ブランカとギター弾きの映画専門家レビュー一覧
ブランカとギター弾き
ヴェネツィア国際映画祭2015マジックランタン賞、ソッリーゾ・ディベルソ賞受賞のヒューマンドラマ。マニラの路上で暮らす孤児の少女ブランカは、母親をお金で買うことを思いつく。歌が得意な彼女は、盲目のギター弾きピーターから歌で稼ぐ方法を教わる。監督は、「モンゴル」で映画スチール写真を担当し、本作が長編監督デビュー作となる長谷井宏紀。ブランカ役にYouTubeがきっかけで本作に出演することになったサイデル・ガブデロ、ピーター役に実際に街角で流しの音楽家として活動していたピーター・ミラリのほか、ほとんどの出演者が路上でキャスティングされた。
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
ドキュメンタリーと見紛うばかりの撮影がまずとてもいい。カットは結構ちゃんと割っているのに、独特な瑞々しさがある。しかしこれは単純に「リアル」というものとも違っていて、むしろ「現実」をファンタジックに撮ることで普通とは異なる「リアル」を現出させるということであり、これは監督の師匠であるクストリッツァから学んだことかもしれない。フィリピン、マニラは、こういう風に撮るべきなのだ。ブランカ役の少女の表情も実に「リアル」だが、笑った顔はファンタジックだ。
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映画系文筆業
奈々村久生
マニラのスラムで生きるストリートキッズの過酷な現状を描きながらも詩のような美しさを持つミニマムな映画。ブランカを演じたサイデルの、悲しみとたくましさの同居した力強い眼差しが印象に残る。サイデルをはじめ撮影前の時点でプロの俳優ではない子どもたちを監督自らキャスティングし、ワークショップでの演技指導を経て撮影に臨んだという作り方も興味深い。素人ならではの本人から滲み出る生き様と、演技を通してそれを伝えることの間にある可能性がそこにはある。
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TVプロデューサー
山口剛
ルイス・ブニュエルの「忘れられた人々」でメキシコの貧民街の非行少年たちが盲目の楽士を襲撃する有名なシーンを思い出す方々が多いと思う。この映画はそのような生存のためのむき出しの暴力を描いた映画ではなく、あくまでも、ファンタジー的な世界であるが、長谷井監督の対象に対する深い愛情と透徹した視点が、安易な善意やヒューマニズムの映画にしていないので、すがすがしく気持ちがいい。演技経験のほとんどない少女とギター弾きの自然な演技、歌声が心に残る。
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