映画専門家レビュー一覧

  • モータルコンバット(2021)

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      ゲームファンにはお馴染みのキャラクターの背景を繋ぎ合わせて物語を作り上げているからか、原作ゲームをプレイしたことがない自分には違和感しかない展開で、終始戸惑う。ただアクション演出は素晴らしく、場所、構図、タイミングを丁寧に計算した接近戦のリアルな見せ方、グロ描写もやりすぎで良い。それぞれのキャラに合わせたことがこちらでは活きている。特に真田広之の殺陣、所作は完璧で、長年舞台を選ばずストイックに挑み続けてきた本物のスターということを改めて実感。

  • ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち

    • フリーライター

      須永貴子

      代表に漏れた仲間のウェアを身につけて団体戦に挑んだ原田選手など、実話に基づく描写が強い。テストジャンパーという裏方に焦点を当てた着眼点も良い。CGによる吹雪も大迫力。だが、あるテストジャンパーの「オリンピックに関わりたい」という利己的な動機が、「日本の金メダルのため」という全体の目的にすり替えられ、テストジャンパーたちの安全のために下された決断が翻される、決死隊的展開を美談に仕立てていて?然。森喜朗的思考回路をタイトルが的確に表している。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      これが実話でなかったら、出来過ぎだとそっぽを向かれるかもしれない。もちろん実話そのものではあり得ず、随所に脚色が施されているだろうが、やはり実話は強い。なぜみんなもっと実話をやらないのかといつも思っていた。長野オリンピックをオンタイムで体験した人にもそうでない人にも等しく共感を呼ぶと思う。負け組が奮闘する話だからだ。話の展開は骨太で王道を行っているし、随所にクライマックスに至る伏線が張られていて、セオリーに忠実である。少なくとも見て損はない。

    • 映画評論家

      吉田広明

      長野オリンピックの際のテストジャンパーの役割を初めて知ったが、彼ら故に金メダルが獲れたかのような美談仕立てには若干の違和感がある。悪天候で危険にもかかわらず彼らを飛ばせて競技再開(ひいては日本の逆転)を狙う日本の競技関係者と、日本の為と自ら飛んだテストジャンパー、彼らには当然無関心、結果=メダル(しかも2位では駄目)にしか興味のない観客を見ると、競技を国の順位闘争に貶めるようなオリンピックのあり様自体そもそも見直すべきとの考えを新たにする。

  • 湖底の空

    • フリーライター

      須永貴子

      韓国の安東市、中国の上海、日本の東京。入り組んでいる場所と時代を、テロップや台詞で説明することなく、ストーリーの流れと色彩設計が利いたヴィジュアルで巧みに伝える。冒頭からのホラーめいた味付けで、主人公がなんらかの亡霊(=サバイバーズ・ギルト)に苛まれていることも匂わせる。自身に幸せが近づいてくるとそれを拒絶する主人公の心理はわかるが、そのたびに人を傷つけるのはありなのか? それでも愛してくれる王子様が迎えに来るラストでどっちらけてしまった。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      静かな映画だ。題名にある通り、湖の底にゆったり揺蕩っているような静けさ。イラストレーターの韓国女性・空と出版社の編集者の日本人男性・望月。二人は自分の国に居場所を失い、上海で仕事を共にしている。互いに恋心を抱いているが、湖底にいるかのように目の前にいても互いの声、本当の心がくぐもって届かない。空の双子の弟の海という存在が、空の唯一の声となる。が、それも望月には届かない。共に家族を亡くした二人は、最後に何を見つけたのか。

    • 映画評論家

      吉田広明

      内省的な絵描きの女性のもとに、どことなく不穏な雰囲気の双子の弟=妹が現れ、彼女の生活を攪乱する。正反対の性格を持ち、しかしお互いが無ければ成立しないモノクロ写真の黒と白や、取り替えられる二体のクマのぬいぐるみを巡る童話など、象徴的過ぎない象徴を使って二人の関係を現実と幻の曖昧な境位に置く語りは評価。しかし彼女が妹から解放されるのは新たな生=男を選び取ることによってであるべきではないか。彼女の内面で全て解決してしまって男の位置が弱化する作劇が残念。

  • 犬は歌わない

    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      人間の文明支配の外で生きる野良犬たち。文明社会からの彼らへの網羅は、私達自身に対して罪悪感を伴った何物かを提起し続ける。これは犬ではなく、人間の本質に関する作品だ。人間の本能とは一体どこにあるのか。進歩せざるを得ないことが人間の本能だというのなら、立ち止まり自らを去勢をしてしまう人間の意志とは。文明を持ってしまった人間。機能を喪失し骨組だけとなった廃車のなんと美しく崇高なことか。美しい映像で綴る犬のエレジーを通して人間の哀しい翳が炙り出される。

    • フリーライター

      藤木TDC

      原題でもある「宇宙犬」は幻想的なモンタージュだけ、正味は野良犬を被写体にしたダイレクトシネマ(観察映画)。何も考えてないかのような犬に無言でカメラを向け続けるかなり攻めた映像だ。都市住民たる野良犬はグータラ寝てばかりで餌をねだって半端に人間に媚びる姿が情けなく、そこに観客は自己投影できるし(俺だけ?)、宇宙旅行の栄光と現在の堕落の対比は文明批評的。そんな構成がただのワン公観察を真っ当な映画表現たらしめ、意外な完成度に?然。動物だって人間だ。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      今まで映画を観てきた人生の中で、もっとも正視に耐えない作品だった。元々宇宙恐怖症気味で、ライカの話はあまりにゾッとするので耳を塞ぐようにしてきたせいもある。冒頭の燃え上がったライカが綺麗な抽象画のようになる悪趣味さや、無垢な犬たちが宇宙飛行実験に使われるアーカイブにも震えあがってしまった。猫が犬に?み殺される映像を使う、観客をリアルな死と向き合わせるアートドキュメンタリーらしい趣向も、そんな瞬間を撮れたクルーは幸運だと思うが、観たくはない。

  • ベル・エポックでもう一度

    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      語り直しによる治癒効果。過去/現在/未来は一方向に流れるものでもなく、過去の出来事は固定されたものではなく、何度も語り直し救済することができる。また現在の私たちは未来からすでに影響を受けている。そんな哲学を等身大の人間を通して語ってみせる。ベル・エポック=良き時代という名を持つ1970年代のカフェは、ベル・エポック時代を憧れて名付けられたはずだ。過去は実際には触れることのない憧憬の時空間だが、そこを語り直すことで未来への足掛かりにもなる。

    • フリーライター

      藤木TDC

      タイムスリップし青春を再体験する日本映画なら甘口ファンタジーでやりそうなテーマを、撮影所を使った個人向けリアリティショー・ビジネスに置き換えた発想はやられた感。映画の高級感を優先したせいで現実のサービスとしてはコスト度外視に見えるが、誰が役者、どの場面が虚構か曖昧になるミステリ風味も凝ってるし、フレンチ・ノワールの名優競演で男性客も楽しめる。仕掛けの密度維持のため登場人物を類型化せざるをえなかったのと、終盤の展開が毎度おなじみなのが決定的弱み。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      遊び心に溢れた作品だが、非現実的で地に足がついていない居心地の悪さも覚える。設定が大がかりすぎて、オリジナルルールのゲームとしてあり得ないため、砂上の楼閣を眺めているようだ。こういった社会性をまったく排した恋愛劇を撮るのも、昨今はフランスか日本くらいでは……。大人が無邪気に楽しめる世界観ではないだろう。ギヨーム・カネ演じるディレクター男性のモラハラぶりも不快。周囲から引かれるほど女性を抑圧しているのに、あのラストは前時代的な幸福観だ。

  • アフリカン・カンフー・ナチス

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      製作元も配給元もグルになって全篇がツッコミ待ちの作品だが、申し訳ないがそこにツッコミを入れるほど暇ではない――というのは、そもそもB級映画(本作はZ級だが)をB級であるが故に愛でるという感性を昔からまったく持ち合わせていない人間としての個人的なインプレッションだが、こういう作品を持て囃すノリって今もどこかに残っているのだろうか? トランプや立花孝志みたいなのが現実世界に一度侵食してしまった現在、もし残っているとしたら二重にも三重にも時代遅れだ。

    • ライター

      石村加奈

      「ありがとうやで」「せやろがい」等々、うさんくさい関西弁の字幕が、ヒトラーや東條英機というモチーフへの嫌悪感を、巧みにごまかすという意味で、思いの外功を奏している。ヒトラーを自ら演じた、セバスチャン・スタイン監督の迫力にも圧倒される。撮影場所ありきで、ガーナを舞台に繰り広げられていく、柔軟なストーリー展開の端々に、豊かなアイデアの片鱗が光る。主人公に気前よく必殺技を伝授する個性的なマスターたちとのドラマも、もう少し楽しみたかったなあ。次作に期待!

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      明らかに思いつきの設定、おそらく編集を逆算せず撮っている無駄に長いシーンの連続、素人俳優による棒読み演技、カンフーアクションはキレキレ……脱力系B級スタイル、いわゆる「バカ映画」だが、この作風を心から楽しめるセンスが私にはない(人によっては満点だろう)。しかし、監督の個人的な経験に基づく奇想天外な物語が多くの人間を動かし、超低予算と熱意だけで完成させ、ちゃんと劇場公開されるということに夢がある。正しい、理想の自主映画の形だと思う。

  • 漁港の肉子ちゃん

      • 映画評論家

        北川れい子

        男に食いものにされ、何度ボロボロになってもすぐに立ち直る大食漢の肉子と、ほっそりした娘のキクコ。似ても似つかぬこの母娘の人情アニメで、実の親より育ての親というお約束ごと通りに進行、そういう意味では泣きたい人向きのアニメである。けれども「海獣の子供」で水族館の世界を無限に広げた渡辺監督にしては通俗的泣かせドラマに足を引っぱられている印象で、それ以上の広がりがないのがもの足りない。大竹しのぶが声でも達者なのは当然だが、Cocomiの吹き替えも合格点。

      • 編集者、ライター

        佐野亨

        STUDIO4℃の造形力は、「えんとつ町のプペル」のような丸のままのファンタジーよりも、「海獣の子供」やこの作品のように現実世界のなかの異世界を描いたときに本領を発揮する。西加奈子の小説に描かれた肉子ちゃんの生々しいダメさ加減は、実写だとドぎつく映ってしまうきらいがあるが、人物造形と描線の描き分けによって、アニメでしか表現不可能な「リアル」を紡ぎ出している。物語は他愛ないといえば他愛ないが、だからこそディテイルの豊かさに目をみはった。

      • 詩人、映画監督

        福間健二

        こんなおばさんいたら楽しいなと男性の半分は思いそうな肉子ちゃん。信じられなかったが、声は大竹しのぶ。できすぎの小学生の娘キクリン、リアリティー無視の親友マリア、大事なときにヘン顔の二宮くん、おいしく肉を焼くサッサンなどの人物も残りそうだ。ジブリへのオマージュがあり、吉田拓郎の〈イメージの詩〉もよみがえった。渡辺監督は、明石家さんまの、微妙に抑制ありの趣味に従いつつ、最後のまんじゅうまで低姿勢を保ち、山田洋次に負けない程度の「故郷」は提出したと言える。

    • ブルーヘブンを君に

      • 映画評論家

        北川れい子

        青いバラ“ブルーヘブン”の誕生秘話と思いきや、丸ごと、由紀さおりにおんぶにダッコのワンマン映画で、言っちゃあなんだが、ハングライダーも、岐阜の大自然も、由紀さおりの刺身のツマ。園芸家として実績を残した彼女が、ガンで余命を宣告されたことで、青春時代の思い出が甦り、ハングライダーに挑戦するというのだが、周囲を巻き込んでの冒険にムリヤリ感があり、ドラブル続出もヤラセ演出がミエミエ。とは言え、これが外国映画だったら素直に楽しんだかも、と思ったりも。

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