零落の映画専門家レビュー一覧

零落

『ソラニン』『おやすみプンプン』の浅野いにおによる漫画を、「ゾッキ」など監督としても活躍する竹中直人のメガホンで映画化。長期連載を終えて次回作のアイデアが浮かばず空虚な日々を過ごす漫画家・深澤は、風俗嬢・ちふゆに惹かれ、人生の岐路に立つ。「ゾッキ」で竹中直人・山田孝之とともに監督を務めた斎藤工が表現者としてのジレンマを抱えながら堕落していく漫画家・深澤薫を、猫のような目をした風俗嬢・ちふゆを「生きてるだけで、愛。」の趣里が、深澤の妻で敏腕漫画編集者の町田のぞみを「台風家族」のMEGUMIが演じるほか、永積崇(ハナレグミ)やしりあがり寿ら著名人が出演。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    正直、竹中直人監督作にも浅野にいおのコミックにも苦手意識がある。もちろんただの食わず嫌いではなく、それぞれ過去作に触れてきた経験からその哲学や美学に隔たりを覚えてきたのだが、今作には思わず引き込まれてしまった。最大の要因は柳田裕男のカメラ。竹中の念頭にあったのは石井隆作品なのだろうが、近年柳田が関わってきた若手監督との仕事の成果もしっかり流れ込んでいて、時流から外れた自分を良しとする主人公のナルシシズムに、ある種の現代的説得力が生まれている。

  • 映画評論家

    北川れい子

    漫画家である主人公の自虐的言動は、業界における自分の足元がグラつきだした不安の裏返し。他の漫画家に向けた、たかが漫画家のくせに、という主人公の台詞は、自分もたかが漫画家であることへの苛立ちが言わせた言葉に違いない。そんな彼が、かつて因縁のあった“猫の目顔”の娘にそっくりのデリへル嬢と親密になり、束の間の寄り道。それにしても、主人公の厄介な自意識に冷静に寄り添う竹中監督の、恥じらいのある演出と映像センスには降参だ。されど漫画、というオチ? も痛快だ。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    現代における成功したアーティストの代表格は売れてる漫画家だろう。その影響力、知名度と稼ぐ金のことはよく語られ知られている。同時にその成功が人気獲得、徹底的な世間への迎合によるものだとも。自己の表現とか内面の吐露では食えない。その食えないことが表現になっていった漫画家つげ義春原作を監督主演した竹中直人氏が、食える以上の栄達も成した漫画家の零落をいま最新作として監督する円環、個の尊重が沁みる。また、石井隆監督作の村木のような男を見た、とも。

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