映画専門家レビュー一覧
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ポッピンQ
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
なるべく婉曲に言えば、美少女が出てくる日本のアニメはほとんど全部エロアニメにしか見えないので気恥ずかしい。こんなそこはかとない何かを見せられるよりはいっそ実写のヌードや絡みを見たいと思ってしまう。……私が変態で、妄想が過ぎるのだろうか。でもアニメの女の子は無意味に蟲惑的デザインだと思うがなあ。本作、ダンス場面に躍動はないが、話は面白かった。陸上選手の子が頑張るのが良かった。広末涼子も中学時代は高知県で土佐弁しゃべりながら走り高跳びしてた。
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映画評論家
松崎健夫
本作のクライマックスは、5人の少女たちによるダンス場面。モーションキャプチャーを導入して描かれたキャラクターたちの動きは、妙に生っぽい。それだけでなく、個々の動きの癖や、個々の微妙な動きのズレも表現されていることが窺える。動画で描けば、いくらでも動きを完璧にシンクロさせることが可能であるはずなのに、あえてしていない。このことが、本作で描かれる「個は集団よりも優先されるべきか?」という命題に対する、ある種の回答を示しているようにも思えるのである。
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土竜の唄 香港狂騒曲
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映画評論家
北川れい子
デタラメ。悪ノリ。悪ふざけ。ファッションも美術も小道具も前作よりド派手だし、しかも股間ネタのオンパレード。けれどもここまで好き勝手をやられると、観ているこちらまでトコトン付き合う気に。三池監督の常識外のパワーと、非常識なサービス精神に白旗ってワケである。紙芝居仕立ての場面や妄想など、手抜きとバカ丁寧、のバランスも小気味良く、さしずめ三池監督の掌で遊ぶの図。残念だったのはミュージカル場面がラスト以外、無かったこと。「愛と誠」が恋しくなったり。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
CG、VFXの発達が哀しいときもある。Vシネ時代の三池作品は人力の苦労で、これはなかなか撮られへんで~という画面を実現していたが、今や大作三池映画のド派手ビジュアルはCG。「DEAD OR ALIVE 犯罪者」の竹内力の元気玉がこういう形に発展するとは思いもしなかった。山崎貴がモノとして建造困難なものをCGで見せても、へぇーと感心して観るだけだが、三池監督のそれは何かと入れ替わっていったものと感じちゃう。昔話か。本作は、飽きない、勢いある映画だ。
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映画評論家
松崎健夫
暴力団に潜入捜査中の菊川玲二というキャラクターによって、正体がバレるのか否かという〈サスペンス〉を生み、敵に捕えられ逆さ吊りに遭うという〈スリル〉を生み、ボケをかますことで勘違いをするという一瞬の〈ショック〉を生んでいるように、ヒッチコックの名言にある〈三要素〉を導いていることが窺える。さらに彼がスケベであることによって〈お色気〉という要素まで誘発させ、幕の内弁当的な彩りがある。その菊川を演じる生田斗真の演技の幅の広さには唸るばかりなのである。
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TOMORROW パーマネントライフを探して
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映像演出、映画評論
荻野洋一
女優メラニー・ロランが、人類滅亡のシナリオに対し、「別の、人類が反省して生き長らえるシナリオはないものか?」と画策し始める。いまのライフスタイルを私たちが続け、気候変動と環境破壊が続いた場合、人類は近いうちに滅ぶ。子どもを持つ親として、彼女たちはいろいろと試みと相対する。その試みがどこか楽しげなのがいい。しかし、作品の作りを問いたい。プロパガンダをモーションCGによるタイポグラフィで観客に突きつけていくという作為性は、作品の思想に合わない。
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脚本家
北里宇一郎
このままだと地球は絶滅。ならば、どうすれば? というエコロジストたちの提案と実践が、次から次へと繰り広げられて。ちと目まぐるしい。少し立ち止まって考えてみたいと思う。けど、映画の時間はどんどん進む。ただし取りあげられている素材は面白いし重い。環境問題だけでなく、経済、教育、政治の新しい取り組みには、なるほどと納得させられるものが。それを大マジメではなく、グラフィック感覚のオシャレな映像と音楽で展開し。その口当たりのよさ、調子のよさが痛しかゆしの面も。
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映画ライター
中西愛子
食にしろ、子育てにしろ、エコにしろ、ライフスタイルにまつわるドキュメンタリーは、国内外で増えている。でも、この作品の魅力は、生活に密着したスタンスを保ちつつ、徹底した俯瞰の目で世界を見つめ、これからの個人の在り方が模索されていること。農業→エネルギー→経済→民主主義→教育、という必然的に推移し循環する章立てがいい。自分には無理、と思う提案も多いのだが、こうした欧米市民の発想や行動は、案外、日本でもすぐに普通になるかも。とても刺激的で面白い。
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聖杯たちの騎士
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
とにかくこれだけのスター俳優を揃えて完全な個人映画を拵えられるテレンス・マリックの謎の力に畏れ入る。「トゥ・ザ・ワンダー」「ツリー・オブ・ライフ」同様、いかにも深淵な哲学的思弁を弄しているようでいて、実は俗っぽさの極みであるという点をどう受け取るかで評価は真っ二つに分かれるだろう。そしてマトモに考えれば否定が正解である。だが僕は嫌いになれないのだ。どうしてこんな作品を撮りたいのか、どうしてこうなってしまうのかに興味がある。答えはないんだろうが。
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映画系文筆業
奈々村久生
映画が進むにつれてだんだん焦ってきたほど、言葉も映像も耳や目を通り過ぎていってしまう。内省的で抽象的なフレーズをひたすら独白するポエティックなセリフ群はまったく心に届いてこないし、主人公の心象風景にシンクロするとおぼしき光景をとらえたルベツキの壮大な映像を快楽として享受できるほどの成熟したセンスも持ち合わせていない。映画との出会いには年齢、場所、経験、タイミングなどが大きく作用するという当たり前のことを痛感するきっかけになった。
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TVプロデューサー
山口剛
クリスチャン・ベイル、C・ブランシェット、N・ポートマンなどハリウッドスターが勢揃いしているが、エンターテインメントではない。テレンス・マリックが自作の詩にキャメラのエマニュエル・ルベツキと共に映像を重ねていった映像詩で、従来なら前衛映画、実験映画と言われたような作品だ。映像は比類なく美しいが、売れっ子脚本家の目に映るハリウッドは荒涼たる「荒地」だ。「甘い生活」の現代版と言ってもいい。たまには詩集を手にするようにこんな映画を観るのも新鮮だ。
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アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場
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翻訳家
篠儀直子
「ドローン・オブ・ウォー」の二番煎じかと思ったらずっと複雑な内容で、しかも極上の「会議映画」だった。会議室内での人物の姿勢や位置の変化が場の空気の変化を絶妙に物語り、切り返しショットが的確に緊迫感を盛り上げ、英国風アイロニーも利かせつつ、問題を複数の角度から覗きこませる。さまざまなカメラ・アイの使い分けも面白く、「キャプテン・フィリップス」で複雑なキャラクターの海賊を好演したバーカッド・アブディが、重要なアクションとサスペンスを物語世界に導入。
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映画監督
内藤誠
安全な場所にいてドローンにより敵を倒すという現代の戦闘をリアルに見せてサスペンスがある。しかし自爆テロリストから多数の命を守るために一人の少女を犠牲にしてもよいのかという哲学的問題が立ちはだかる。生死とは無関係なオリンピッ競技場を決めるのにも大混乱となるくらいだから、このテーマに関し、観客も考えざるを得ない構成。監督は中途半端なヒューマニズムを言い立てる女性政務次官よりも、上官の命令でボタンを押さざるを得ないドローン操縦士の涙の顔に感情移入。
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ライター
平田裕介
多数を救うためならば、少数を犠牲にしてもいいのか? いいわけがないが、そういってもいられないし、結局は少数が犠牲になる。そんな無情の摂理に則った展開が容易に予想されるのだが、現地諜報員の奔走、官僚や政治家の責任逃れ、小鳥型&昆虫型ドローンからの覗き見映像、無人機操縦士たちの葛藤が絶妙に交錯して、グングン引き込まれる。加えて、ヘレン・ミレンが照射する“鉄の女”オーラが緊張をいやおうなく加速させる。「ドローン・オブ・ウォー」と併せて観るべき一本。
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MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間
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翻訳家
篠儀直子
背景に流れるマイルスの演奏に、ふさわしくあろうとするかのような文体。過去と現在とが自在に交錯し、やがてすべてが華麗にクライマックスへと流れこむ形式には、いまどき「オール・ザット・ジャズ」かよといぶかる声もあるだろうし、「ストーンウォール」同様こちらも完全にフィクションなのだけれど、普通に伝記映画を撮ってもマイルスという人物は表現できないと言えば、批判への答えとして充分だろう。サングラスを外すとドン・チードルにしか見えないことについてはスルーが吉。
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映画監督
内藤誠
邦題のせいでジャズ好きはマイルスの空白の5年間の謎が知りたくて見る。回想シーンに警官ともめて殴打される有名な事件も出てきて期待がたかまる。だがやがてマイルス秘蔵のテープをめぐり、銃撃戦やカー・アクションが始まると、?然。ドン・チードル主演の「ホテル・ルワンダ」が民族紛争の原因究明よりもアクションに重点を置いたのを連想する。チードルが自分で監督してマイルスを演じたかった情熱は伝わり、偏屈な風貌もよく演じられていたので、最後の演奏には感動した。
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ライター
平田裕介
マイルス版「ヤア!ブロード・ストリート」といったところだが、殺伐としていてコカインまみれなのが彼らしい。さすがに銃をぶっ放し、カー・チェイスまでやらかすのはやりすぎじゃないかなと思うが、カオティックに鳴り響く“電化マイルス”期の楽曲、エレベーターの壁を押して70年代の高層ビルから50年代のクラブへと移動するといったジャンキー視点に満ちた場面転換が効いてきて、気にならなくなる。マイルスに扮したドン・チードルは、髪型で少し冒険してみた彼にしか見えず。
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ぼくは明日、昨日のきみとデートする
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評論家
上野昻志
最近、妙に長いタイトルが目につくが、この映画の場合は、後半で、物語の設定に即したものとわかって、一応納得した。つまり、時間軸が逆向きの二人が、この一時点で逢い、束の間の愛を生きるという、原作由来のアイデアだけで成り立っている物語だったのだ。まあ、いまはメロドラマが成り立ちにくい時代だから、窮余の一策というか、その手があったかと感心はしましたけどね。ただ、電車の中での出会いから始まる恋愛描写、もう少し捻りがないと、嘘くさく見えてしまうのではないか。
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映画評論家
上島春彦
筒井康隆の『佇む人』がヒントなのか、と思って見ていると忘れたころにタイトルがようやく出て、そこから全然違うSFに突入する仕掛けが鮮やか。二つの異界の接触というテーマ、最近いくつか映画(アニメ含む)でもあったが本作は画面が地味な分、後からじわじわ効いてくる。具体的には主人公の青年がどんどんお洒落になっていく演出がもたらす効果である。泣き虫の美少女の涙が逆に青年を泣かせる理由に観客も泣けるぞ。三木作品の常連、野間口徹もよく見るとちゃんと出てるね。
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映画評論家
モルモット吉田
うんざりするほど作られる純愛映画でも、この監督ならと観る気にさせる三木孝浩を持ってしても難易度が高い作品と思ってしまうのは、ヒロインが抱える秘密にあり。SF設定が導入されるが、難病や記憶喪失と扱いが同じでは恋愛劇を都合よく動かすために利用されるだけなので、台詞で一気に説明するだけで納得しろと言われてもねえ。主人公たちもその運命に従うだけで運命を切り拓いたり、未来を変える気もない。小松菜奈の薄い芝居に絶好の理由づけが出来たという意味では画期的。
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