映画専門家レビュー一覧
-
モンスター・ホテル2
-
映画監督
内藤誠
第1作では城を人間たちに焼かれて、愛妻を失ったドラキュラ伯がモンスターたちを人間から守るためにホテルを作り、フランケンシュタインなどの妖怪キャラクターが次々に集まってくるテンポがよかった。愛する娘がヒッピーまがいの人間に恋して大騒動になるのがおかしく、好評につき、続篇ということになったわけだ。モンスターの娘が人間と結ばれた結果、生まれてくるドラキュラ伯の孫は、人間かモンスターかという風変りな物語が展開。絵や音響に質感があるので、今回も楽しめた。
-
映画系文筆業
奈々村久生
人間とモンスターの間に生まれた子どもをめぐるドラマは、同一民族や血縁をベースにした家族制度の限界に言及する上で、非常に今日的で可能性のある設定である。生まれてきた孫にドラキュラの血を求める祖父のキャラクターは自分の遺伝子に対する男性の業の深さを物語り、また彼以上に考え方の古い曾祖父の登場は、まさに血は争えないといったところ。フォーマットはポップなアニメなのに土着の泥臭いホームドラマの匂いがぷんぷんする。その結末まで懐古主義になっていたのが残念。
-
-
大地を受け継ぐ
-
映画評論家
上島春彦
原発事故による放射能で自らが住み、耕す土地を汚染されてしまった農夫が現場から語る、その様子をカメラはひたすら捉える。東京から出かけていって話を聞く若者たちの反応は最小限にとどめてあるが、彼らの存在が適切な反響板になっているのは明らか。農夫の父親は事故後、自殺をとげており、この映画は「父の言葉」を受け継ぐものでもある。絶望を語る言葉の力強さに観客は打たれる。汚れていても土地は永遠に耕され続けなければならない、という彼の根拠をしかと聞いてほしい。
-
映画評論家
北川れい子
当初、かなりお手軽に作られたドキュメンタリーだな、と思った。バスに乗って福島の農家を訪ねた学生たちが、その家と土地を継いだ息子から、原発事故後に起こった4年間の話を聞く。息子の脇に控えた母親はほとんど口を挟まない。けれども訥々と話す息子の言葉の重量感は、原発を取材したどんなドキュメンタリーより痛切で、まるでその息子の言葉が“大地”の呟きにも思える。そして大地は絶対にブレたりせず、逃げ出さない。にしても寝そべって息子の話を聞いていた奴は誰だ?
-
映画評論家
モルモット吉田
井上監督の脚本「あいときぼうのまち」に引っ掛けて言えば、「にほんのよるときり」と言いたくなる独白映画だ。全篇にわたる農家の男性の語りは、内容もさることながら、太く響く〈声〉に聞き惚れる。この声と傍らの母親の絶妙な合いの手が、集団からはかき消される感情を拾い上げる。一方で映画の形としては修学旅行生が戦争体験者から話を聞く平和学習と何が違うのかという気にもなる。聴き手側の若者たちをフィクションで作ったとしても本作の声は揺るがなかったろうなと思う。
-
-
ゾンビスクール!
-
映画・漫画評論家
小野耕世
タイトルからゾンビ養成学校(そんなものがあるとして)の映画かと思ったら、小学生たちが凶暴なゾンビと化し、おとなたちがあわてふためくというコメディーだった。イライジャ・ウッドという俳優の最高作は「ぼくの大事なコレクション」という(見ている人が少ない)ウクライナが舞台の映画だと私は思うが、この田舎の学校の臨時職員役もはまっており、まじめな悪戦苦闘ぶりがいい。過去のさまざまな映画を思わせる場面もあり、演技陣がみなどこか楽しげな気分が自然に伝わってくる。
-
映画ライター
中西愛子
給食のチキンナゲットに混入していたバイ菌がきっかけで、小学校の子どもたちが次々とゾンビ化し、教師たちを食い殺し始める。潔いくらいのB級感ゆえ、展開の破綻も憎めない。そんなバカバカしさの中にも、小学校の学級崩壊などが漏れ伝えられるいまの学校事情を、ギャグで風刺しているようなところもあり、アンタッチャブルなラインで冒険している。もっと掘り下げていたら傑作だったかも。ゾンビになってはっちゃける子どもたちはノリノリで、楽しい現場だったんじゃないかな。
-
映画批評
萩野亮
トロマにこんな映画があったような気がしてならんが、どうあれB級映画として二流三流のできばえ。生意気なガキに手を焼いていたボンクラ教師たちの逆襲、という筋書きはよいとして(よくないが)、子どもたちを(ゾンビとはいえ)次々に殺めるのを爽快な演出で見せるのは後味がよろしくない。学園崩壊をゾンビの隠喩でやるなら、それこそトロマのようにとことんグロテスクにやらないと戯画として成立しない。製作にも一枚?んだイライジャ・ウッドはどこへ向かっているのか。
-
-
探偵なふたり
-
映画・漫画評論家
小野耕世
映画のなかに韓国で人気のTVアニメ『名探偵コナン』への言及があるが、この映画のほうは『コナン』のような明るさが(一見ありそうで)欠けているように感じてしまうのは、劇中で描かれる連続殺人事件が陰惨にすぎて私にはうまく乗っていけないのと、事件の謎解きが複雑すぎるからかもしれない。逆に、この複雑さを楽しむミステリー映画好きもおいででしょう。韓国では大ヒットのようだが、日本のテレビで相棒ものになじんだ目には、ユーモアをもっとはずませて欲しかった。
-
映画ライター
中西愛子
殺人事件を追う硬派な推理サスペンスと、子育てにも励む恐妻家のほのぼのコメディーが絶妙にミックス。まんが喫茶店長にして推理オタクのブロガーに扮するクォン・サンウが、実に面白い味わいで、この乖離するジャンルを魅力的につなげている。相棒的存在となる切れ者刑事役のソン・ドンイルも、ひそかにお茶目でいい。刑事もののパロディーに終わらず、すべての伏線に、韓国の夫婦関係を見つめる鋭いまなざしと問いが込められていて興味深い。奥さんの肩を揉むサンウが個人的にはツボ!
-
映画批評
萩野亮
良質な娯楽映画。アラフォーにしてますますチャーミングなクォン・サンウと、白髪交じりの似合うソン・ドンイルの画面のおさまりが実によい。テレビ的というかキャッチーすぎる感じもするが、安心して最後まで見ていられる。どこか「殺人の追憶」を想起させる薄気味悪い事件とハードな死体描写で映画の骨格を固めつつ、小ネタやアクションをからめる演出はみごと。小型自転車(坂をのぼれない)のチェイスシーンなど、空間把握のうまい監督だと思う。シリーズ化できそうなパッケージ。
-
-
Maiko ふたたびの白鳥
-
映画監督、映画評論
筒井武文
これは誰に向けて撮っているのだろう。バレリーナの芸術性を描いているとは思えないし、バレエ団の内幕ものでもないし。ノルウェーで、東洋初のプリンシパルになった西野麻衣子とその浪速の肝っ玉母さんとの愛情物語なのだろうか。そのお母さんに捧げる映画であれば納得できなくもない。後半の出産、それを経て舞台復帰できるかというサスペンスが軸になるのだが、それであれば冒頭あたりで、演目の『白鳥の湖』の舞台袖からの映像は見せない方がよかったのではないかしら。
-
映画監督
内藤誠
ノルウェーで活躍するバレリーナ麻衣子は大阪出身の「ど根性」女子を絵にかいたようなキャラクター。笠置シヅ子に雰囲気の似た母親も愛嬌たっぷりで笑わせる。十五歳でロイヤルバレエスクールに留学して、いろいろ苦労はあったのだろうが、ハッピーエンドに向かって一直線のドキュメンタリーだ。オスロの風景もヒロインの住まいも清潔で美しく、周辺にも悪意のある人間は一人も登場せず、彼女が出産して舞台に復帰することを祝福。日本の「マタハラ」ということばが恥ずかしくなる。
-
映画系文筆業
奈々村久生
体型の変化が見た目にもキャリアにもダイレクトに反映されるバレリーナという職業だからこそ、その妊娠と出産、産後の復帰にフィーチャーした視点が生きる。膨らんだお腹でレッスンに臨む麻衣子の姿はその画だけで何重もの意味を持つ。何カ月まで踊れるのか? そこまでして踊る理由は? 母体と子供の安全を考えても踊るべきなのか? などなど。惜しむらくは、問題提起は豊富なのに、それに対する劇中での見解が曖昧なこと。母としての復帰が意味するものを掘り下げて欲しかった。
-
-
牡蠣工場
-
映画・漫画評論家
小野耕世
人々の生活風景は小さな部分から次第に変っていき、気がついたときには時代が変っていた。それは新しい「スター・ウォーズ」の映画を観ても感じたが(この比較を笑って下さい)、これは瀬戸内海をのぞむ牡蠣工場の日常をじっくり追って描くなかで、仕事場の状況が変っていくさまをとらえていく。牡蠣むきは女性のほうが巧みなのはあせらないからで、この映画も長さが重要なのだ。見終ってこの作品の主役は白い猫だと思うのは、この猫が人間たちを尻目に自分を貫いているからだ。
-
映画ライター
中西愛子
瀬戸内海にのぞむ岡山の町・牛窓。牡蠣の産地。この地に数週間入り込み、カメラを回す想田和弘が、人々の暮らしの中からグローバル化、少子高齢化、過疎化、震災など、いまが抱える問題を浮かび上がらせる。印象としては、意外と華やいだ作品なのだ。それは、カメラを持って問いかける監督の存在が、被写体となる人々に何らかの刺激を与えていて、その時間は彼らにとって少し特別なハレの日常になっているからじゃないだろうか。登場する人々が妙に魅力的。監督のフィクションも観たい。
-
映画批評
荻野亮
夢中になって見ていた。瀬戸内の冬を呼吸するような編集のリズムがとてもよい。小さな漁港から移民労働や震災復興といったニッポンの現在が浮き彫りになる構成だが、想田監督の作品歴ではおそらくテーマに対してもっともひかえめな作品で、そのことがほどよく観客の想像力を刺戟してくれる。合衆国の病巣をえぐり出すワイズマンの犀利な「観察」とは異なる、独自のやわらかい観察眼がもっともよくあらわれた一作だと思う。すばしこい子どもたちと白猫シロちゃんの活躍がいたって愉快。
-
-
もしも建物が話せたら
-
翻訳家
篠儀直子
6人の監督のアプローチはさまざまで、観れば必ずお気に入りのパートがあるかと。ベルリン・フィルハーモニーを取り上げ、都市の文化と歴史、建築家の人生、建物のコンセプトを重ね合わせたヴィム・ヴェンダースのパートは模範的な仕上がり。マイケル・マドセンの撮るハルデン刑務所は監視の力学と内部の暮らしを鮮やかに浮かび上がらせ、「バレエボーイズ」にも登場した美しい建造物、オスロ・オペラハウスのパート(マルグレート・オリン監督)は、バックステージ物のような面白さ。
-
ライター
平田裕介
どの建物も、なにかしら名を耳にし、姿を目にしたことがあるものばかり。だからこそ、建造物自身の目線と言葉で、歴史や存在意義を伝えるのはユニークだし、監督各々の手腕も如実に反映されていて楽しめる。だが、そうなってくると一篇約25分なのが物足りなく感じ、一棟にじっくりと迫った連作にしたほうが良かったのでは思ってしまう罪な作品。なぜかレッドフォードだけがコンセプトを無視し、建物に関わる人々に語らせている。もしも誰かが彼と話せたら、そこを注意してほしい。
-
TVプロデューサー
山口剛
優れた建築家は常にユートピアの創造を目指すのだろうか? 6人の監督が描く6つの建物にはどれもそんな志が覗える。マイケル・マドセンの撮るハルデン刑務所は懲罰の場所と云うよりはまさにユートピアだ。自宅を自慢する如くカメラに向って思わず笑みを見せる受刑者の顔は忘れがたい。ベルリン・フィルハーモニーのホールに守護神の如く現れる建築家の亡霊はまさにヴェンダースの映画だ。3時間近いドキュメンタリーだが、それぞれの監督の個性が興味深くいつしか時間を忘れる。
-