アネットの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
上島春彦
どこまでがネタバレ厳禁なのか分かりにくく記述が難しい。ともあれ徹底してソング&ダンスで押す、というコンセプト。物語に突入する前から全部、歌。これが実に可笑しい。映画の枠組み自体フィクション(虚構)なのだ。また現在の音楽ビジネスが音源製作からライヴ産業へと移行したことをまざまざと示す企画でもある。セリーヌ・ディオンの伝記映画とかテレンス・マリックの最近作もそうだった。舞台がそのまま森に変換する仕掛けが凄いが「策士策に溺れる」といった雰囲気も濃厚。
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映画執筆家
児玉美月
カラックスの過去作で言えば「ホーリー・モーターズ」に最も近い。ここにあるのは妥協なき「愛」の否定。「愛の結晶」あるいは「未来の希望」であるはずの「子ども」も傀儡に過ぎず、「もう愛するものがなくなった」という男は作家自身でもある。ただ、#MeToo運動を想起させる女性達による性暴力告発描写だけはどう捉えたとしても悪手にしか思えず。そこを引いたとしてもカラックスのペシミストぶりが結実した「アネット」は、間違いなくカラックスにとって一つの到達点だ。
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映画監督
宮崎大祐
ラストの密室めがけ駆動する映画だ。ただしそこに至るまでの道のりは長く険しい。何よりも、ミュージカル映画であるにもかかわらず、音楽が良くない。NHKの昼の生番組のようなオープニングから、ネタで外しているつもりがベタに外している。ニヒリストのコメディアンという設定の主人公エイプ・ゴッドのジョークも空転するばかりで、メタの笑いがベタに滑っている。これがミュージカルではなくドラマだったのならばポスト・ヒューマン映画の傑作になっていたのかもしれないが。
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