アルマゲドン・タイム ある日々の肖像の映画専門家レビュー一覧

アルマゲドン・タイム ある日々の肖像

「アド・アストラ」のジェームズ・グレイが、幼少期の体験に基づいて作り上げた自伝的作品。1980年代のニューヨーク。ユダヤ系アメリカ人の中流家庭で育ったポールは、クラスの問題児、黒人生徒ジョニーと親しくなったことを機に、世の中の複雑さを知る。出演は「レ・ミゼラブル」のアン・ハサウェイ、「シカゴ7裁判」のジェレミー・ストロング、「ファーザー」のアンソニー・ホプキンス。
  • 映画評論家

    上島春彦

    ものものしいタイトルはレーガン政権以降のアメリカを指す。監督の自伝的な部分もあり、それ故、思いがけないところにトランプ一族が出現する。まさにアルマゲドン。監督の分身めいたユダヤ系少年は学校側からは知恵遅れ(スロー)の気がある、と見られているが、これは今ならアスペルガー症候群とされるだろう。いずれにしても的外れな診断だ。黒人少年との友情が自身の無謀な家出計画のせいで危機に見舞われる顛末が縦軸。科学少年的なディテールが横軸。構成の秀逸さを愛でたい。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    金網のフェンスが向かい合う白人と黒人の少年たちを何度か遮る。一面のガラスでも壁でもないそれは幾何学模様の間隙から触れようと思えば触れられるが、相手の側へと決して越えることはできない。勧善懲悪が不可能な複雑さと困難のなか、暴力的に物語を断絶してしまう終幕は、明らかにこの映画のルックが醸し出すあたたかな家族映画の様相を裏切るものである。ベンチに座って数秒間沈黙を携えただけで人生のすべてを物語ってしまうようなアンソニー・ホプキンスの演技に目を見張る。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    監督の自伝的な作品でありながら、最近よく見る「新自由主義の起源を80年代に探る」シリーズでもある。ジェームズ・グレイはもともと本作のようなパーソナルな関係性を描いて登場してきたが、人間描写がそこまで巧みかというとそうでもなく、むしろハッタリを利かせた時のスケール感、飛距離にこそ本領があるように思う。本作も主人公の日常や家庭内のいざこざよりも祖父役のアンソニー・ホプキンスが語る本当か嘘かわからない個人史に耳を傾けている時のほうが映画を感じられた。

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