映画専門家レビュー一覧

  • 台北セブンラブ

    • ライター

      石村加奈

      台北にあるデザイン事務所(デザインを意味する中国語「設計」には、罠を仕掛ける意味もあるのだとか!)を舞台に、男女7人が繰り広げる愛の物語。冒頭のタクシー運転手の話がエンドロールと呼応する等、7つのエピソードが絡み合う妙味。想像力と腕を要しそうでいて、実は見かけ倒しの高級日仏創作料理よりも、断然そそられる素朴な台湾料理をはじめふんだんに挿入される食事シーンや、街が開発されていくCG描写もユニークだ。チェン・ホンイー監督の大胆不敵かつ創意工夫作。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      グローバル化とファストファッション化の波に飲まれ、かつての新興国もフラットな悪戦苦闘を強いられる。舞台となる台北の建築デザイン事務所は、恋愛と陰謀の果てしないゲーム性に打ち興じるほかはない。建築事務所といえば何と言っても楊徳昌の傑作「台北ストーリー」(85)だ。あれもやはり経済成長に飲みこまれる人間の断末魔だったが、映画それ自体がすべてを併呑していた。ところが今作では、登場人物の生のフラットさと、作品のPV的遊戯性が同じ水位にあるのだ。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      デザイン事務所のスタッフが、いかにして大プロジェクトの企画を通すかがお話の軸。けど、働く様子より、それぞれの恋愛描写が主眼で。CM&MV監督らしく、映像はオシャレ。台北の街を原色の幾何学模様で彩るあたりカッコいい。ダサい画面は一瞬たりとも出てこない。けど中身は、富豪の御曹司と幼馴染の同僚に迫られ、うっとおしさを感じる美女の挿話をはじめ、“愛って何”的展開。それがちと表面さらりで軽すぎる。とはいえ台北市の状況や若者の動向がうかがえ、結構楽しめた。

  • パリの家族たち

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      隣の「パリ、嘘つきな恋」とは対照的に、同じフランス映画でも日々奮闘する女性たちを描いた群像劇。ベビーシッター、大学教授、お花屋さんといった働く女性が、仕事と家族と恋愛の間で葛藤し、自分なりの生き方を見つける姿を描く。が、女性大統領が登場したときに正直げんなりした。物語を通して伝わってくるメッセージは尊いと思うが、それが作者の頭のなかに先にあり、映像や登場人物や物語がメッセージに従属しているように見える。それでは代理店がつくるCMと変わらない。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      「奇跡の教室受け継ぐ者たちへ」と今作しか見てないが、監督・脚本のM‐C・M =シャールは、日常、あるいはそのすぐ近くに題材を見つけ、群像劇にするのが得意と推察する。パリの生きのいい女性たちをひと皮めくり、子を持つ人にも持たない人にも自分が命を授かった母親の存在を通して、個々人の幸せを見つけさせるのだから。母になった女性大統領は言う。「4年後国民は母親を選ぶでしょう」と。女性が母親業と仕事のどちらかの選択を迫られなくて済むようにとのメッセージに共感。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      「家族」というより「母親」たちの群像劇。日本よりは女性が子供を生んでも生きやすいとされているフランスでも、母親になる選択と向き合う個人的・社会的試練は同じ。登場人物の多さはそのまま生き方や選択肢の多様性を意味し、ややサンプルケースのカタログっぽく見えなくもないが、カタログを作ること自体には意味がある。女性賛歌は何の解決にもならない。子供を持つことがリスクよりも可能性でありますように、またそれと同じぐらい子供を持たない意志や権利も尊重されますように。

  • 台北セブンラブ

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      ジェイミー・ベルが美しい。アネット・ベニングとの年齢差の対比もあって、実年齢以上に若く世間知らずに見えるし、さりげなく鍛え上げられた肉体にも品があり、元リトル・ダンサーなのにたどたどしいダンスシーンが映える。それによってベテラン女優のエキセントリックな振る舞いもかなり美化されて見えるが、実話という情報以外に二人の関係を裏づける説得力が薄い。マクギガン監督が撮るなら変人シャーロックと振り回されるワトソンぐらいにデフォルメしたほうが面白かったのでは。

  • ベン・イズ・バック

    • ライター

      石村加奈

      「ある少年の告白」でN・キッドマンの息子を演じたL・ヘッジズ(本作の脚本、監督を務めたP・ヘッジズの息子)がJ・ロバーツの強い希望から息子ベン役に。薬物依存に苦しむも、諦めない母に感化されて、生きることを受け容れる息子を好演。パワフルな母子の物語だが、継父との関係性等、物語の途中で明らかになった一家の問題は深刻で、タイトル通りのラストを迎えた時、この家族のその後を想像すると、希望よりも絶望が上回った。愛犬ポンスの扱い(特にラスト)にも若干不満あり。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      「ある少年の告白」の時は★3つに留めたが、ルーカス・ヘッジズが絶好調だ。今回はドラッグ依存のどら息子を演じ、家族を散々悩ませる。そしてその家族が連れ子夫婦による人工的構造なのが巧みだ。母親役ジュリア・ロバーツは、出来事にたじろぎ、苦しみ、対処するリアクション演技で素晴らしい成果を得た。母と息子の地獄巡りに、観客は事態が解決に向かうのか悪化しているのか?みかねたまま、手に汗握るしかない。部分的にはカサヴェテス映画のテンションにさえ達している。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      この前、薬物依存の息子と向かい合う父親の映画を観たばかり。今回は母親が息子を守ろうと奮闘。J・ロバーツが久しぶりに芝居どころがある役を熱演。最近、問題児を続投のL・ヘッジスが静かな好演。一見、穏やかなこの青年が、またクスリに手を出すんじゃないか。そのはらはらで物語を引っ張る。「ギルバート・グレイプ」の原作・脚本者が監督。そのせいか、演出は冷静的確。大人の感覚があるが、丁寧に描きすぎて少し間のびした印象も。母親映画だけど義父の存在が薄いのが気になる。

  • 神と共に 第一章:罪と罰

    • 翻訳家

      篠儀直子

      題名はキリスト教PR映画みたいだが中身は全然そうではなく、また、メインの話はこれ一本で完結するのでそのへんはご心配なく。死んだ消防士が地獄めぐりをするテーマパーク的スペクタクルだけの映画ではと冒頭不安になるかもだけど、彼の弟にまつわるミステリーがほどなく導入され、俄然盛り上がる。スタイリッシュな冥界の使者ハ・ジョンウが、下界で謎解きにアクションにと大活躍。しかも終盤、号泣必至のクライマックスが予想と違うかたちで実現し、もはや涙で画面が見えない。

    • 映画監督

      内藤誠

      幼年期にお寺で地獄絵を見て怯えた記憶があり、つい第一章と第二章を一気に見てしまった。プロ野球初のゴリラ選手の物語を描いたキム・ヨンファ監督だけに怖いというよりはスペクタクルで奇想にあふれる地獄だった。消防士のチャ・テヒョンは自分の生命を投げ捨てて少女を救助した善行により七つの地獄の裁判を無事通過すれば現世に生まれ変われるという構成。亡者を支える冥界の使者であるハ・ジョンウ、チュ・ジフン、キム・ヒャンギと閻魔大王役イ・ジョンジェが人間的で笑えた。

    • ライター

      平田裕介

      視点がグルグルと動き回る開幕早々の火災救助場面にア然としていると舞台は冥界へ。裁判のルールやら各地獄の特徴、専門用語の数々が一気呵成に語られるのには面食らうが、冥界の使者に連れ回されて戸惑う消防士と気持ちをリンクさせれば良いと気づけばスゥッと入り込める。地獄巡りのみならず、苦労の多かったオモニをめぐる泣かせのドラマに軍での事故死隠蔽をめぐる“恨”のドラマもじっくりと描かれてゲップが出そうになるが、カオスな雰囲気に飲まれて一気に観てしまう。

  • バイオレンス・ボイジャー

    • 評論家

      上野昻志

      ゲキメーションというのを初めて見たが、面白い。紙に描いた絵を切り取り、それに棒などを貼り付けて手で動かして撮影するのだそうだが、キャラクターひとつをとっても、監督自身による手描きの絵ならではの色使いや質感が、通常のアニメーションの平準化した絵と違った生々しさを感じさせて魅力がある。話も、よくある秘境探検ふうに展開しながら、人はどんどん死ぬし、主人公もロボット頭になってしまうというように、後戻り出来ないところにいくのがいい。続篇を期待したい。

    • 映画評論家

      上島春彦

      アニメーションならぬゲキメーションという方法論が面白いのでそっちを激賞する、というのもあり、とは思ったのだが、物語がつまらないと星は足せない。喜劇になろうとしてなりきっていないようだ。特に声優に吉本芸能人が入ってくると逆に全て台無しになる印象。それは監督の責任ではないが、何か最初から「大した話じゃありません」と映画が自己申告しているような錯覚に陥る。地道にこつこつ作ったのは偉いと思うし、そうなるともっとデタラメな話にしても良かったのではないか。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      ゲキメーションというより「妖怪伝 猫目小僧」と言った方がある年齢以上には伝わりやすいが、デジタルの自由度が加わることで同じ手法を更新できるようになったとおぼしい。大島?の「忍者武芸帳」の手法が近年も再利用されたように、それ自体は良いとしても何を描くかという点では更新できたとは思えず。30分ならまだしも、90分近いとなると、この手法のみで突っ切るには内容を吟味しなければ難易度が高く、「猫目小僧」の雨宮雄児の様な脚本家か高橋洋が必要だったのでは?

  • 小さな恋のうた

    • 映画評論家

      北川れい子

      高校生バンドの映画はすでに何度も作られているし、ヒット曲をモチーフにした青春ラブストーリーも珍しくない。その両方を取り込んだこの作品は、舞台が沖縄だけにその特殊性にも触れているのだが、その触れ方が何とも時代錯誤的で、いつの時代の話? 米軍基地の少女とフェンス越しの交流。少女はいつも独りぽっちで、親からは厳しく交流を禁じられていて。いや、そもそもバンド仲間をアッサリ死なせる脚本からして無神経で、地元の人々のデモのおざなり的扱いも気になる。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      今年観たなかで一番ヤバい、悪いものを秘めた映画だった。始まったときにはかの東映の栄えある“沖縄映画”「日本女侠伝激斗ひめゆり岬」「沖縄やくざ戦争」「ドーベルマン刑事」に連なるものになるかとも思えたのに、反米軍基地抗議を疎ましいもののように描くあたりから妙な感じが並走しだす。ほらあなたにとって大事な人ほどすぐそばにいるの、の“大事な人”が米軍人の娘(主人公らの友人)とは……難しい。エンドクレジットのオリジナル歌唱でなんとか気を取り直した。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      今はもう“この世にいない誰か”のことを想い、思い出を語り始めると「つらかったね」とか「大変だったね」と、相手に気を遣わせてしまうことがある。そうなると次第に“この世にいない誰か”のことを口にし難くなるもの。しかし、歌として声に出すのであれば周囲に気兼ねなく、気を遣われることもなく、言葉を伴いながら何度でも “この世にいない誰か”のことを想うことができるのだ。そして本作には、観客の固定観念を利用することで物語をある方向へと舵を切らせる意外性もある。

  • 嵐電

    • 映画評論家

      北川れい子

      車庫のシーンで色や型もさまざまな嵐電が、横並びに写るカットがある。乗り鉄でも撮り鉄でもないが、かなりワクワクした。それにしても愛すべき小品である。いや、愛すべきスケッチ映画というべきか。三組の人物たちは、さしずめ、過去、現在、そして未来を担っているのだろうが、深入りせずにスケッチにとどめているのが行き来する嵐電の映像と巧みに呼応し、すれ違ったり、追っかけたり。ただ観ているときは全く気にならなかったが、役名が妙に凝っているワケは!?

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