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23歳で芥川賞を受賞した「日蝕』でのデビュー以来、数々の話題作を送り出してきた小説家・平野啓一郎。彼が2018年に放ち、累計25万部を超えるベストセラー『ある男』がついに映画になった。監督は「愚行録」(17)、「蜜蜂と遠雷」(19)などで世界が注目する石川慶。映像化困難といわれてきた物語を、日本映画界屈指のオールスターキャストで鮮やかにスクリーンに描き出してみせる。 メインキャストを務めるのは、「愚行録」(17)、WOWOWドラマ『イノセント・デイズ』(18)に続いての石川慶監督作品への主演となる妻夫木聡、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「万引き家族」(18)以来の本格的な映画出演となった安藤サクラ、クライムアクション「初恋」(19)などさまざまな作品で活躍する窪田正孝。3人の実力者たちが絶妙のバランスを保つことで、ひと筋縄では済まないミステリアスな物語を成立させている。愛する夫(窪田)が事故死を遂げ、夫の名前と経歴は偽りのものだったと知る妻(安藤)。依頼を受けて、彼の過去を追い、社会の闇に触れることになる弁護士(妻夫木)。映画化が容易ではないこの物語に、3人のキャストは、どう向き合ったのだろうか。 取材・構成=長野辰次 撮影=近藤誠司 ◆3人とも、それぞれに大変な役 ──まず、「ある男」という物語に触れたときの感想を聞かせてください。 妻夫木 「自分とは何者か?」というテーマは、人生において、誰もが考えるものだと思います。そんな答えの出ない問いに、あえて泥沼にハマるように向かっていく製作陣の心意気に、まず感銘を受けました。石川慶監督とは「愚行録」(17)からの付き合いですが、「愚行録」もアイデンティティの問題が絡んでいました。今回の「ある男」はまさにアイデンティティそのものがテーマなので、映画としてさらにどこまで踏み込んでいくのかが、原作を読んだ際に気になったところです。でも、向井康介さんの脚本が上がってきたときは驚きました。ちゃんとテーマを描きながら、エンタメ性をもたせたものになっていたんです。だから、後は役者としてどう登場人物たちに「生」をもたらして、物語を膨らませていけるのかが楽しみな現場でしたね。 安藤 原作が、私としては、かなりボリュームのあるものだったので、深く読み込むのは簡単ではありませんでした。いつもはしないんですが、今回は原作本も現場に持ち込みました。というのも、私が演じる谷口里枝は物語のところどころに登場する役だったので、全体の流れを確認するために、参考書代わりに原作を読み直していたんです。でも、撮り終わった今でも、まだ自分には課題が残されているような思いが残っています。里枝としてどう演じるのが正解だったのか、今も分からない気がして……。石川監督と、いろいろ話をしてみたいと思っています。 窪田 今回は3人とも、それぞれに大変な役だったと思います。「自分は一体何者なのか」ということは誰しも座標として持っていると思うんです。でも、その座標は人によって、まったく違う。自分が生きてきた中で、何が楽しくて、何が嫌だったのかということを突き詰めて考えていくのは、難しいことです。悩みながらも、人生は続いていくわけですし。人間の根幹部分を問いかけてくる作品だなと原作を読んで感じました。 ◆演じることで、その存在を救う ──窪田さん演じる谷口大祐は、妻の里枝が知らない人生を歩んできた謎めいた男です。一方で、妻夫木さん演じる城戸は弁護士で家庭や仕事に恵まれています。それでいて、〈ある男〉=Xの人生に惹かれていく……。妻夫木さんは城戸という人物に対し、何か共感する部分はありましたか? 妻夫木 僕はあまり役と自分を重ねるタイフではないかもしれません。今回も撮影中は意識して役と自分を重ねようとは考えなかったです。むしろ、自分のことはできるだけ排除するようにしていました。というのも、城戸という男は物語のストーリーテラー的な役割を担っているので、自分と役は重ね合わせないほうがいいだろうと考えたんです。あくまでも物語の中で、どう生きて、それをどう見せるかに重点を置くようにしました。「城戸はこんな男だ」とキャラクターを作り上げることはせず、城戸にはいろんな面があり、そのすべてを僕が認めてあげることが大事じゃないかと。Xの存在に執着していく城戸が、それまでの自分と異なる人生を求めていたのかどうかは、僕には分かりません。人間は誰しもが変身願望を持っているとは思うんですが、城戸の願望がそれほど強いものかどうかは定かではないです。 安藤 私が演じた里枝は、子供を病気で失い、実家に戻って父親もすぐに亡くなり、再婚した夫は名前も分からないまったくの別人という、想像を絶する体験をします。実は「万引き家族」(18)の後、仕事を抑え、子供を中心とした生活を送っていたので、久々の映画出演には勇気が要りました。でも、向井さんが書かれた脚本を読み、里枝をかわいそうな女性にはしたくないなと思ったんです。自分が演じることで、変えられないかなと。そのことにチャレンジしてみたくなったんです。 ──安藤さん演じる里枝が毅然とした生き方をしていることで、アイデンティティに不安を抱える登場人物がたくさん出てくるこの物語に一本の筋が通っているように感じました。 安藤 演じてる私はウネウネしてばかりですが(笑)、里枝としてしっかりしなくちゃと思いました。役づくりする際はいつも下着選びから始めます。普段の私はワイヤーの入ってないブラジャーを使っているんですが、里枝はいつもちゃんとしているイメージなので、ワイヤー入りのブラジャーで現場に入りました。といっても、私が選んでいるのは下着だけで、ほかの衣裳はすべてお任せなんですけど(笑)。 窪田 大祐が里枝や子供たちと一緒に過ごす家族団樂のシーンは、演じていて僕もすごく楽しかったです。子役たちもすごくいい子だった。 安藤 〈ある男〉にとって、唯一の幸せなシーンだよね(笑)。 窪田 僕が演じた大祐=〈ある男〉はとにかくグレーゾーンが多く、なるべく自分を出さないよう、ひとつひとつの芝居に意味をもたせないように心掛けました。里枝と出会い、家庭を築き、幸せの中にいながら突然煙のように消え、喪失感だけを残していく。〈ある男〉の正体を僕は極力見せないようにし、城戸と里枝に正体を突き止めてもらうというイメージで演じていました。演じながら、異物というか、怪物みたいなものが常に潜んでいるような感覚でしたね。幸せな家庭のシーンも、バーのシーンも、どこかに獣が隠れているような怖さがある。それは人の中に潜む狂気なのかも知れない。でも、この映画はそれを剥き出しにしているように思うんです。それを映像でどう表現するかは、石川監督もすごく悩まれていたみたいで、現場で「分からないんだけど、もう1回!」と言われて、撮り直すことが多かったですね。 ◆ボクシングでのつながり ──ところで、妻夫木さんは今回の「ある男」の撮影がきっかけで、ボクシングジムに通うようになったそうですね。 妻夫木 はい。僕はボクシングジムを覗くだけのシーンでしたが、以前からボクシングはやってみたかったので、この機会にと思い、始めました。窪田くんと同じジムに通っているんですが、まだ一度しか一緒になっていないよね? 窪田 何度かニアミスはしていますが、一緒になったのは一度だけですね。「ある男」にボクシング監修で人っている松浦慎一郎さんに、僕も妻夫木さんも、パーソナルトレーナーになってもらっているんです。 妻夫木 僕らよりも、サクラちゃんのご主人(柄本佑)のほうがボクシング歴はずっと長いんですよ。 安藤 お二人と同じ、松浦さんがトレーナーになってくれているんです。夫がいつもお世話になっています(笑)。 ──窪田さんがボクシングシーンを演じるのは「初恋」(19)以来? 窪田 そうですね。やはりトレーニングは続けていないと、プロが見るとおかしなものに映ってしまうので、撮影の1~2カ月前からジムに通うようにしました。試合のシーンもありましたが、映画で使われているのはごく一部だけです。石川監督は大幅にカットしてしまったことを謝っていましたが、僕はむしろ映画的にはよかったと思っています。ボクシングシーンが長いと、〈ある男〉のイメージが偏ったものになってしまいますから。試合を見せることよりも、〈ある男〉がなぜボクシングをやっていたのかを観客に伝えることが大切だったと思うので。 ◆撮影することで見えてくるもの ──「愚行録」をはじめ、これまでの石川慶監督作品では、ポーランド出身の撮影監督ピオトル・ニエミイスキによる深みのある映像が印象的でした。今回の撮影は、「万引き家族」などで知られる近藤龍人キャメラマンですが、現場で何か違いは感じましたか? 妻夫木 ピオトルから近藤さんになったことで、温度感は変わったように思います。石川監督は以前から長回しを多用していましたが、今回近藤さんと組んで、より多くなったと感じました。それが映画にすごく生きている。あと、脚本は説明っぼくなるのを避けるために、セリフをかなり削ぎ落しているんですが、近藤さんの撮影はそれを補っていたんじゃないかな。たとえば、サクラちゃんたちが演じた母子の絆は実際に演じて、撮影したことで見えてきたものでした。ピオトルは独白の素晴らしい映像世界の持ち主ですが、今回の作品は近藤さんが日本語のセリフに応じて、登場人物たちの感情を読み取りながらキャメラを回していたので、より登場人物の心情にも、観客の心情にも寄り添ったものになっているように思いますね。 安藤 あの文具店で里枝が涙を流すシーンは大変でした。私、ピンポイントでタイミングよく泣いたりできないんです。「涙を流す」と脚本に書かれてあると、本番が心配で動悸がするくらい(笑)。涙が出るように、ずっと瞬きしないようにしたりしてました。 妻夫木 それじゃあ、怖い顔になっちゃうよ(笑)。 安藤 あの涙を流すシーン、初日のいちばん最初の撮影だったんです。石川監督からは「ペンを手にした瞬間に、涙を流してほしい」と言われて。背中からホースを回して、水が流れる機械はないかなと真剣に相談したぐらいです。この場を借りて、涙を流すシーンはとても難しいことをみなさんにお伝えしたいと思います(笑)。 ──あのシーンの裏にそんな苦労があったとは驚きです。 窪田 石川監督はテストからしっかりやり、テイクを何回も重ねますよね。 妻夫木 テストは技術的なチェックをした後、演技を確認するためにもう一度やるタイプ。 安藤 同時にチェックする監督もいるけど、別々にしないと納得できないんですね。 妻夫木 石川監督はデビュー作の「愚行録」からすでにテイク数が多かったんですよ。たぶん自分の思い描くイメージに忠実というか、愚直なタイプなんだと思います。ほかの監督が5回くらいのテイクで終わるカットも、石川監督は15回くらいテイクを重ねる。それに、撮り直すときに何も言わずに「もう1回!」と言えばいいのに、なんとか役者にリテイクの理由を説明しようとして、うまくいかなかったり(苦笑)。 安藤 そう言えば、泣くシーンを撮り直すときに、監督に「本物じゃない」ってダメ出しされましたよ。私は時間をかけて、何度も撮るのが好きなので楽しかったですけど、直後は落ち込みました……。 ──皆さんの苦労が実った作品になっていると思います。 妻夫木 結局、映画や俳優の可能性を信じている人なんですよ、石川監督は。脚本どおりに撮ればいいやではなく、脚本以上にいいものを撮りたいと常に考えている。役者にもっといけると可能性を感じるから、どこまでもねばるし、決して器用にはなれない。これからもこのスタイルで撮り続けていくと思いますよ。 窪田 確かにそんな気がします。 安藤 言葉は選んでほしいけど、愛おしい監督です(笑)。 ──本日はありがとうございました。 「ある男」 2022年・日本・2時間1分 監督・編集:石川慶 原作:平野啓一郎 脚本:向井康介 撮影:近藤龍人 照明:宗賢次郎 美術:我妻弘之 音楽:Cicada 出演:妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊、坂元愛登、山口美也子、きたろう、カトウシンスケ、河合優実、でんでん、仲野太賀、真木よう子、柄本明 配給:松竹 ◎11月18日(金)より全国にて公開中 (C)2022「ある男」製作委員会
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韓国初登場1位、チョン・ウ主演の壮絶サスペンス・ノワール「野獣の血」
2022年11月17日極道たちの壮絶な末路を描いたキム・オンスのノワール小説を、チョン・ウを主演に迎え、ベストセラー作家チョン・ミョングァンが初監督を務めて映画化。韓国で初登場1位を記録した「野獣の血」が、1月20日(金)より全国公開される。ポスタービジュアルと特報映像が到着した。 昨日の友は、今日の敵。昨日は笑っていたのに、今日は殺されている。暴力と欲望が渦巻く釜山の街で、生き残るためには──。1990年の盧泰愚大統領による犯罪組織一掃政策「犯罪との戦争」を背景に、裏社会の男たちの運命を描く「野獣の血」。 主人公ヒスを「善惡の刃」「偽りの隣人 ある諜報員の告白」『模範家族』のチョン・ウが演じ、「箪笥」「殺人の疑惑」のベテラン俳優キム・ガプス、『悪霊狩猟団:カウンターズ』で知名度を上げたイ・ホンネらが脇を固める。 特報映像では、ヤクザ者たちが利権をめぐって激突するシーンを次々と紹介。ヒスはのし上がるため、“野獣”になろうと決意するが……。緊迫感に溢れ、本編への期待を煽る。 Story 1993年の春。養護施設出身で札付きのワルだったヒスは、釜山港の外れの街クアムを牛耳るソンに拾われ、その右腕として一帯を仕切っていた。海水浴場に観光ホテル、屋台に風俗店。こんな小さな港でも、利権を狙う奴らがしのぎを削っていた。一方でクアムに目をつけたヨンド派は、ヒスと共に施設で過ごした親友チョルジンを使い、ヒスを懐柔しようとする。しかし、ヤクザ稼業に嫌気がさしていたヒスの望みは、施設時代からの恋人インスクと一緒に、巨済島でペンションを経営しながら暮らすことだった。ヒスは組織を抜けたいとソンに告げるが……。 「野獣の血」 出演:チョン・ウ、キム・ガプス、チェ・ムソン、チ・スンヒョン、イ・ホンネ 監督:チョン・ミョングァン 原作:キム・オンス 2022年/韓国映画/韓国語/120分/シネスコ/5.1ch/字幕:安河内真純/映倫 PG12 原題:뜨거운 피/英題:Hot Blooded/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム/yajunochi.com © 2022 KidariStudio, Inc. & WHALE PICTURES. All Rights Reserved. -
木村拓哉が生きる希望を失っていた高校ボクシング部のコーチ役という新境地の役どころで、学園スポーツドラマに初挑戦した『未来への10カウント』のBlu-ray BOXとDVD-BOXが、11月23日にリリースされる。 木村拓哉史上、最も腐ったどん底からスタートする主人公 ドラマ『未来への10カウント』は、テレビ朝日系列で2022年4月14日~6月9日まで全9話を放送。実質的な本編の総計時間は10話分に相当するドラマとなっている。 脚本は『HERO』シリーズ(01~15)や『CHANGE』(08)でも木村とタッグを組んだ福田靖、主題歌は木村主演ドラマとしては『Beautiful Life~ふたりでいた日々~』(00)『A LIFE~愛しき人~』(17)に続いて3度目となるB'zが手掛けている。共に木村の魅力を知り尽くした者ならではの脚本と楽曲を提供しているが、初の学園スポーツドラマの指導者役、初の本格的なボクシング経験者役、そして、これまで演じてきた役柄の中で最も精神的に腐ったどん底からスタートする主人公役という、木村がこれまで演じたことのない役柄に挑戦させている。 木村演じる主人公の桐沢祥吾は、高校時代にボクシングで4冠を達成しオリンピックも目指せる逸材だったが、その後は度重なる不運に見舞われたことから、今では「いつ死んでもいい」と口にするほど生きる希望を失ってしまい、なんとかピザの配達アルバイトで食いつなぐ日々を送っていた。そんな桐沢を心配した親友・甲斐誠一郎(安田顕)は、母校・松葉台高校ボクシング部の前監督・芦屋賢三(柄本明)に相談し、桐沢を芦屋の後任に抜擢しようとする。全くやる気のない桐沢だったが、恩師の頼みは断り切れず、臨時コーチとして母校に舞い戻る。 しかし、母校は昔と違って東大合格者も出す進学校となっており、芦屋が監督を退いて以来ボクシング部は弱体化もしているため、芦屋の娘で桐沢の後輩でもある校長の大場麻琴(内田有紀)は、ボクシング部を潰そうと画策。ボクシングに対する思い入れや知識がまるでない国語教諭の折原葵(満島ひかり)が顧問に任命され、ボクシング部の部員たちはやる気のない新コーチと新顧問を前に、複雑な思いに駆られる。しかし、桐沢がかつて輝かしい成績を残した先輩だと知った唯一の3年生の部長・伊庭海斗(髙橋海人)は、新入生勧誘のため、桐沢に無謀な公開スパーリングを申し込む。次第に生徒たちの熱心さに折原は応援したいと思い始め、桐沢も心を動かされるようになっていく……。 新鮮かつ皆が満足する木村拓哉像 できる人物やポジティブな人物がハマる木村だが、今回は人生に絶望した徹底的にネガティブな主人公としてスタート。ファッション的にもホームセンターで売っている雨風をしのぐ実用性重視のような飾り気がない服装で、髪の毛もボサボサに近い。それを過剰すぎず、自然に演じているため、木村といえど、暗くて冴えない中年男に見える。日本最高峰のトップスターで、数々のハマリ役がある木村には、常に固有のイメージがつきまとい、求められるものも多い。ネガティブで冴えない主人公は皆が求める姿ではないかもしれないが、今回はどん底から這い上がろうとする姿を描いており、最終話まで見終ると、この年代だからこそ演じられる役柄と、皆が見たい木村拓哉像を融合させた、今の木村拓哉にしかできない新鮮なドラマとなっている。 物語の序盤では、ネガティブで冴えない姿を見せるが、次第に桐沢がそうなった理由が明かされ、ボクシング部の生徒たちとの出会いによって内にくすぶっていたものに火がつき始めると、木村拓哉節とでもいうような、周囲を巻き込んだ理屈抜きの熱量が生み出されていく。ただ、今回の木村は主人公ではあるが、ボクシング部の学生たちを輝かせることで、自らも輝くというような人物。常識に捉われない独自のやり方で自分自身が問題を解決していく太陽のような主人公役も多かった木村だが、今回は指導者役ということからも、自らが頑張るだけではどうにもならず、いかに生徒たちを育てるかが描かれ、月のような主人公といえる。 時代性としても、熱血指導で乗り切るのはリアリティがないし、劇中では契約上の職域や立場の問題などで、桐沢が現代的な学校運営の中で様々な制約を受ける姿も描かれる。しかし、桐沢はそこに無理に抗うようなことはしない。それは、破天荒さや常識をぶち破ることで痛快さを見せるのではなく、現代的なリアリティを保った中でいかに木村拓哉らしい痛快さも見せるかといった、時代と格闘する現在進行形の新たな木村拓哉像に制作陣も木村自身も挑んでいたのではないだろうか。結果的に、時代にあった新鮮な姿を見せながらも、皆が見たい木村拓哉像というものも満足させるドラマとなっているように思う。 髙橋海人ら期待の若手俳優が好演する王道の学園青春スポーツドラマ 本作は桐沢の再生の物語ではあるのだが、その心を動かす原動力となるのはボクシング部の学生たちであり、彼らも主人公といえる。King & Princeの髙橋海人、山田杏奈、村上虹郎、坂東龍汰、佐久本宝といった魅力的な若手俳優たちが好演し、学生たちの様々なドラマも楽しめる。半年以上もボクシングのトレーニングをした上で参加している者もいて、試合のシーンなどは本気で打ち合っている姿を見せている。ひたむきにボクシングに打ち込む姿は素直に感動させられるし、応援したくなってしまう。王道の学園青春スポーツドラマであることも、本作の大きな魅力の一つだ。 また、その他の共演陣も豪華。真面目で真っ直ぐなボクシング部顧問役を満島ひかりがチャーミングに演じ、ボクシングジムを経営する桐沢の親友役の安田顕は軽快かつ頼もしい。さらに、木村と約30年ぶりに共演した校長役の内田有紀の他、滝沢カレン、八嶋智人、市毛良枝、波瑠、富田靖子、生瀬勝久、柄本明ら多彩な俳優たちが出演し、時にコミカルに、時に感動的な物語を紡いでいる。 木村のナチュラルな演技力の秘密の一端が垣間見える特典映像 https://youtu.be/LrIAu3s6NaY 11月23日にリリースされるBlu-ray BOXとDVD-BOXには、総計約2時間近い特典映像も収録。 メイキングでは、木村のナチュラルさに長けた演技力の秘密の一端を垣間見ることができる。例えば、第1話で桐沢が学校の校門から自転車で出てくる際、校門前で遊んでいた子供のサッカーボールに驚くシーンで、自転車の前にボールが横切るのを前輪にぶつけるよう提案したり、第4話で部員同士が女性マネージャーを巡って争うシーンで、部員の二人を制止するのにメガホンを使うことを提案したりなど。それが実際にどう生きているかは本編とメイキングをみていただきたいし、些細なことではあるものの、そういったあくまで作品を良くするための提案を随所に行い、その積み重ねが自然な芝居の流れやリアルなリアクションを自身にも周囲にも生んでいるように思えた。木村の芝居の上手さは、細かなニュアンスの上手さでもあると思っていたが、それを生み出す瞬間の一つを垣間見たような気がする。また、髙橋海人演じる部長が、第4話で試合のあとにリング上であることを決行するシーンでも、木村がその芝居に相手役との目線やその後の流れも意識した効果的なアドバイスを与える姿なども収められている。 主要キャストのクランクアップの模様をまとめた映像では、試合会場で迎えたオールアップのシーンで、生徒役の若手俳優たちが一人ずつリングに上げられ、木村から花束を渡されて抱き合う姿がみられる。髙橋をはじめ皆が本作に参加できた喜びと感謝を涙ながらに挨拶する姿には、劇中と同じようにこの撮影現場自体にも彼らの青春があったことが感じられ、感動せずにはいられない。 他にも、制作発表記者会見やキャストインタビューなどで、番組タイトルロゴを生徒役の出演者に書かせることを提案した木村の想いなどが明かされており(誰が書いたか伏せた上で木村が選び、髙橋の直筆ロゴが採用された)、貴重な映像特典が豊富に収録されている。 文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社 『未来への10カウント』 ●11月23日(水)Blu-ray BOX&DVD-BOXリリース(全9話)※レンタル同日リリース Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray BOX:32,340円(税込)、DVD-BOX:26,400円(税込) 【特典映像】 ・メイキング ・クランクアップ ・制作発表記者会見 ・キャストインタビュー(by『グッド!モーニング』) 【初回生産限定】 不撓不屈ステッカー 【封入特典】 ブックレット ●2022年/日本 ●出演:木村拓哉 満島ひかり 安田 顕 髙橋海人(King & Prince) 山田杏奈 村上虹郎 馬場 徹 オラキオ 滝沢カレン ・ 八嶋智人 ・ 市毛良枝 波瑠 富田靖子 内田有紀 生瀬勝久 柄本 明 ●脚本:福田 靖 ●音楽:林 ゆうき ●主題歌:B'z『COMEBACK -愛しき破片-』(VERMILLION RECORDS) ●ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日) ●チーフプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日) ●プロデューサー:川島誠史(テレビ朝日) 都築 歩(テレビ朝日) 菊池 誠(アズバーズ) 岡 美鶴(アズバーズ) ●監督:河合勇人 星野和成 ●制作協力:アズバーズ ●制作著作:テレビ朝日 ●発売元:株式会社テレビ朝日 販売元:TCエンタテインメント株式会社 ©2022 テレビ朝日
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ソフィー・マルソーのコメントなど到着。安楽死をめぐる物語「すべてうまくいきますように」
2022年11月17日安楽死をめぐる父と娘の葛藤劇を涙と笑いで綴り、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたフランソワ・オゾン監督作「すべてうまくいきますように」が、2月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開。主演ソフィー・マルソーの誕生日(1966年11月17日生まれ)に合わせ、ティザービジュアル、場面写真、彼女のコメントが到着した。 ソフィー・マルソーのコメントは以下。 これまでにフランソワ・オゾンが私の出演を考えた時は、タイミングが合わなかったか、役柄が合わなかったかのどちらかでした。けれど、一緒に仕事をしたいという希望は持っていましたし、昔からフランソワの映画が大好きなんです。フランソワは折衷主義的な映画監督です。エネルギッシュで好奇心旺盛で、社会とその弱点を観察する鋭い目を持っています。 私は数年ほど演技をしていない状態から撮影現場に戻ってきました。この力強い物語と共演者たち、そしてスタッフと監督に恵まれてとても幸せでした。そして、女優でありたいという思いを新たにしました。(ソフィー・マルソー) 場面写真は、登場人物たちのさまざまな姿を切り取ったもの。フランソワーズ・サガンの『ある微笑』の初版本を手に喜ぶエマニュエル(ソフィー・マルソー)をはじめ、入院中の父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)を複雑な表情で見守るエマニュエルとパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)の姉妹、夫のアンドレとは何年も別居中の彫刻家クロード(シャーロット・ランプリング)、安楽死を支援する協会から派遣されたスイス人女性(ハンナ・シグラ)などが確認できる。 © 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES 提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ ▶︎ ソフィー・マルソー × フランソワ・オゾン。安楽死をテーマにした「すべてうまくいきますように」 -
「スイス・アーミー・マン」の奇才ダニエル・シャイナート&ダニエル・クワン(通称ダニエルズ)が、ミシェル・ヨー主演、キー・ホイ・クァン(「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」「グーニーズ」)共演で、カンフーとマルチバースの融合した人類救済アドベンチャーを描く「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が、3月3日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開。IMAX®の同時上映も決定し、このたび特報、日本版キービジュアル、監督コメントが到着した。 世界興収1億ドル突破でA24史上最大のヒット作となり、本年度ハリウッド批評家協会賞で作品賞を含む7部門を受賞、アカデミー前哨戦とも呼ばれるゴッサム賞にも多部門でノミネートされた本作。日本版キービジュアルは、ファイティングポーズをキメたエヴリン(ミシェル・ヨー)を中心に、さまざまなキャラやアイテムを配し、マルチバースのカオスを窺わせる。 破産寸前のコインランドリーを経営するエヴリン(ミシェル・ヨー)は、気が弱く優柔不断な夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)、いつまでたっても反抗期の娘、ボケているのに頑固な父を抱えたうえ、税金申告の締め切りが迫ってテンパりモード、まさに人生どん底状態。そんな彼女が国税庁の監査官(ジェイミー・リー・カーティス)に厳しく追及されている最中に、突如として夫に連れて行かれたのは、なんと並行世界(マルチバース)! めくるめく三千世界に迷い込んだ彼女の前に現れたのは、「僕は君の夫じゃない。別の宇宙(ユニバース)から来た“僕”だ」と言う、見違えるようにたくましい夫だった。さらに「マルチバース全体に巨大な悪が。君だけがそれを止められるんだ」と告げられたエヴリンは救世主へと覚醒?! カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、全人類の命運を掛けた闘いに挑んでいくが……。 特報では、マルチバースへジャンプしたエヴリンの高速七変化、ウェイモンドの“ある物”を使ったカンフーアクション、惑星の衝突、爆発して紙吹雪となる頭部など、奇想天外な場面が一挙に紹介される。 ダニエル・シャイナート&ダニエル・クワン監督の日本ファンへ向けたコメント ──日本での公開に向けて、どのようなことを期待されていますか? 監督:日本の皆さんにやっとこの映画を観ていただけるので、とても嬉しく思っています。日本のアートは想像力豊かで、遊び心があり、そしてパンクです。日本のアニメや映画を見ていると、ボクらももっとリスクを取ってそして楽しんで作品を作らなくては、という気になります。ボクらは皆さんがこの映画で日本のカルチャーが反映されていることを発見して欲しいと思っています。それと、日本はファンアートや映画のポスターが最高ですよね。いつも楽しませてもらっています。 ──この映画を作ろうと思った背景を教えてください。 監督:この映画は、インターネット時代に生きている我々の感情を表現してみました。言葉にはしがたいこのとてつもなく圧倒される感情をとらえて、それを乗り越えていきたいと思いました。始めから、エキサイティングなアイデアが3つありました。 1)バカバカしい闘いを繰り広げるSF・アクション映画 2)21世紀の移民の物語を通して家族愛を描く 3)あまりに多くの別宇宙に行きすぎ、哲学的な思想を探求することになるマルチバースムービー また、この映画は多くのアジア映画へのラブレターでもあるのです。日本のアニメ作品やあらゆるものからインスピレーションを受けてこの映画を作ったので、日本の皆さんにはぜひ楽しんでもらいたいと思っています。 ──日本のファンへのメッセージをお願いします。 監督:ハロー、日本の皆さん! 願わくば、本作の公開を皆さんと一緒に日本でお祝いできたらと思っています。 日本にはまだ一度しか行ったことがありませんが、訪れた街、食べたもの、触れた芸術の全てがとても好きになりました。日本に行く理由を作るのに、また別作品をつくりたいなって思っています! © 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved. 配給:ギャガ ▶︎ A24史上No.1ヒット! ミシェル・ヨーがマルチバースで奔走!「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE」