映画専門家レビュー一覧

  • デビルズ・ゲーム

    • 批評家

      佐々木敦

      連続猟奇殺人犯と刑事の人格が入れ替わるという設定にはホント韓国映画っていろんなことを思いつくもんだなあと半分呆れつつも感心させられたのだが、当然ながらそれだけで済むはずもなく、中盤からツイストを利かせた展開になる。とはいえ、どうせ何でもありなんだから、もっと話をややこしくしてもいいのにと思ってしまった。残虐描写がだいぶ激しいのだが、これも定番といえば定番。サイコパスの殺人鬼に負けず劣らず刑事もムチャクチャ暴力的で、何が正義なのか段々わからなくなった。

    • ノンフィクション作家

      谷岡雅樹

      殺人鬼と刑事の身体が入れ替わる予告篇に期待が高まる。そんなことが可能なのか。秘密を知るのは当人たちだけ。いや、善玉の若き相棒刑事が知る。だが信じられるのか。ホラー映画の作りだ。SFなのか。それとも寓話なのか。アクションあり、謎解きありの刑事物の体裁だ。映画は、大きな嘘を一つだけつける。ただし小さな嘘はつけない。この嘘はしかし、あまりに大きすぎるのではなかろうか。肉を裂くグロテスクシーンの味付け。社会的背景や心理的探究よりも猟奇趣向の勝る描写と、私には感じられた。

  • 35年目のラブレター

    • 映画評論家

      上島春彦

      実話由来とはいえ脚本家のやりたかったのは途中で夫婦のラブレターの意味が攻守交替する場面からだな。実際「やられた感」のきわめて高い脚本であり私もいわゆる涙腺崩壊。また今ではほとんど現物を見ることもない高機能タイプライターの彫りの深い筆圧がパソコンとは違った味わい深い細部を醸し出す。この仕掛けを思いついたとき、監督は勝利を確信したに違いない。シャレばっかり言ってる台詞も効果的。主人公夫婦を演ずる4人もいいし徳永えり、江口のりこ、安田顕の好助演も光る。

    • ライター、編集

      川口ミリ

      悪くない瞬間もある。冒頭、笑福亭鶴瓶が横で眠る原田知世をいとおしそうにじいっと見つめる。と突然、原田が「なんなん!?」と寝言。鶴瓶が「どんな夢や」と突っ込む。長年連れ添ってきた夫婦の関係性がスマートに伝わる、微笑ましい切り返しだ。若い頃を演じた重岡と上白石もチャーミング。しかし映像のリズムが喜劇寄りの作品にしては単調だし、特に夜間中学の群像シーンの見せ方が通り一遍。そもそも鶴瓶と原田という、男性がかなり歳上のペアを夫婦役に起用するのも古く、ややうんざりした。

    • 映画評論家

      北川れい子

      どの夫婦にも歴史あり。映画化されたこの夫婦の実話はすでに知ってはいたが、読み書きができない悔しさ、不自由さを含め、過去、現在のエピソードがかなり淡々としていて、安心して観ていられる分、映画としてはいささか単調過ぎる。ま、実話だけにわざとらしいヤラセ話はムリとしても、どこかにガツンとくる場面が欲しかった。とはいえ鶴瓶と原田知世の夫婦役は大いに新鮮でベタベタしていないのもいい感じ。鶴瓶が通う夜間中学の先生役・安田顯も頼もしい。

  • フライト・リスク

    • 映画評論家

      鬼塚大輔

      トランプによって映画特使に任命されたメル・ギブソンがハリウッドの操縦桿を握るというのには(他2名の人選も含め)米映画界にとってリスクしか感じられないが、ガッチリとした演出の中にトレードマークである人体破損と執拗な暴力をしっかり入れ込んでくるあたり、監督としての力量は確かだ。マーク・ウォールバーグは、ひさびさとなる悪役を気持ち良さげに演じているが、これはやはりギブソンが自分で演じていれば、もっと面白く、さらに怖くなったはず。

    • ライター、翻訳家

      野中モモ

      「こういうの90年代によく観た気がする」コンパクトなアクション映画。眼下に広がる雪と氷に覆われたアラスカ山脈は劇場の大画面に映えることだろう。そのうえ4DX上映もあるの!? 同じ作品でも鑑賞する環境次第でまったく違う体験になりそうだ。主な登場人物3人のうち最もヒロイックに銃を構える役が女性に配されているあたりは今世紀の作品らしい。とはいえメル・ギブソンがゴリゴリの宗教保守として問題行動を重ねてきたことを思うと、頭を空っぽにして楽しもうとしても苦みが残る。

    • SF・文芸評論家

      藤田直哉

      これまでの、こってりしたメル・ギブソン監督作品は嫌いじゃないのだが、今回は不発。軽飛行機の中、主要人物は三人だけ、リアルタイムに近い時間の流れで、緊急事態に観客を臨場させようとするのは分かるし、面白いが、物語の展開に驚きが乏しかった。なにより、全体を通した(現代の政治状況を思わせる)「不信と信頼」の主題系に対する落とし前、解決策の提案がないのがあまりに殺風景で、投げやりな印象を受ける。荒涼と孤独こそが現在の実存的リアルだとしても。

  • Playground/校庭

    • 映画評論家/番組等の構成・演出

      荻野洋一

      ベルギーにおけるいじめを描くが、マスターショットを除外し、主人公のヨリだけをフォローしていく。なぜこんなにダルデンヌ兄弟の真似をしようと思ったのだろう。そこに何が生起しつつあるかよりも、主人公にどう見えているかのみを追求する姿勢は、ひとつの見識ではある。ただし流行りの被写界深度浅めのルックは対話の余地も発見の細部も遮断し、単一方向へと頑迷に流れるのみ。カメラの切り返し、精神の切り返しが重要だ。ゴダールの画面も被写界深度浅めだったが、切り返しが主役だった。

    • アダルトビデオ監督

      二村ヒトシ

      子役の演技が達者な映画を観ると、いつも「すごいな」と思いつつ「大丈夫なのかな」とも感じてしまう。外国語の映画を観ると、上手に見える演技(子役にかぎらず)が的確なのかどうかがネイティブでない僕には本当にわかってんのかなといつも疑ってしまうが、この映画の子役はすごい。ますます「大丈夫なのかな」と思う。あと映画と現実ということも考えてしまう。ほんとは子どもたちに観てほしい映画なのだが、観せられる機会は少ないだろう。こういう映画をなんとか学校で上映できないものか。

    • 著述家、プロデューサー

      湯山玲子

      学校という閉じた空間の中で、子どもたちが社会性とそれとは無関係ではない“悪”を、恐怖や不安を発火点に経験していくさまは、ルソーの教育論『エミール』の合わせ鏡のよう。特筆すべきは映画全体を覆うかなりの音量の子どもたちが発する自然音BGMで、それすなわち、彼らのエネルギーの強さと生命力を表徴。この体感的な演出も含め、子どもの世界特有の理性&思惑なしの言動を、細部にわたり見事に映画に喚び活けている。お兄さん役のギュンター・デュレの暗い色気は、今後要チェック。

  • デビルズ・ゲーム

    • 映画評論家

      川口敦子

      たまたま直前にペキンパー「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」を見た。ニワトリの頭は飛ぶし、ぐしゃっと潰れるし、血も肉片も――だが、げんなりはしなかった。また見たいと思った。直後に見たこのキム・ジェフン監督・脚本作の暴力描写にそういう誘惑的な血飛沫はなく映画としての暴力の美学も感じられなかった。比べるのが悪い? かもしれないが猟奇のための猟奇、けばけばしく血や肉を彩るケミカル色の照明にうんざり。筋のひねりも救いにはならず、げんなりを吹き飛ばしはしなかった。

    • 批評家

      佐々木敦

      連続猟奇殺人犯と刑事の人格が入れ替わるという設定にはホント韓国映画っていろんなことを思いつくもんだなあと半分呆れつつも感心させられたのだが、当然ながらそれだけで済むはずもなく、中盤からツイストを利かせた展開になる。とはいえ、どうせ何でもありなんだから、もっと話をややこしくしてもいいのにと思ってしまった。残虐描写がだいぶ激しいのだが、これも定番といえば定番。サイコパスの殺人鬼に負けず劣らず刑事もムチャクチャ暴力的で、何が正義なのか段々わからなくなった。

    • ノンフィクション作家

      谷岡雅樹

      殺人鬼と刑事の身体が入れ替わる予告篇に期待が高まる。そんなことが可能なのか。秘密を知るのは当人たちだけ。いや、善玉の若き相棒刑事が知る。だが信じられるのか。ホラー映画の作りだ。SFなのか。それとも寓話なのか。アクションあり、謎解きありの刑事物の体裁だ。映画は、大きな嘘を一つだけつける。ただし小さな嘘はつけない。この嘘はしかし、あまりに大きすぎるのではなかろうか。肉を裂くグロテスクシーンの味付け。社会的背景や心理的探究よりも猟奇趣向の勝る描写と、私には感じられた。

  • Underground アンダーグラウンド

      • 評論家

        上野昻志

        暗闇に光が点滅する。通り過ぎる地下鉄の光が支柱に反射する。音が響く。地下道の壁に影が揺れ動く。その影に手が伸びる。女性の手が樹木に文字をなぞる。その手は鉢植えの枝を撫でる。壁面に刻まれた像をさする。その感触が、確かに伝わってくると覚えるのはなぜか。地下に印された痕跡とその記憶。それを探る彼女の旅は、沖縄のガマにも到り、鍋底に残る骨にも触れる。ガマの開いた口から見える海が美しい。光と影を捉える撮影はもとより、そこに谺する音響が素晴らしい!

      • リモートワーカー型物書き

        キシオカタカシ

        “風景”や“場”を映し出すドキュメンタリーが好きである。風景の下に在る想いや歴史の深さを覗き見ることで、自分の感情まで深化する瞬間が好きである。そして何より、地下世界が好きである。……以上の“癖(ヘキ)”を持っているものだから、本作とは生理感覚レベルで呼吸が合った。そんな感覚面のみならず、“シャドウ”と呼ぶには実存性が高いアバターを媒介にして歴史の流れに入り込んでいく、思索の旅としても刺激的。尺はまったく違う作品だが「占領都市」に近い感慨を味わえた。

      • 翻訳者、映画批評

        篠儀直子

        ドキュメンタリー映画と実験映画の境界を行く小田香作品。吉開菜央演じる非現実の存在(サンダル履きで洞窟に入っていくのも、エジプトやギリシアの女神にも似た存在だからだろうか)を導き手として、地下に埋もれた歴史と記憶の層をたどる。地下世界の壁面で光と影が戯れるさまは、まるで映画館の暗喩のようだ。ともすれば環境映像のように消費されかねないところを、ガマの出来事の証言と、姿を見せることのない米軍機の音が切り裂く。それがバランスを崩しているという向きもあるかもしれないが。

      • 評論家

        上野昻志

        暗闇に光が点滅する。通り過ぎる地下鉄の光が支柱に反射する。音が響く。地下道の壁に影が揺れ動く。その影に手が伸びる。女性の手が樹木に文字をなぞる。その手は鉢植えの枝を撫でる。壁面に刻まれた像をさする。その感触が、確かに伝わってくると覚えるのはなぜか。地下に印された痕跡とその記憶。それを探る彼女の旅は、沖縄のガマにも到り、鍋底に残る骨にも触れる。ガマの開いた口から見える海が美しい。光と影を捉える撮影はもとより、そこに谺する音響が素晴らしい!

      • リモートワーカー型物書き

        キシオカタカシ

        “風景”や“場”を映し出すドキュメンタリーが好きである。風景の下に在る想いや歴史の深さを覗き見ることで、自分の感情まで深化する瞬間が好きである。そして何より、地下世界が好きである。……以上の“癖(ヘキ)”を持っているものだから、本作とは生理感覚レベルで呼吸が合った。そんな感覚面のみならず、“シャドウ”と呼ぶには実存性が高いアバターを媒介にして歴史の流れに入り込んでいく、思索の旅としても刺激的。尺はまったく違う作品だが「占領都市」に近い感慨を味わえた。

      • 翻訳者、映画批評

        篠儀直子

        ドキュメンタリー映画と実験映画の境界を行く小田香作品。吉開菜央演じる非現実の存在(サンダル履きで洞窟に入っていくのも、エジプトやギリシアの女神にも似た存在だからだろうか)を導き手として、地下に埋もれた歴史と記憶の層をたどる。地下世界の壁面で光と影が戯れるさまは、まるで映画館の暗喩のようだ。ともすれば環境映像のように消費されかねないところを、ガマの出来事の証言と、姿を見せることのない米軍機の音が切り裂く。それがバランスを崩しているという向きもあるかもしれないが。

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