映画専門家レビュー一覧

  • ザ・ブリザード

    • TVプロデューサー

      山口剛

      海難シーン、救出シーンは大変に迫力がある。ギレスピー監督は良き時代のハリウッド映画への思いが強いらしく、CGを多用しているが、正攻法の撮り方で、昨今の映画に多いこれ見よがしなショットがほとんどないのに好感を持った。ヒロインの描き方にも、男勝りで気の強い往年の名女優たちの面影がうかがえる。もっと人気、演技力のあるドル箱スターを起用して大作にする手もあっただろうが、ディズニー映画らしい渋めのキャストで見ごたえのある作品になっている。

  • ディバイナー 戦禍に光を求めて

    • 翻訳家

      篠儀直子

      R・クロウがこの題材に思い入れがあるのは理解できるのだが、画面構成もつなぎも散漫で、無用な繰り返しが多い上、難題と思われた事柄がみな、主人公のほとんど超能力と言っていいような能力で解決されてしまうため、映画がいっこうにうねりをつくってくれない。でも、オーストラリアの大地にマッドマックスみたいな嵐が襲ってくるところと、ギリシア軍に列車が襲撃されるシーンはわりといい。どこまで描写が正確かはわからないが、第一次大戦後のトルコが描かれているのも興味深い。

    • ライター

      平田裕介

      砂嵐めがけて果敢に馬を走らせるクロウ、異国情緒満点のイスタンブールで佇むクロウ、オルガ・キュリレンコとクサいメロドラマに耽るクロウ、神妙な顔付きでダウジングのL字型棒を持ってうろつくクロウ……。彼の監督&主演だからしかたないが、“俺の映画、ディバイナー”とでもいうべきプロモーション・フィルムと化している。これで演出が冴えていたら観られるが、とにかくベタベタ。名匠巨匠と仕事してきたからといって、彼らのように撮れるわけではないのだと教わった。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      ラッセル・クロウの監督デビュー作は主人公をヒロイックに作り過ぎたため、やや大味な作品になっているが、古風でメロドラマティックな冒険譚を面白く見せてくれる。百年前の戦争とは言え、戦争で子供を失った父親の悲しみ、敵味方、人種を越えた人間同士の関係などは今日的なテーマだ。第一次大戦で連合軍の一員として苦渋をなめたオーストラリア軍の悲劇『ガリポリの戦い』は、メル・ギブソン主演の「誓い」のテーマとなっているので合わせてご覧になると背景がよく判る。

  • ヘイトフル・エイト

    • 翻訳家

      篠儀直子

      閉じこめられた8人がぶつけ合うのは、憎悪というよりも「物語」だ。純正タランティーノ! ところで基本的に室内劇であるこの題材を、70ミリで撮ることにこだわった理由がものすごく気になる。そもそも日本ではデジタル版でしか公開されないのだから、これより上映時間が長く、一部の場面はショットの構図も異なると聞く70ミリ版を観ないことには、監督の意図を正当に評価できないのではという気もする。タイトルバックに流れるモリコーネのテーマ曲のオーケストレーションに感涙。

    • ライター

      平田裕介

      タラ版「龍門客棧」というべきか。とりあえず、OPクレジットで飛び出すウルトラ・パナビジョン70のカッコいいロゴにやられる。ただでさえ舞台は密室、延々かつ畳み掛けるようなセリフの応酬は怨嗟と疑念が込められており、横長過ぎる画面は油断ならぬ人物たちの一挙手一投足を捉えており、過分にサスペンスフル。それでいて根底には、人種間の軋轢とそれが生み出す混沌と悲劇というテーマがしっかと横たわる。それゆえか、サミュエルが放つ銃弾はことさら破壊力があるように思える。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      雪のワイオミングを舞台にした西部劇、しかも密室殺人劇だ。といっても閉塞感は全くなく、ギャグとヴァイオレンス満載のスタイリッシュなアクションドラマだ。南北戦争を背景としたシナリオも見事。ガン首を揃えた常連キャストが皆容疑者で探偵役はS・L・ジャクソン、昨今良い人を演じ過ぎだが、今回は強面のタフガイ。北軍の捕虜に拳銃をつきつけてブロージョッブをやらせるあたりは、「肌の色以外は黒人だ」と自称しているタランティーノの面目躍如。彼の代表作となる傑作。

  • 虹蛇と眠る女

    • 映画監督、映画評論

      筒井武文

      朝の食堂を下着で歩き回る娘の描写から、家庭の不協和音は全開になる。性的ヒステリーの軋みは、娘から夫婦間に転移する。娘とその弟の失踪は、犯罪なのか、オーストラリアの未開地帯の伝承に基づく神隠しなのか、映画は答えない。しかし、フィクションである映画としては、合理性と神秘性をごたまぜにすればいいというものでもないだろう。その積極的な混交は、すべてを意味ありげな時空に放り出し、責任を取らない。ニコール・キッドマンを全裸で歩かせれば済むわけではないのだ。

    • 映画監督

      内藤誠

      ときに砂嵐が襲うオーストラリア奥地の町に引っ越してきたニコール・キッドマンが突然、娘と息子が行方不明という事態に見舞われる。話はミステリー形式で進むのだが、アボリジニの虹蛇神話や町の荒れた人間関係、心の通わない家族、満たされない性の問題など、新人監督が続々と重要なテーマを提示しては、消化しないまま物語を進めていくので、戸惑ってしまう。故郷で主演するキッドマンの意欲はよく分かるけれど、街中で全身裸体になって歩き出す場面は、興行上のハッタリに見えた。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      「ピクニック?at?ハンギングロック」(75)の流れを汲む正当なオーストラリア映画。少女の失踪、思春期の性、帰って来る者と来ない者といったモチーフを、「女性」の生態と深く絡め合わせて描いた脚本もいい。娘役のマディソン・ブラウンはもちろん、母親のニコール・キッドマンが、娘の事件を通して女性性につきまとう苦難の追体験および年齢と共にアップデートするそれを体現。オーストラリアの過酷な自然は時にファンタジーと結びつくが、別の角度から見れば悪夢になる。

  • シェル・コレクター

    • 評論家

      上野昻志

      リリー・フランキー演じる盲目の貝類学者が、採ってきた貝の身を抉り出し、殻を洗う、その手の動きを通して露わになる貝の色と形。自然の造形というか、貝類もまた、なぜ、あれほど多様な形をしているのか、改めてその不思議を思う。この映画は、そのような自然の不思議を喚起しながら、それを忘れ、利用できるものは利用し尽くそうとする人間の傲岸さを、告発とは逆な、ある諦念とともに描き出す。火山が噴火したあと、橋本愛とともに歩む盲目の学者は何処へ行くのか。問いだけが残る。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      リリー・フランキーってなんかすごい。さりげないのに要所要所で存在感ある感。本作は十五年ぶりの単独主演作という紹介もされていて、つまりは「盲獣vs一寸法師」以来の単独主演だと。いい映画だったなあ、「盲獣vs一寸法師」。塚本晋也「野火」のリリー・フランキーはすごかったなあ。誰か解らず観てて、かつ何だかいい役者がいると思ったもの。あれは市川崑版だとたしか滝沢修がやった役だった。この人、もはやすごいポジションに来てる。アート映画で主演してもいいはず。

    • 文筆業

      八幡橙

      人類と自然を巡る終わりなき渦=螺旋。雄大な自然と、その中で生きるものたちの葛藤や欲望、さらに生と死が、貝という生き物の美しくもグロテスクな神秘と共に綴られる。静謐で聖なる空間に俗が踏み込む恐ろしさと不粋、どうにも回避できぬ摂理を思う。ラスト、リリーのシャツの白、橋本愛のワンピースの赤、二人を包む空と海の青のトリコロールに、床屋のポールを想起した。血を抜いて病を治す「しゃ血」に由来するという果てしのない螺旋。空に上る渦が残像となり、胸に沁みた。

  • 断食芸人

    • 評論家

      上野昻志

      カフカの時代とは異なり、21世紀の日本では、断食芸人は、時代相を映し出す鏡として地方都市の片隅に座ることとなる。すると人がワラワラと寄ってきて騒ぎになる、というわけだが、このあたり、足立監督にしては、いささか捻りが足りないのではないか? いまの世間の空気は、もっと冷淡で苛酷な感じがするのだが。後半になると主題が絞り込まれていくのだが、鮮明な輪郭を示す興行師や呼び込み屋に比べ、僧侶の存在の意味がわからない。和田周が印象深い顔をしているだけに。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      足立正生監督の前作「テロリスト幽閉者」で抜群であったのは山本浩司。俳優の起ち上げる虚構の質が監督のそれと一致するのだろう。完全に世代も立ち位置も違うのに奇妙なめぐりあわせだと思った。本作はその山本が中心に来た。確固たる不可思議。スタイルはいまの映画とは明らかに違うが、いま、ここ、を描くのだという意志はどんな最近の映画よりもある。結果、単に現在に似ているということとは異なる、皮を?いだ現実を見せようという映画が現れる。価値のある見心地の悪さ!

    • 文筆業

      八幡橙

      カフカ晩年の短篇を100年近い歳月を経て、“テロリスト”であり、自身も幽閉された経験のある足立監督が映画化。終盤、原作に忠実なあの一言を放つ断食芸人=山本浩司には、「悪い男」のチョ・ジェヒョンにも通じる、ある種の「抜け感」はあったが、全篇を貫くアングラ、エログロ感に、断食を見せつけられながらもお腹いっぱいになったところは否めず。監督が据える確固たる核が正直?み切れず、乗り切れず。演じる面々もどこか手探りで迷いを抱えたままでいる空気さえ感じてしまった。

  • X-ミッション

    • 映画・漫画評論家

      小野耕世

      開巻、山岳を走るオートバイの動きに息をのむ。以後、雪山の滑降、スカイダイヴィング、巨大な波に挑むサーフィンなどエクストリーム・スポーツの難度をあげていくグループの特撮なしの描写は文句なしに超一級だ。しかし、たぶんエヴェレストなどの清掃登山で知られる登山家・野口健氏にヒントを得たと思われるこのグループの行動原理があまりに幼稚なので、FBIが彼らを追うストーリーの深味のなさにいらだってくるかもしれない。危険スポーツの場面に限れば最高作なのだけれど。

    • 映画ライター

      中西愛子

      FBI捜査官候補の青年が、行き過ぎた資本主義社会に抵抗して大胆な強盗を繰り返すアスリート集団に潜入。彼らと友情を築きながらも、捜査官として信じる道を貫いていく。犯罪シーンとなるエクストリーム・スポーツのアクションが、臨場感満点というより漫画っぽくてびっくり。一方、文明と自然を対立させる物語の構図は結構深刻なものがある。2つの価値観の狭間で葛藤する主人公の揺らぎが、まだ色のついていない若手俳優ルーク・ブレイシーの定まらなさと重なってリアルだった。

    • 映画批評

      荻野亮

      「エベレスト3D」のときも書いたけれど、CGの全面的活用に対する反動がハリウッドで確実に起きていて、人間の生身の躍動を見せるものが目立ってきている。数かずのアクションはたしかにすごいのだけど、それはアスリートたちがすごいのであって作品がすごいのではないだろう。たとえば本作よりも「ワイルド・スピード」のほうが面白いとするなら、ここでもう一度問う必要がある、「CGではなぜいけないのか?」と。そうした問いを惹起させるかぎりで重要な作品である。

  • モンスター・ホテル2

    • 映画監督、映画評論

      筒井武文

      ううむ。人間とモンスターが仲良くなって(怪物が擬人化されて)、何が面白いのか。実際、人間の男とドラキュラの娘の結婚式から始まり、生まれた男の子を、人間として育てるか、吸血鬼として育てるか、というドラキュラ父娘の争いが描かれるが、少なくとも、アニメーション表現では、人間と怪物の差異はないに等しいわけだから、混血児がどちらだろうと構うまい。ユニヴァーサル・ホラーの偉大な伝統が、こう貶められているのは(台詞で自己言及もあるだけに)、悲しい限り。

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