ケン・ローチ ケンローチ

  • 出身地:ワーウィックシャー州ナニートン
  • 生年月日:1936/06/17

略歴 / Brief history

【イギリス労働者階級の現実を鋭くとらえる社会派の名匠】イギリス、ワーウィックシャー州ナニートンの生まれ。電気工の父と仕立て屋の母の間に生まれ、オックスフォード大学で法律を学ぶ。卒業後はさまざまな劇団で俳優や演出家として働き、1963年、BBCテレビに入社。テレビ演出家として数々の作品を手がける。67年、「夜空に星のあるように」で映画監督デビュー。続く「ケス」(69)は、貧しい労働者階級の少年と鷹を題材にイギリスにおける労働者階級の厳しい現実をリアルに描き出し、初期の代表作とした。以後もテレビ作品を含め、労働者階級の人々の生活を独自のスタイルで描き続け、イギリス本国や欧米では早くから評価と支持を得ていた。日本で知られるようになったのは、93年に「リフ・ラフ」(90)、「レイニング・ストーンズ」(93)が連続公開されてから。一貫してイギリス社会を見つめてきたローチだが、95年の「大地と自由」ではスペイン内戦で反ファシズムのために戦った青年たちの理想と幻滅を描き、96年の「カルラの歌」ではニカラグア人女性に恋をしたスコットランド人男性が、ニカラグアの凄まじい内情に触れて人生観を変える物語を描くなど、国外の内戦や紛争にも目を向けるようになる。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの三大映画祭で数々の賞を受賞している常連でもあり、「麦の穂をゆらす風」(06)でカンヌ映画祭のパルムドールを獲得。2009年の「Looking for Eric」、10年の「Route Irish」もいずれもカンヌに出品されている。【脚本なし、素人俳優を起用】フリーシネマの末尾にテレビ界から登場したローチは、初期よりドキュメンタリー・タッチの社会派を特徴としている。BBC時代に培った手法をフィクションに応用、過酷な現実を生きる人々の姿をリアルに切り取るスタイルを主軸とした。作品によっては役者にシナリオが渡されず、そのシーンの撮影直前に初めてセリフが手渡されることもあるという。また、素人俳優を好んで起用し、彼らの人生体験、方言、演技を意識しない身ぶりを映画の持ち味にすることも多く、これらの傾向もフリーシネマの流れを汲むものだ。左翼を自称するローチは、長らく英国内の社会問題をテーマにしてきたが、第一線への復帰を経た90年代半ばから海外の内戦や紛争を描くことが増えた。2000年代に入ってからは、ロサンゼルスに生きる中南米の労使間闘争を描いた「ブレッド&ローズ」(00)で新境地を開く一方、「SWEET SIXTEEN」(02)、「この自由な世界で」(07)など、自国の雇用問題や貧困を扱うローチならではの題材にもさらに鋭く斬り込み、奥行きと幅を広げている。いずれも政治的内容を扱う社会派作品だが、焦点はあくまで日常生活を送る市井の人々にあることは変わりない。

ケン・ローチの関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 家族を想うとき

    制作年: 2019
    「わたしは、ダニエル・ブレイク」のケン・ローチ監督が引退宣言を撤回し、時代の波に翻弄される家族の絆を描いた人間ドラマ。マイホームを建てるため父はフランチャイズの宅配ドライバーになるが、過酷な労働条件に振り回され、家族との時間を奪われていく。労働時間を定めずに締結される労働契約、いわゆるゼロ時間契約について取り上げている。第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。
    91
  • 水と砂糖のように

    制作年: 2016
    ルキノ・ヴィスコンティ監督の「揺れる大地」などに携わりイタリア映画黄金時代を築いた一人、撮影監督カルロ・ディ・パルマを追ったドキュメンタリー。映画監督や関係者の証言や彼が撮影した映像を交え彼の功績を振り返ると共に、映画黄金時代の核心に迫る。数々の作品で組んだウディ・アレンはじめヴィム・ヴェンダース、ベルナルド・ベルトリッチ、ケン・ローチらが出演。ディ・パルマと人生を共にしたアドリアナ・キエサがプロデューサーを務める。
  • ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生

    制作年: 2016
    イギリスの巨匠、ケン・ローチのドキュメンタリー。監督自身はもちろん、多くの関係者にインタビューを行い、BBC時代の作品や『ケス』『麦の穂をゆらす風』などの代表作を振り返りながら、ケン・ローチの生涯とキャリアを明らかにする。【スタッフ&キャスト】監督:ルイーズ・オズモンド 出演:ケン・ローチ/キリアン・マーフィー
    80
  • わたしは、ダニエル・ブレイク

    制作年: 2016
    ケン・ローチ監督が二度目のカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた社会派ドラマ。ダニエルは心臓疾患により医師から仕事を止められるが、複雑な制度に翻弄され支援を受けられない。手助けしたシングルマザーの家族と交流を深め、貧しくとも支え合うが……。一貫して社会問題に目を向けてきたケン・ローチ監督は「ジミー、野を駆ける伝説」を最後に劇映画からの引退を表明していたものの、拡がる格差や貧困を鑑み、引退を撤回し本作を制作した。2017年第91回キネマ旬報ベスト・テン外国映画1位、外国映画監督賞(ケン・ローチ)。
    71
  • ジミー、野を駆ける伝説

    制作年: 2014
    「天使の分け前」のケン・ローチ監督が、1930年代のアイルランドを舞台に、庶民のために戦った無名の活動家ジミー・グラルトンの姿を描いたドラマ。出演は「めぐり逢う大地」のバリー・ウォード、「Hamlet」のシモーヌ・カービー、「恋人たちのパレード」のジム・ノートン。カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。
    74
  • 1945年の精神

    制作年: 2012
    政治活動家としても知られるケン・ローチ監督が手掛けたドキュメンタリー。1945年、戦勝国・イギリスに誕生した労働党政権。貧困をなくすべく立ち上がった彼らの活動を振り返ると共に、今再び貧困にあえぐ現代の労働者たちに奮起を促していく。【スタッフ&キャスト】監督:ケン・ローチ 製作:レベッカ・オブライエン/ケイト・オグボーン 音楽:ジョージ・フェントン 出演:クレメント・アトリー/ウインストン・チャーチル/アナイリン・ベヴァン/ブルース卿