映画専門家レビュー一覧

  • ターザン REBORN

    • ライター

      平田裕介

      燃えるわけでもなく、萎えるわけでもない、実に「ハリポタ」シリーズのD・イェーツらしい仕上がり。アフリカを蹂躙する欧米列強の批判も盛り込んでいるが、そのわりにはコンゴの各部族のセリフがほとんど英語だったりするのは引っ掛かる。とはいえ、「007 スペクター」よりもいきいきとした悪役ぶりを見せつけるC・ヴァルツは◎。人生で初遭遇する女が、まさかのM・ロビー。ひたすら体臭を嗅ぎ、あちこちを撫でまくり、股間に顔を突っ込もうとするターザンに激しくシンパシー。

  • DOPE ドープ!!

    • 翻訳家

      篠儀直子

      成績優秀でおとなしいギークの黒人男子高校生が、西海岸の、犯罪発生率が高い地域で暮らしていくのがどういうことかがよくわかる映画というだけでなく、ちょっと拾いものと言っていい面白さ。「Nigga」という言葉の使い方など、アメリカ文化をある程度知らないとピンときづらいかもしれないし、実際、詳しい人なら笑いどころが増える「あるあるネタ」満載でもあるけれど、詳しくなくても、個性的な人物たちのやり取りはそれだけで楽しい。MDMAの別名には映画ファンもびっくり?

    • 映画監督

      内藤誠

      カリフォルニア州イングルウッドの「どん底」の街で青春の日々を過ごすマルコムは90年代ヒップホップに憧れ、オタクで、そのくせハーバードに進学したいと思う。そのへんは日本の高校生と変わらず、ビルドゥングスロマンの構成になっているのだが、アメリカの貧民都市のイジメの在り方や貧富の格差がハンパではなく、観客は笑った直後に、クスリや拳銃の衝撃で緊張してしまう。フロリダの銃撃事件のあったあとの目で見ると、音楽を楽しみながらもアメリカの危機感が伝わってくる。

    • ライター

      平田裕介

      マイノリティーである黒人たちのなかで、さらなるマイノリティーとして扱われるオタク少年ふたりにレズの少女。「当然、黒人にもいるだろう」と思う彼らの境遇だが、それでも新鮮というかハッとしてしまう。ヒップホップネタがちりばめられているものの軽快な青春+犯罪ものとなっており、オタクならではの知性と人脈を駆使して危機を切り抜け、ワルどもを出し抜く展開も痛快。といった具合に楽しんでしまうわけだが、ラストで繰り出されるヘヴィな問いかけにこれまたハッとしてしまう。

  • シン・ゴジラ

    • 評論家

      上野昻志

      まず、シン=新or真?というだけあって、ゴジラの特徴がよく考えられていて面白い。それが東京湾から都心に向かって、街を徹底的に破壊しながら移動してくるのが、わたしのように、この街にウン十年と生きてきてウンザリしている人間には爽快だった。また、従来のゴジラ映画では、対応する政府関係者が一色だったが、本作は、首相やその周辺と若手官僚たちとの間に違いを出した点も、工夫している。結果、彼らが頑張れば日本も大丈夫というネオ・ナショナリズムになったが。

    • 映画評論家

      上島春彦

      例の伊福部メロディ、来たぞ来たぞゴジラがまた来たぞ♪と言ってるという話だが、物語上は今回が初上陸。つまり現代日本に放射能怪獣投入というのがコンセプトと分かる。物語のネタは割らないが、怪獣出現を予見した孤高の科学者(写真で岡本喜八が出演)の謎のメッセージをオタッキーな若者たちがひもとく、という作り。脇の登場人物が豊富すぎてかえって気が散るものの、東宝怪獣映画ってこうなんだった。シンは新というより進化で、突然変異を繰り返して力を増すゴジラが新機軸。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      震災と米国版を踏まえた温故知新の快作。状況描写に徹したのは実写監督実績からも賢明。主演コンビのアニメ的演技を軸に出演者全員早口+アップ多用で本篇を記号化し、情報と記号を駆使する庵野アニメ演出を応用したのが勝因。84年版「ゴジラ」と同じ轍を踏まぬよう閣僚より官僚主体で描き、国家ならぬ〈この国〉と強調するも庶民の顔は匿名的。庵野のノンポリぶりで良くも悪くも中和させたが。ゴジラのチェレンコフ光に畏怖し、ヤシオリ作戦に落涙した私は今から5回目の再見へ。

  • ONE PIECE FILM GOLD

    • 映画評論家

      北川れい子

      まるで遊びと冒険とスリルが火花を散らし合っている豪勢なカーニバルでも観ているよう。12分に及ぶというゴージャスなオープニングだけで、すでに本篇分のパワーとアクションが詰まっていて、その気前の良さに逆に恐縮する始末。私は格別「ONE PIECE」ファンではないけれども、キャラの弾け方といい、カラフルで流動的な絵といい、今回特に素晴らしい。黒岩勉の脚本も粋で、常連キャラへの目配りもみごと。ただあまり賑やかすぎて、ゴメン、途中でこちらの息が上がりそうに。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      原作もアニメも観たことなかった。初「ONE PIECE」。女性キャラの乳の大きさに驚く。ドゥルーズは『シネマ2』で、“労働者が経営者におかまをほられているのなら、それを見せなければならないのであって、「隠喩化」してはならない”とゴダール映画に見られる“字義性”を評価するが、本作の、黄金を操る能力がある人物が人々に金粉を振りかけてそれによって人々を支配するというのはほとんどこれ。それを打ち破るのが熱血と友情という週刊少年ジャンプ黄金律。飽かずに観た。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      注目すべきは、タイトルにもある〈金〉の表現である。舞台となる絢爛豪華な黄金船“グラン・テゾーロ”は、あらゆる部分が〈金〉で出来ているという設定。そのため、光の明暗や反射はもちろん、陰影においても観客が〈金〉だと判るような色彩設定が為されている。また本作には、日本のカジノ構想に対する或る種の回答がある。メインターゲットである少年少女たちに対して、その是非をサブリミナル的に訴え、彼らが都市計画のあり方を将来考える折のヒントに成り得るのではないか。

  • ラサへの歩き方 祈りの2400km

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      漢民族の監督がチベットの映画を作る。それは政治性と切っても切れない行為である。独立問題の顕在化を恐れる中国政府は、チベットの独自性を謳う映画など存在してほしいとは考えていまい。しかし北京出身の二世監督・張楊は、チベット仏教の長大な巡礼の旅を、大いなる共感と共に撮り上げてしまった。この映画の旅程が冒険であると同時に、その撮影行為自体も、大いなる冒険である。この映画で見るもの聴くものすべてが美しいが、それは政治的危険と隣合わせのものである。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      いやはや、からだを地面に投げ伏しながら、芋虫みたいに移動していく、その有様を延々見せられるのかと覚悟。が、風景の?み方やカット構成のセンスのよさで、心地いい映画の運びとなっている。事故、出産、死、出会いなど道中物のあれこれもたっぷり。しだいにこちらも一緒に旅してる気分になって。この監督のチベットの人たちに対する眼差しには、深い愛と敬意を感じる。同時にそれは、この不屈の民を支配下に置こうとする中国への無言の批判にもなっていると思うのだが、さて?

    • 映画ライター

      中西愛子

      一見ドキュメンタリーのようで、実はフィクション。チベットに暮らす村人たちが出演し、撮影は監督がプロットを書いて進めている。そうはいっても、長い巡礼の間に実際起こった細部は映画に生かされているはず。大地に伏すような祈りをして続ける巡礼は遅々としながらも、そのリズムには謙虚で尊い美しさが宿る。宗教的には違いないが、でもそれは万物や命を素朴に感謝するような種類のもので、観る側も純粋にシンプルな気持ちになるだろう。祈りの疲労感も心地よい。

  • ロスト・バケーション

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      どんな映画か全く知らずに観てしまったのだが、すぐわかりました。最初の方は「イマドキ映像表現がうざいなあ」と思って脳内で「★★」を付けていたものの、ヒロインの孤独な闘いが始まってから次第に盛り上がってきて「★★★」になった。シンプルなストーリーゆえ、あとはひたすらアイデア勝負になるしかないのだけど、特に斬新なわけでもないのに、クライマックスに向かうにつれて、明らかに強度が増してゆく。監督ジャウマ・コレット=セラの腕は確かだと思う。観終わってみれば。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      「ゴシップ・ガール」ではハイブランドの服に高級マンションでセレブ三昧だったライヴリーが、水着一枚で岩肌にへばりついていれば、必然的にショーとしての価値が生まれる。その意味でこれは「ブレイク・ライヴリー」という女優を、海のオリに閉じ込めてサメと戦わせ観賞する徹底的な見せものである。しかし彼女は好奇の視線に食い潰されない奮闘を見せた。女性一人のサバイバル劇における肉体の重要性は「ゼロ・グラビティ」のサンドラ・ブロックも証明した通りである。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      「ジョーズ」は集団パニック映画だが、こちらはサメと人間、それも水着の美女との一対一の死闘だ。撮影技術は「ジョーズ」より洗練されている。サメがいきなり現われるシーンはショッキングだ。サメが執拗に彼女を狙うのは敵愾心なのか食欲なのか? サメにそんな習性があるのか、すでに三人食っているから満腹のはずだなどという疑問は見ている間は全く浮かばなかった。潮の満ち引きという卓抜なアイディアが十分生きていないのは残念だが、良く出来たワン・シチュエーション映画だ。

  • ミモザの島に消えた母

    • 翻訳家

      篠儀直子

      クリスマスの場面以後は地獄絵図というほかなく、主人公はどうすべきだったのかとかいろいろ考えさせられる。でも、この映画を支えているのは主にストーリーの面白さであって、観終わったとき全体の印象が奇妙に薄いのも確か。冒頭の事故が起こる一本道と、重要な場となる海の中道は、物語構造上重なり合っているのだと思うが、たとえば、このフォトジェニックな中道をもっと魅力的に撮ることはできなかったものか。海上を車が突っ走るって、映画として最高にすごい画のはずなのだが。

    • 映画監督

      内藤誠

      少年時代の母の謎めいた死がトラウマとなった主人公ローラン・ラフィットが、執拗に謎を解明しようとして家族のあいだに波風を立てるミステリー。妹役のメラニー・ロランをはじめ、登場人物がキメこまかく配置されていてサスペンスフルだ。オートバイをとばし、死体処理を職業とする女性オドレイ・ダナの存在が物語をひきたてる。筆者もテレビの2時間ドラマでルイ・C・トマの『死のミストラル』を脚色したことがあるが、ノワールムーティエ島のロケなど、さすが映画のスケール。

    • ライター

      平田裕介

      家族だからこそ言いたくない、家族だからこそ訊けない、家族だからこそ隠したい。どんな家族にも、こうしたミステリーやタブーが大小かかわらず存在するはず。ゆえに登場する家族のそれぞれに共感できるし、物語にも引き込まれてしまう。語らぬ父を責めながら、自身も同じように娘と接したことに主人公が気づくサブ・ドラマも悪くない。しかし、自分だけが執着していた謎が氷解してスッキリする主人公だが、他の家族はボロボロな様子。画的には晴れやかに〆るが、彼らの今後が心配だ。

  • ディスタンス(2016)

      • 映画評論家

        北川れい子

        このセルフ・ドキュメンタリーには葬儀のシーンはないが、家族の冠婚葬祭で積年のわだかまりが解消することはよくある話で、ひょっとしたら岡本監督、兄の結婚話をきっかけに、家族にカメラを向けるようになったのか。離婚した両親。祖母。父親と断絶中の兄。カメラを向ける監督は、妙に嬉しそうな声でよく笑い、映される家族たちも、兄以外はテンションが高い。いや兄の言動にしても、監督である妹にある種、迎合している節も窺える。撮影・編集は達者だが、みんな映されたいのね。

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