aftersun アフターサンの映画専門家レビュー一覧

aftersun アフターサン

ポール・メスカルがアカデミー賞主演男優賞候補となった人間ドラマ。思春期を迎えた11歳のソフィは夏休み、離れて暮らす父カラムとトルコのリゾート地を訪れる。20年後、ソフィはその懐かしい映像の中に、当時は知らなかった父の一面を見出していく。監督は、これが長編デビュー作となったスコットランド出身の新人シャーロット・ウェルズ。「ムーンライト」のバリー・ジェンキンスがプロデューサーを務めている。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    フランキー・コリオは今後のブレイクを予感させる存在感を放っているし、テレビに繋いだビデオテープの映像が切れた後の、何も映っていないテレビ画面に映り込む親子を捉え続ける長回しの固定ショットをはじめ、鏡やテラスの机など、さまざまな装置の反射を生かして限定された空間を多彩な角度から切り取る撮影は細かい工夫に満ちている。だが、miniDVやポラロイドといったレトロな機材が生み出す質感をお洒落なものとして強調する、いかにもA24好みのあざとさは鼻につく。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    今はもうないものが、しかし目の前にありありと現れてしまう。そしてそこに映っている人物に対して強い感情を引き起こしたりもするが、実際にその人物が何を考え、感じているかは簡単にはわからない。そういう映像が持つ特質を最大限に、あるいはその特質のみを生かして作られた実に映画らしい映画と言えそうだ。単に映っているだけでは感情も思いも映らないという点で酷な映画と見るか、簡単には言葉にできないさまざまな繊細で豊かな感情を表現していると見るかで評価は分かれる。

  • 文筆業

    八幡橙

    鑑賞中、ずっと心がしくしくしていた。若き父と二人で過ごした、ひと夏の記憶。そこには、11歳の少女の多感で繊細なまなざしが捉える、二度と戻れぬ風景の輝きや非日常の昂揚、離れて暮らす父への愛着が凝縮されていて、妙に切なく心地よい。このまま終わらないでほしいと願いながら、誰もが最初から気づいてもいる。旅は、今という瞬間は、必ず終わると。多幸と不穏、永遠と刹那、甘さと痛み……複雑な感情がさざ波のように絶えず根底を流れ、無常を知った遠い日を連れてくる。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事