映画専門家レビュー一覧

  • フローレンスは眠る

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      本作に対し「蘇える金狼」という映画を、ある種の基準として適用してしまった。既得権益に対する怨念と野心の燃え上がりを観たい。しかしそれは裏切られる。主人公が犯罪で敵対する組織は彼の肉親たちなのだ。これは難しい。明確に判定できないが結局多くの事柄が「甘え」に帰着したのではと疑う。作り手に、兄弟同士殺し合うまでのことを提案したかった。しかし血縁内の政争という次元のバトルと面白さは確実にあった。主人公の台詞発話がキレ不足。前田吟が一番ハードボイルド。

    • 文筆業

      八幡橙

      日本初の兄弟監督と謳われる小林兄弟によるクライム・サスペンス。とのことで、コーエン兄弟ばりのウィットに富んだスリリングなノワールを期待したのだが……。軸となるのは、最初から犯人がわかっている一つの誘拐事件。その?末を、絵で魅せるというよりは、ひたすら台詞で説明しながら展開してゆく。同族会社を形成するキレ者たちが騙し騙され、裏切り合う小気味よさを描きたかったのだと思うが、人物造形が弱く、各人の思惑が見えづらい。山本學、前田吟両氏の盤石さのみ光る。

  • セーラー服と機関銃 卒業

    • 映画評論家

      上島春彦

      私の世代の映画ファンはラストの主題歌だけでじーんと来てしまうだろう。脇を固める俳優陣が相米がらみなのもうれしい。撮影はもちろん長回し主体だが、無理している感じが全くないのに驚いた。相米の方がよっぽど無理していたね。室内のバトル場面の照明が凝っているのも高評価。ただ老人搾取なんて物語じゃなく、もっと荒唐無稽な方がありがたかったが、ばったばったと人が死んでいくあたりは楽しめる。そしてもちろん映画初主演、橋本環奈ちゃんの弾けっぷりを大いに寿ぎたい。

    • 映画評論家

      北川れい子

       ショボい設定と強引、ムリヤリ的な敵集団の描き方に、ゲンナリ、ガックリしながら観ていたせいか、2時間も付き合ったのにセーラー服女優の顔が浮かばない。小柄だったことは覚えているが。冒頭は夢オチふうの派手なシーンで、一瞬ワクワクしたのに、話が進むにつれボルテージが下がり、前田作品のサ・イ・ア・ク。女子高生を食いものにするモデル事務所、軽薄な市長候補者、ヤクザがらみの都市開発企業の薄っぺらさは、こちらまでバカにされている気分。角川映画40周年記念の悪夢。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      自主映画時代から前田×高田の監督脚本コンビを追ってきた者としては躍進を喜ぶ。今どきこの話で往年の角川映画を真似たところで……という視点を明確に持ち、小ぶりながらもカ・イ・カ・ンを伴う良質なジュブナイルに仕立てた力量は見事。相米への目配せをした凝った撮影はラストで最大限に発揮されるが凝り過ぎの面もあり、殴りこみは切れ味に欠く。〈80年代日本映画の武田鉄矢〉の復活は好きな方にはいいだろうが、そうではない者にはクライマックスのダメ押しも含めて悪夢的。

  • 星ガ丘ワンダーランド

    • 映画評論家

      上島春彦

      きわめてオリジナリティの高い脚本で星が伸びた。どうやって撮ったか分からないような垂直俯瞰も含め、撮影が抜群で、車内に雪が降る場面も良い。ウェルズ的かつトランボ的なスノードームも脚本家の映画的趣味の確かさを証明するものだ。小さな駅の遺失物係が主人公で、どこか市川準とかのセンスを継承している気もする。ゴージャスなキャストをわざと地味に使うという手法もその印象を助長する。メインのミステリーは弱いが、むしろ、いちゃもんつける傘おばさんがミステリー。

    • 映画評論家

      北川れい子

      何人もの人物が登場、いろいろな場面があるのに、観終っての印象は口がモゴモゴ、何が言いたいのか、何を言ってるのか、実に掴みどころがない。さしずめイメージが先行、そのイメージに沿ったエピソードを作り、それをつなぎ合わせて一本の映画に仕立てたような。雪道に子どもを残して去っていく赤いコートの母親は、いったい何だ? そして20年、成長した子どもは母親が死んだと知る。駅の忘れ物を巡るエピソードも妙に大袈裟で、閉園となる遊園地はビジュアル効果狙い? 困っちゃう。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      映像先行型の監督が脚本を完成させることができずに絵コンテで描き、プロデューサーが脚本を差し込みで書いて撮影という内情を聞くまでもなく、観ると話はガタガタ。ミステリー要素が入っているので余計に種明かし部分で白けるが、PV、CM出身の映像至上主義監督の作品は、安易なお話と凡庸な映像だけの作品よりも遥かに好意的に観られるので、美しい映像を眺めている分には文句なし。主人公があまりにもナイーブで善人と思わせるが、平気で職権乱用するから、よく分からない奴だが。

  • AUTOMATA オートマタ

    • 映画監督、映画評論

      筒井武文

      人間と人型ロボットは、似ていない。そこに表現の根幹がある。表面は似ていないが、ロボットの思考は、人間に似ている。しかも、ほっておけば、人間を遥かに超えるだろう。あくまで、ロボットを人間に奉仕させるため、制御機能を加えたはずが、何者かに改造されていた。その黒幕を突き止める役が、アントニオ・バンデラスというのは悪くない。しかし、映画においては、人間は人間とは限らない。あの誇張された妊婦の腹は人間のものだろうか。ラストの荒野の決闘以外は、素晴らしい。

    • 映画監督

      内藤誠

      2044年に地球が砂漠化、生存する人類はわずか2100万人。廃墟化した都市で生き残った者が慌てふためく前半は説明的にすぎるが、やがて人間の使用物のロボットたちが感情をもち始め、猿が人間に進化したように、人類が滅亡したあとは、ロボットが地球を支配するという哲学が見えてくると、映画は活気づき、SFならではの見せ場が展開。シビアなシーンのなかに美しいマスクをかぶったロボットのクリオが人類のA・バンデラスと名曲〈ラ・メール〉に合わせて踊るところが泣かせる。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      表向きは今や古典ともいえるロボットと人間の共存関係に迫るSFだが、バンデラスが登場した途端、人間くさい奮闘劇になる。特にロボットたちを相手にほとんど一人芝居と化す荒野でのシーンはその真骨頂だ。ロボットものは制作時の最先端の技術やビジョンを投入すると時が経つにつれてかえって古びる難点があり、「荒廃した未来」はそれを回避できる手段である同時に新と旧のギャップが生む不気味さを演出する効果もあるが、ロボットの造形もロケーションもややイメージに乏しいかも。

  • ロブスター

    • 映画監督、映画評論

      筒井武文

      この監督らしく、世界の境界線が主題になる。しかし、この世界では森と都会の間の境界線ははっきりしない。比較的、簡単に行き来できるように見える。とすれば、人間と動物、もしくは狩りをする側と逃げる側、あるいは独身者とカップルに、その線は引かれるのか。しかし、どうもそうではなさそうだ。世界設定自体が、進行とともに揺らぐのである。曖昧さを武器に、意味ありげに戯れている。これでは、タイトルを裏切っている。コリン・ファレルはロブスターになるべきではないか。

    • 映画監督

      内藤誠

      コリン・ファレルやレイチェル・ワイズ以下の芸達者が荒唐無稽な物語と舞台の設定で、監督の指示に従い、映画作りを楽しんでいる。見たあと、もっと笑えてもいいはずだと思ったけれど、爆笑できないのは、やはり映画がヨーロッパ辺境の歴史や時代性を反映し、考えさせてしまうからだろう。キャラクター中心の大劇場向き人情コメディが好きな人には、お薦めできないが、テリー・サザーン以来の実験的ブラックユーモア映画のファンには必見で、神話から監獄論までいろいろ想像できる。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      恋愛や結婚へのアイロニーに満ちた風刺劇とも、一回りして讃歌とも、メタファーとも、あるいは谷崎もびっくりのメロドラマとも言える多面的な展開。またそれを素直に楽しめる雰囲気ではないところが曲者である。コリン・ファレルやベン・ウィショーをはじめ役者陣のレベルは高いが、ひねりの効いた設定や細かいルールの複雑さにとらわれて一見ではなかなか演技だけには集中しづらい環境も。ポーカーフェイスな演出や作風をユーモアとして楽しむには二度目以降のほうが期待できる。

  • マネー・ショート 華麗なる大逆転

    • 翻訳家

      篠儀直子

      金融関係の知識があれば面白さ百倍だが、そうでなくても面白い。前半はポール・グリーングラス作品の画面にシャレオツなモンタージュを組み合わせ、メタな経済コメディーをやっている感じ。危なっかしい若者二人組をはじめとするチャーミングな人物たちが登場し、わかったようなわからんような、人を喰った「解説」が入るのも可笑しい。だが、ある時点から登場人物たちはそれぞれの理由から、事の重大さに苦悩しはじめる(画面もそれに合わせて転調)。そこもこの映画の重要な見どころ。

    • ライター

      平田裕介

      経済破綻を予測して儲けてもスッキリせず。けっして華麗とはいえない邦題に反した逆転劇を通して金融界の虚無と低劣を浮き上がらせ、ダン池田ばりに“金融界本日モ反省ノ色ナシ”と締めくくる。その姿勢は買いたいが、クセありキャラをこれ見よがしに演じるC・ベイルやR・ゴズリング、ブラピ、筋とは無関係のスターを引っ張り出す用語解説が、なんだか鼻につく。A・マッケイならば「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」のほうが、金融界への怒りがガシっと伝わっていた。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      ウォール街の不正義に挑む四人の男たちが巧みに描かれているので、経済音痴の私も上出来のサスペンス映画を観るようで、十分に楽しめた。不幸にして我々はサブプライムローンの破綻という結末を知ってはいるがネタバレ感はない。ストーンやスコセッシのウォール街ものとは視点が違うし、破産に追込まれた被害者たちを描いたのが「ドリームホーム99%を操る男たち」だから併せて観ると面白い。主人公たちそれぞれの社会観、正義感が提示される結末は気持がよい。

  • マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章

    • 映画監督、映画評論

      筒井武文

      インドを舞台にした英米合作が、本元インド映画を超えるのは難しかろう。冒頭でのアメリカでのシーンでのカット割りの意味のない細かさにへきえきさせられるが、舞台がインドに移っても、インド的な嫋やかな時間の流れはない。芸達者な英国の名優たちが、背景としてのインドと見事に融和し、絵空事の世界を見せてくれる。その馴染んだ空気に風穴を開けるのが、米国人リチャード・ギアで、これは悪くない。ホテルのオーナー役デヴ・パテルとの間の合わない違和感を醸し出す。

    • 映画監督

      内藤誠

      ホテルを舞台にすると多彩な人間関係が描けるので、作り手も楽しいし、演じるほうも張り合える。前作がよかったので、続篇を期待するわけだけれど、今回はホテルの新館を作ろうとする主人公のデヴ・パテルがあまりに常識的で、分別くさく、話がはずまない。それが演技力豊かな老人俳優にも伝染して、湿っぽい作品になった。そこでゲストスターの謎の男、リチャード・ギアの登場となるのだが、ミステリアスとはいかず、キャスト全員で踊るボリウッドダンスの場面が一番よかった。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      前作と同じ監督とは思えないほどバージョンアップが著しい。ベテランの役者陣が危なげない一方、若きオーナーのインド青年は相変わらず軽率で、キャラクターとしても役者としてもイライラさせられたりヒヤヒヤさせられたりするが、クライマックスのダンスシーンになるとバキバキに踊りまくってこれは別人のようにかっこいい。長身に長い手足も劇中で初めてと言っていいほど映える。マサラムービーらしいダンスと身体能力がドラマに上手く組み込まれて最大の見せ場を作っている。

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