ベル・エポックでもう一度の映画専門家レビュー一覧

ベル・エポックでもう一度

フランスの名優ダニエル・オートゥイユとファニー・アルダンが共演したロマンティック・コメディ。妻との仲が冷え切ったヴィクトルは、生涯忘れられない“あの日”を広大な映画撮影セットで再体験する<タイムトラベルサービス>を息子からプレゼントされ、大切な記憶が蘇る。ヴィクトルが指定した日は<運命の女性>と出会った1974年の“あの日”。撮影セットで俳優たちが演じて見せる素晴らしい時間はヴィクトルに人生の変化をもたらす。監督・脚本・音楽は「タイピスト!」などに出演し、本作が監督第2作となるニコラ・ブドス。元売れっ子イラストレーターの主人公ヴィクトルをダニエル・オートゥイユ、妻のマリアンヌをファニー・アルダンが演じ、2019年のフランスのセザール賞3部門に輝いた。<タイムトラベルサービス>の生みの親アントワーヌには「セザンヌと過ごした時間」のギヨーム・カネ、彼の恋人でヴィクトルの<運命の女性>を演じることになるマルゴには「ザ・ゲーム 赤裸々な宴」のドリア・ティリエ。フランスが誇る至宝と若き才能のハーモニーで、今を生きるすべての人への讃歌が紡がれる。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    語り直しによる治癒効果。過去/現在/未来は一方向に流れるものでもなく、過去の出来事は固定されたものではなく、何度も語り直し救済することができる。また現在の私たちは未来からすでに影響を受けている。そんな哲学を等身大の人間を通して語ってみせる。ベル・エポック=良き時代という名を持つ1970年代のカフェは、ベル・エポック時代を憧れて名付けられたはずだ。過去は実際には触れることのない憧憬の時空間だが、そこを語り直すことで未来への足掛かりにもなる。

  • フリーライター

    藤木TDC

    タイムスリップし青春を再体験する日本映画なら甘口ファンタジーでやりそうなテーマを、撮影所を使った個人向けリアリティショー・ビジネスに置き換えた発想はやられた感。映画の高級感を優先したせいで現実のサービスとしてはコスト度外視に見えるが、誰が役者、どの場面が虚構か曖昧になるミステリ風味も凝ってるし、フレンチ・ノワールの名優競演で男性客も楽しめる。仕掛けの密度維持のため登場人物を類型化せざるをえなかったのと、終盤の展開が毎度おなじみなのが決定的弱み。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    遊び心に溢れた作品だが、非現実的で地に足がついていない居心地の悪さも覚える。設定が大がかりすぎて、オリジナルルールのゲームとしてあり得ないため、砂上の楼閣を眺めているようだ。こういった社会性をまったく排した恋愛劇を撮るのも、昨今はフランスか日本くらいでは……。大人が無邪気に楽しめる世界観ではないだろう。ギヨーム・カネ演じるディレクター男性のモラハラぶりも不快。周囲から引かれるほど女性を抑圧しているのに、あのラストは前時代的な幸福観だ。

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