インスペクション ここで生きるの映画専門家レビュー一覧

インスペクション ここで生きる

これが初長編となるエレガンス・プラットンの実体験に基づくヒューマンドラマ。ゲイを理由に母から捨てられ、ホームレス生活を送っていたフレンチは、自分の唯一の居場所と信じて、海兵隊に入隊する。ところが、そこで待っていたのは、過酷な日々だった。主演は、2019年のトニー賞 2部門候補になったジェレミー・ポープ。本作で第80回ゴールデングローブ賞男優賞(ドラマ部門)にノミネートされた。
  • 映画監督

    清原惟

    生きていると苦しいこともたくさんあるけれど、なかには助けとなってくれる人もいるし、人同士の関係性も日々変わっていく。ゲイであるという理由で主人公を差別していた同期たちが、最後、海兵隊の仲間として庇ってくれるシーンは、人と人の関係性は流動的で、思想も変化するものなのだという希望を感じた。一方で、自分の考えを変えることのできない母との対話のシーンは苦しい。海兵隊がある種のセーフティネットになっているアメリカという国についても考えさせられた。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    ブートキャンプで教官と訓練生の間で交わされる印象的なダイアローグがある。「戦争では痛みは言い訳にはならん。痛みとは?」「体から出ていく弱さ!」。おぞましいほどにリアルだ。ホームレス出身で黒人、そしてゲイと、まさに社会の最底辺で辛酸をなめ尽くした監督にとっては軍隊こそが最後に残されたアジール(避難所)に他ならないだろう。そんな幾重にも屈折した眼差しを介して紡がれるのは「フルメタル・ジャケット」の地獄の洗脳とは微妙に異なる、もう一つの〈アメリカの夢〉には違いない。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    A24映画は積極的に作者の自伝性と個人性を打ち出し、個人発信時代の意識に合致した傾向を生んだ。これは強みとも弱みともなって表れてくるが、この優れた監督デビュー作もその両面を感じさせる。新兵訓練所を舞台にして語られるのは、自身ゲイである監督の実体験に基づく物語である。黒人のゲイ青年の心の茨と軍隊での成長を通して最も裕福、かつ強力な国家の底辺を生きる個人の声に尊厳を与えた。だからこそ、A24のレーベル戦略を突き抜けるような個性に至らない無念さも残った。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事