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アレックス・デ・ラ・イグレシア新作。水の都が死臭に染まる「べネシアフレニア」
2023年2月10日タランティーノも絶賛した「気狂いピエロの決闘」(10)などで知られる異能アレックス・デ・ラ・イグレシアが新たに放つホラー「べネシアフレニア」が、4月21日(金)より新宿バルト9ほかで全国公開。日本版アートワーク、特報映像、メイン画像が到着した。 世界各国で社会問題化しているオーバーツーリズムを起点に、観光客を狙った連続殺人鬼の凶行を、イタリアのジャッロ映画へのオマージュをちりばめつつ、スタイリッシュな映像とエクストリームなストーリーテリングで描き出す。撮影は「REC/レック」シリーズのパブロ・ロッソ、音楽は「白鯨との闘い」などハリウッド大作も手掛けてきたロケ・バニョス。 特報映像には、ヴェネツィアを訪れた若者たちが無差別に襲われ、道化師が「復讐だ!」と叫ぶ様子が収められている。生きて街を出られるか──? Story 結婚間近であるスペイン人のイサと友人たちは、独身最後に羽目を外そうと、カーニバルで賑わうイタリア・ヴェネツィアを訪れる。しかし到着した彼女らを待ち受けていたのは、「観光客は帰れ」というプラカードを掲げた大勢の人々。近年ヴェネツィアでは、観光客の増加による環境悪化が社会問題になっていたのだ。 それでも観光しようとイサたちがボートに乗り込むと、突如カーニバルの衣装を着た道化師が同乗してくる。その不気味さも楽しもうとするイサたちだったが、道化師は観光客を襲う連続殺人鬼だった。こうして浮かれたイサの仲間たちは、一人ずつ餌食となっていく……。 「べネシアフレニア」 監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア 脚本:アレックス・デ・ラ・イグレシア、ホルヘ・ゲリカエチェバァリア 撮影:パブロ・ロッソ 音楽:ロケ・バニョス 出演:イングリッド・ガルシア・ヨンソン、カテリーナ・ムリーノ、コジモ・ファスコ、シルビア・アロンソ、ゴイセ・ブランコ、ニコラス・イロロ、アルベルト・バング、エンリコ・ロー・ヴェルソ 2021年/スペイン/スペイン語・イタリア語・英語/シネスコ/5.1ch/99分/原題:VENECIAFRENIA 字幕翻訳:北村広子/R15+/配給:クロックワークス 公式サイト:https://klockworx-v.com/veneciafrenia/ © 2021POKEEPSIE FILMS S.L - THE FEAR COLLECTION I A.I.E -
『子供はわかってあげない』で知られる田島列島の漫画を、広瀬すず主演 × 前田哲監督(「そして、バトンは渡された」「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」)で映画化した「水は海に向かって流れる」が、6月よりTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開。第2弾キャストとして大西利空、高良健吾、當真あみが発表された。 通学のため、叔父の家に居候することになった高校生の直達。土砂降りの中、最寄り駅に迎えに来たのは、見知らぬ大人の女性・榊さん(広瀬すず)だった。そして、案内されたのはまさかのシェアハウス。 曲者揃いの住人たちと奇妙な共同生活を送る中で、淡々と日々を過ごす榊さんに淡い想いを寄せ始める直達だったが、榊さんはある出来事から「恋愛はしない」と宣言していた。そんな榊さんと直達には、思わぬ因縁があった。また、拾った猫をきっかけにシェアハウスを訪れるようになった楓は、同級生の直達への想いを募らせる。 誰かを好きになることをやめてしまった榊さんに「幸せになってほしい」と願う直達の奔走が始まるが……。 家族でも恋人でもない “特別な存在” が、一歩を踏み出す勇気をもたらすさまを描く本作。直達役には、自身も高校生であり、「3月のライオン」「キングダム」「るろうに剣心 最終章 The Final」に出演してきた大西利空が抜擢された。前田監督は「長いキャリアを持っているのに、初々しさに溢れる天然な人柄と、初めて会ったのに何度も会っているような親しみやすさが利空くんの素敵なところで、直達そのものでした。演技なのか地なのか、撮影時と控え時の境界線がなくて、利空くんの中に最初から直達が同居しているようでした」「普段は飄々としている低体温な役柄ですが、思わず感情が溢れ出すシーンでは、スタッフ全員が感動するほど出し切ってくれました。二日がかりでの撮影になりましたが、その本気の姿は必見です」と太鼓判を押し、広瀬すずは「自分より年下の方としっかり組んでお芝居をするのが初めてだったので、新鮮でした。テイクによって少しずつ演技を変えると、それを受けて直達も変わっていく姿を間近で見て、“昔の私だ”と思いました」と振り返る。 直達の叔父でマイペースな漫画家・茂道役(通称ニゲミチ)には高良健吾。監督は「高良さんはいつか映画でご一緒できたらと思っていて、やっと出会うことができました。ニゲミチを演じてもらえて、本当に嬉しかった!帽子にメガネと重ね着というキャラクターを作り込んでいく衣装合わせの中で、すでに役柄を掴んでくれました。楽しみながらニゲミチ演じてもらえたのではないかと思います」と喜びを表明している。 直達のクラスメイトで人気者の泉谷楓役には、カルピスウォーターのCMや「かがみの孤城」のボイスキャストで脚光を浴び、これが長編実写映画初出演となる當真あみ。監督は「探しても探しても出会えなかった楓。沖縄に帰る前の少しの時間しか東京にいないという中学三年生の少女と面接することに。会った瞬間に、楓がそこにいました。透明感を持った佇まい、その中に芯の強さを秘めて、真っ直ぐに相手を見る目元と声の美しさは、素晴らしい女優になる証。運命としか言いようのない出会いでした」「何度テイクを重ねてもめげることなく、健気にぶつかっていく姿は感動的でした」と称えている。 新キャストのコメントは以下。 熊沢直達(くまざわ・なおたつ)役:大西利空 初めて脚本を読んだ時、大役だったので、正直とても驚きました。 直達のように、何か大きなものを背負う役柄を今まで演じたことがなかったので、不安でいっぱいでした。実際に演じてみると、直達の性格や物語の進行に合わせた感情表現がとても難しかったのですが、だからこそ学べたことも多かったです。 広瀬さんとの共演は、緊張しましたが、本番外でもすごく優しく接していただいて、気持ちが和らぎました。広瀬さんのお芝居への強い熱量に負けないように臨みました。また高良さんには、本当の家族かのように支えていただきました。お芝居でつまずいた時も相談にのってくれて、とても救われました。當真さんは数少ない同年代の共演者で、凄く心強かったです。不安はずっとありましたが、完成した映画を観たら、画がとても綺麗で映画の世界観に直達をはめ込むことができたのかなと少し安心しました。 歌川茂道(うたがわ・しげみち)役:高良健吾 脚本を読んだ時、シンプルに「茂道をやってみたい。」と思いました。 大人になりきれない茂道で、ダメダメな部分はありますが、彼の純粋な明るさがこの映画の中にはあると思いました。 主演の広瀬さんは、凛とした佇まいで現場に居て、役に入り込む集中力が凄かったです。大西さん當真さんは2人共必死に現場にしがみついていました。芝居で悔しい思いもしたと思いますが、完成した作品の中の2人はとても素晴らしかったです。 『水は海に向かって流れる』は、僕の好きな映画です。現場では純粋な大人達がおもちゃで遊んでいるような感覚でした。リアルな心情にファンタジーが寄り添っていて、映画が楽しい場所に連れて行ってくれる。そんな作品になっています。 泉谷楓(いずみや・かえで)役:當真あみ 私にとって初めての長編映画撮影という事もあり、明るく自分の気持ちに正直な楓ちゃんを演じられるのだろうか、と不安な気持ちもありましたが、前田監督から「そのままでいいんだよ」と言葉を掛けて頂き、リラックスして演じる事ができました。自分にない要素を持った人物を演じる難しさも感じました。 私が上手くいかず何度もやり直したシーンにも、広瀬さんはずっと側でお芝居にお付き合いくださいました。本当に感謝しています。大西さんは、熊沢くんの優しさそのままの雰囲気の方でした。同じ歳ということもあり、いい関係で同級生役を演じることができました。高良さんは、緊張していた私に気さくに話しかけてくださって、場を和ませてくださる温かい方でした。 完成した映画を観た時、登場人物それぞれの気持ちが流れ込んできて、なんだか自分に寄り添ってくれるような、そして最後にはスっと前を向かせてくれるような気持ちになりました。ぜひ、多くの方に観て頂きたいです。 ©2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社 配給:ハピネットファントム・スタジオ ▶︎ 広瀬すずが冷めたOLに。田島列島原作 × 前田哲監督「水は海に向かって流れる」
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キネ旬ベスト・テン第4位「こちらあみ子」 高感度な少女・あみ子の視点で見る不思議な世界線
2023年2月10日2月3日に発表された「第96回キネマ旬報ベスト・テン」で日本映画 第4位に選出されるなど、各所から高い評価を受けている「こちらあみ子」のBlu-ray&DVDが2月10日にリリースされた。芥川賞受賞作家、今村夏子の原作を映画化した本作。ちょっと風変わりな女の子 “あみ子” の純粋無垢な行動は周囲の人たちを変えていく――。 “森井汁” は純度100%!新藤兼人賞金賞を受賞した監督デビュー作 森井勇佑監督、破格のデビュー作。1985年生まれ。大森立嗣監督作を中心に、長年助監督を務めてきた彼が、並々ならぬ愛情を抱く今村夏子の同名小説を映画化。それが「こちらあみ子」だ(ちなみに大森組では今村原作「星の子」(20)の現場にもついていた)。本作で期待の新人監督に贈られる新藤兼人賞の金賞を受賞。原作について「まるで自分事のよう」「文章から何から全部 “知ってる” と思えた」と某インタビュー(筆者によるもの)でも語っていたように、 “森井汁” は純度100%。同時に対象への距離感など、映画に必要な批評性や図像学のすべてが美しくデザインされた傑作となった。 舞台は広島。豊かな海と山に囲まれた土地で、原作から飛び出してきたような勇猛果敢な小学生、あみ子が元気に大暴れする。演じるのはオーディションで発見された大沢一菜(2011年生まれ)。当時は演技未経験。天然素材の活用はブレッソン的でもあるが、森井はもっと弾力性を備えた手つきで物語をパワフルに転がしていく。 そして、青葉市子の音楽が素晴らしい。広島の風景とも呼応しながら、あみ子の世界と同期するサウンドスケープが広がる。シンガーソングライターである青葉にとって、映画の劇伴はこれが初めて。森井も大沢も新人だし、思えば原作も今村のデビュー作である。 やがて精霊とまで交信するあみ子と現実社会のギャップ あみ子はとにかく落ち着きがない。ずっと動いている。だからお母さんによく怒られる。そのご懐妊中の母さゆり(尾野真千子)が破水する大雨の日、あみ子は自宅のテレビで「フランケンシュタイン」(31)を視聴している。なるほど、同作が引用される「ミツバチのささやき」(73)の高感度な少女アナと、あみ子は同じ世界線にいる存在なのか。あみ子はさまざまな生き物とばかりか、やがて精霊とまで交信する。だがそのぶん、現実社会との軋轢や不協和音はどんどん大きくなっていく。 ベランダに幽霊がおるんじゃけど……というホラーな事件をきっかけに、〈オバケなんてないさ〉を絶唱するあみ子。そこから生と死の境界を越えるように、音楽室の肖像画から飛び出たバッハやモーツァルト、歴代の校長先生(皆故人)とあみ子の行進が始まる。さらに河でボートをこぐ。この仰天のミュージカル演出は、リヴェットの「セリーヌとジュリーは舟でゆく」(74)がヒントになったらしい。同作を森井に薦めたのは他ならぬ兄貴分の大森立嗣だ。 2021年夏の現場の鮮やかな記録 「こちらあみ子撮影日誌」 Blu-ray&DVD特典映像の「こちらあみ子撮影日誌」(約27分のメイキング)では、麦わら帽子を被った森井監督率いる2021年夏の現場が鮮やかに記録されている。また完成披露上映の舞台挨拶(MC:奥浜レイラ)、あみ子=大沢一菜主演による青葉市子の〈もしもし〉MVも漏れなく必見。 文=森直人 制作=キネマ旬報社 https://www.youtube.com/watch?v=zQ18b9_XOXI 「こちらあみ子」 ●2月10日(金)Blu-ray&DVDリリース ▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:5,280円(税込) DVD:4,620円(税込) 【映像特典】(57分) ・メイキング映像(再編集版) ・完成披露舞台挨拶 ・PV『もしもし』(森井勇佑監督) 【封入特典】 ・解説リーフレット(児玉美月) ・ポストカード ●2022年/日本/本編104分 ●出演:大沢一菜、井浦新、尾野真千子、奥村天晴、大関悠士、橘高亨牧、播田美保、黒木詔子、一木良彦 ●監督・脚本:森井勇佑 ●原作:今村夏子(ちくま文庫) ●音楽:青葉市子 ●発売元:2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ 販売元:TCエンタテインメント ©2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ -
[caption id="attachment_20091" align="aligncenter" width="1024"] 「恋する惑星」(94)[/caption] 時代が変わって今なお、その鮮やかな世界観で観る者を魅了し続けているウォン・カーウァイ作品。 決して色褪せることはなく、カルチャーに敏感な若者たちの心を捉え続けるその魅力とは、一体何だろうか? 昨年、代表作5本の4K上映でムーブメントが再燃し、今年2月からは4KレストアUHD・Blu-rayの発売が予定されている今、改めてウォン・カーウァイ(WKW)の魅力を振り返ってみたい。 WKWに魅せられる若者たち 2022年8月の、シネマート新宿などでの公開を皮切りに、全国主要都市で順次公開されていった「WKW4K ウォン・カーウァイ4K」。このWKWの代表作5本(「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」「花様年華」「2046」)の上映は、シネマートでは初日から連日満席となり(実際、筆者は満席での断念を経験した!)、その後も各地で盛況が続き、年明けの現在も上映中の都市がまだあるといった状況。これは、配信でも観ることのできる作品のリバイバルだと考えると、4K上映ということのバリューや、例えばシネマートで行われた「クラシカルブーストサウンド」での鑑賞機会の貴重さなど、諸々の特別感を差し引いたとしても、驚くべき異例のロングランヒットだといえるだろう。 しかも上映に駆けつけたのは、90年代にWKW作品をリアルタイムで観ていた女性たちはもちろんのこと、女性を中心とした若い層の観客も、かなりの割合を占めていたというのだ。もっともその点に関しては、さほど驚きはなかった。そもそもが、かつてのWKWの登場に熱狂し、その後のブームを支えていったのは、やはり同じく女性を中心とした若者だったからだ。 95年、日本で公開されるや、これまでの香港映画、アジア映画のイメージをシャレたものへと一変させた「恋する惑星」(94)。スクリーンを彩るヴィヴィッドな色彩、手ブレやスローモーションなどを多用したカメラワークが伝える躍動感。そんな画(え)に重ねられるナイーブなモノローグの数々に、それらと呼応しあうように流される既成楽曲の粋なセレクト。そして何よりも、観る者を魅了してやまない、フェイ・ウォンが見せる気まぐれなふるまいや抜群のファッションセンス――。そんな「恋する惑星」が伝える時代の気分は、当時の渋谷系カルチャーとの相性のよさも手伝って“オシャレなもの”として受け止められ、香港映画ファンでも、ましてや映画ファンでもない若者たちを大いに吸引していったのである。 [caption id="attachment_20092" align="aligncenter" width="1024"] 「天使の涙」(95)[/caption] さらに、この「恋する惑星」からさほど間を置かずに、ミニシアターの牙城だったシネマライズ渋谷で「天使の涙」(95)、「ブエノスアイレス」(97)が公開され、熱狂はますます加速していくことに。このように90年代の日本を沸かせた一連のWKW作品が、現在の“90年代リバイバルブーム”の最中に公開という、この絶妙なタイミングも、多くの若者に訴求できたポイントだと思われる。 [caption id="attachment_20093" align="aligncenter" width="1024"] 「ブエノスアイレス」(97)[/caption] ただ、今回に限らずこれまでも、新作の公開、あるいはリバイバル上映されるたびに、若者たちを魅了し新たなファンを獲得していったのがWKW作品。そうなのだ、デビュー作「いますぐ抱きしめたい」(88)からもう四半世紀以上がたつのだが、この間、WKWが古びたことは一度もなかったのである。それはなぜか。一般の観客のみならず、幅広いクリエイターたちも刺激を受け、その作品にWKWの影響を刻んでいったこと。これも、長い間、鮮度を保ち続けてきた大きな理由だといえるだろう。 映画の作り手に愛されるWKW [caption id="attachment_20094" align="aligncenter" width="1024"] 「花様年華」(00)[/caption] まずWKWに熱狂したことで有名なのはタランティーノだが、ほかにも、監督自ら「ブエノスアイレス」にオマージュを捧げたと公言する「ムーンライト」(16)のバリー・ジェンキンス、共通点を指摘されることも多い「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」(18)のビー・ガンなど枚挙にいとまがない。また、WKWが「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(17)のバズ・プーンピリヤ監督に惚れ込みアプローチをしたことから製作された「プアン/友だちと呼ばせて」(21)のように、近年、製作者として各国の若手映画人と組んだ映画作りを進めてもいるWKW。「プアン」などはまさに、「ウォンに捧げるような画作りや光の使い方」をしたかったと語るプーンピリヤにより、WKWの遺伝子が継承された作品といってもいいだろう。こうした後続たちによるリスペクトもあいまって、「グランド・マスター」(13)以降、監督作を発表していないにもかかわらず、その存在感が薄まることも古びることもなく、愛され続けてきたともいえるのではないだろうか。 [caption id="attachment_20090" align="aligncenter" width="1024"] “WKW”への愛が感じられる、シネマート新宿での“正装鑑賞回”の様子。[/caption] そんな熱い愛され方の一端を実感させてもらったのが、今回の上映期間中にシネマートで行われた「花様年華4K」“正装鑑賞回”。年齢性別問わず多くの観客が、思い思いの“WKWファッション”で来館したのだが、特に圧巻だったのは、「花様年華」(00)の劇中でため息ものの着こなしを見せたマギー・チャンも納得必至の、チャイナドレス姿の数々。SNS上にはそのときの画像がいくつもアップされているので一覧されたし。ちなみに、そのなかで個人的に最も心を摑まれたのは、まさにトニー・レオン!なスタイル、表情にて、机の上の紙にペンで何か(たぶん小説)を書いている男性の方。(シネマート新宿のスタッフ・宮森覚太氏と判明!)そんな画像を眺めながら、WKWの最も評価すべき点とは、トニー・レオンをはじめとしたスターたちの魅力を、ほかの作品では観ることができない独自のニュアンスで写し取ってきた手腕なのだ!ということも、改めて思い出していたのだった。 文=塚田泉 制作=キネマ旬報社 https://youtu.be/6S6R1_HRQ40 WKW4K ウォン・カーウァイ4Kレストア 5作品 「恋する惑星 4Kレストア UHD+Blu-ray 〈5作収納BOX付〉」 ●順次発売予定の下記5作品を収録できるBOX付き ※当商品に収録する本篇は『恋する惑星』のみ ●2月10日発売 価格¥7,480(税込) 「恋する惑星 4Kレストア」UHD+BD/BD ●2月10日発売 ●1994年/香港/カラー/本篇102分 ●監督・脚本/ウォン・カーウァイ ●出演/トニー・レオン、フェイ・ウォン、ブリジット・リン、金城武、チャウ・カーリン 「天使の涙 4Kレストア」UHD+BD/BD ●2月10日発売 ●1995年/香港/カラー/本篇99分 ●監督・脚本/ウォン・カーウァイ ●出演/レオン・ライ、ミシェル・リー、金城武、チャーリー・ヤン、カレン・モク 「花様年華 4Kレストア」UHD+BD/BD ●3月31日発売 ●2000年/香港/カラー/本篇98分 ●監督・脚本・製作/ウォン・カーウァイ ●出演/トニー・レオン、マギー・チャン、レベッカ・パン、ライ・チン 「2046 4Kレストア」UHD+BD/BD ●3月31日発売 ●2004年/香港/カラー/本篇129分 ●監督・脚本:ウォン・カーウァイ ●出演/トニー・レオン、木村拓哉、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー 「ブエノスアイレス 4Kレストア」UHD+BD/BD ●5月31日発売 ●1997年/香港/カラー(一部モノクロ)/本篇96分 ●監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ ●出演/レスリー・チャン、トニー・レオン、チャン・チェン ※各商材に特典映像&封入特典あり ※UHD+BDはデジパック+スリーブケース仕様 ※UHD+BD 各¥7,480(税込) ※BD 各¥5,720(税込) ▶各作品のUHD+BD/BD詳細情報はこちら ●発売・販売元:TCエンタテインメント ●提供:アスミック・エース ©1994 JET TONE PRODUCTIONS LTD. ©1995 JET TONE PRODUCTIONS LTD. ©1997 BLOCK 2 PICTURES INC. ©2000 BLOCK 2 PICTURES INC. ©2004 BLOCK 2 PICTURES INC. ©2019 JET TONE CONTENTS INC. ALL RIGHTS RESERVED
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映画『バビロン』―ハリウッド夢の饗宴が始まる!―
2023年2月10日音楽青春ドラマ「セッション」(14)で称賛を浴び、ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」(16)でその年の賞レースを席巻したデイミアン・チャゼル。今、最も期待される若き俊英が新作として挑んだ題材は1920年代のハリウッド。すべての夢がかなう場所に集まった3人の主人公たちを軸に、華やかなハリウッド映画史が描かれる。本特集では作品中にちりばめられた映画的トリビアを解説、本作の舞台裏を紹介する。 「バビロン」は2020年代の観客にとっての「雨に唄えば」である デイミアン・チャゼル監督は現代のロサンゼルスを舞台にした「ラ・ラ・ランド」(16)で、女優を目指す女性とジャズピアニストの男性との恋愛を軸にしながら、ハリウッド黄金期からの人気ジャンルであったミュージカル映画への敬愛を作品にちりばめた。新作「バビロン」(22)もまた、ロサンゼルスを舞台にしながら、女優を目指す女性と映画製作を夢見る男性との恋愛が描かれてゆくという共通点がある。ただし、今作の時代設定はサイレントからトーキーへと移行する端境期だ。 タイトルの〝バビロン〟は古代都市の名称だが、D・W・グリフィスが監督した「イントレランス」(1916)の〝バビロン篇〟の舞台でもある。巨大な城壁のセットは、作品を代表するビジュアル。柱の上部には、石膏で制作された白い象の像が起立している。パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟が監督した「グッドモーニング・バビロン!」(87)では、この石膏像を作る兄弟の姿が描かれていた。 また、〝バビロン〟というキーワードから想起する書籍もある。ハリウッドの映画創世記から黄金期までのスキャンダルを紐解いた、ケネス・アンガーの著書『ハリウッド・バビロン Ⅰ』(パルコ刊)だ。この書籍は、まさに「イントレランス」を題材にした章で始まり、白い石膏の象の写真が読者を待ち構えている。「バビロン」はハリウッドの狂宴時代を描いているという共通項を見出せるのだが、偶然にも今作は巨大な象をパーティー会場へと運送する場面で幕が開く。 「バビロン」では、この象を運ぶ青年マニー(ディエゴ・カルバ)が語り部のような役割を担い、彼が目撃した激動のハリウッドが描かれてゆく。映画冒頭に登場するパラマウント・ピクチャーズの旧ロゴは、1920年代に使われていたもの。物語が1926年から始まることに合わせた演出である。 登場人物の多くは、複数の実在の人物から着想を得ながら人物造形がなされているのも特徴だ。例えば、マニーのモデルとなったのは、ハリウッドでは初めてスペイン語で制作された映画「Sombras Habaneras」(30)を製作・監督・主演したキューバ出身のレネ・カルドナや、チャップリンの「成功争ひ」(1914)などで撮影を担当したメキシコ移民のエンリケ・J・バレホなど、マニーと同様のバックグラウンドを持った映画人。彼は機転を利かして、薬物を過剰摂取した女優をパーティー会場から秘密裏に連れ去るアイデアを提案したことをきっかけに、映画業界での仕事を得てゆくことになる。このエピソードは1921年に起こった、喜劇俳優ロスコー・アルバックルの事件を想起させる。『ハリウッド・バビロン』にも記述されたハリウッドの汚点とも言うべき事件だが、女優の側にいた巨漢の男性はロスコーによく似ている。 マニーが恋する新人女優のネリー(マーゴット・ロビー)と、彼を映画界に引き入れる大スターのジャック(ブラッド・ピット)にもモデルがいる。ネリーのモデルだとされているのが、若きジョーン・クロフォードと、セックスシンボルだった〝イット〟ガールのクララ・ボウ。興味深いのは『ハリウッド・バビロン』にクララの項があることだ。トーキー映画の時代が到来し、ネリーが慣れない〝音〟を伴った撮影現場で悪戦苦闘する場面。モニタールームにいる録音技師が、ネリーの声の大きさに対して苦言を放つのと同様のプロセスが、クララが主演した「底抜け騒ぎ」(29)の現場で起こっていたことが記されている。ミキサーのボリュームを下げていなかったため、真空管が吹っ飛んだというのだ。 またネリーを見出し、彼女を演出する女性映画監督ルース(オリヴィア・ハミルトン)との関係にも言及できる。サイレント映画時代にハリウッドで唯一の女性監督となったドロシー・アーズナーは、クララ・ボウの初トーキー主演映画「底抜け騒ぎ」の監督でもあるのだ。ドロシーはクララが台詞に縛られたトーキー映画よりも、自由な演出を実践できるサイレント映画に向いていることを見抜いていたのだという。 時代を経た現代で、オリヴィア・ハミルトンが「バビロン」のプロデューサーを担っている点にも感慨深さがある。現在『ハリウッド・バビロン』は、記述の多くが誇張されたものだったと評されているが、クララがカジノで借金を抱え、母親が統合失調症で精神病院にいたことなど、ネリーの人生がクララ・ボウの人生と近似していることに異論はないだろう。 ブラッド・ピットはジャック役について「ジョン・ギルバート、クラーク・ゲーブル、ダグラス・フェアバンクスをブレンドした」と述懐している。劇中の台詞には、同時期に大スターだったルドルフ・ヴァレンチノやグレタ・ガルボの名前も登場し、スターが手の届かない星(スター)のような存在であったという時代背景を窺わせる。ブラピが名前を挙げたスターの中でもジョン・ギルバートは酒を愛し、華やかな恋愛遍歴とたび重なる結婚と離婚を経験している点、さらにトーキー映画への順応がうまくいかず、キャリアが低迷した点でも相似している。初のトーキー主演映画「His Glorious Night」(29)では、ダンディで端正な外見とは相反する甲高い声を観客が嘲笑。映画スターにとって〝声〟が重要となってゆく時代の変遷は、「バビロン」と同様にサイレント映画からトーキー映画への端境期をモチーフにした「雨に唄えば」(52)の中でも描かれていた。現代の感覚からだとわかりにくいことだが、公開当時の「雨に唄えば」は、約四半世紀前の昔の出来事を描いた作品だった点が重要なのだ。 ケヴィン・ブラウンロウの大著『サイレント映画の黄金時代』(国書刊行会刊)には、D・W・グリフィスの助監督だったジョセフ・ヘナベリーによる、なんとも狂気じみた撮影現場の記述がある。例えば、人員が足りないため貧民街からエキストラを調達したり、矢が頭に刺さったエキストラが戦場さながらの救護テントに運ばれてきたり、現場の混乱が証言されている。 そんな中でも印象的なのは、夕暮れ時に自然光と人工照明を調和させた画調で撮影するくだり。「バビロン」ではドイツ人監督オットー(スパイク・ジョーンズ)による大作映画撮影という、映画(製作)愛に溢れた白眉な場面となっている。1920年代は、F・W・ムルナウやフリッツ・ラングなど〈ドイツ表現主義〉の監督や、オーストリア出身でD・W・グリフィスの助監督を経て監督となったエリッヒ・フォン・シュトロハイムなどがハリウッドで活躍した時代。つまり、かような背景を反映させた設定なのだ。 このほかにも、映画字幕を担当するフェイ(リージュン・リー)は実家がクリーニング店であることでも、サイレント映画で中国系の先駆的スターとなったアンナ・メイ・ウォンと共通項があり、ジャズトランペッターのパーマー(ジョヴァン・アデポ)の姿には、ルイ・アームストロングのキャリアが重ねられている。それゆえ、マニーのアイデアで製作された短篇映画は、〝サッチモ〟主演の「ラプソディー・イン・ブラック・アンド・ブルー」(32)のことではないかと推測させるのである。 さらに、劇中では数少ない実名の登場人物の一人として、若くして亡くなったプロデューサーのアーヴィング・タルバーグ(マックス・ミンゲラ)がいる。アカデミー賞で映画業界に貢献した映画プロデューサーに贈られる〈アーヴィング・G・タルバーグ賞〉は、彼の名前を冠にしたものだ。 劇中では「ワーナーの発声映画」と説明されている「ジャズ・シンガー」(27)が部分的なトーキー映画として公開されたことを機に、サイレント映画は駆逐されてゆくことになる。また、やがて来るヘイズ・コードを予見させた「モラルを重視する」という台詞があるように、「バビロン」は映画史の流れを描いた作品でもある。奇しくもマーゴット・ロビーとブラッド・ピットは、1960年代末の〝その後のハリウッド〟を描いた「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019)に出演している。〝その後〟とは、「雨に唄えば」が公開された1950年代に、アメリカではテレビが一般家庭で普及し、映画産業が斜陽化に向かった時代のことである。 1952年のマニーは、ふと立ち寄った映画館で「雨に唄えば」を鑑賞することとなる。スクリーンに映し出されているのは、自身が目撃した過日の映画撮影現場。ジーン・ケリーが歌う〈雨に唄えば〉は、映画ではもともと「ハリウッド・レヴュー」(29)に採用された楽曲で、「バビロン」に登場するジャックの歌唱場面は「ハリウッド・レヴュー」に似ている。つまり、約20数年前の出来事を思い出しているのだ。 終幕の走馬灯的なモンタージュにも映画史に対する敬愛がある。エドワード・マイブリッジの「動く馬」(1878)に始まり、「ラ・シオタ駅への列車の到着」(96)、「月世界旅行」(1902)、「大列車強盗」(03)、「イントレランス」(16)、「裁かるゝジャンヌ」(28)のサイレント映画。「ジャズ・シンガー」を機にトーキー映画へ転じて「オズの魔法使」(39)、「市民ケーン」(41)、「これがシネラマだ」(52)。前衛的な実験作品「アンダルシアの犬」(28)、「午後の網目」(43)。「バビロン」の時代を超えた「ベン・ハー」(59)、「サイコ」(60)、「2001年宇宙の旅」(68)、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」(81)。さらに「マトリックス」(99)や「アバター」(09)まで登場して驚愕させられる。一度目視しただけなので、すべてのショットを挙げられないが、これらは映像の革命を起こした作品だという共通点がある。また「トロン」(82)、「ターミネーター2」(91)、「ジュラシック・パーク」(93)を並べることでCG表現の歴史をモンタージュさせていることもわかる。「映画に記録された映像は記憶として永遠に残る」というテーマを見出せるのだ。つまり「バビロン」は、2020年代の観客にとっての「雨に唄えば」なのである。 文=松崎健夫 制作=キネマ旬報社 (『キネマ旬報2023年2月下旬ベスト・テン発表特別号』より転載) 【出典】『ハリウッド・バビロンⅠ』ケネス・アンガー著 海野弘監修 明石三世訳(パルコ刊) 『サイレント映画の黄金時代』ケヴィン・ブラウンロウ著 宮本高晴翻訳(国書刊行会刊) https://www.youtube.com/watch?v=s8SmyeYTXZQ 「バビロン」 2022年・アメリカ・3時間9分 監督・脚本:デイミアン・チャゼル 撮影:リヌス・サンドグレン 美術:フロレンシア・マーティン 音楽:ジャスティン・ハーウィッツ 編集:トム・クロス 衣裳:メアリー・ゾフリーズ 出演:ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、リージュン・リー、P・J・バーン、ルーカス・ハース、オリヴィア・ハミルトン、トビー・マグワイア、マックス・ミンゲラ、ローリー・スコーヴェル、キャサリン・ウォーターストン、フリー、ジェフ・ガーリン、エリック・ロバーツ、イーサン・サプリ―、サマラ・ウィーヴィング、オリヴィア・ワイルド 配給:東和ピクチャーズ ◎2月10日(金)より全国にて ©2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved. ▶詳細情報はこちら