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略歴 / Brief history
【英国庶民の哀感を鋭く温かく見つめる即興演出の才人】イギリス、グレーター・マンチェスター州サルフォードの生まれ。父は貧しい人々の住む地区で仕事をする医師だった。もともとの姓はリーバーマンで、両親ともにイギリスに移住してきたユダヤ人である。初めは英国王立演劇学校で俳優を目指すが、東15番街演劇学校で演出の腕も磨くようになる。才能が認められ王立演劇学校では奨学金の対象となり、ロンドン映画学校などいくつかの施設で教育を受け続ける。1960年代初頭にテレビや映画で小さな仕事をこなすようになり、同時に戯曲の執筆も始めた。リーが書いた戯曲のいくつかは舞台化、テレビ化もされ、70年代には彼の戯曲が9本、テレビドラマ化されて好評を博す。自身もテレビ演出家として評価を高めるが、彼の興味は次第に劇場用映画に移っていった。88年の「ハイ・ホープス/キングス・クロスの人々」(日本未公開)から活躍の場を映画に移す。当時の妻であるアリソン・ステッドマンを主演に据えた「ライフ・イズ・スイート」(91)、日本での初紹介作品となった「ネイキッド」(93)を経て、96年に発表した「秘密と嘘」がカンヌ映画祭でパルムドールを受賞し国際的な評価が定まった。2004年の「ヴェラ・ドレイク」はリー独自の即興的な演出方法が最大限の効果を発揮した作品で、主演のイメルダ・スタウントンは英国アカデミー賞主演女優賞を受賞するなど各方面で絶賛された。05年には舞台の世界に戻り、左翼的なユダヤ人家庭の分裂を描いた芝居を演出。「Happy-Go-Lucky」(08)に続く新作「AnotherYear」は、10年のカンヌ映画祭でお披露目された。【即興演出から生まれる真実の輝き】舞台演出家としての特性を活かし、映画を監督する際も必ずしも脚本に囚われることなく、その場の空気から生まれた即興的な演技やセリフを積極的に作品に取り入れていくことで知られている。脚本がないままに撮影が開始されることも少なくない。リーは撮影開始前に個々のキャラクターの性格や特定の状況の中でどのように行動するかを熟慮するが、撮影が開始されても登場人物がどのような運命をたどるのかを俳優たちにあえて教えない。そのことによって俳優たちの生の息吹が引き出され、作りものではない生き生きとした演技がフィルムに記録される。逆に言えば、アドリブ的な撮り方をしてもリーの意図を外れることのない息の合った俳優たちが必要であり、そのため元妻でもあるアリソン、ジム・ブロードベント、ティモシー・スポール、デイヴィッド・シューリスら馴染みのある俳優たちを繰り返し起用して作品を作ることを好んでいる。政治意識も強く、改革の名の弱者切り捨て風潮があったサッチャー政権下で作った作品には、庶民のやり場のない怒りが見え隠れした。オペラ作家ギルバート&サリヴァンを題材にした「トプシー・ターヴィー」(99)のような例外もあるが、喜劇の場合でも重厚なドラマの場合でも、リーの作品は英国の下流、中流層の人生の真実を共感とともに見据えることが共通のテーマとなっている。
マイク・リーの関連作品 / Related Work
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ピータールー マンチェスターの悲劇
制作年: 2018ガーディアン紙が創設される契機となった“ピータールーの虐殺”を「秘密と嘘」のマイク・リーが映画化。ナポレオン戦争終結後、英国は深刻な貧困問題を抱える。1819年、改革を求めて広場に集まった市民6万人の中に、鎮圧のため政府の騎兵隊が突進する。出演は、「007 スペクター」のロリー・キニア、「博士と彼女のセオリー」のマキシン・ピーク。第75回ヴェネチア国際映画祭Human Rights Film Network Award受賞。80点 -
ターナー、光に愛を求めて
制作年: 2014"光"を捉えた風景画で、印象派画家たちにも多大な影響を与えたイギリス人画家J・M・W・ターナー(1775-1851年)の謎に包まれた人生を「秘密と嘘」のマイク・リー監督が映画化。主演は、本作で第67回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した「ハリー・ポッター」シリーズのティモシー・スポール。撮影は「幻影師アイゼンハイム」のディック・ポープ。 -
ハッピー・ゴー・ラッキー
制作年: 2008楽天的な性格の女性教師と彼女の周囲の人々との触れ合いを描く人間ドラマ。監督は「ヴェラ・ドレイク」のマイク・リー。主演は「ウディ・アレンの夢と犯罪」のサリー・ホーキンス。2008年ベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)受賞作。2011年8月13日より、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催された「三大映画祭週間 2011」にて上映。 -
ヴェラ・ドレイク
制作年: 2004違法とされていた堕胎を善意で助けていた中年女性の運命を描くドラマ。監督・脚本は「人生は、時々晴れ」のマイク・リー。撮影も「人生は、時々晴れ」のディック・ポープ。音楽もリー作品常連のアンドリュー・ディクソン。美術も「人生は、時々晴れ」「五線譜のラブレター」のイヴ・スチュワート。編集は「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」のジム・クラーク。衣裳は「人生は、時々晴れ」「猟人日記」のジャクリーン・デュラン。出演は「恋におちたシェイクスピア」のイメルダ・スタウントン、『ハイ・ホープス』(V)のフィル・デイヴィス、「秘密と嘘」のピーター・ワイト、「堕天使のパスポート」のエイドリアン・スカーボロー、「人生は時々、晴れ」のルース・シーン、「21グラム」のエディー・マーサン、「フロム・ヘル」のレスリー・シャープ、「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのジム・ブロードベントほか。2004年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、主演女優賞、同年ブリティッシュ・インディペンデント映画賞5部門、2005年全米批評家協会賞主演女優賞、同年BAFTA賞11部門など多数受賞。 -
人生は、時々晴れ
制作年: 2002サウス・ロンドンの集合住宅に住む人々の喪失感と再生の物語。監督・脚本は「キャリア・ガールズ」のマイク・リー。撮影はリー作品の常連、ディック・ポープ。音楽は「秘密と嘘」のアンドリュー・ディクソン。美術もリー作品の常連、イヴ・スチュアート。編集は「ラスベガスをやっつけろ」のレスリー・ウォーカー。出演は「秘密と嘘」「バニラ・スカイ」のティモシー・スポール、「秘密と嘘」のレスリー・マンヴィル、「恋はハッケヨイ!」のアリソン・ガーランド、「ハロルド・スミスに何が起こったか?」のジェームズ・コーデン、「ヴァーチャル・セクシュアリティ」のルース・シーンほか。2003年ロンドン批評家協会賞英国映画賞受賞。