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  • ※本文中に一部映画「ドライブ・マイ・カー」のネタバレがありますのでご了承ください 「われわれは終わった後を生きている」という気分  「ドライブ・マイ・カー」の完成を祝し、濱ロ竜介監督をこの2人が囲んだ!  「きみの鳥はうたえる」(18年)の三宅唱監督は、たとえば『ユリイカ』18年9月号で濱ロ監督からの「公開質問」に答え、監督同士の緊張感のなかにシンパシーを送り合う仲。  そして三浦哲哉は、濱口監督の大作を分析し長篇評論『『ハッピーアワー』論』(18年、羽鳥書店)を書き上げた同時代の伴走的批評家。  3人は「映画演出の勉強会」をともに行う間柄でもある。映画となれば話はどこからでもはじまり千夜一夜は瞬く間、と申しますが3人の映画長話、どこまで転がってゆくでしょう? こんな映画を作ってくれてありがとうございます 三浦 このたび濱口さんが監督された「ドライブ・マイ・カー」を観て、これはすごい映画ができたな、と心からしびれまくったかんじです。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(85年、ロバート・ゼメキス監督)ばりのと言いますか、映画の流れに強烈に没頭させられました。主人公の家福(西島秀俊)たちは赤いサーブ900に運ばれ、ある意味で過去に戻っていく。そこで様々なパーツが交差し、やがて未来が開かれる。赤いサーブがデロリアンを彷彿とさせたというわけですが、エンタメとしての充実度がすごい。「こうすればもっと面白くなったんじゃないか?」とダメ出しする隙がなかったです。音楽も衣裳も、いちいち細やかですばらしかった。三宅さんはどうでしたか? 三宅 僕もすっかり「ドライブ・マイ・カー」の世界に夢中になりました。何が面白かったのか?まず「映画の中で舞台を観るのってこんなに面白かったっけ?」という点が、本当に新鮮な驚きでした。そして「映画のなかで舞台を観る面白さ」というのが、舞台のシーンではない日常のシーンにもじわじわと波及していき、「役者の演技を見るのってこんなに面白かったっけ!」「人が話したり黙ったり動いたり止まったりするのを見るのってこんなに面白かったっけ!」と呆気にとられ、ニコニコしてしまいました。物語がどんどんシリアスになるその行方を、息をつめて見守りながらも、同時に興奮し続け、映画が終わったときにはとても元気になっていました。一映画ファンとして、こんな映画を作ってくれてありがとうございます。また同業者として、多くの勇気をもらったこともお伝えしたいです。あともう一個、終盤で「あ、まだ終わんないで!」って声を出しそうになりました。 濱ロ いやあ、もう。ありがとうございます。お二人にそう言っていただけたら心から嬉しいです。 三浦 役者の演技を見る面白さ、と言えば、家福が多国籍の俳優たちをオーディションする場面で、私は最初に涙がだーっと出てきた(笑)。高槻(岡田将生)とジャニス・チャン(ソニア・ユアン)がチェーホフ『ワーニャ伯父さん』の一場面を演じるところで、高槻がいきなり大胆な挑発まがいの動きをし、それにジャニスがものすごく生々しく色っぽい反応を返す。即興的な新鮮さもありつつ、カメラの動きはぴたっと完壁に決まっている。台詞がまた二人の今後を告げる予言のように響いて、ぞぞぞぞ……という興奮が押し寄せてきます。一体どうやったらこうなるのか……たとえば具体的には何テイクぐらい撮られたのでしょう? 濱ロ あの場面は、キスシーンも含め乱暴な感じの肉体接触もあるので、2人の中で完全に合意ができていないと安心して演技はできない場面です。ぶっつけ本番ではいけなくて、演じる役者としては全部理解していないといけない。ソニア・ユアンさんの初めての出演場面でもあったので、事前に2日くらいやって、岡田くんとの「本読み」も大まかな動きも前日のうちに決めておきました。横移動での撮影がいわば「カット1」で、鏡に向いた岡田くんを撮るのが「カット2」。そしてソニアさんがメインで映るものが「カット3」。カメラの動きなどでNGがあれば止めて、それぞれ最後まで通せたものがOKテイクになっています。一方で家福らのリアクションをBカメで、下川龍一くんが狙っているという状況でした。この3テイクを、編集で組み合わせたんです。構想段階からすると、西島さんの目線を強調したアングルも撮りたかった。でも、これ以上やると俳優さんとの「信頼関係」が壊れそうな気がしたので、やめておきました。 三浦 「信頼関係」とは、どういうことですか? 濱口 もしアングルがほしくて追加して撮るとして、演技のクオリティのためには通してもらったほうがいい。すると、もう一度身体接触を伴う、非常に消耗するような場面をやってもらわなくてはならない。しかも演技に問題があるわけではなく、既に演技としては十分すばらしく撮れている。違うアングルで演技がこのクオリティまで再び至るとは限らない。特にソニアさんにとっては初日の撮影で、言語も文化も異なる不安のなかで演技をしている。闇雲に撮っている、役者を濫用している監督のように感じられる危険があると思いました。だから、家福目線のアングルは撮らずに、3テイクで構成しよう、と判断しました。 三浦 ソニアさんがぐっと岡田さんをみつめる表情などもきわめて印象的なんですが、濱口さんは、俳優たちにどの程度、指示をしていたんですか? 濱口 「本読み」をして、大まかなことを決めたら、基本的に本番での演技は、俳優にお任せしています。なのであの場面に限らず、演技のニュアンスは基本的に、俳優自身から出てきたものなんですよ。もちろん動きや方向は、指示をしますけど感情的な面は、俳優から「たまたま」出てくるものだと考えています。結果的に「俳優からたまたま出てきたものをたまたまうまく捉えられたな」というテイクのみをつなげていきます。そういう偶然を映画のなかでどう位置づけていくか、を考えて編集していきました。 終わっている。でも生きなければならない。   三宅 濱口さんの映画では映画と演劇が出会います。これまでに「親密さ」(12年)で若い役者が舞台を作り上げるシチュエーションを撮っていますが、「ドライブ・マイ・カー」では多国籍の老若男女の演劇を撮った理由を教えてください。 濱口 映画で演劇を撮るのって、やっぱり難しいところがあるんですよ。たとえば現在の演劇を参照するなら、身体パフォーマンス寄りの演技っていうものもあるけど、それは映画にすると、生身の舞台を観て感じるほどの緊張感は持ち得ない気がしています。そういうパフォーマンスを観ているときに観客の身体に起きることって、少なくともその演じる身体を観続けていないと、起こらないことなわけで。だから劇中劇の演技は、舞台的ではなく映画の演技と同じようにアプローチしたいと思いました。普通にセリフを覚えて、セリフを言う。ただ、その際に相手と相互発展する形で演技をしてもらう。そういうシンプルな演技を撮りたいと考えたときに「多言語演劇だとすごくシンプルに”相互作用し合う”演技ができる」と仮説を立てました。もちろん「言葉が通じない難しさ」というのはあるんだけど、それは「国際演劇祭に呼ばれる演出家」の前衛性として捉えられる要素です。結果として、すごくシンプルに「相手に反応して演技をすること」が、この言語的条件だからこそ生まれたと思います。人物の年齢幅が広がったのは、単純に上演する戯曲、『ワーニャ伯父さん』の登場人物の年齢分布がそうだから、という理由が大きいと思います。 三宅 戯曲を選択したのは濱口さんだろうと勝手に思っていたんですが、村上春樹さんの小説を読んだら『ワーニャ伯父さん』が出てきて「あれ、原作に忠実だったんだ!」と。別戯曲に変えることもできたかと思いますが、そのまま『ワーニャ伯父さん』を使い、より深めて短篇小説が約3時間の映画になっている。この戯曲に魅かれた点について教えてください。 濱ロ 『ワーニャ伯父さん』の上演されるのも観ていたし、戯曲も読んでもいたんですが、ものすごく印象に残っている劇でもなかったんです。でも『ドライブ・マイ・カー』を読んで、家福がワーニャを演じるという前提で『ワーニャ伯父さん』を読んでみると、想像がどんどん膨らんでいって。家福がこれを演じるのはつらいだろう……という視点で読んだときに改めて、チェーホフのテキストの強度や普遍性に打たれる体験をしました。誰が思ってもおかしくないようなことがセリフになっている。みんなの根っこにそのまま届くような「すべての人の言葉」とでもいうものが、ここには書かれている、と気づきました。この映画が約3時間になった理由として、チェーホフのテキストにものすごく引っ張られたっていうのがあると思います。 三宅 「みんなのセリフ」ということに重なるかもしれませんが、『ワーニャ伯父さん』を見たり読んだりするたび、日本のこの20年間の空気も重なるなあ、と個人的に感じていました。チェーホフが普遍的で本質的なことを書いているからですが。ぼくが惹かれたのはドライバーのみさき(三浦透子)の存在。彼女は演劇ワークショップとは直接関係ないけれど、最も『ワーニャ伯父さん』的な人物だと感じました。若いのに、若くない。終わっている。でも生きなければならない。強烈な語りだけれど、いまこの日本に生きている自分の肌感覚に並走してくれる感じがありました。それが「ドライブ・マイ・カー」という作品が僕に突き刺さった理由かもしれません。 三浦 高槻も「一回スキャンダルで下された役者」っていう設定で、共通しますね。『ワーニャ伯父さん』でチェーホフが描いた「栄光の後の時間」が浸透している。 濱ロ なるほど。「われわれは終わった後を生きている」。たしかに、この映画にそういう気分はある気がしますね。 三浦 「一度終わってしまった人物」が集結する話なんですよね。イ・ユナ(バク・ユリム)も踊れなくなったダンサーだし。それぞれが過去のしがらみに足を取られていて、それゆえディープな交流が起こる。濱口さんの過去作の「震災以後」というテーマとつながっているし、ほんと「同時代」の映画だと感じました。 希望の映画 三浦 ただ同時に、ポジティブな力に充ちた希望の映画でももちろんあって、あるところから肯定的な変化が次々と連鎖していくじゃないですか。僕の印象だと、その決定的な起爆剤になったのが、木漏れ日が降り注ぐ広島の公園での立ち稽古の場面ですよね。ジャニスとイ・ユナが繊細きわまりないインタープレイを披露して、家福が「いますごいことが起きた」と言う(笑)。自分で言うのがすばらしいですよね。「連鎖が始まったぞ!」っていう予感に打たれて、2回目の号泣をしました(笑)。 濱口 ありがとうございます(笑)。 三宅 あの広島の公園の場面は、導入のパンから美しすぎて。「ヤンヤン夏の想い出」(00年、エドワード・ヤン監督)の冒頭の結婚式の場面に匹敵する美しさで、「シノミー(撮影の四宮秀俊)やったね!」って思いました。それに『ドライブ・マイ・カー』って、天候がすごくなまめかしく映っていますよね。回転している地球、つまり世界が刻一刻と動いている感じが、本当に居心地がよかったんですよね。 濱ロ ヤンの名前が…!嬉しいです。三宅さんは、「Playback」(12年)も「きみの鳥はうたえる」もシノミーと一緒に仕事をしてきたわけですけど、『ドライブ・マイ・カー』の撮影は、どうでしたか? 三宅 セクシーですよね。奥さん役の霧島れいかさんがとてもなまめかしい。ファーストカットから「こんなセクシーなカットから始まんの?!西島さんも脱いでんじゃん!!」って(笑)。ぼくがこう言うと下品な場面っぽいけど、とても品がある。寝室場面以外も当然セクシーで。特に皆さんの立ち姿、その美しさを捉える画面が印象的でした。しゃんと立つ人がたくさん出てくる、ってところにこの映画の美しさや品があるんじゃないか。そのなかで岡田さんだけは、わざと少しやわらかい身体所作にしていると思うけど、誰ひとり人間がふにゃふにゃしてないんですよ。特に、広島の事務局のお二人が最高!高槻の事件が起きた後に、駐車場で家福に選択を迫る、あの知性と立ち姿がとても好き。「ここに頭のいい人が写っている!」って思って。セリフ内容、目の向き、声のトーンもあるけど、あの立ち姿に「大人な映画だわ!」って本当に思った。立ち位置はどう一緒に作っているんですか? 濱ロ 「ここに立ってください」って立ち位置の指示はしません。本当にセリフだけを覚えてもらって。関係性というかシチュエーションで、互いの距離は自ずと決まるじゃないですか。「自然に止まってくれれば、撮りますから」って言って撮ったんです。シノミーがすごいなと思うのは、一人も立ち位置を決めて立たせていないのに「ここにカメラを置けば、この俳優をこう撮れる」という感覚的な理解がある。だから、役者たちはカメラのことを気にしないで動いていたと思います。にもかかわらずシノミーは常に調和を感じさせるようにレンズや距離を選択できる。これはどんなカメラマンでもできることではないです。 「家福が誰かを見ている映画」 三浦 クライマックスの話もしたいんですが、西島さんが三浦さんと、倒壊した家の前で演技をするロングテイクがあるじゃないですか。あそこは、もう出だしから西島さんのテンションが今までと違う。樵梓しているというか、それに引き込まれて、数分間、まさに息を呑んで見続けるしかない、というすばらしいショットでした。 三宅 あの2人を同じ画面内でワンカットで捉える、という選択ですよね。強い感情のやりとりがある場面って、邪魔したくないから2人一緒に撮りたいんだけど、でも顔に浮かぶ繊細なものが映らないかもしれない。じゃあ1人1人切り返しで顔を捉えたら安心かというと、そうでもない。カット数も増え、カメラが目線に入ることで演技の質が微妙に変わり、2人の間に起きるはずのことが消えてしまうかもしれない。 三浦 西島さんを見つめ続ける三浦さんの顔もまるごと撮ってるのがいいんですよ! 濱口 役者みんな素晴らしい演技をみせてくれた、と思っているんですが、一番基盤となったのは、やっぱり西島さんがちゃんと相手役を見聞きしてくれたことだと思ってます。基本的に『ドライブ・マイ・カー』は「家福が誰かを見ている映画」なんです。俳優一人一人見せ場があって、各々その場でちゃんと爆発してくれているんだけど、その支えは「家福、と言うか西島さん本人がちゃんと見て聞いてくれていた」ってところにある。撮っていて、それはすごく幸運なキャスティングだと思いました。一方で、その西島さんが心情吐露するクライマックスでは、三浦さんがその役割を担ってくれた気がしています。 三宅 三浦さんが、見つめ返すってことですね。 濱ロ そう。すべての演技がそうでなくてはいけないとは思わないけど、そういう互いに影響を与える「相互作用」による演技が、今回の作品には必要だと考えていました。 三宅 本当にそう思います。「今まで僕は正面から向き合ってこなかった」というセリフがありますが、その感情が、演技のスタイルやカメラのスタイルまでをも導いているというか、この映画全体の骨格になったのではないか。序盤の頃の西島さんは相手を鏡越しに見ていたり、玄関で会話しても同じショットには入らなかったり、お互いを正面からは見ていませんよね。それが終盤、西島さんが三浦さんの瞳そのものを見返しているのかはわからないけれど、とにかく顔と体は相手の正面を向いていることが、90度真横から捉えられている。そしてラスト、舞台劇『ワーニャ伯父さん』の上演場面。ここではついに西島さんの瞳を真正面から捉える。つまり西島さんが真正面から向き合い、見つめることができたように、今度は観客である我々が、映画の舞台上の演技に対して、正面から向き合う経験をさせてもらえる。そして、正面から見るとこんなにいろんなものが見えてくるんだっていうのを経験させてもらえる。 三浦 西島さんが涙を見せる場面が美しいのは、伏線が効いているからでもあると思います。俳優の熱演によって真情が露見する、というだけではない。序盤に音(霧島れいか)が家福に語る物語のなかで、音の心の奥底から出てきたらしい架空の人物がポタポタと涙でシーツを濡らすと描写されます。そのとても切実な涙を引き取って、家福が涙を流している。こんなふうに、いなくなった過去の存在の気配がふとありありと蘇る仕掛けが、いくつもなされています。音もそうですが、みさきを残して死んだ母もそうです。みさきがドライバーになると、家福は、そのすぐ後ろに座りますが、それはお母さんがかつて座っていたのと同じ場所です。いまを生きる誰かのすぐ後ろに、過去の存在が、いわば「背後霊」のようにいて、人物の巧みな配置によって、その気配がふわっと伝わってくる。いわば「背後霊映画」として本作を見ることもできるかもしれないと思いました。『ワーニャ伯父さん』の上演で、イ・ユナが家福を後ろから抱きとめるところは、多重に張りめぐされた要素が一挙に束ねられて、ここで最後に号泣しました(笑)。 三宅 霊つながりだと、水や水辺の場面がすごく多いなと思いました。湾岸の道路や橋、護岸の階段、そして雪原を選んでいる。濱ロさんは、なんでそんなに水辺に執着したんですか。 濱ロ 多いですよね(笑)。そこはやっぱりなにか……主題ってもんじゃないですか?涙もそうなのかもしれないけど、水が流れて、最終的に冷え固まって雪となるような、そういう映画企体の見取り図というのはあったように思います。 三宅 うわあ、楽しく作ってますね(笑)。もう一度見たくなってきました!もっと聞きたいので、また続きをどこかで。 構成・ゆっきゅん   映画「ドライブ・マイ・カー」 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー公開中 原作:村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊) 監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介 大江崇允 音楽:石橋英子 製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会  製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド 制作プロダクション:C&Iエンタテインメント  配給:ビターズ・エンド  (C)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 2021/日本/1.85:1/179分/PG-12 公式サイト dmc.bitters.co.jp ©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
  •  2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、「キネマ旬報」に過去掲載された記事の中から、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げていく特別企画「あの頃のロマンポルノ」。キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時連載していきます。  今回は、「キネマ旬報」1976年4月下旬号より、斎藤正治氏による曽根中生監督作品をとりあげた「日本映画批評『わたしのSEX白書 絶頂度』」の記事を転載いたします。  1919年に創刊され100年以上の歴史を持つ「キネマ旬報」の過去の記事を読める貴重なこの機会をお見逃しなく! ■日本映画批評 『わたしのSEX白書 絶頂度』  日活この週の上映作品は、二本とも看護婦ものというか、病院もの。しかし優劣がきわだった。  性悪女、意地悪女を描くのが目立つ曽根中生が、珍らしく優しさに満ちたナイーヴな性格の女を描き、質感の溢れる作品を作った。このような被写体の変化は、多分に脚本による。つまり白鳥あかねの資質がそのまま漂白されたシナリオを得たからであろう。  スクリーンに出てくるドラキュラは、きまって無気味な陰影をたたえて立ち現われるが、この「女吸血鬼」は、終始美しさとけだるそうなエロスを秘めていた。病院の採血係であるヒロインあけみ(三井マリア)は、血を採る作業をするたびにめくるめく快感を覚えた。ただそれだけの「女吸血鬼」だ。  このヒロイン、未成熟な破行的性格であり、充足した昼間のドラキュラのようにひどく醒めていて、自己批評的な場合がある。例えば結婚を予定する給食会社の息子との情事は、どっちらけで感応はひとつもないのに、男の前での思わぬ失禁には、死ぬほどの屈辱感にさいなまれる。  好奇心の初歩である盗視癖の反面では、弟の前でも自慰行為を止めようとしないというような性格なのだ。大人的なものと幼児性的なものと同居させたエロスの狩人といった、いわばバランスを失したかわいさがなんとも魅力的である。かわいい女吸血鬼。  姉のあけみがそうであれば弟のキヨシ(村国守平)も成熟しきれない潔癖性を持っていて、ヤクザの情婦リリィ(芹明香)が迫るのを拒み、もっとも優しいはずの近親相姦に恐怖を抱いて出ていく。そのくせ、美しい病院の看護婦には肉の思慕をおずおずと寄せている。このような人物たちの繊細なみずみずしさは繰返えすが脚本家の持っているものだろう。曽根中生はそのイメージを的確に増幅した。この姉弟に見るような分明でない微行的な性格が、不思議に鮮烈なエロスをほとばしらせることになった。  小さな辱しめにもひるむあけみが、もっとも狂暴な性を持つヤクザの隼人(益富信孝)に抱かれた時、彼女の持っている自己批評的性は失われ、破壊的快楽のなかに自己解体していく。その彼女には、小便をもらしたというような養恥感などみじんもなく、ポルノグラフィの被写体にされても平っちゃらの開き直りがあった。「女吸血鬼」は、男の精液によってはじめてよみがえったのである。リリィも加わっての三つ巴ファックのラストシーンの執拗な描写は、酒湯現象をおこしている最近の日活ロマンポルノの活性剤になるかも知れないと思ったほどだ。採血係の性感を題材にし、女の意識の深部にある測量不能なエロスを掘起こし可視化しようとした試みは萩原憲治の映像や木村誠作の照明に助けられて成功したといえよう。 文・斎藤正治 『キネマ旬報』1976年4月下旬号より転載   『わたしのSEX白書 絶頂度』 【DVD】 監督: 曽根中生 脚本:白鳥あかね  価格:2,200円(消費税込み) 発売:日活株式会社 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング   日活ロマンポルノ 日活ロマンポルノとは、1971~88年に日活により製作・配給された成人映画で17年間の間に約1,100本もの作品が公開された。一定のルールさえ守れば比較的自由に映画を作ることができたため、クリエイターたちは限られた製作費の中で新しい映画作りを模索。あらゆる知恵と技術で「性」に立ち向い、「女性」を美しく描くことを極めていった。そして、成人映画という枠組みを超え、キネマ旬報ベスト・テンをはじめとする映画賞に選出される作品も多く生み出されていった。 オフィシャルHPはこちらから 日活ロマンポルノ50周年企画「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ」の全記事はこちらからご覧いただけます。   日活ロマンポルノ50周年新企画 イラストレーターたなかみさきが、四季折々の感性で描く月刊イラストコラム「ロマンポルノ季候」  
  • 【後編】こがけん×松崎健夫が語りつくす「死ぬまでにこれは観ろ!2021」 キングレコードの夏、にっぽんの夏……映画ファンにはお馴染み8年目を迎えたキングレコードのブルーレイ&DVDキャンペーン「死ぬまでにこれは観ろ!」シリーズ。2021年はなんと250本(ブルーレイ127、DVD123タイトル)がラインアップ! 恒例となった「死ぬこれ!」対談は映画評論家の松崎健夫氏と、「ハリウッド映画ものまね」でおなじみ、芸人のこがけん氏が本誌初登場! 3本買うと1本もらえる、2021年の激ヤバ・キャンペーンに沿って、各々4タイトルずつセレクトしてもらった。前編に続いて作品への想いや見どころ、結局ブルーレイとDVDが欲しくなるのはなぜか!? をあますところなく語りつくす。 両者セレクト「恐怖の報酬」 松崎 「恐怖の報酬」は僕とかぶりましたね。狂っている映画。 こがけん これは激ヤバ! 言ってみれば、原題“Sorcerer”(魔術師)みたいなこと。この映画自体呪われていたんじゃないかってぐらいの不遇な作品ですよね。 松崎 小学生の頃から 、絶対に観ることができないと刷り込まれている一本です。当時も日本で公開されたけど、30分くらいカットされていて、ビデオになって観たけど、その後ずっとソフト化もされず、日本で観るのはもう無理かと思っていたら、2018年にまさかの劇場公開。ヒューマントラストシネマ有楽町で上映されたものの、連日満席で入れなかった。映画ファンは完全ヴァージョンをずっと観たかったんだと思います。 こがけん これも爆破が凄い。最初のリアル爆破シーンで、マジで人が死んでます。……という事実はありませんが、そのぐらいの迫力。ストーリーはニトログリセリンを4人の男で運ぶだけというワンアイデアなんだけど、最初のシーンで爆破を強烈に印象付けしたことで、運ぶという行為にとんでもない緊張感が生まれる。これはフェイクじゃない映像ゆえの凄みだと思います。 松崎 実際にこれをやっているんだ、CGじゃないんだ! ってことに驚く。やっぱりこれが映画の醍醐味ですよ。 こがけん あの映像からは、本当に泥と石油と汗の匂いがしてくるようで。監督のウィリアム・フリードキンはドキュメンタリー的な撮り方をする人で、リアルを追求するあまり、こいつら大丈夫かというくらい4人とも喋らない。黙々と作業するのを映像だけで伝えるシーンが続く。悪党が無理すぎるミッションに挑むという意味でいえばこの作品は、よりガチな「スーサイド・スクワッド」(16)みたいな感じ。そして本当に狂っているのはジャケットにもなっている吊り橋シーンですね。 松崎 12分近く、 延々とやっていますからね。もう無理だよ、と思う。 こがけん 観ているこっちの心が折れてしまう。あまりに揺れが凄くて怖いし、実際、車両は何回も川に落ちたらしいですね。 松崎 あんなジャングルの奥地に車を持っていくこと自体が狂っているとしか言えない。ゆっくり行かないと危ないって刷り込まれた観客の心理をつく見事な演出です。 こがけん ときどき荷台の箱が動くシーンが出てくるんですが、あんな地味な画はないです。それを固唾を飲んで見守る。これこそ“魔術”です。 松崎 映画は連続したシチュエーションを見せられるから、いつの間にかあの箱にニトログリセリンが入っていると思ってドキドキするのがこの映画の面白さですね。 こがけん フリードキンの作品には、他の世界と完全に遮断されて、一つの目的を貫徹することにとらわれてしまいおかしくなってしまう、みたいな人が出てくる。この作品は、彼らが背負った業に対する贖罪のための地獄ツアーから無事に帰還できるのかというような話ですよね。 松崎 オリジナルのアンリ=ジョルジュ・クルーゾー版はカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。そんな作品のリメイクなんて、大概失敗しそうなものなのに、四半世紀後にリメイクしようと思ったこと自体が凄い。今の感覚だと、「レオン」(94)「ショーシャンクの空に」(94)あたりをリメイクするってことですから。 こがけん フリードキンもこれは最高の作品だという自負があったからこそ、自ら4Kデジタルリマスター版を製作し、世界公開したわけですよね。 松崎  先ほど、「スター・ウォーズ」の話をされましたけど、子ども騙しと言われていた特撮ものがあれから一大ジャンルになり、SF映画が作られるようになった。一方で、「地獄の黙示録」(79)や「天国の門」(80)あたりから、リアルに撮影するものはお金がかかるからと作られなくなる 。そして90年代になるとCG技術が発達し、映画が変わった。だから77年は、分岐点なんですよ。アメリカン・ニューシネマが「ロッキー」(76)で終わり、直後に「スター・ウォーズ」が出てきたことを考えると、こういった映画が観られる最後の時期だったんだと思います。 こがけん  「恐怖の報酬」に出てくるトラックか「スター・ウォーズ」のタイ・ファイターのフィギュア、どっちが欲しいかと言ったら皆タイ・ファイターですもんね。僕は悪魔みたいな顔をした〝ラザロ〟のトラックが欲しいクチです。 現代につづく名作 松崎 ちなみに僕が挙げた4作品は1960〜2000年代で選びました。「ドラッグストア・カウボーイ」は89年、「トラフィック」は00年です。「トラフィック」は公開当時と違う感覚で、今観ると、いろんな視点が入っていることに気づく。「パルプ・フィクション」が94年に公開されましたが、同年、7時間超におよぶタル・ベーラの「サタンタンゴ」があった。初めはわからないけど、最後まで観ると一つの物語を多角的に見ている映画だと気づく。理由はわからないけど、時系列をバラバラにして、観客が脳内で物語を再構築することによって映画が成立し得ると考えた人たちが、世界同時多発的にいたんだなと。その後、タランティーノ的映画──会話や映像に存分とこだわる一方、本質的なものは描かれない──があって、89年、「セックスと嘘とビデオテープ」でカンヌに突如現れたスティーヴン・ソダーバーグも、そういう流れを見てきたと思うんです。そこで、「トラフィック」は社会問題と共に、神の視点で“全体像を知るのは観客のみ”という映画の形を作り上げた。 こがけん なるほど。そういう切り口で映画を伝えてくれると、全然見方は変わってきますね。 松崎 「アルジェの戦い」じゃないけど、「トラフィック」も今の物語に見える。ヒスパニックの人たちの状況とアメリカの関係は、20年経っても変わらないんだと驚きます。むしろ悪くなっている。そんな社会のことを知るのも映画を観ることの意義。2000円くらいで社会を知ることができるなんて、こんな得なことはない。 こがけん それでいうと、僕も残りの2つ「ONCE ダブリンの街角で」(07)「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」(18)は僕の好きな〝音楽”という切り口で選びました。「ONCE」は、最初は主役の男女2人の歌の素晴らしさに魅了されたんですが、一筋縄にはいかないストーリーで何より2人の距離が縮まっていかない。その原因は女性が移民であるという移民問題の壁。そして、この問題は今現在も続いているという事実。ジョン・カーニーの初期の作品で、社会問題にアプローチしている点も含め、かなりの名作だと思います。 松崎 僕がもう一本挙げている「ドラッグストア・カウボーイ」は他社で廃盤になったものですが、それをキングレコードさんが引き取って同じ形で出してくれた。80年代中頃からのミニシアター・ブームで、 ジム・ジャームッシュやヴィム・ヴェンダースが紹介されたとき、彼らの作品をおしゃれ感覚で観ていた人たちがいたんですね。その後、ガス・ヴァン・サントがこの作品で日本に紹介され 、今なお作品を作り続ける中、今の視点で観ると、疑似家族の物語に見える。ヴァン・サントは後にゲイだとカミングアウトしたけど、今改めて観ると、一人で生きていく覚悟というものを描いていたんじゃないかと思う。30年経って見え方が変わってきました。 こがけん 僕は高校時代にミニシアターで「トレインスポッティング」(96)とかを観て、一時期は「ハリウッド映画なんて」みたいな感じだったんです。その時代を経たからこそ今があると思いますけど、あの頃の自分を殴ってやりたい(笑)。それに、当時は映画が好きな人ほどファッションと結び付けられるのが嫌だという人は多かったと思うんですけど、入り口としては悪くなかったですよね、発信力もあったわけだし。 松崎 僕も、ヴィジュアルは重要だと思います。昔はよくドラマのワンシーンで、「トレインスポッティング」や「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」(86)のポスターが部屋の壁に貼ってあったりして、実際に観たことはなくても作品を知ってる人は多かったと思う。“この映画だ”というシンボリックなものがなくなりつつある中、僕が「死ぬまで〜」シリーズを好きなのは、一枚絵のヴィジュアルをジャケットに継承して使ってくれるところ。 こがけん 当時のイメージそのまま、って重要ですよね。 松崎 廃盤品を改めて自社からリリースするとなったら、本来ヴィジュアルも変えたくなると思うんだけど。昔、新聞広告で見たものが蘇るようで、そこも嬉しい点です。 こがけん 最後にお薦めしておきたい一本は「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」。この作品の意義は、どんなジャンルでも音楽の素晴らしさは伝わるよってことです。「ヘヴィ・トリップ」って意味ある題名も好きですね。このラインアップの中では軽いタッチで観られる、万人受けしやすい、いい作品だと思います。コメディ・テイストだし、主人公のキャラも愛嬌があって憎めない。入り口にどうですかねといった感じです! 松崎 入り口で言うと、大ヒットしている「アメリカン・ユートピア」(20)のデイヴィッド・バーン率いるトーキング・ヘッズのライブドキュメンタリー「ストップ・メイキング・センス」(86)が映像特典もついて廉価版になっています。DVDは持っているけど、今回買いなおそうと思っている一本です。 こがけん とにかく言い続けるしかないですね。映画の面白さ、そしてソフトの未公開映像を見てほしいということを!! 文=岡﨑優子/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報8月下旬号より転載)   こがけん/1979年生まれ、福岡県出身。2001年からコンビで芸人活動を始め、12年から1人で活動。代表的な持ちネタに「ハリウッド映画ものまね」がある。19年、R-1ぐらんぷり決勝進出、20年、ユニット・おいでやすこがでM-1グランプリ準優勝に。映画好きな芸人等を集めたトークライブ『こがけんシネマクラブ』を開催するほか、『金曜ロードショー』の前説番組『まもなく金曜ロードショー』でナビゲーターを務めるなど、映画関係の活動も多数。映画「イソップの思うツボ」(19)「劇場版 ほんとうにあった怖い話〜事故物件芸人2〜」(21)にも出演 松崎健夫(まつざき・たけお)/1970年生まれ、兵庫県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻終了。テレビ、映画の制作現場を経て映画評論家に。雑誌や映画パンフレットへの寄稿、テレビ、ラジオ、ネット配信の情報番組等に多数出演。デジタルハリウッド大学で講師を務めるほか、キネマ旬報ベスト・テン選考委員や、田辺・弁慶映画祭審査員、京都国際映画祭クリエイターズファクトリー部門審査員を務めている。映画評論家・添野知生氏とYouTube動画『そえまつ映画館』を毎週金曜配信、芸人コンビ・米粒写経との生配信番組『映画談話室』に出演中。   「死ぬまでにこれは観ろ!2021」キング洋画250連発! <シリーズ史上 最大・最強ラインナップ!!(当社比> 8月4日発売 ブルーレイ:各2,750円(税込) DVD:各2,090円(税込) 3枚買ったら、全250タイトルの中からもれなく1枚もらえる!キャンペーン実施中 2021年8月4日(水)~2021年12月31日(金) 発売・販売元/キングレコード © 2021 KING RECORD CO., LTD.ALL RIGHTS RESERVED. 作品ラインナップなどの詳細はこちらから↓
  • 人間の心の深い闇を覗き込むような感覚。衝撃の事件を描く「ファーストラヴ」 島本理生の直木賞受賞作を映画化 トイレに横たわった死体……画面が変わると、血まみれの包丁を持ったリクルートスーツ姿の女子大生が川沿いの道を歩いていく……。そんなショッキングな冒頭から始まるサスペンス・ミステリー映画「ファーストラヴ」(8月13日Blu-ray&DVDリリース)。『ナラタージュ』『Red』などの著書もある島本理生が第159回直木三十五賞を受賞した累計発行部数41万部超えの同名ベストセラー小説を、「TRICK」「20世紀少年」「SPEC」各シリーズなどの堤幸彦監督が映画化している。 主人公は、北川景子が演じる公認心理師の真壁由紀。彼女は著書執筆のため、世間を賑わせていたアナウンサー志望の女子大生・聖山環菜(芳根京子)が就職面接後に父親を殺害した事件を取材することになる。由紀は「動機はそちらで見つけてください」と供述した環菜と面会を重ねるが、環菜の話す内容は二転三転。感情の起伏も激しく、真実の見えない環菜に由紀は翻弄されるが、夫・真壁我聞(窪塚洋介)の義弟で、環菜の国選弁護人を務める庵野迦葉(中村倫也)と共に、彼女の本当の動機を探ろうとする……。環菜の過去を探るうち、彼女と共に由紀の心の奥に潜む闇も解き明かされ、それが事件の真相をも導き出していく。その展開が見事なだけでなく、様々な現代社会の問題も絡めた人間の心の深い闇を覗き込むような事件の真相と結末には心を揺さぶられるものがあり、静かな深い感動に包まれる。また、Uruが本作のために書き下した主題歌と挿入歌の美しい歌声も、感動の余韻をさらに深めてくれる。 全身全霊でぶつかり合う俳優たちの熱演 今回の映画は、原作よりも登場人物などを整理し、主人公の公認心理師の真壁由紀(北川景子)、父親を殺した女子大生の聖山環菜(芳根京子)、環菜の国選弁護人の庵野迦葉(中村倫也)、迦葉の義兄で由紀の夫の真壁(窪塚洋介)という4人を中心に描かれている。そして、それを演じた4人の俳優たちが、皆それぞれに並々ならぬ熱意をもって演じている。 特に北川と芳根が全力でぶつかり合う面会室のシーンは、本作の大きな見所の一つ。取材に訪れた由紀がガラスを挟んで環菜と対峙することになる面会室は、一方にカメラが向いている時にも、ガラスに反射したもう一方が映りこむように撮られており、二人の関係性や心情を映し出す。由紀と環菜の心の闇が同化(リンク)し、鏡のようにお互いを投影しあう様子が二人の白熱した芝居と共に表現されている。このシーンに限らず二人の芝居は圧倒的で、原作の設定にあわせてショートカットにした北川は、ぐしゃぐしゃに崩した表情も交えて心の底から溢れ出す感情を全身で表現し、芳根も激しい感情の起伏をケガも恐れない全力の動きで表現してみせている。また、焦点のあわなかった環菜の目の変化など、本作はそれぞれの役者の「目」や「視線」を特徴的に描いていることも注目すべきポイントだ。 そして由紀に深く関わる二人を演じた、一見クールに見える弁護士・迦葉役の中村、写真家で由紀を優しく支える夫・我聞役の窪塚という男優陣の好演も見逃せない。陰のある二枚目と包容力に満ちた二枚目という女性人気も高そうな役柄だが、確かな演技力を持つ中村と窪塚だからこそ、ただのイケメンでなくリアルな存在感を持って演じている。特に誰もが憧れるような理想の男を演じている窪塚は、10数年ぶりに組んだ堤監督から「何もしない」ことを厳命されたらしいが、その静かに妻や義弟を信じて見守る姿が、大人のセクシーさを醸し出している。 堤監督の演出術を垣間見ることができるメイキング 8月13日発売のブルーレイとDVDの各豪華版に収録されている特典ディスクも見所が満載。数々のメイキングを手掛けている志子田勇演出の『making of ファーストラヴ【mirrors】』では、2019年10~11月に行われた撮影現場の様子から、堤監督の演出術を垣間見ることができる。なるべく劇中の時系列に沿った撮影を行うほか、編集スタッフが同行しているため、ラフに繋いだ撮影済の映像を現場で演者に見せ、完成イメージを皆が共有しながら撮影が進められていたり、リハーサルで俳優の芝居を見た堤監督が、事前に考えていた細かなカット割のプランを捨てて、臨機応変に長回しの撮影に変更する様子などが収録されている。他にも、北川が念願だった堤組に参加できた喜びや新しい自分に出会わせてもらえた作品だったと涙で語るクランクアップの模様など、キャストや監督のコメントも随所に収録。「ファーストラヴ」がどのようにして撮られたかが、解説も交えて立体的に1本の作品として構成されている。 他にも、キャストや監督が登壇した5種類の舞台挨拶などを収録したイベント映像集や、WEB特番集なども収録。ここでも様々な形でメインキャストや堤監督が本作に込めた熱い思いや、撮影時のエピソードなどを明かしている。また、通常版にも、劇場公開時に副音声上映された、北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、堤幸彦監督の5人によるオーディオコメンタリーを音声特典として収録。撮影時の裏話や、感動のあまり泣き出す芳根の様子などが収められている。これら充実の特典は本編をより深く楽しむために役立つことはもちろんだが、キャストや監督たちが本作に深い愛情を注いだことも実感できるはずだ。 文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社 『ファーストラヴ』 ●8月13日(金)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同日リリース) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray豪華版:7,480円(税込)  DVD豪華版:6,380円(税込) Blu-ray通常版:5,280円(税込) DVD通常版:4,290円(税込) ●Blu-ray豪華版・DVD豪華版 共通特典 【仕様・封入特典】 ・三方背ケース ・フォトブックレット(16P) 【音声・映像特典】 [本編ディスク] ・オーディオコメンタリー(北川景子/中村倫也/芳根京子/窪塚洋介/堤幸彦監督) ・予告集 [特典ディスク] ・making of ファーストラヴ【 mirrors 】 ・イベント映像集 (完成報告イベント/公開直前“除災招福”イベント/初日舞台挨拶/大ヒット御礼舞台挨拶) ・WEB特番集 (映画『ファーストラヴ』徹底解説/映画『ファーストラヴ』スペシャル座談会【Part.1/Part.2】) ・ミュージックビデオ集 (主題歌「ファーストラヴ」映画特別映像ShortVer./挿入歌「無機質」本編クリップ) ※オーディオコメンタリーは劇場公開時、副音声として上映したものと同じです ※特典ディスクはDVDとなります ●Blu-ray通常版・DVD通常版 共通特典 【音声・映像特典】 ・オーディオコメンタリー(北川景子/中村倫也/芳根京子/窪塚洋介/堤幸彦監督) ・予告集 ※オーディオコメンタリーは劇場公開時、副音声として上映したものと同じです ●2021年/日本/本編119分 ●監督:堤幸彦 出演:北川景子、中村倫也、芳根京子、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃、窪塚洋介 ●発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング  ©2021『ファーストラヴ』製作委員会
  •  2021年に、日活ロマンポルノは生誕50年の節目の年をむかえました。それを記念して、ロマンポルノの魅力を様々な角度から掘り下げる定期連載記事を、本キネマ旬報WEBとロマンポルノ公式サイトにて同時配信いたします。  衛星劇場の協力の下、みうらじゅんがロマンポルノ作品を毎回テーマごとに紹介する番組「グレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ」の過去の貴重なアーカイブから、公式書き起こしをお届けしたします。(隔週更新予定) 第17回「ザ」   どうも、みうらじゅんと申します。「グレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ –民俗学入門-」、略して「グロミン」ですね。今回のテーマは【タイトルの冠に「ザ」が付く作品】を紹介したいと思います。「ザ・ダイソー」(※2019年3月以降は「ダイソー」に店名変更)みたいな感じです(笑)。  その時、股間がうずいた… 今宵の教材は、究極の冠言葉「ザ」! 『ザ・コールガール 情痴の檻』。マニアをくすぐるたった一文字のアイデンティティ、その絶対的な存在感に迫る!焦らしてばかりじゃつまんない…。小細工なしの直球勝負…。その瞬間から新たな歴史が始まる…。  さぁ、冠に「ザ」が付く映画とは何でしょうか? 年代的には1970年後半から80年代に、「ザ」が付く映画が増えました。街中でも「ザ」がブームになりまして、ぼくもその頃、街中に「ザ」が付くもの集めようと思って、写真を撮ったことがあるんですが、ちょっと私の写真集から見てくださいね。(「写真集 アイノカテゴリー」 写真・著:みうらじゅん を出す)。  こちら、「ザ・おしり」、なぜ、おしりに「ザ」がいるのかということですよね。こっちは「ザ めし処」、おしりと同じ調子で「ザ」が付いているでしょ? 「ザ☆七五三」、間に☆が入るのも全然意味がわからないすよね…。  「ザ☆お中元」、「ザ・どん」、「ザ・うしくぼ」、「ザ・リッチ」、「ザ・木」って、これはないでしょ(笑)。ザとくりゃ、そこはウッドじゃないですかね。「ザ・きのこ」、この本、全然売れてないですけどね、いっぱい並んでいますね。これびっくりしましたね「THE・城島」、個人のTHEですよね。個人なのになぜかバンド名みたいになっているということです。  「ザ」が付くと、昔はたいがいバンドでしたからね。ビートルズだって「THE BEATLES」、ストーンズだって「THE ROLLING STONES」、なぜかそんな「ザ」が復活して日活ロマンポルノまで至ったのか?ということですよね。 ■民俗学入門 みたいジャンルがすぐ見つかる!THE SELECTION OF「ザ」  ちょっと調べてみました【「ザ」 セレクション in 日活ロマンポルノ】を見ていきましょう。(フリップをだす)  『実録色事師』と来たら→「ザ・ジゴロ」ですよ『実録色事師 ザ・ジゴロ』  「拳を呑みこめ」となるとピンときた人もいるでしょう「ザ・フィスト」(『ザ・フィスト 拳を呑みこめ』)  『ザ・〇〇 –夫婦生活篇-』これわからないでしょう?夫婦生活に「ザ」が付くものとすると「本番」ですよね(笑)。そうですよね、夫婦生活は基本、本番でいいんですものね。(『ザ・本番 –夫婦生活篇-』)   『制服処女 ザ・○○○』ときたら→「えじき」だってね(笑)。こんなの入試にはでないですから覚えなくていいですよ。(『制服処女 ザ・えじき』)  その他にも『ザ・絶頂感(アクメ)』『ザ・出産』…(笑)。「近々うちの嫁、ザ・出産なんだよなぁ」とか言いませんからね(笑)。  『ザ・○○○○○○ 快楽調教篇』→「ONANIE」でもここ最初が母音ですから「ジ」ですよね(笑)。(『ザ・ONANIE 快楽調教篇』)  『ザ・○○○○ 令嬢篇』と来たら、「ピストン」ですよね。ピンときましたよね(笑)。(『ザ・ピストン 令嬢篇-』)  『ザ・極<○○○>致』→「きわみ」だって…これじゃ酒の銘柄みたいですね。もっとあるんですよ、この時期たくさん作られた「ザ」のシリーズでございます。(『ザ・極<きわみ>致』  今回上映するのは、『ザ・コールガール 情痴の檻』でございます。 ■お兄さん寄ってかない?『ザ・コールガール 情痴の檻』  どんな映画かを手短に説明したいと思います。ちょっと待ち時間長かったもので、しっかり絵を描いてきました。  まず最初のシーンで、美容室が出てきます「デザイン・パーマ」って書いてあります。今はあまり使わない言葉ですけども。主人公は、理髪店の見習いの人ですかね? いきなり出てくる男は、ブルース・リー・カットをしておりますから。多分、これは『ドラゴンへの道』の時のカットだと思いますね。当時流行りましたからね。ブルース・リー・カットに気を付けて観て下さい。 ■今夜から使えるラブワード『ザ・コールガール 情痴の檻』名台詞  この作品の名セリフを二つばかりちょっと描いてみました。勃ちの悪くなった主人と奥さんがやるシーンで、「今夜はうまくいきそうだぜ」。奥さんの手を引いて股間に手を持っていく。「今夜はうまくいきそうだぜ」って、「だぜ」って小粋に言ったつもりでしょうね。  そしてさすがのタイトル通り、コールガールが出てきます。「タバコ持ってない?バナナだったら持ってるでしょ?」 こんな言葉で誘われるって、どうなんですかね?初めて知った誘い文句でした。時代を反映する言葉の面白いシーンがほかにもありますので、民俗学的にも優秀な作品だと思われます。  それでは、今月の4作品を紹介いたします。 『ザ・コールガール 情痴の檻』 1978年製作、松永てるほさん主演でございます。 『女子大生 ザ・穴場』 1981年製作、寺島まゆみさん主演でございます。 『ザ・夜這い』 1985年製作、ここでも出ました夜這い。城源寺くるみさん主演でございます。 『ザ・破廉恥』 1986年、秋本玲さん主演でございます。 ※各作品はamazon、FANZAをはじめする動画配信サービスにて配信中です。  それではあなたもグレイト余生を!    出演・構成:みうらじゅん/プロデューサー:今井亮一/ディレクター:本多克幸/製作協力:みうらじゅん事務所・日活 ■2021年08月 TV放送情報 【衛星劇場】(スカパー!219ch以外でご視聴の方) ・『大奥秘話 晴姿姫ごと絵巻』 ・『色暦大奥秘話』 ・『色暦大奥秘話 刺青百人競べ』 ・『続・色暦大奥秘話 淫の舞』 ・『若妻日記 悶える』 ・『宇能鴻一郎の浮気日記』 ・『OL官能日記 あァ!私の中で』 ・『OL日記 密猟』 【衛星劇場】(スカパー!219chでご視聴の方) ・『大奥秘話 晴姿姫ごと絵巻』(R-15版) ・『OL日記 密猟』(R-15版) ・『看護婦日記 いたずらな指』(R-15版)  あわせて、衛星劇場では、サブカルの帝王みうらじゅんが、お勧めのロマンポルノ作品を紹介するオリジナル番組「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ♯98」、「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ♯99」を放送! ※人気コーナー「みうらじゅんのグレイト余性相談室」では、皆様から性のお悩みや、疑問を大募集! 【日活ロマンポルノ】 日活ロマンポルノとは、1971~88年に日活により製作・配給された成人映画で17年間の間に約1,100本もの作品が公開された。一定のルールさえ守れば比較的自由に映画を作ることができたため、クリエイターたちは限られた製作費の中で新しい映画作りを模索。あらゆる知恵と技術で「性」に立ち向い、「女性」を美しく描くことを極めていった。そして、成人映画という枠組みを超え、キネマ旬報ベスト・テンをはじめとする映画賞に選出される作品も多く生み出されていった。 日活ロマンポルノ公式ページはこちらから   日活ロマンポルノ50周年企画「みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ」の全記事はこちらからご覧いただけます。     日活ロマンポルノ50周年新企画 イラストレーターたなかみさきが、四季折々の感性で描く月刊イラストコラム「ロマンポルノ季候」