抱えてしまう。行助を「タロウのバカ」の仲野太賀、こよみをアイドルグループ『乃木坂46』を卒業し、本作が劇場映画デビューとなる衛藤美彩が演じる。第20回(2019)東京フィルメックス コンペティション参加作品。
  • フリーライター

    須永貴子

    「私の頭の中の消しゴム」や「50回目のファーストキス」に類する、記憶力に問題を抱える女性を愛する(ことを決意した)男性視点の物語。同じやりとりを繰り返しているように見えて、言動の些細な変化で気持ちのゆらぎをグラデーション化する仲野太賀の力量が存分に発揮されている。メロドラマ的な表現を徹底的に排除した撮影、照明、録音、劇伴のすべてにおいてクオリティは高いが、リズムが単調で観客を巻き込むエネルギーが不足気味。編集にもうひと工夫ほしかった。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    脚の不自由な大学の研究室の青年と、屋台のたいやき屋をやっている女子の恋。メルヘンを意図したために敢えてそうしたのか、まず青年がなぜ足を引きずるようになったのか何も教えてくれない。女子は事故にあって短期間しか記憶を留めておけなくなるが、その設定もなんだかあやふや。そもそも女子はなぜ町の片隅でたいやき屋をやってるんだろう。何度でも言いたいが、映画は人間を描くもの。人間がわからなければ、それは記号。記号がいくら泣こうが笑おうが、気持ちは入れられない。

  • 映画評論家

    吉田広明

    短期記憶を失った恋人と、何度も同じ始まりを繰り返す男。「何回目だかのファーストキス」めいた設定だが、ドラマチックなメロドラマにせず、淡々と描いているのは好感持てるものの、大事なのは今なのだ、とばかり「“今”の輝き」を「美しい映像とサウンドで描き出す」(プレスより)映画本篇は少々退屈。記憶とは何かを、無論答えなど出ないだろうが、考えようとしていない。映画はモノを考える術であるのだし、映画に必要なのは出来事、であって、美しい映像やサウンドなど過ぎた贅沢なのだ。

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