映画専門家レビュー一覧

  • ハッピー・バースデー 家族のいる時間

    • フリーライター

      藤木TDC

      本作のドヌーヴはNHK朝ドラの祖母役みたいな分別ある賢女像で面白味がない。招かれざる家族の帰還テーマはかなり既視感あるし、起きる波乱もお約束ばかり。嫌がられつつ家族にカメラを向ける自称映画監督の次男坊が撮影する映像が重要な伏線かと思いきやそうでもない。短所ばかり目につくが、邦画にもよくある同題材作品と違い、着地点を厳しく描き現実的課題をつきつける。逃避していないぶん後味はだいぶ悪い。逆に食事シーンは旨そうに撮れており食欲を刺激するのが皮肉。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      「観ていればそのうちわかる」と言わんばかりの、いまいち相関図がわかりにくい登場人物たちが一堂に集うシークエンスから慌ただしく始まるのが、フランス流大人の語り口というか。そして全員が何かしらの精神的、性格的問題を抱えているのも家族映画の本領発揮ぶり。その迷惑さが生々しくてイラッとくるキャラは演出の上手さだが、中にはいかにも常套句的にトラブルを起こすキャラも混在していて、監督の思い入れの違いだろう。突き詰めれば全部金という夢のなさは息が詰まる。

  • 新感染半島 ファイナル・ステージ

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      冒頭約30分、イ・レ演じる少女ジュニが驚きのドラテクを駆使して主人公たちを救出するあたりまでの編集のスピーディーさ、ビジュアルのシャープさ、ストーリーテリングの巧みさは、さすがヨン・サンホ。同じくアナザー・ハリウッドを標榜するヨーロッパ・コープあたりのアクション作品と比べても確実に一枚上。シチュエーションを分散させたことで物語が停滞してしまう中盤以降は、ほぼ完璧な脚本だった前作と比べるとどうしても分が悪いが、課題は脚本だけとも言える。

    • ライター

      石村加奈

      大ヒットを記録した前作から、4年後の世界が見事に構築されている。カン・ドンウォン演じる、主人公のジョンソクを筆頭に、主要な登場人物たちのキャラクターも見応えがある(完璧なキャスティング!)。中でも、監督があてがきしたと明かすジョンソクの義兄チョルミン(キム・ドユン)と、因縁の母ミンジョン(イ・ジョンヒョン)、それぞれの選択する結末がいい。たとえカッコ悪くとも、世間の常識に抗って、生きる努力をする。人間の素朴さを讃えた、素晴らしいヒーロー映画だ。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      冒頭こそ、コロナ禍真っ只中の今、感染爆発から派生する差別描写などにリアルを感じたが、その後は「ジュラシック・ワールド/炎の王国」「ニューヨーク1997」「マッドマックス 怒りのデスロード」なんかをごった煮にしたトンデモ展開に突入。フュリオサばりのハンドル捌きを見せる13歳、イ・レの憂いのある眼差しにグッとくる。前作同様、ヨン・サンホ監督の展開、キャラクター描写ともに無駄のない演出が冴えるが、ラストの選択のシーンだけやたら長くて惜しい。

  • 燃えよデブゴン TOKYO MISSION

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      「え? 原題も英語題も邦題も同じなのにサモ・ハン・キンポー版のリメイクじゃないの?」とわかったようなことを言いたくなるが、ジャッキー映画に夢中になっていたクラスメイトを横目に、子供の頃からカンフー映画(特にコミカルなもの)が大の苦手だったことを告白しなくてはいけない。往年のカンフー映画のフォーマットに、日本のトレンディドラマ的なふた昔くらい前のテイストをまぶしてみせた谷垣健治監督の方法論は、オリジナリティという点では成功している。

    • ライター

      石村加奈

      その場にあるものをうまく利用するアクションの軽やかさが、映画全体に行き届いている。麻布警察署の外観や築地観光など、訪日外客的な視点で捉えたJAPAN情報をビビッドに取り込み、セットとの絶妙な調和を図る(甘栗屋の設定も面白い)ことで、東京タワーでのラストバトルの臨場感&迫力の倍増に成功。マギーのヘリネタまで、華麗に回収する脚本の完成度も高いが、冒頭、マスク姿の銀行強盗犯たちに「風邪ですか?」と声をかける行員の親切心がもはや通用しない時代とは切ない。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      ドニー・イェン、谷垣健治監督の師弟コンビが送る東京を舞台にしたアクションコメディ。そもそも主人公が太っている意味があるのかとか、日本のヤクザと警察の描き方が雑だとか、ヒロインがうるさいし心狭すぎとか、そんなつまらないことに引っかかる人は、このジャンルを心から楽しめないだろう(私だ)。歌舞伎町、東京タワーを再現したセットは素晴らしいし、その中でのドニーのアクションもキレていた。個人的には、次回、このコンビでシリアスなアクション映画が観たい。

  • AWAKE

    • 映画評論家

      北川れい子

      いまいち素っ気ないタイトルは将棋AIの名。かつてプロの棋士を目指したというその開発者をモデルにして、主人公の内面的揺れを行動で追っていくのだが、将棋盤やコンピュータ相手の寡黙な場面がかなり多い。が小細工のない吉沢亮の演技と腰の据わった演出が、主人公のある種の屈折した野心を感じさせ、この辺り、みごと。終盤の電王戦では棋士とAI双方の緊張した息使いまで手にとるよう。開放感や達成感とは別の、ある種の充実感が体験できる、野心的な作品である。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      人目を引く題材を若者たちの青春群像劇に律義に落とし込んでみたという感じだが、参照先がいくらでも探し出せそうな型の上に制作体制的にもお膳立てが整いすぎたと見え、山田監督にとって商業映画第1作でありながら、定石を踏み越えるような躍動の瞬間が一度も訪れない。その結果、若い俳優たちの熱量ばかりが空回りしてしまっている。「好きなこと」を題材とするのはもちろん大切なことだが、それを形にするときに自分の持っている知識を疑うような自己言及性があってほしい。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      将棋で棋士とコンピュータがたたかった「電王戦」から着想した作品。藤井聡太登場以来の本物のおもしろさに対して、負けない要素を、元奨励会員がコンピュータのプログラムを開発したという事実から引き出している。新人の山田監督、プログラミングにのめりこむ吉沢亮の主人公をライヴァルとするくらいの熱意でやったと思える仕事だ。あえて盛らない。音楽もシンプル。でも、自分を出している。何よりも、主要人物それぞれの演技の基本がしっかりしている感じが気持ちよかった。

  • ジョゼと虎と魚たち(2020:アニメ)

    • 映画評論家

      北川れい子

      先行した実写版より今回のアニメ版の方が素直に楽しめたのは、車椅子娘のジョゼが、絵や動き、台詞などから“純化”というか、かなり抽象化しているからだろう。実写版ではどうしてもリアルな存在として演出にも限界があるが、その点、アニメは飛ぶのも遊ぶのも自由自在。ジョゼが読書家で絵を描くのが趣味というのも表現の広がりとなり、そういう意味ではアニメ向きの原作なのかも。各キャラクターの造形や背景描写も丁寧で好ましく、それぞれの思いが台詞以外からも透けて見える。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      原作小説は田辺聖子ならではの一歩引いた人間洞察にひねくれた面白味があり、犬童一心監督、渡辺あや脚本の実写映画はそれとはまた違うタイプの厳しさを根底にしのばせる作品になっていた。この映画はむしろ近年の青春アニメ路線に親和性をもたせたつくりで、その意味ではもっともわかりやすいが、一方で非共感的であることに支えられたファンタジーの奥行きは失われてしまっている。意図されたであろう背景と人物が極端に乖離した作画も、あまり効果的とは思えない。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      田辺聖子の原作は一九八四年、渡辺あや脚本で犬童一心監督の実写版ヒット作は二〇〇三年。時間の経過は、足の不自由なジョゼの外出を祖母が制限するという設定を突きくずしたと思う。脚本の桑村さや香とタムラ監督、雑な仕事ではないと思うが、まず、その対処を考えていないのが弱い。次に、ジョゼの出会う恒夫の作り方。メキシコ行きの夢、事故、立ち直り、そして気づきという展開には、いつの話だと呆れた。一方、現実感を犠牲にしても、というファンタジー的楽しさも、遠慮気味。

  • 香港画

    • フリーライター

      須永貴子

      ドキュメンタリー映画には、主題に対しすでにある程度の知識を持つ人に向けたもの(A)と、一人でも多くの関心をそのテーマに向けさせるために作られたもの(B)とがある。旅情を誘う実景映像、デモに参加する若者たちの切実な言葉、警察が市民に過剰な暴力を振るう凄惨な場面から成るミニマムで強烈な映像ジャーナリズムである本作はBタイプ。劇場でAを求める人には食い足りないし、一人でも多くの人の目に触れて欲しいので、一刻も早くサブスクで配信されますように。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      「光復香港、時代革命」を旗印にした香港のデモの参加者は2019年6月には103万人に達したという。香港の人口が750万と言われているので、どれだけ多くの人々が、特に若者たちがデモに参加したのか想像を絶する。決死の覚悟で監督が写し撮った若者たちを見ると胸が熱くなってくる。涙が出てくる。警官たちに殴られ蹴られ殺される彼らは歌を合唱する。〈アメリカ国家〉そして〈イマジン〉。人間にとって自由というのは、人間の存在意義そのものなのだとしみじみ思い知らされる。

    • 映画評論家

      吉田広明

      ヴェンダースの「東京画」は、異邦人の見た東京として、見たこともない東京を見せてくれたが、この「香港画」は、私たちがTVのニュースで見るものと大差ない映像の集積に過ぎない。確かに香港警察の暴力は酷いものだが、その暴力の依って立つ根拠=国家の暴力性(中国に限らず)まで踏み込んではいない。その本当の怖さが見えず、だからこそ戦わねば、と意志を奮い立たせることもない。プロパガンダとして中途半端、ましてドキュメンタリーの多層性は望むべくもない。

  • GOGO(ゴゴ)  94歳の小学生

      • 映画・音楽ジャーナリスト

        宇野維正

        幼少期に教育の機会を得られず90歳を過ぎて小学校に通うようになった、ケニアの小さな村に住む女性の日常を追うドキュメンタリー。たまに棒読み気味になるセリフっぽい会話や、作品に不似合いな西欧音律のスコアが気になるが、それ以外はナレーションを排した被写体に集中を促す誠実な作りで、とても大事なことが語られている。口を開けば世を憂うことばかり言ってる人は、「いい時代さ。正しい方向に物事が進んでるよ」という彼女の言葉を噛み締めたほうがいい。

      • ライター

        石村加奈

        ひ孫娘たちの手本となるべく、小学校入学を決意した、94歳のゴゴ。寄宿舎生活を送りながら授業を受け、100歳までには初等教育修了試験をパスしたいと神様に祈る、その心意気も若やいでいる。修学旅行で初めて村を出て、初めての旅にはしゃぐ姿は、うんと年下の同級生たちと変わらない無邪気さだ。しかし耳は遠く、目も見えにくくなる老化現象をはね返す「特別なばあさん」は、彼女ひとりの力では生まれない。お年寄りに敬意を払い、同じ歌で盛り上がれる村の文化に支えられている。

      • 映像ディレクター/映画監督

        佐々木誠

        被写体の立ち位置がバッチリのマルチカメラ、アングル違いのカットバックの多用、それらの演出が「ドラマ」過ぎて、そればかり気になってしまった。監督の解説を読むと、時間をかけて被写体の人たちと関係を結んだのでその手法が可能になったということだが、あらかじめ全体像を想定して組み立てていることが“あからさまに”見えるドキュメンタリーをどう捉えるかによるかな、と。もちろん「教育の重要性を訴えたい」という意図は伝わったし、主人公のゴゴは魅力的ではあったが。

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