その手に触れるまでの映画専門家レビュー一覧

その手に触れるまで

カンヌ国際映画祭監督賞に輝いたダルデンヌ兄弟の社会派ドラマ。ベルギー。平凡な13歳の少年アメッドは、兄と共にイスラムの教えに傾倒していく。やがて、導師から“背教者”と名指しされた女性教師イネスを襲撃し、アメッドは少年院へ送られるが……。出演は100人の候補者の中から抜擢された新星イディル・ベン・アディ。「午後8時の訪問者」のオリヴィエ・ボノー、「サンドラの週末」のミリエム・アケディウが脇を固める。
  • 映画評論家

    小野寺系

    過激な宗教指導者に傾倒していく少年の姿に迫り、その一挙手一投足を映し出すことで、排外主義思想の奥底にある女性への醜い感情をえぐり出した意義ある作品であるとともに、人間の素晴らしさや可能性をも説得力と悲痛さをもって描いた傑作中の傑作。極端な人物を主人公にしながら、サスペンスやユーモア、カタルシスがうまく配置される黄金のバランス。そしてダルデンヌ監督の演出手法は、まさにこの一作のためにあったのだと思わせるほど内容にフィットしていて素晴らしい。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    ダルデンヌ兄弟の作品といえば、まずぎりぎりの状態にある主人公の姿。今回の13歳少年もぎりぎりということでは、これまでと変わらない。けれど今回は、ただでさえ未熟で複雑な年頃の少年の心に、イスラム過激派の思想に心酔するという複雑困難な負荷をかけて、現実の社会と対峙させている。この負荷を回収するのは何なのか。映画は明確に提示しない。肩透かしを食ったと言うのは大袈裟だが、主役のI・B・アディの繊細な演技が主題にフィットしていただけに、結末の曖昧さが残念。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    イスラム過激派の思想にとりつかれた一見気の弱そうなメガネ少年の孤独なジハードと、のちの更生過程をひたすらに追いかけるこの映画は、一度のめり込んだ者はそこから容易に逃れることが出来ないという洗脳の恐怖を生々しく叩きつけてくるも、ダルデンヌ兄弟の眼差しは冷酷なだけでは決してなく、いつものごとく執拗なまでに人物に寄り添ったカメラは、無垢な少女との出会いによって彼の心に芽生えた一筋の希望を捉えているように思う……そう思わないとあまりに残酷じゃあないか。

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