河瀬直美 カワセナオミ

  • 出身地:奈良県奈良市
  • 生年月日:1969/05/30

略歴 / Brief history

【自身の出自に根ざして家族と故郷を繰り返し描き続ける】奈良県奈良市出身。1歳半の時に両親が別居し、母方の叔母夫婦に育てられ、養女となる。中学時代よりバスケットボールに熱中し、奈良市立一条高校入学後はバスケ部のキャプテンをつとめ、県代表として国体に出場。他方で番組制作に興味を抱き、大阪写真専門学校(現・ビジュアルアーツ専門学校)映画科に入学し、高嶺剛に師事して映像制作を学ぶ。1989年に同校卒業、カラオケビデオ制作会社、母校の講師職を経るなか、幼い頃に生き別れた実父を捜す過程を描いた自主映画「につつまれて」(92)、養母との日常を綴った「かたつもり」(94)が、95年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で国際批評家連盟賞と奨励賞を受賞。同時期に中編映画「白い月」(93)がPFF招待作品に選ばれるなど、20代前半よりドキュメンタリーと劇映画の両方を旺盛に発表する。故郷の奈良を舞台に一家族の解散を描いた劇映画デビュー作「萌の朱雀」で、97年のカンヌ映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少の27歳で受賞し、世界的な注目を浴びる。続く「火垂(ほたる)」(01)は、ロカルノ国際映画祭で国際批評家連盟賞と、ヨーロッパ国際芸術映画連盟賞をダブルで受賞。デビュー以降、発表作品の多くが国際映画祭に出品され、現役日本人女性監督の中でもっとも世界的に有名な監督となる。なお、この時期は仙頭直美名義で活動。そして07年、再び奈良を舞台にした「殯の森」がカンヌ映画祭グランプリを受賞、名声を不動のものとした。企画制作会社・組画を率いつつ自身の生まれ育った奈良を拠点に創作を続け、劇映画、ドキュメンタリーと並行して文筆活動、CF制作など多岐にわたる活動を展開。2010年より開催する“なら国際映画祭”では、エグゼクティブ・ディレクターをつとめる。【“生と死”への執着】最初に注目された自分史ドキュメンタリー「につつまれて」「かたつもり」の頃より、“家族”と“故郷・奈良”を重要なテーマとして繰り返し描き続ける。「萌の朱雀」での父親の失踪、「火垂」の祖父母に養育される主人公男女など、出自が形を変えて作品内に盛り込まれるところから、私小説的な映画作家の系譜に連なるといえよう。役者の生理を引き出す即興演出に長け、とりわけ「火垂」における街中でゲリラ撮影した踊りのシーンや、「沙羅双樹」のバサラ祭り、「殯の森」の森など、日常生活の中に立ち現われる祝祭的な空間も河瀨映画の個性である。「沙羅双樹」では出産シーンを自ら演じ、続く「殯の森」では死者への悼みを描くなど、“生と死”への強い執着がみられ、また自分を前面に出す作風から観客の好悪を呼びやすい作り手でもある。結婚・出産を経た近作には女性の肉体のエロティシズムが色濃く反映され、自身の出産体験を素材にしたドキュメンタリー「垂乳女」(07)にはこれら特徴がすべて盛り込まれた。

河瀬直美の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 霧の淵

    制作年: 2023
    京都芸術大卒業制作作品「ROLL」でなら国際映画祭2020 NARA-wave観客賞を受賞した村瀬大智監督が、同映画祭の映画製作プロジェクトNARAtive(ナラティブ)2022にて手がけた人間ドラマ。老舗旅館を営む家に生まれたイヒカ。ある日祖父が姿を消してしまい……。主人公のイヒカをオーディションで抜擢された奈良県出身の三宅朱莉が、イヒカの母・咲を「喜劇 愛妻物語」の水川あさみが、イヒカの父・良治を「ケイコ 目を澄ませて」の三浦誠己が、イヒカの祖父・シゲを「みとりし」をはじめ数々の作品に出演する堀田眞三が演じる。なら国際映画祭2022にてプレミア上映。
  • 東京2020オリンピック SIDE:B

    制作年: 2022
    2021年開催の東京2020オリンピック競技大会を記録したオリンピック公式映画二部作の一つ。大会関係者やボランティア、医療従事者、一般市民ら非アスリートに焦点をあて、1年延期、ほぼ無観客で開催され、多くの問題が噴出し批判も集まった異例の大会を映す。オリンピック公式映画は、1912年の第5回ストックホルム大会以来撮り続けられている。「朝が来る」「萌の朱雀」の河瀬直美監督が総監督を務め、総勢150人のスタッフによる、750日間、5000時間に及ぶ記録から、アスリートを中心としたオリンピック関係者に焦点をあてた「SIDE:A」と本作「SIDE:B」が紡がれた。
  • 東京2020オリンピック SIDE:A

    制作年: 2022
    2021年開催の東京2020オリンピック競技大会を記録したオリンピック公式映画二部作の一つ。アスリートを中心としたオリンピック関係者に焦点をあて、新型コロナウィルス感染拡大を受け1年延期、無観客で開催された大会に臨む選手たちの情熱や苦悩を見つめる。オリンピック公式映画は、1912年の第5回ストックホルム大会以来撮り続けられている。「朝が来る」「萌の朱雀」の河瀬直美監督が総監督を務め、総勢150人のスタッフによる、750日間、5000時間に及ぶ記録から、本作「SIDE:A」と大会関係者やボランティア、医療従事者、一般市民ら非アスリートに焦点をあてた「SIDE:B」が紡がれた。第75回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクションCANNES CLASSICS部門選出作品。
  • 再会の奈良

    制作年: 2020
    なら国際映画祭が期待の若手映画監督を招き、奈良を舞台に映画を製作するプロジェクト「NARAtive」の最新作。中国残留孤児の「麗華」を探すために来日した養母と、少なからぬ縁で手を貸す若い娘、元警察官の男の旅が、切なくもユーモラスに描かれる。なら国際映画祭のエグゼクティブ・ディレクターであり奈良出身の河瀨直美と、「長江哀歌」「罪の手ざわり」のジャ・ジャンクーがエグゼクティブプロデューサーを務め、中国出身のポンフェイを監督に迎えてオリジナル脚本で製作された。ポンフェイ監督はデビュー作“Underground Fregrance”や「ライスフラワーの香り」がヴェネツィア国際映画祭で評価された新鋭。引退した警察官の一雄を「萌の朱雀」「哭声/コクソン」「MINAMATA-ミナマタ-」などで国際的活躍を見せる國村隼、中国から養女の麗華を探しにきた陳ばあちゃんに「妻の愛、娘の時」のウー・イエンシュー、中国残留孤児の娘で孤独を抱えて生きるシャオザーに注目の若手女優イン・ズー、物語の鍵を握る人物として永瀬正敏など、日中を代表する実力派俳優が顔を揃えた。
  • 朝が来る

    制作年: 2020
    直木賞作家・辻村深月の小説を河瀨直美が映画化したヒューマン・ミステリー。特別養子縁組で男の子を迎え入れた栗原清和・佐都子の夫婦。6年後、生みの母を名乗る女性から「子どもを返してほしい」と連絡が入る。やがて2人の前に、その女性が現れるが……。出演は「八日目の蝉」の永作博美、「嵐電」の井浦新、「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の蒔田彩珠。
    92
  • 静かな雨

    制作年: 2020
    宮下奈都による同名小説を原作に「わたしは光をにぎっている」の中川龍太郎監督が映画化。大学の研究助手・行助は、こよみという女性が経営する鯛焼き屋に通い始め、次第に2人は親密になっていく。そんなある日、こよみが交通事故に遭い記憶障害を抱えてしまう。行助を「タロウのバカ」の仲野太賀、こよみをアイドルグループ『乃木坂46』を卒業し、本作が劇場映画デビューとなる衛藤美彩が演じる。第20回(2019)東京フィルメックス コンペティション参加作品。
    0