ただいま、つなかんの映画専門家レビュー一覧
ただいま、つなかん
仙台市唐桑半島にある民宿の女将を10年以上にわたり取材したテレビ報道発のドキュメンタリー。東日本大震災当時、自宅を学生ボランティアの拠点として開放した菅野夫妻は、その場所を民宿として開業。テレビで放送された映像に新たなシーンを加えて映画化。監督は、本作が映画初監督となるテレビディレクターの風間研一。ナレーションは、「Fukushima 50」の渡辺謙。
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脚本家、映画監督
井上淳一
東日本大地震から12年。この時期に311モノをちゃんと公開するのは素晴らしい。しかも最近は長期に亘って取材したものが多い。本作は10年。なかなか出来ることではない。取材対象の民宿も女将もいい。だから敢えて書くが、映画を撮るならちゃんと映画を撮らないと。雄弁過ぎるナレーション、饒舌過ぎる描写。なのに、登場人物の「なぜ」に全く迫れていない。極めて悪いテレビ的というか。テレビが悪いと言っているのではない。テレビにはテレビ、映画には映画の佇まいがあると思うのだ。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
深い悲しみと再び動き出す力とが映っている震災ドキュメンタリー。津波で自宅が被災し、海難事故で家族を失い、民宿がコロナ禍に見舞われる。そのたびに持ち前の明るさで再起する菅野一代さん。彼女にひかれて集まった多くの若いボランティアたちが唐桑に移り住み、仕事を始め、生活を築く。まさに民宿「つなかん」という磁場がつくりだした喪失と再生の物語。一代さんと周囲の人々の折々の表情を10年以上も追い続けたディレクターの取材の成果が豊かに実っている。
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映画評論家
服部香穂里
東日本大震災など、ある種の悲劇が出逢いやご縁を紡ぎ出す10年間を、丹念に追う。予期せぬ事態に次々と襲われ、とびっきりの笑顔が曇っていく一代さんと、彼女に救われてもきた学生ボランティアが、“あの日”を胸に刻みながら新たな幸せを模索しつつ支え合い、関係性が深まり広がっていくさまが、流れゆく歳月の中で、しみじみと映し出される。終盤に突如として登場する某著名人にウェイトが傾きかけたせいで、作品のバランスに乱れが生じて見える点が、少々気にはなったが。
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