映画専門家レビュー一覧

  • いぬむこいり

    • 映画評論家

      上島春彦

      人獣婚姻譚という意味、要するに「八犬伝」だね。全四部作、実質前後篇。長いが、前篇は壮大なる序章という感じで後篇ようやく面白くなる。齢とって良かった、と思うのは貧乳と熟女AVを許せるようになったこと。許せるというか好み。だから有森さんが出し惜しみなく脱いでくれて万々歳である。犬にはあれが正常位。神話的古層と虚構的現在、二つが戦争を軸に結合する構成なのは悪くないが、表現は舌たらず。ロケーションも凄いし、そうなると前篇田舎風景の弱さが露呈する感じか。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      長尺映画とはいえ四章からなる本作は演出力で突っ走るタイプの作品ではない。第一章のハイテンションな有森也実が日常を投げ打って猪突猛進してゆく姿は園子温的な力技が無い分、空回り。二章の島の選挙戦も同様だが、これが無人島に向かう三章から俄然、映画が熱を帯び始める。現実社会の中で虚構を描こうとすると引っかかっていたものが、自然の中では小手先の誤魔化しも効かず、俳優たちの力が存分に発揮され、獣姦も、PANTAと緑魔子のアングラ芝居も全てが成立してしまう。

  • 映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ

    • 評論家

      上野昻志

      喪失感を抱え、潔癖さのために世の中の当たり前が信じられず、その虚しさから身を守るために言葉を連ねる女と、他人に対しては間歇的に饒舌になりながら、自分のことに関わる言葉を発しない男。そんな二人が、喧噪に満ちた都会の底ですれ違う。それを緻密に設計された対位法と反復によって描くことで、事件らしい事件などないのにサスペンスを孕み、見ているわたしたち自身に、彼女と彼が正面から向き合うことを切望させる。新人・石橋静河と彼女を輝かせた池松壮亮に乾杯!

    • 映画評論家

      上島春彦

      詩集が原作というのは十分セールスポイント、別に登場人物が詩人というわけではない。原作を活かした独白のせいで「妙にカラむ女だなあ」という第一印象になったのは失点だが、その骨太美女が「青春の門」の頃の杉田かおるに似ているのは気に入った。もう一方の言葉が空回りする若者と娘との恋以前の恋というコンセプト。というか、昨今のこの手の物語には珍しく肉体関係がないんだよね。労働現場のストレス、ワーキングプア、孤独死と暗い話題が多いが暗い映画じゃないのを評価する。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      現代の東京のディテールが丹念に描かれるが、20分経ってもどういう話なのか不鮮明。ようやく動き始めてもそこで提示される労働、貧困、独居老人、地震、原発、放射能と、まるで社会問題の全品総ざらいで、最終的に挨拶しましょう、いただきますを言いましょうと教育映画的なメッセージが残される。ストリートミュージシャンを野嵜好美に演らせたのは面白いが励まし系の単純な歌詞に苦笑。それでも本作が忘れ難いのは石橋静河の圧倒的な存在感にあり。今年の新人賞は総ナメだろう。

  • サクラダリセット 後篇

    • 評論家

      上野昻志

      リセットとか記憶操作とか能力コピーといった、それ自体、画になりにくい話を一所懸命、映画にしようとしている点を買って、前篇の点を甘くしたが、後篇は、その弱点がもろに出て惹かれるところ皆無。話だけは、一応、前篇を引き継いでつながっていくのだが、画面としては、同じような絵柄の繰り返しで、前篇に巻き戻したかと思った。いっそ話を絞って1本にした方が退屈せずに見られただろう。まあ、このような話を映画にするには、よほどの工夫が必要という教訓にはなるけれど。

    • 映画評論家

      上島春彦

      前篇を受け入れない人はこっちは見ないだろうが、こっちの方が面白い。最初から問題になっていた平祐奈の溺死の真相が明らかにされる。それがトリックと密接に関わっているので、観客はつじつまが合っているのか今一つ納得しないままカタルシスを得ることになるのだ。主人公を巡る美少女二人の確執も陰険じゃないのが嬉しい。超能力者と管理者の抗争が鍵で、及川ミッチーがその悪玉側の首領。青春SFミステリーというジャンルに不案内な私だが大いに満足。番外篇を期待して加点。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      前後篇映画は余計な説明なしで突っ走ることができる前篇のみが快走することが多いが、本作は基本設定の周知に前篇を費やした分、後篇になって黒島と平の硬質な台詞も活かされ、ジュブナイルとしての魅力が発揮された感あり。最大の功労者は例によってこの人さえいれば困難な実写化もなんとかしてしまう及川光博。主人公らと対決する際もナメてかからず、拙い演技も全て受け止め、この徹底した虚構の世界を信じ切って演じてくれるので魅力に欠けるロケセットすらも輝かせてしまう。

  • 破裏拳(はりけん)ポリマー

    • 映画評論家

      北川れい子

      アニメ版のことは全く知らず、今回の実写版で初めて“破裏拳”なる技を持つスーツヒーローを知ったのだが、ゴメン、わざわざ特殊装甲スーツなどで変身しなくても、溝端淳平が演じている主人公、素手で充分強いのに、と思ったり。変身することで更にパワーアップするワケだが、そのアクションも基本は地に足を着けたまま、しかも話の運び方はいささか古くさいコメディ仕立て、この辺の手作り感は親しみが湧かなくもない。とはいえ“タツノコプロ”ファンではない私にはツラい。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      ヒーローアニメやジャッキー・チェンの“~拳”もので刷り込まれた、Aの型に勝るのはB、それに勝るC、みたいな、ある世代の男子の必殺技好きはなかなか治らないが、本作はそれを踏まえたうえでそこに安住せず、技が改良されて変化したステップを長年会っていなかったかつてのライバルが知るのはなぜ?みたいな武術ミステリネタをも入れてきて楽しい。本作監督の倉田アクションクラブにおける後輩谷垣健治氏らによって観客のアクション鑑賞眼は肥えたが本作の志向もまた良い。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      僕は『破裏拳ポリマー』リアルタイム世代であるという前提。本作の構図は、ドラマ部分でカメラの水平を保ち、アクション部分では斜めになるという法則がある。特にアクション場面では、斜めの構図の中で闘う主人公たちの姿が水平を保ちながら、手前と奥に配置することで映像に奥行きを生んでいるだけでなく、アクションそのものが立体的に見えるような工夫が成されている。但し、この法則が演出のルールとして全篇・全カットにおいて実践されていれば、より秀でていたように思える。

  • 潜入者

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      「トランボ」での演技が素晴らしかったB・クランストンが、麻薬捜査官として頑張る。コロンビアの資金洗浄組織に潜入しての捜査は緊張をきわめ、組織を追いつめるはずの主人公が、どんどん精神的に追いつめられていく。この逆説こそ本作の面白さだ。組織のコロンビア人たちには、残忍さと同時に、人情に厚い仲間意識がある。この人間性が本作に勧善懲悪を揺さぶる味を加えている。心理ゲームにあって、罪悪感を抱くのは覆面捜査官たちであり、それを見守る私たちの方なのである。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      潜入捜査ものは数あれど、これは活劇ではなく実録風。標的が麻薬王エスコバルというのが興味津津。主人公が大富豪に化け、マネーロンダリングを餌に敵を一杯ひっかける作戦が面白い。主人公の捜査官の家庭描写も取り入れ、夫・父としての素顔も見せる。これがあるおかげでピンチ場面のスリルにリアル感が。B・クランストンのうろたえ演技が見ものだが、チト表情が豊かすぎの感も。敵側の夫婦を裏切る話はもう少し丁寧に見たかった。敵味方を越えた友情っていうノアールの定番をね。

    • 映画ライター

      中西愛子

      不屈の精神を持った知恵者にして、家族思いという点で、記憶に新しい当たり役“トランボ”と通じるが、今回、ブライアン・クランストンが演じるのは、世界最大の麻薬組織への潜入捜査官ロバート・メイザー。この実在の人物による回顧録を原作に、80年代の裏社会を緊張感ある人間描写で筆致。好演する俳優陣、みんな顔が怖い。男たちがまとう威圧感とギトギトした欲望、また静かな凶暴さを鋭くスパークさせる演技の応酬がスリリングで見応えあり。ホントかいな、と思うような話だが。

  • トンネル 闇に鎖(とざ)された男

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      ハ・ジョンウとペ・ドゥナというトップスターの出演も相俟って本国では大ヒットを記録した作品。ハリウッドでも最近よくある独りサバイバルものだが、崩れ落ちたトンネルの車内に閉じ込められるという極端な閉鎖状況で2時間の上映時間をどうやってもたせるかが見物。やはりジョンウは「お嬢さん」の片言詐欺師よりもこっちの方がハマっている。ドゥナは少し疲れた雰囲気が魅力的。人物についていく移動撮影にはセンスを感じる。トンネルの中の孤独と、外の大騒ぎのコントラストが効果的。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      ガソリンスタンドのサービスで渡されたペットボトルの水二本。乗客はお礼を言って受け取るや否やぞんざいに後部座席へ放り投げる。この演出とハ・ジョンウの芝居による伏線が効いている。危機下での一人芝居は「テロ,ライブ」での実績があるハ・ジョンウの独壇場かと思いきや、安心のオ・ダルスと手際の悪い部下とのやり取りを映像的なコミカルさにつなげるなどセンスを感じるが、中盤以降は結末から逆算したご都合主義感が否めず持ち駒を活用しきれていないのが惜しい。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      説明抜きでいきなりトンネル崩落事故に主人公は巻き込まれる。閉じ込められた彼の恐怖と地上で展開する大規模な救出作業をカットバックさせながら最後まで緊張感を持続させ、家族愛、国家と個人といったテーマを浮かび上がらせた脚本監督のキム・ソンフンの手腕は見事だ。この手の映画ももはやアメリカの独占ではない。終始一人芝居で人間的魅力を表現したハ・ジョンウがいい。朴槿恵に似た大統領を登場させ、個人の命は地球より重いという国家的欺瞞を皮肉るのも効果的。

  • バッド・バディ!私とカレの暗殺デート

    • 翻訳家

      篠儀直子

      文字どおり踊るような動きで相手を倒していく殺し屋サム・ロックウェルがオモシロかっこいいのはもちろん、全員キャラが立っていて魅力的(RZAが演じる人物は、たぶんそうなるだろうと予想がつくのだけどやっぱり愉快)だが、何にもまして俄然映画を牽引するのは、「ザ・コンサルタント」での「イケてなさ」ゆえの魅力に、暴走キャラの魅力がプラスされたアナ・ケンドリックの犯罪的可愛さ。ひとりで観てもグループで観ても楽しい映画だけど、たぶんデート・ムービーに選ぶと最強。

    • 映画監督

      内藤誠

      『スリラー』のジョン・ランディスの息子マックスの制作と脚本だけあって、語り口が軽快。主演のアナ・ケンドリックとサム・ロックウェルはともにはみ出し者ながら、リズミックに動き、とぼけた明るさがある。ティム・ロスをはじめとする脇役陣のセレクションもよくて、むかしのプログラム・ピクチャーの魅力を醸し出す。「ダンスをするように殺す」というスピードを売りにしたガンプレイは程々にして、「普通の人間なんて、この世にいない」と言う男女のラブコメディをもっと見たかった。

    • ライター

      平田裕介

      ハミ出し系女子役が似合うアナケン嬢。敏腕暗殺者に見初められるヒロインにはピッタリだと思うし、それこそ劇中でもノリノリな感じで申し分ないのだが、ユニコーンをプリントしたTシャツ、猫耳カチューシャといった、常人との“ズレ”を反映させたファッションがことごとく似合っていない。これに引きずられて、なんだかすべてがモヤッと感じたまま終劇。同じM・ランディス脚本の「エージェント・ウルトラ」に出てくるCIA洗脳計画が絡んでおり、同作の関連作と捉えても良さそう。

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