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略歴 / Brief history
【貧困層の人々の姿をリアルに描き続ける兄弟監督】兄のジャン=ピエール、弟のリュックともにベルギー、リエージュ近郊の生まれ。リエージュは工業地帯であり、労働闘争のメッカでもあった。兄弟ともにブリュッセルに移り住み、演劇界・映画界で活躍していたアルマン・ガッティと出会って、彼の影響を受けながら映画製作を手伝うようになる。原子力発電所で働いて得た資金で機材を買い、労働者階級の団地に住み込んで、1974年から土地整備や都市計画の問題を描くドキュメンタリー作品を作り始める。75年にドキュメンタリー製作会社を設立し、以後もレジスタンス活動、ゼネスト、ポーランド移民といった題材のドキュメンタリー映画をさまざまに撮り続けた。87年に初の長編映画「Falsch」を監督。92年に第2作「Jepenseavous」を撮るが、会社側の圧力による妥協の連続で満足いかない出来となってしまった。彼らの名を一躍世界に広めたのは、貧しい少年が威圧的な父から精神的に自立していく姿を不法移民問題に絡めて描いた「イゴールの約束」(96)。妥協することのない環境で作品を製作し、カンヌ映画祭の国際芸術映画評論連盟賞をはじめ多くの賞を受賞。99年の「ロゼッタ」では少女と酒びたりの母親の関係をリアルなタッチで描き、カンヌでパルムドールと主演女優賞を獲得した。映画監督として世界の頂点に立った彼らは、続く「息子のまなざし」(02)で少年犯罪を取り上げ、被害者の親と加害者の少年の関係というテーマに挑む。同作ではカンヌ映画祭で主演男優賞とエキュメニック賞特別賞を受賞。ここまでの彼らの作品には、ふたつの世代間に生じる葛藤を描いているという共通点がある第6作「ある子供」(05)では世代間のテーマを離れ、自分の赤ん坊を人身売買しようとする未熟な青年と、その行為にショックを受ける恋人という若いカップルの物語を描き、史上5組目となる2度目のカンヌ・パルムドールを獲得。さらに、アルバニアからやって来た若い女性が国籍を得るための偽装結婚を通して真実に触れていく「ロルナの祈り」(08)では同映画祭の脚本賞を受賞した。【人間を的確にとらえるまなざし】短編アニメーションの評価が高かったベルギー映画界では、80年代から劇映画の新しい波が台頭し、90年代にダルデンヌ兄弟をはじめとする新世代が国際的な評価を得るに至った。共同で監督・脚本を手がけるダルデンヌ兄弟は、多くの作品で家族の在り方を見つめている。そして、まだ自己を確立していない子供たちの不安定感を冷静に観察しつつ、若さにひそむ柔軟性と可能性を信じ、見守り続けた。貧困層の人間を描き社会の歪みを浮き彫りにする作風から、しばしば社会派監督と見なされるが、彼らの映画の感動は何かを告発する使命感というより、人間を的確にとらえる深いまなざしによって生まれている。また、リアリティをすくい丹念に積み上げていくという、地味だが実は斬新な映画スタイルも特筆すべき点だ。
ジャン=ピエール・ダルデンヌの関連作品 / Related Work
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母の聖戦
制作年: 2021年間推定6万件の誘拐ビジネスが横行するメキシコを舞台にした実話ベースの社会派クライム・スリラー。犯罪組織に誘拐された愛娘の奪還を誓う母親の深い愛情と執念の闘争が描かれる。ルーマニア生まれでベルギーを拠点に活動するテオドラ・アナ・ミハイ監督が理不尽な暴力が渦巻く世界を変えたいと企画、本作で劇映画デビューした。「ある子供」のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟、「4ヶ月、3週と2日」のクリスティアン・ムンジウ、「或る終焉」のミシェル・フランコといったカンヌ受賞監督たちがプロデュース。第74回カンヌ国際映画祭ある視点部門で勇気賞を受賞、第34回東京国際映画祭コンペティション部門では「市民」のタイトルで上映され、審査委員特別賞を受賞した。 -
午後8時の訪問者
制作年: 2016「サンドラの週末」のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督によるヒューマンサスペンス。診療時間外に鳴ったドアベルに応じなかった女性医師ジェニー。翌日、ベルを押していた少女の遺体が発見され、ジェニーは後悔の念から彼女の足取りを探り始める。出演は「メゾン ある娼館の記憶」のアデル・エネル、「最後のマイ・ウェイ」のジェレミー・レニエ、「ダゲレオタイプの女」のオリヴィエ・グルメ、「サンドラの週末」のファブリツィオ・ロンジォーネ、モルガン・マリンヌ。70点