ハナレイ・ベイの映画専門家レビュー一覧

ハナレイ・ベイ

村上春樹の連作短編集『東京奇譚集』の1篇である同名小説を「トイレのピエタ」の松永大司のメガホンで映画化。ハワイのハナレイ・ベイで息子を失ったサチは、以来10年間毎年命日に現地へ赴いている。そんな中、若い日本人サーファーたちからある話を聞く。息子を失ったシングルマザーのサチを「ラブ×ドック」の吉田羊が演じるほか、ダンス&ボーカルユニットGENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーとして活動する一方「虹色デイズ」などにも出演する佐野玲於、「武曲 MUKOKU」「2つ目の窓」の村上虹郎、プロサーファーの佐藤魁らが出演。
  • 映画評論家

    北川れい子

    海へ向かうサーファーの後ろ姿。マンションに鳴り響く電話の音。そして無表情でガランとした通路を歩く吉田羊。冒頭の僅か3カットで、いつ、どこで、何があったかを暗示させる演出と編集に拍手を送りたい。サメに襲われて死んだ一人息子に、乾いた感情しか抱けなかった実存主義的な女、いや母親の、10年後の痛みと慟哭。いくつかの短い回想シーンと、原作にはないエピソードを盛り込んでの進行は、まるで他人ごとのように淡々としているが、慟哭に至る演出、演技、映像はもう完璧!!

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    父親そっくりのフォームでスケボーに乗る村上虹郎が本作ではサーフボードに乗り、曲者な若者を演じたことの愉快。イギー・ポップの曲が佐野玲於を象徴する挿入曲としてリフレインされるがそれがしっくりきていて見事。ハワイロケに踊らされず村上春樹のブランドネームに引きずられず、監督松永大司は自分の表現、映画づくりをやった。過去作の「トイレのピエタ」で取り組んだことに続く喪の仕事のように本作を真摯に撮り、透明度の高い悲しみをタフでクールな吉田羊に託して描いた。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    原作は三人称で描かれているため、母親が息子を想う気持ちが明確には語られていない。一方の映画では、“母親のモノローグ”という一人称へと変化していることにより、母親の息子に対する想いがより強く描かれ、明確になっているという印象を受ける。母・吉田羊の演技を受け止める息子・佐野玲於のアプローチは物静かだが、むしろその姿が母と子の間に流れる“愛”をも強く印象付ける。原作にはない行間を役者の演技と映像で補強しながら、全体的に原作のイメージと乖離していない。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事